人間にとって、「泣く」というのにはさまざまな意味があり、この世に生まれて、一番初めにする行為です。その次にする行為として「笑う」があります。この笑うという行為にも人類にとって重要な意味があるようです。それは、もう一度NHKスペシャル「ヒューマン なぜヒトは人間になれたのか」という番組の中で紹介されたエピソードから考えてみたいと思います。
テレビで紹介されたのは、ある有名な逸話です。アメリカ軍がイラクでの任務として、ある地域の聖職者と会って「イラクの人々に、有力者から抵抗を止めるように話してもらいたい。そうすればアメリカ軍は戦いを止め、出来るだけ正常に戻すようにする」という話し合いに向かったときのことです。すると、群集のあるものが、その様子を見て「彼らは聖地を汚しに行くのだ。聖職者を殺しに行くのだ」と叫び、それをきっかけに騒ぎが始まり、石を投げたり、荷車を押し倒したり混乱が加速していきました。そのときの司令官であったヒューズ大佐はこう考えました。軍隊では、群衆を静めたり、群集の緊張をそぐためには、空に向けて銃を撃つと教えられています。そうしたなか、冷静に考えました。「私は縦列の前に行き、武器の安全装置を外し、空に向かって打つ準備をしていました。しかし、冷静に考えてみると、もし威嚇したとしても、その後どう収集させるというのか。自分はアラブ語も話せない。誤解を解くすべもないのです。」
そこで、どのようにコミュニケーションをとろうかと考えます。言葉がしゃべれないので、この状況を打開するには言葉を使わない方法でしなければなりません。視覚的に相手に訴える形で何かをしなければならなかったのです。群集すべての人に、「私たちには敵意はないのだ。話し合いをしたいのだ」ということを印象付けるにはどうしたらよいかを考えます。次の瞬間、ヒューズ大佐は部下たちに向かってこう叫びました。「笑え、笑うんだ」
一瞬にしてその場の空気は変わり、大勢の人たちが、笑顔を見せる兵士たちに微笑み返したのです。混乱は収拾し、事なきを得ました。そのときのことをヒューズ大佐はこう言っています。「私は世界の89カ国に行っていますが、言語の壁、文化の壁、民族や宗教の壁があっても、笑顔の力が働かないのを見たことはありません。この世界で、笑顔はひとつの意味しかありません。ですから、暴力があり、不安があり、怒りがあり、混乱がある状況だったとしても、あなたがその人に笑顔を見せたら、少なくとも対話がはじまります。」
このエピソードの不思議さに二つの要素があると番組では検証しています。ひとつは、表情に関するもので、「笑顔にそれだけの力があるのか」という疑問です。たかが笑顔を見ただけで、心の交流まで築けたように、いったいなぜ、私たちの心はそこまで表情に反応したのだろうかという疑問です。「表情の持つ力」についてですが、人間の目が顔にきわめて強い関心を持っていることはさまざまな研究で指摘されていることです。赤ちゃんに、知らない人の顔写真と、たとえば野菜など顔以外の写真の両方を見せたときの反応を、いろいろな調査方法で調べてみると、赤ちゃんは、顔写真を見せたときのほうが脳の活動は盛んになるということがわかりました。
赤ちゃんにとっての認識は、どうも、二つの目と口の配置を頼りに人間の顔を認識しているということ、そして、顔に対しての特別の関心を払っているらしいということがわかりました。そういうことは、人間にはそもそも顔に注目するメカニズムが備わっていることを意味しているといわれています。
私の園で、赤ちゃんが一番先に出会う絵本は、乗り物でもなく、動物でもなく、先生が撮った人間の顔の写真です。