社会的な子ども

キャシーは、人がどう学ぶのかということについての科学的知見に基づいて、決まりきったことをただ覚えるだけでなく、他者と協力し、創造的で、自分の能力を存分に発揮する、責任感溢れる市民になることのできる子どもを育てる新しい方法を示してきました。そして、この方法を実現するには、子どもがどのように学ぶかについて私達の考えを変えなくてはならないというのです。知識というコンテンツだけでなくもっと大事なことがあるというのです。それは、社会的な子どもこそ、賢さを備えた子どもであるということです。創造性はこれからの時代を生き抜くために不可欠の要素です。そして最高の学びは失敗した時に生じるのです。

そこで、自分達の家庭、学校、地域を、新しい学びを育てる場に変えようというのです。6Csはそのために必要な地図であり、成功を目指す道の途中で振り返るために必要なチェックリストだというのです。6Csを手がかりに学校だけでなく、学校の外での教育が子ども達にとって価値のあるものに変われば、子ども達はビジョンを持って、より良い社会を創出してゆくだろうというのです。

彼女の提案は、非常に共感するものです。実は、この主張、取り組みは、キャシーだけでなく、ロバータとの共同で行われたものです。キャシーは、ペンシル大学で博士号を取得し、テンプル大学教授です。一方、ロバータは、コーネル大学で博士号を取得し、テラウェア大学教授です。二人の共著である「Einstein Never Used Flash Cards」(アインシュタインはフラッシュカードを使用したことがない)は、世界中で翻訳され、2003年に最も優れた心理学者に贈られるBooks for Better Life Awardを受賞しています。卓越した研究業績だけではなく、認知心理学、発達心理学の基礎的な研究を教育に活かし、社会に貢献するために様々な重要なプロジェクトに関わり、世界から注目されています。

彼女らの素晴らしいところは、まず目指すべき子どもの姿を明確にしていることです。その姿は、「他者と協力し、創造的で、自分の能力を存分に発揮する、責任感溢れる市民になることのできる子ども」です。その姿が、彼女らの考える21世紀における「成功」です。そのために、私たちは、学校の内外を問わず、健やかで、思慮深く、思いやりがあり、他者と関わって生きる、幸せな子どもをサポートする環境を作る必要があるのです。そんな子どもが、やがて、他者と協力し、創造的で、自分の能力を発揮する、責任感溢れる市民となり、社会を活性化するというのです。これが、共有すべき目標であり、この目標を目指す挑戦こそが、私たちが取り組むべきミッションだというのです。

では、このレベルの高いミッションをどのようにして達成させていくのでしょうか?彼女らは、この問いに対する答えは、なんと子ども自身からであり、子どもの学びを研究する科学からだと言います。どのように子どもが学ぶか研究することで、これから子どもが身につけてほしい、システムとして統合的に働くスキルこそが、何度も繰り返し出てきた6Csだというのです。

また、なんどでも繰り返されている姿として、「他者と協力して」が出てきます。この力こそが、私が提案する保育カリキュラムの根幹をなすものなのです。

新しい学び

健康で思慮深く思いやりがあり、他者と関わって生きる幸せな子どもが育ち、彼らが他者と協力し創造的で自分の能力を存分に発揮し、責任感溢れる市民となることが「成功」するということであり、幸せに人生を送るということであるという、この壮大な考えの核心にあるのは子どもが6Csを学び、自分達が生きる世界をより良いものに変えてゆこうとするグリットを発揮するのを支えることです。リナルディが好んで言うことだそうですが、これこそ「私達に課せられた使命」なのです。私達はこれからの子ども達にとって本当に価値のある教育を新たに作り出さなければならないのだとキャシーは言うのです。

そのために、自分達の家庭、学校、地域を、新しい学びを育てる場に変えようという提案をキャシーはしています。

レゴのアイデア会議がデンークの小さな町ビルンで開かれ、新しい教育潮流を起こそうとしている300人の同志が集まり、会場はとても盛り上がっていたそうです。集まった顔ぶれは……あの有名なパフォーマンス集団ブルーマンのコンセプトを活かしてマンハッタンにブルースクールという名の創造的な学校を作ろうとしている人。ヨルダンで子どもの早期教育に携わっている女性。創造的でクリティカルシンキングの力を伸ばすように中国の教育を改革することを目論む香港の科学者。シアトルにあるハイテックハイの校長。ハーバード大学のフロンティア・オブ・イノベーションという研究所の代表。ティーチ・フォー・アメリカ、そして最近、ティーチ・フォー・オールという組織を立ち上げたウェンディ・コップ。これでもほんの一部に過ぎないそうですが、強い思いを持った人々が世界中の子ども達がこれから直面する社会に適応するために相応しい教育がなされていないことを憂えて、集まったそうです。

会議はこんな一声から始まったそうです。「机の上にある小さな袋を開けてください。中には色の違うレゴブロックが6個入っています。さてこの6個のブロックを組み合わせて、一体何通りの形を作ることができるでしょう?」。参加していた数学者はすぐに計算を始めました。夫々のブロックに八つの突起がある六つのブロックを組み合わせたら、720通り?4万8000通りぐらいでしょうか?いえいえとんでもありません。答えは何と9億8145万6127通り。たった6個のブロックから約10億通りの形を作れるのです。

私達は青いブロックの上に赤、青のブロックは黄色の上というように、注意深く配置を決めて、塔を作るように、子ども達を教育しているのではないだろうかとキャシーは言います。もし私達が無限の可能性があることを明らかにするような方法で子どもを教育したらどうなるでしょうか。子ども達は依然として塔を作り続けるでしょうが、世界を可能性に満ちたものだと捉えるだろうとキャシーは言います。

彼女は、これまで人がどう学ぶのかということについての科学的知見に基づいて、決まりきったことをただ覚えるだけでなく、他者と協力し、創造的で、自分の能力を存分に発揮する、責任感溢れる市民になることのできる子どもを育てる新しい方法を示してきました。この方法を実現するには、子どもがどのように学ぶかについて私達の考えを変えなくてはならないというのです。知識というコンテンツだけでなくもっと大事なことがあるというのです。

地域では

キャシーらは、ニューヨークのセントラルパークで「究極のご近所パーティ」を実施しました。そこで、プロの建築ディナーが作ったレゴのビルがあれば、コロンビア大学の研究者によるロポットの展示もあります。子どもは、知識コンテンツの学びはもちろんのこと、それ以上のことを学ぶ機会を得たのです。参加した親に意見を聞いてみると、いくつか活動を見てゆくうちに学びについて自分が抱いていたイメージが変わり、レゴで空間認知能力が育ち、ロボットへの興味から科学を学べることが分かったと言っています。こうした経験を通じて、親達は身の周りの世界に数学、国語、社会、理科か満ち溢れていることを理解したのだそうです。

新しい意味で子どもが「成功」するために必要なスキルについて意識します。学びは学校と教科書で行うという考えを捨て去ります。そして遊びと語りが学び続ける力の源泉だと知ります。私達の心がこうした変化したとき、6「C」sによって遊びと教育の繁がりを「See」する、つまり理解することができるというのです。あなたの経験する全ての瞬間に学びは潜んでいるのです。キャシーは、可能性は無限大だというのです。

遊びと教育を一体化し、幸せな市民を育てる道を創造することこそが私たちの「使命」です。ここまで、プレイフルな学びこそ実は最適な学びの姿だということをキャシーは述べてきましたが、最適な学びは時間を忘れ、想像力を存分に働かせて、課題に没頭する時に生じるというのです。

熱心な庭師は隣人と協力して植物を植えたり、夏休みに家に戻ってきたら、トマトが収穫できるように計画したりする時に6Csを作動させます。運動選手はコラボレーションをフィールドで学びます。そして何が勝負の分かれ目となりそうかを必死に計算します。オーケストラのバイオリン奏者はコラボレーションとコミュニケーションとコンテンツをステージで学びます。木管楽器の響きを意識しつつ一人で演奏する時に自分の音を出すテクニックが必要です。私達は身の周りの多くの活動が6「C」sを花開かせることに役立つことを「See」しています。すなわち、知っています。カルラ・リナルデイがレッジョのアプローチを私達に伝える時、木に語りかけるように私達を促したのはこのことを伝えたかったからでしょう。

多くの点でレッジョの学びへのアプローチは、学校環境で6Csを育てる最高の例と言えよるとキャシーは言います。レッジョのアプローチは6Csと同じように科学的な研究に基づいて生まれ、子どもを単に頭脳面だけでなく、社会的な側面も含めた全人的で能動的な存在として捉え、コミュニティが共同で責任を持って子ども達を育てるという市民意識に基づいています。今教育している子ども達が30年後、共同体を担う市民となるということをコミュニティの誰もが共有しているのです。このイタリアの小さな町の家族は、キャシーらが提案しているような賢い子どもを育てたいと思っていることは間違いありません。しかしリナルディが断言するように「成功」はテストの点数では判定できないのです。「成功」とはそんなちっぽけなものではありません。ここまで何度も繰り返したように、健康で思慮深く思いやりがあり、他者と関わって生きる幸せな子どもが育ち、彼らが他者と協力し創造的で自分の能力を存分に発揮し、責任感溢れる市民となることが「成功」するということであり、幸せに人生を送るということなのです。

家庭では

家庭をプレイフルに学ぶ場にするにはどうしたらよいでしょうか?親が本気で楽しんで子どもの学びに参加できるのが家庭での学びの魅力です。親こそ「ガイドされたプレイ」の主役として適任であるとキャシーは言います。あなたの家庭を6Csに満ちた場にする方法はいくらでもあるというのです。

既に6Csについてキャシーは説明していますがその中で、私たちと子どもがどのように6Csを見つめ直すか、いくつかヒントを示してきました。日々必ず行う活動を6Csの観点でちょっとアレンジするだけで、子どもと一緒に面白がって6Csを学ぶ場になるというのです。難しく考える必要はないというのです。夕食の準備、そして後片づけの手伝いの中でコラボレーションし、コミュニケーションすることは十分学べると言います。夕食を一緒にとる時間、そして食後の時間は語り合いの時間になります。その日、どんなことがあったのかを家族で語るといいと言います。起こった出来事について話し合えば心が落ち着くでしょう。夕食後十分から十五分の時間を作って、パズルをしたり、謎解きをしたり、好きな歌を歌ったり、学校で行うディベートでどう議論するか対策を練ってもいいでしょう。算数の空間把握能力がパズルで高まり、家族での謎解きが、テストで問題を解く時のクリティカルシンキングの力に繋がるかもしれません。しかしあくまでも主客転倒しないように気をつけないといけないと注意します。学校の学びのために家庭の学びがあるわけではなく、6Csを面白がりながら伸ばす場を作ることが何よりも大事なことなのだというのです。

では、地域をプレイフルに学ぶ場にするにはどうしたらいいのでしょうか?地域をプレイフルで知的な場に変える方法もあるとキャシーは言います。テルアビブ出身の建築家イタイ・パルティと共にキャシーらは、アーバンシンクスケイプと呼ぶ新しい実験建築をデザインしているそうです。これまで当たり前に街に存在した物を学びの装置に変えてしまうそうです。地面へ物語のアニメーションを映し出すライトを古いバス停に設置して模様替えしたり、べンチの背もたれにパズルを設置したりするそうです。ウィリアム・ペン財団の支援によりこの構想は現実のものになろうとしているようです。

スーパーマーケットの中にある様々な表示や看板をちょっと面白いものに変えてみたらどうでしょうか。オクラホマ州タルサでカイザー財団の協力を得て、店内を冒険の場に変える試みを始めているそうです。子どもは表示を見て違った種類の林檎を探したり、クリティカルシンキングを刺激されたり、タワーのように積み上げられた野菜の缶詰を調べて算数をしたりします。

近所の公園や子ども博物館に出かけてみるのはどうでしょう。子どもはこうした場所が大好きで感性を思いきり羽ばたかせて自由に学びます。6Csを意識して展示や活動をデザインすれば、更に素晴らしい場所に生まれ変わるだろうとキャシーはいいます。そう考えて彼女らはニューヨークのセントラルパークで「究極のご近所パーティ」を実施したそうです。その日都市にある普通の公園に、子どもが遊びながら科学について学ぶための28の活動が突如出現したのです。何とこのイベントに5万人を超える人々が集まったそうです。多くの人々が子どもに教え込まない、新しい学びの方法を渇望していたのだとキャシーは言います。

テーマ学習

フィラデルフィアのフレンド・セントラル・スクールでは低学年の子ども達に対して「テーマ学習」と呼ばれる教育を行っています。例えば、あるクラスは大洋に面し多くの港を持つ国を割り当てられました。この国は日照時間の長い気候で農産物がよく育ち、他の国々に輸出していました。別のクラスに割り当てられた国は陸地に囲まれた国で鉱物資源が豊富でしたが、作物や製品を他国から輸人する必要があるので他国と協調しなければなりません。この国の鉱物を原材料として製品を生産する国々はそれを更に他の国々に輸出して経済を成り立たせます。子ども達は自分達の国を発展させるという思いに駆られて、必死にコラボレーションしコミュニケーションします。そんな学びが学校で実現されているのです。

しかしこの学び方で算数はできないのでは……キャシーは、そんなことはないと言います。作物が悪くなる前に海を渡り、他国に作物を届ける船を設計するためにボートの大きさを計算し、モーターの種類を選び、航続距離や所要時間を算出します。形式的に計算の仕方を教わるのではなく算数的な考えと算数の生活との関わりとを同時に学んでいるのです。これだけのことを小学2,3年生がやってのけるのです。面白い物語に夢中になる「ガイドされたプレイ」による学びによって子どもは教科を統合し、生活や世界と繋がった学びを成し遂げるのです。

サンディエゴにあるハイテックハイという学校は幼稚園から高校3年生までの幅広い学生達が、現実世界の課題を共に解決するために学び、遊び、創造しているそうです。この学校を見学すれば、数々のユニークな学びに出合うだろうとキャシーは言います。この学校の学びについて取り上げた2015年に作られた映画が話題を呼んだそうです。学生が自分で作り出した「折り紙の数学」というカリキュラムがあったり「破壊の瞬間」と呼ばれ、重大な歴史的出来事とその出来事をどのように解釈するか学ぶために劇を創作する学びがあったりするそうです。

例えばポンペイが噴火した時の「瞬間」を学ぶ場合、58人の8年生が数か月間に及ぶポンペイプロジェクトに参加します。その時「噴火から逃れ、街を脱出する時に持ち出した物から当時の社会は、どんな価値観を持っていたと想像できるか?」というような課題に取り組みます。ハイテックハイは2000年にチャータースクールという、保護者、教師、地域団体などが公費で自主運営する学校としてスタートしましたが、今では13校に広がり、5000人の学生が通っているそうです。こうした学校の子ども達は従来の学校で重視されている学力基準で比較した場合も優れている上に、学びを愛し、何かを率先して作り出そうという意欲が高いそうです。

普通の学校に通うのが難しいと判断された子どもにとってもプロジェクト型の学びは有効だとキャシーは言います。マンハッタンの第94公立学校では、発達障害の子ども達が芸術による学びによって成果を上げているそうです。自閉症と診断された子ども達がミュージカルに取り組むことで、コラボレーションとコミュニケーションのスキルが向上したそうです。最初は劇の間中すっと押し黙っていた子ども達が大きく変化したのです。

これらの事例はどんな子どもに対しても、遊びと発見が学びと一体となることが大きな教育効果をもたらすことを明らかにしています。また学校が6Csを育てる場をどのように作るか、そして夫々のスキルの成長をどう捉えてゆくかについての大きなヒントを示しているというのです。

ガイドされたプレイ

遊びにはもう一つ大事なタイプがあるとキャシーは言います。それを彼女ら「ガイドされたプレイ」と呼んでいます。大人が何か子どもに特別なことを教えたいと考えた時に有効な遊びです。

親、祖父母はもちろん、教師、保育士、べビーシッター等子どもの世話を仕事とする人、そして子どもの周りにいる大人全てが子どもにとっての良き教師になることができるというのです。しかしそれは教えたがり、説教したがりの大人ではありません。やたらと自分の知識や考えを押しつけ、子どもにひたすら聞かせようとするような大人は「百害あって一利なし」だと言います。子どもの興味や関心を探リ、子どもの問いに反応し、子どもが知りたいと思っていることを語り、子どもが問いを追究してゆくのをサポートするのが私達大人の役割だというのです。その役割は一緒にボードゲームをしている時でも、動物園を散歩している時でも果たすことができると言います。こうして大人と子どもが共に遊ぶのが「ガイドされたプレイ」による学びです。

キャシーらは「ガイドされたプレイ」による学びがどれだけ有効か科学的に検証したそうです。「ガイドされたプレイ」による学びを行った場合と同じ情報をただ大人から説明された場合とを比較したところ、座って話を聞くだけの学びより「ガイドされたプレイ」によって学んだ方が子どもはずっとよく理解したことが解った。

子どもが新しい語彙を学ぶ時も、三角形の性質について学ぶ時も、課題が自分に関わりのあることだと認識し、能動的に活動して情報を受けとめようとする場合によく学習することができるのです。この時子どもは自分で考え一生懸命脳を使っています。多くの学校では未だに座って先生の講義を聞くスタイルの学びを行い、大人が子どもにどのようにしたらよいか教え込んでいます。しかし皮肉なことに子どもは大人に言われたことは上の空で聞いているのです。このような受け身のやり方では学びは生じません。学校の外で子どもが行っている遊びの結果生じている学びを、学校の中でも活用できれば、学校の学びが活性化されるでしょう。「フリープレイ」による学びと「ガイドされたプレイ」による学びこそ、アクティブに人が学ぶ環境を作り出すのだとキャシーは言うのです。算数でさえ遊びながら学ぶことができるというのです。

では、どのように遊びと学びが一体化した環境を創ってゆけばよいのでしょうか。学校、家庭、地域を、6Csを育てる場に変えるためのモデルはあるでしょうか。キャシーは、今までもヒントを述べていますが、改めてより広い視野から見つめ直しています。

まず、「学校をプレイフルに学ぶ場」にするにはどうしたらいいのでしょうか?フィラデルフィアのフレンド・セントラル・スクールでは低学年の子ども達に対して「テーマ学習」と呼ばれる教育を行っているそうです。毎夏教師達は次年度に子ども達が取り組むテーマを決めます。アメリカでは9月から新年度が始まるからです。ある年のテーマは「架空の惑星『オービス』を作る」ことでした。その惑星は太陽からの距離が地球と全く同じ。但し、それは別の太陽系で銀河系の中で私達の生きる太陽系とは正反対の位置にありました。各クラスが惑星オービスにある別の国々になります。おのおののクラス、つまり国は国家の財政を保ちながら、国民であるクラスの皆の生活の質を高めなければなりません。

プレイフルな学び

リナルディは更に続けています。「遊びの中に子どもが善き市民となり、民主主義を身につける種が宿っている」。遊びは自由であり子どもは自由な遊びを司る存在になります。自分でシステムを動かし自分で何かを作ります。これが自ら責任を持って、主体的に行動する市民の礎になるというわけだと言います。しかし自由なだけでは遊ひは成立しません。集団のルールによって制約されるからです。もし相手のチームがルールを無視したら、私達はサッカーをして遊べないでしょう。遊びの中で私達は他者と共に動くこと、すなわちコラボレ1ションを学び、他者の見方、考え方も考慮して全体を見渡し、どんなことを実現したいか語り合う必要、すなわちコミュニケーションする必要が生まれるのです。今一緒にやろうとしているゲームについて理解し、コンテンツであるルールを作り、対立や争いが起きたら、理性的に判断し、それがクリティカルシンキングなのですが、皆で知恵を出し合って、どう問題を解決していったらよいか解決法を編み出していきます。それがクリエイティブイノベーションなのです。そして、解決法を考える時も、見出した解決法を実行する時も、自分の思いを素直に出す勇気を持ち、簡単に諦めず粘り強く取り組み、グリットを発揮しなくてはなりません。それが、コンフィデンスという自信です。これこそ善き市民となり、民主主義を身につけるための最高のレッスンなのです。ルールのあるゲームをプレイするという意味での遊びを通じて、民主的なプロセスを経験し理解します。遊びが最高の学びをもたらすのです。

しかしこれまでの学校教育の中で、学びの中に、今述べてきたような意味での遊びが入り込む余地は殆どありませんでした。それは仕方かないところもあるとキャシーは言います。学校での学びはただ楽しいだけで済ませるわけにはいきませんし、全てを子どもの自由のままに任せるわけにもいかないからだと言います。キャシーらは学びには二つのタイプがあると考えているそうです。一つはフリープレイによる学びであり、リナルディの譬えのように、蝶の羽を羽ばたかせる学びです。子どもは遊びに没入していて、それが学びに繋がっているなどという意識は全くありません。

玩具産業協会が「遊びの天才」というシリーズ動画をYouTubeで公開しているそうです。この動画を見ると、遊びと学びが一体であることがよく解ります。ごっこ遊びがコミュニケーションとコラボレーションのスキルを育て、ブロック遊びによって空間と数というコンテンツを身につけます。

フリープレイによる学びは6Cs全ての発達に大きな意味を持つとキャシーは言います。それは先に書いた通り遊びのプロセスの中で6Csを使いながら獲得してゆくからです。自分一人で、仲間とあるいは大人と、フリープレイによる学びをすることで、子どもは自分のアイデアを素直に出すことができ、自分が何を好み、何を嫌うのか知り、学校で学ばなければならないことの礎となる多くの知識コンテンツを学びます。しかしフリープレイから学ぶもっと大事なことは「ソフトスキル」だと言います。交渉するためにはコミュニケーション、コラボレーション、クリエイティビティ、コンフィデンス(自信)を総動員する必要があります。遊びのありとあらゆる場面で「交渉すること」が求められ、そのプロセスを通じて6Csが鍛えられてゆくのだというのです。

新しい方法

私達は全てのCのレベルを上げるために努力を続けてゆくべきですが、だからといって全てのがトップレベルでなければいけないと考える必要はないとキャシーは言います。現代社会では突如仕事の環境に新しい変化が起こり、自分がそれに適応しなければならないことが珍しくありません。その時新しい状況に適応する力が求められているのです。そういう時代においてテストの時に空欄を何かで埋めることができるという知識コンテンツだけ身につける教育では、全く通用しません。6Csというスキルの集合体で自分達のプロファイルを作り、学びを見つめ直すことで、私達はどこを目指し、何を達成したのか明確に捉えることかできるのだというのです。

私達は学びを新しい方法で見ようとしているのです。それは同時に私達の社会でこれまで考えられてきた「成功」のイメージを変えることでもあるのです。「成功」とは、学校の授業で良い成績を得ることだけではありません。学校の学びに注目するだけでは、21世紀を生き抜く子どもを育てることはできないのです。その理由の一つは、子どもは学校で過ごす時間より遙かに多くの時間を学校外で過ごしているからだというのです。従って学校「外」の時間を子どもがどう過ごすかを考えなくてはいけないのです。もう一つの理由は学校や塾を含めた学校的環境での学びだけでは、子どもの発達にとって必要な多くのことを身につけることはできないことにあるというのです。6Csをバランスよく発達させて子どもを「成功」に導くには、どうしても学校的でない環境を必要とするからだとキャシーは言います。

「成功」するには知識コンテンツを身につける必要がありますが、それは一部に過ぎないと言います。私達が子どもに望むのは、幸せな人生を送ってほしいということでしょう。生きる喜びに溢れて、生涯学び続けることなくして幸せになることはできないのです。どうしたらお互いに信頼し合う友を持つことができるでしょうか。遊び場、仕事場で直面する人間関係での摩擦をどのように解決できるでしょうか。子ども達はこういった課題に取り組み続け、善き市民となり、社会と経済を望ましい形に発展させていきます。これこそ21世紀の子ども達が目指す「成功」の姿でしょう。子ども達の「成功」を私達大人がサポートしようと考えるなら、学校「内」の教育と学校「外」の教育を統合する方法を考える必要があるというのです。そこでキャシーは、「遊び」という観点で6Csを見つめ直してみています。

これまで私達はどうしても遊びと学びを分けてしまい、双方が対立し合うものだと捉えてきました。キャシーらは以前この対立をまるで『ロミオとジュリエット』のキャピュレット家とモンタギュー家の対立のようだと言っていたことがありました。私達は遊んだら仕事はできないという発想に凝り固まっています。しかしリナルディを始め、学びや教育に携わる多くの専門家は違う見方をしています。リナルディは「それは蝶の羽のようで、遊びという羽と仕事という羽と二つあるから飛べるのです」と言っています。遊びと学びはまさに一体のもので、両方がうまく結びつくことが大事なのです。

自分のプロファイル

それぞれの「C」を用いて学びの進展について把握することを、キャシーらは彼女達の大学の授業で10 年以上も実践し続けています。学期初め学生達は、自分の持っているスキルの現状を6Csという観点で自己評価し、自分がどのレベルにいるのか認識します。授業ではグループで一緒に作業し、グループ発表、グループプロジェクトに取り組むことにより、コラボレーションする力を育てます。論文を読んで論評する課題を出し、また中間・期末の試験では高度の文章表現力を要求し、調査したことを口頭でプレゼンテーションさせ、授業中の議論にどれだけ参加したか評価します。これによって、コミュニケーションの質を上げます。「デジタル時代に生きる」「モラルの心理学」のようなトピックについて主要な論文を読みます。これにより知識コンテンツを豊かにします。読んだ記事でなされている議論を評価し、自分の意見を述べる筆記試験を行うことにより、クリティカルシンキングする力を高めます。自分の思いつきを調査して追究することにより、クリエイティブイノベーションを発揮します。キャシーらは教師として学生の考えを堂々と語れる場を設定し、仮説が間違っていたり、失敗したりしても粘り強く取り組むように応援します。それによって、コンフィデンス、自信を高めるのです。

落ちこぼれ防止法というNCLBを推進する学校システムで育った学生は、キャシーらの授業に出てショックを受けるようです。学生達は初めて、成功とは成績でAをとるために幅広いトピックについての事実をただ覚えることではないということを知りました。学生達はコミュニケーションをとって、夫々の見方、考え方を統合し、判断し、共有できるようになることを求められ、最初戸惑っていたもののやがて適応していきます。最後には他の授業にも通じることがあり、また大学という枠を超えて考えることができたと感じ、彼女らにとても感謝するそうです。学期の終わりに改めて6Csについて評価してもらうと、学生達は自分の成長を目の当たりにするようです。そして多くの学生が「全く新しい学び方だったけれども、信じられないぐらい大きな成長を遂げることができました」と語るそうです。彼らは厳しい就職環境を乗り越えて、自分の志望する仕事を得て更に輝きを増します。それは単に意中の会社に就職できたというレベルではない、深い意味での成功を手にしたからあのです。

キャシーらの学生がやったように、親として、また子どもと関わる大人として、6Csについて自己評価し、自分が今どんなプロファイルなのか明らかにし、これからどうするか考える材料を手にするといいとキャシーは助言します。6Csについて述べたそれぞれの章の最後の部分に、あなた自身そしてあなたの子どもが夫々のスキルのどのレベルにあるか考えるヒントをキャシーは言っています。それを改めて読み直し、参考にしてほしいと言います。6Csのプロファイルは自分自身だけでなく他者に対して、更に穴tの属する組織を評価するのに利用できると言います。とりあえず6Csのプロファイルを作ってみることが学びについて考え直し、教育についてのイメージを変える第一歩になるだろうというのです。それが教室、家庭、地域、仕事場を新たにデサインすることへと繋がってゆくというのです。

同じプロセス

6Csを「時間軸に沿った動き」として捉えれば、何度も同じようなプロセスを繰り返すように見えるだろうとキャシーは言います。学びの目標は異なっても辿るプロセスは類似しているのです。人生の中で、私達の目指す目標は変化します。例えばある人がオーケストラの指揮について学び始めた時、初心者の段階ではオーケストラとコラボレーションするための方法を新たに身につけなければなりません。こうなると最初のうちは「横並びプレイ」の段階に戻ってしまいます。楽団員からのメッセージを受けとる余裕もなく、ただ自分の指示を出すことに精一杯です。しかしやがて練習を重ねるうちに、バイオリン奏者が教えてくれる合図を「読む」ことができるようになり、次の段階へと進化するのです。「べートーべンの交響曲の楽譜」という知識コンテンツも最初は楽譜通りにしか読めませんが、クリティカルシンキングの力を借りて学び続けることで、過去の名指揮者が楽譜をどう解釈したか理解できるようになるのです。何度も同じプロセスを繰り返しながら、私達は生涯を通じて様々な領域について学び、どこまでも成長し続けるのだとキャシーは言うのです。

学習科学の成果によって、6Csとその段階が明確に示されることで、学習者の学びの進み具合を確かめる新たな道具ができたと言います。表を下から上、すなわちレベル1からレベル4に向かって眺めてみると、どのように成長してゆくのかよく解ります。但しこれらのスキルは殆どの場合、自然に成熟してゆくわけではなく、6Csを育む環境を注意深く準備する必要があるというのです。もちろん、学びがどう進むかは、年齢、レベルによって異なりますが、スキルのレベルを上げるには適切な経験を積み重ねることがポイントとなるというのです。

言葉の発達はコミュニケーションの力を高める上で不可欠です。赤ちゃんは泣いたり、音を出したり、微笑んだり、声を上げて喜んだりして自分の感情や要求を示します。こうした自発的な反応を更に強め、学びを促進するには大人が沢山の言葉を子どもにかけてあげることが大事です。赤ちゃんが興味を持ったことについて語りかけることが、よりスムーズにコミュニケーションの階段を上るのを助けます。大人の語りかけは、子どもが日常生活の中で言葉を自然に使いながら語彙を増やすことに繋がり、学校で知識コンテンツを学ぶ時に大いに役立つのです。

クリティカルシンキングについては、ディアナ・キューンが教えてくれたように多様な視点で考える練習をすれば、誰でもトレーニングができます。異教徒同士で対話することはキューンの実験を現実の世界で応用することになります。キリスト教徒、ユダヤ教徒、イスラム教徒が同じ場所に集まり、様々な視点で議論します。但し、この時違う見方があることを尊重し、自分達が当然だと思っている考えを脇に置く努力をします。トピックは何でも構いません。歴史上の対立する見解について対話するだけでなく、新しい車に何を選ぶかということでもいいのです。大事なのは「結論」や「妥協点」を見つけることではなく、対話のプロセスを6Csという視点でしつかり評価することです。思い込みや見かけに縛られているレベル1に留まっているか。それともそこから「意識的に」脱し、相手の考えを認めながらも、納得できる根拠に基づいて自分の意見を言うことができたでしょうか。コミュニケーションとクリティカルシンキングに関して、どのレベルにあり、どれだけ進歩したか、見極めることかできるのです。