心理学の観点からの10の姿

道徳性の発達には、道徳的感情がかかわるという見方もあります。この道徳的感情は、生後18ヶ月頃に生じはじめる自己意識がかかわる感情と深く関係すると言われています。今福氏は、道徳的感情を以下のように整理しています。「道徳的感情には、恥、罪悪感、感謝などがあります。たとえば、罪悪感は規範から逸脱した場合に経験され、この感情によって社会の規範から外れた逸脱行為を行わなくなったり、他人の逸脱行為を抑止することができます。」

さらに、道徳性にかかわるもう一つの要因として、共感があると言います。一口に共感といっても、共感には、他者が感じたことを感じるという情動的共感と、他者の立場に立って心的状態を推測する認知的共感に二つに分けられます。小・中学生を対象に、攻撃行動という道徳性から逸脱した行為の抑制に共感が関連するかどうかを調べたそうです。その結果、小・中学生ともに、他者と感情を共有する傾向が強い人ほど、向社会行動をより多くすることがわかったそうです。攻撃行動の少なさにおいては、小学生では情動的共感にかかわる感情を共有する傾向の強さが、中学生では認知的共感にかかわる視点取得の能力の高さがそれぞれ関連したそうです。この結果は面白いものですが、これは、小学生と中学生で攻撃行動と関連する共感の側面が異なることを示唆していると言われています。

また、道徳性の萌芽については、6ヶ月児が「正義感」をもつ可能性が実証されています。私たちは発達の過程で周囲の人から影響を受けます。たとえば、バンデューラは、暴力的にふるまう大人を見ると、その暴力的な言動を子どもが模倣することを示しています。この研究から、生後早期にみられる道徳性の萌芽が、経験を通じてどのように変容するのかについて、その過程を解明することが今後の課題だと今福氏は言うのです。そして、その過程の解明によって、「道徳性・規範意識の芽生え」をどのように育むのか、具体的な教育方法を考えるときがきています。今、小学校で行われている単に「道徳」を教科化し、授業で教えるということだけからでは、「道徳性・規範意識の芽生え」は育めないのです。

今福氏は、これまで、対人関係にかかわる「10の姿」について、その背後にある能力を心理学の観点から述べてきました。彼は、「協同性」「言葉による伝え合い」「道徳性・規範意識の芽生え」は、社会的認知の発達や変容の過程からとらえることができると考えているようです。これはあくまで現時点では彼の試論であると言いながらも、このような考え方を示しています。共同注意や心の理論は「協同性」の育ちにかかわり、周囲の大人が乳児の発声に対して即座に声かけをしたり、心的状態語を用いることは「言葉による伝え合い」の育ちにかかわり、道徳的感情や共感は「道徳性・規範意識の芽生え」の育ちにかかわると考えられるのではないかというのです。私も同じようなことを考えてます。ですから、卒園するまでに育みたい姿は、決して、年長児の目標ではなく、また、指導する内容でもなく、0歳からの育ちの「人」「物」「場」という環境の中で、育まれていくものだと思っているのです。

このように実証研究にもとづくさまざまな知見が積みあげられつつある今、乳幼児教育では、データから得られた科学的根処であるエビデンスをもとに教育プログラムを体系化、具体化していく必要があると今福氏は考えていると言いますそして、。発達科学や発達心理学の分野で実証された知見を「10の姿」と照合することで、乳幼児教育を考する契機になればと思っているというのです。

心の理論と言語能力

今福氏は、子どもとかかわったり、絵本などを読むときには、心的状態語を多く用いるようにするとよいと考えています。子どもは周囲の大人のことばを真似しますので、適切な声かけをするように努めることをすすめています。

今福氏が指摘するように、最近、心の理論の発達と子どもの言語能力との関連について注目されているようです。言語は子どもの認知能力を大きく発達させる道具であり,課題そのものの理解にも大きく関わってくるからです。中でも子どもが使用する心的状態語について検討されてきています。その結果、いくつかのことがわかってきているようです。その一つが、1歳の後半ごろから心的状態語を使用するようになり、2歳ごろに急激に発達することがわかりました。そのことを踏まえて、心の理論の発達と母親の言語の用い方との関連についての研究が増えてきたそうです。 母親が母子相互交渉において、子ども、あるいは他者の心について言語でどのように表現するかが子どもの心の理論の発達を促進するのではないかという問題が検討されるようになってきたのです。

たとえば、こんな研究があります。母親の心的状態語の使用頻度と誤信念課題の成績との関連を調べました。この研究では、母親の感情に関する語の使用頻度と7か月後の子どもの感情理解課題や誤信念課題の成績との間に有意な正の相関があったことがわかりました。さらに、母親の思考に関する語の使用頻度が子どもの誤信念課題の成績と正の相関があることを見いだしているそうです。これらの研究は、母親の心的状態語の使用頻度が子どもの感情理解および誤信念の理解の発達を促進することを示唆しているというのです。

次に、「道徳性・規範意識の芽生え」を育むことについての考察です。「道徳性・規範意識の芽生え」とは、「友達とさまざまな体験を重ねる中で、して良いことや悪いことが分かり、自分の行動を振り返ったり、友達の気持ちに共感したりし、相手の立場に立って行動するようになる。また、きまりを守る必要性が分かり、自分の気持ちを調整し、友達と折り合いを付けながら、きまりをつくったり、守ったりするようになる」とあります。では、この「道徳性・規範意識の芽生え」は、どのように育まれるのかということについて、今福氏はこう考えています。

道徳性とは、人々が善悪をわきまえて正しい行為をなすために、守り従わなければならない規範への意識などを指します。今福氏は、ピアジェが示した道徳の発達段階を紹介しています。ピアジェは、5~10歳は善悪の程度を行為の結果によって判断し、10歳以降は善悪を意図や動機によって判断するとしました。たとえば、「ジャンという男の子がいました。。ジャンは食事に呼ばれたのでドアを開けて食堂に入っていきますが、ちょうどドアの後ろにある椅子にコップを15個のせたお盆がありました。ジャンはそんなことを知らずにドアを開けたため、コップが落ちてすべて割れてしまいました。」という物語を提示して、道徳性の発達について調べました。結果論では、ジャンは15個もコップを割ったので悪いことをしたと判断されますが、動機論では、ジャンは行為を意図的に行っていないためにその行為は悪くないと判断するというものです。

心理学的観点

保育指針に示された「10の姿」はどのように発達するのかということを、今福氏は心理学的な観点から説明をしています。特にその中でも、対人関係にかかわる「協同性」「言葉による伝え合い」「道徳性・規識の芽生え」について紹介しています。

「協同性」は、「友達と関わる中で、互いの思いや考えなどを共有し、共通の目的の実現に向けて、考えたり、工夫したり、協力したり、充実感をもってやり遂げるようになる」とありますが、「協同性」には、どのような発達的基盤が必要なのでしょうか。

今福氏はいくつかの観点から説明をしています。一つ目は、「共同注意」です。共同注意は、他者と同じ目標を共有するために重要なものです。二つ目は、「心の理論」です。これは、他者の心の動きを理解することで、他者の視点に立って物事を推測することができます。この二つについては、何度もこのブログで取り上げています。そして、この共同注意と心の理論は、発達的に関連していることがわかっています。生後10ヶ月のときの共同注意の能力が高いほど、4歳のときの心の理論の能力か高いことがわかっています。このように、心の理論の萌芽は乳児期に存在し、共同注意などの経験を通して、他者の心の働きを推測する能力が徐々に発達していくと考えられます。

「協同性」にかかわるほかの例としては、共同行為が知られています。共同行為とは、二人以上の人が、行為を時空間的に協調させることです。たとえば、二人でボタンを交互に押して行うゲームは、3歳までにできるようになります。共同注意や共同行為を含むかかわりや遊びをすることで、「協同性」が育つと考えられます。

さらに、子ども自身や周囲の人の気持ちをことばにする声かけも、「協同性」を育むため重要です。たとえば、子どもが3歳の時点で、気持ちを表す心的状態語(「嬉しいね」「悲しいね」「欲しい?」など)をお母さんが使用する頻度が多いほど、1年後の子どもの心の理論の発達が早い傾向にあります。相手の行為や気持ちを理解し、共有する経験を通して「協同性」は育つのです。

次に、「言葉による伝え合い」は、「保育士等、もしくは先生や友達と心をかよわせる中で、絵本や物語などに親しみなから、豊かなことばや表現を身に付け、経験したことや考えたことなどをことばで伝えたり、相手の話を注意して聞いたりし、言葉による伝え合いを楽しむようになる」とあります。では、「言葉による伝え合い」を育むためには、どのようなかかわりをすればよいのかという考えを今福氏は述べています。

赤ちゃんを対象とした研究では、赤ちゃんの発声に対して養育者が即座に発声を返すことで、赤ちゃんの発声が増え、養育者の発声した音を学習するようになることが示されています。乳児期はことばにならない音を発声し、学習する時期です。周囲の大人は赤ちゃんの発声を無視せずに、できる限りその発声に応えることが必要だと言うのです。これは、とても大切なことです。まだ言葉が話せないからといって、赤ちゃんと関わる大人が赤ちゃんに話しかけないこと、言葉にならない赤ちゃんからの大人への主張をきちんと受け止めないことは、その後の赤ちゃんの発語に影響を及ぼすことを知ってもらいたいと思います。もちろん、それは、言葉だけでなく、大人のやること、話していることをじっと赤ちゃんが観察し、学習しているのです。

発達に影響する環境

早産児が過ごす集中治療室での保育器の音環境にかんしてのリスクを減らす方法として、歌いかけを用いた介人研究が臨床現場で行われており、成果をあげているそうです。たとえば、早産で出生した新生児に対して、お母さんが歌いかけを交えて語りかけると、血中酸素飽和度や心拍が上昇し、児の臨界事象(低酸素血症・徐脈・仮死)が減少することが明らかになっているそうです。加えて、人院中の大人の語りかけが多いほど、周産期において1250グラム未満で出生した早産児の発声頻度が増加し、修正7、18ヶ月児時点の認知・ことばの発達が良好であることが示されているそうです。この研究結果は、私たちが保育をするうえでも大切にしなければならないことを教えてくれています。

このような知見を踏まえて、今後どのような取り組みを医療現場や家庭教育でするべきかを考える必要があると今福氏は提案しているのです。

ここまで、今福氏は、発達科学や発達心理学の視点から、赤ちゃんの社会性、ことばの発達や、発達に影響する子育て環境についての考察をしてきました。しかし、彼は、現代社会・教育におけるトピックも、心の発達と深いかかわりがあると考えています。そこで、次にこれまでの考察内容を踏まえ、現代の子どもたちを取り巻く重要概念について確認していきます。

2019年の現在、乳幼児教育をめぐってはどのように変革しているのでしようか。ここで、今福氏は2017年度に、保育所保育指針、幼稚園教育要領、幼保連携型認定こども園教育・保育要領の三つの法令が改定(訂)について触れています。その中で示された、「育みたい資質・能力」と「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿(以下、「10の姿」)」について、この三法令が改定された背景には、それぞれの施設で、乳幼児期に同じように教育を提供し、保育所や幼稚園と小学校以降の教育を一貫させるねらいかあったようだと言っています。

今福氏は、もともとは教育学博士ですが、専門は、発達科学、発達心理学、教育心理学です。その観点からの説明は、私たちがよく聞く切り口と違うところがあるので、とても参考になります。

「育みたい資質・能力」については、今福氏はこう考えています。「これらは、園での遊びの中においても育むことができると考えられています。たとえば、子どもたちは砂場遊びで、乾燥した白い砂でお団子をつくろうとしても固まらず、湿った黒い砂は固まることに気づき、この知識を試してお団子をつくろうとします。お団子だけでなく、砂のお城をつくるかもしれません。また、『もっと固いお団子をつくろう』『次はこれをつくろう』と意欲が出て、新たな遊びを生み出します。」

次に、「10の姿」については、こう説明しています。「これらは、保育内容の健康、人間関係、環境、言葉、表現という五領域のねらい、および内容によって育まれるとされています。たとえば、健康の領域のねらいにある、『健康、安全な生活に必要な習慣や態度を身に付け、見通しを持って行動する』ことは、『自立心』にかかわります。人間関係の領域のねらいにある、『身近な人と親しみ、関わりを深め、工夫したり、協力したりして一緒に活動する楽しさを、愛情や信頼感を持つ』ことは、『協同性』にかかわります。また、『社会生活における望ましい習慣や態度を身に付ける』ことは、『道徳生・規範意識の芽生え』にかかわるでしょう。」

リスクを減らす環境

早産での出生は、赤ちゃんにとって、本来は母体で過ごすはずの胎児期に外界にでることで、過度な光や医療機器のノイズなどの異質な経験環境への曝露、痛みをともなう処置などによるストレスにつながるのです。その結果、脳の社会情動ネットワークである扁桃体、側坐核、視床下部、前帯状皮質、眼窩前頭皮質や認知ネットワークである背外側前頭皮質、海馬、基底核の成熟に負の影響をもたらすと考えられています。

社会的認知が脆弱である子どもは、児童・青年・成人期に社会的排斥としての仲間はずれや社会的挫折によって対人ストレスを受けるリスクが増加すると言われています。そのストレスが、報酬系回路として知られるドーパミン経路に影響を与えるからです。ドーパミン経路の障害は、早産児が成人になったときの精神病理に関連すると考えられています。このような理由で、早産児では社会的認知やストレス耐性であるレジリエンスに問題が生じるリスクが増加すると言われているのです。

また、生物学的リスクがある早産児では、子育て環境の影響も受けやすいと考えられます。また、早産を経験したお母さんでは、育児に対する不安や疲労感が高く、そのような精神的苦痛は子どもの在胎週数か短いほど強くなるようだと今福氏は言います。イギリスで行われた調査によると、早産や低出生体重で出生した子どもは両親からの身体的・性的・心理的虐待、ネグレクトを受けやすいと言われています。一方で、複数の研究成果をメタ分析した研究によると、子どもの行動に対して適切に応答する傾向は、早産児と満期産児のお母さんの間でそれほど違いがないとの見方もあるそうです。いずれにせよ、早産を経験した養育者や家族の精神的ケアを行うしくみをつくることは喫緊の課題だと今福氏は訴えています。

故園曽山に対しての最近の取り組みを今福氏は紹介しています。それは、ディベロップメンタルケアと言われているもので、早産児や低出生体重児などに対して、外的ストレスを最小限に抑えることで成長や発達を促すケアのことです。

医療現場で注目を集めているものに、カンガルーケアがあるそうです。カンガルーケアとは、その名の通り、お母さんの胸元で新生児と皮膚を直接触れ合わせるケアのことを言います。近年、カンガルーケアが母子のどちらにも良い影響をもたらすことが報告されています。たとえば、フェルドマンらは、周産期にカンガルーケアを14日間行ったところ、早産児の発達予後が10年間という長期にわたって改善することを示しました。具体的には、カンガルーケアを行った群ではカンガルーケアを行っていない群に比べて、子どもの自律神経系の機能や睡眠リズムの成熟が促進され、実行機能などの認知能力が向上したそうです。さらに、お母さんのうつ傾向が低下し、母子相互作用が良好になるなどの変化も見られたそうです。

皮膚接触をともなう母子相互作用は、オキシトシンと呼ばれるホルモンの放出を促します。オキシトシンは、ストレス反応を抑制する働きをするのです。また、養育に対する動機づけや感青の認識を促進する働きがあることが知られています。したがって、カンガルーケアにともなう母体のオキシトシン上昇が、お母さんのストレスや不安を低下させ、赤ちゃんに対する養育行動に良い影響を及ばすのではないかと考えられています。ただし、カンガルーケアは事故の報告もあるため、医師の十分な指導のもとに行われる必要があるそうです。

周産期

次に今福氏は、早産児において視聴覚統合処理がどのように発達するのかを説明しています。また、当該能力の個人差はことばの発達と関連するのかどうかも考察しています。今福氏らは、この問いに答えるために、修正齢6ヶ月の早産児と満期産児を修正齢12、18ヶ月まで追跡調査し、一致発話と不一致発話を左右に並べ、視線計測装置を用いて赤ちゃんの視線反応を調べたそうです。その結果、満期産児は6ヶ月児と18ヶ月児の時点で一致発話を選好したのに対し、早産児では全般的に一致発話への選好がみられなかったそうです。この研究は、修正齢8ヶ月でもなお、早産児では発話の視聴覚統合処理が特異である可能性を示していることになります。
この調査には続きがあります。一致発話への選好割合には大きな個人差があるのがわかりました。今福氏らが、この選好割合とことばの発達の関連を調べたところ、早産児と満期産児のどちらのグループでも、6ヶ月の時点で一致発話を選好した児ほど、1歳と1歳半の時点で理解できる語彙数が多いことがわかったそうです。修正半年の時点で、他者から語りかけられる際の視聴覚統合処理機能の評価によって、ことばの発達リスクを早期に特定できるとすれば、早産児に対する早期からの発達支援に活かせる有効な指標となるかもしれないと今福氏は考えています。では、なぜ、早産児は口形と音声が一致した発話を選好しない傾向にあるのでしょうか。早産児は、脳が急速に発達する周産期に、早産児は、脳が急速に発達する周産期に、NICUで人工的な光や音、痛みなどの刺激にさらされます。このような経験は、脳の発達に負の影響を及ばすと考えられると言います。たとえば、出生予定日の時点の早産児と満期産児を対象に、対乳児発話を聴取したときの脳活動を、NIRSを用いて計測した研究があるそうです。その結果、早産児は満期産児に比べて、対乳児発話に対して右側頭皮質の脳活動が低く、左右の側頭皮質の機能的結合が強いことがわかったそうです。このような言語音声に対する特異な聴覚情報処理特性が、発話の視聴覚統合処理の発達に影響した可能性が考えられると言います。
また、話者の顔に対する注視時間を分析したところ、満期産児に比べて、早産児は顔を見る時間が短いことがわかったそうです。話者の顔を見る経験は、視聴覚統合処理の発達と関連することが指摘されています。たとえば、文化的に相手の顔を見ない傾向にある日本人では、アメリカ人に比べてマガーク効果が起こりにくいようです。マガーク効果とは、以前に出てきましたが、視覚情報「が」と聴覚情報「ば」が同じタイミングで提示されたときに、提示された聴覚情報とは異なる音韻「だ」を知覚する現象のことです。この効果が、早産児は話者の顔を見る経験が少ないために、発話の視聴覚統合処理の発達が特異であるのかもしれないと今福氏は考えています。
早産児における発達の脆弱性や精神病理のメカニズムについて、その影響要因がいくつか議論されているようです。早産は、遺伝要因、分娩合併症離、その他の要因として、母体の肥満度の指標であるBMI、飲酒、喫煙、高齢出産などの複合的な原因によって起こるとされています。たとえば、BMIが20以下の痩せ傾向の女性の場合、正常体重の女性に比べて、自然分娩で早産に至るのは1.32倍、低出生体重に至るのは1.64倍だったそうです。

言語獲得の過程

今福氏らは、修正齢6~12ヶ月の早産児と満期産児を対象に、赤ちゃんの社会的注意を、視線計測装置を用いて評価したそうです。具体的には、人と幾何学図形のどちらに興味があるのかを調べる「人と幾何学図形の選好課題」と、相手の視線方向を追う頻度を調べる「視線追従課題」を行ったそうです。

12ヶ月の時点で、早産児は満期産児に比べて、①人に対する興味関心が低い可能性、②視線追従の頻度が低いこと、がわかったそうです。これらは、先にあげた先行研究の知見と一貫するものです。視線反応を指標とした社会的注意の評価は、相互作用の研究に比べて、実験条件を統制できるメリットがあるそうです。そこで、乳児期の社会的注意の個人差をみることで、赤ちゃんの発達を評価し、支援につなげることができるかもしれないと考えたのです。

早産児では、ことばの発達にもリスクがある場合があるようです。たとえば、満期産児に比べて、在胎28~31週で出生した早産児は2歳までの理解できる語彙や話せる語彙の数が少なかったそうです。また、在胎28週未満で出生した6歳の早産児においても、語彙の理解や産出、文法知識に問題がみられる場合があるそうです。

早産児で言語獲得の過程におけるリスクが高い原因の一つとして、脳構造の成熟の非定型性があげられています。出生予定日の時期に早産児と満期産児の脳構造を比較した研究では、脳に重篤な損傷がない早産児においても、満期産児に比べて、白質や灰白質の体積が少ないことが示されているそうです。灰白質の大部分は、左角回や多感覚情報の統合に関与する脳領域を含み、読解などの複雑な言語機能との関連が示唆されています。したがって、このような早産児と満期産児の脳造の差異は、ことばの発達に影響すると考えられると言います。それは、どうしてでしょうか。やはり環境が影響しているのでしょうか。

早産児は、出生後の期間を集中治療室で過ごします。この集中治療室は医療機器などによって約50dBのノイズ音が存在する環境です。これは胎内で経験するよりも大きいノイズレベルであると考えられます。このような周産期の異質な経験環境は、早産児のことばの知覚処理にかかわる脳機能の発達に影響を及ばす可能性があると考えられています。

また、満期産児では、乳児期に視覚情報である口の動きと聴覚情報である音声が一致した発話を好む傾向が高いほど、ことばの発達が良好であるという報告があるそうです。これは、発話の視聴覚情報を統合処理する能力が高いと、言語入力を効率よく行うことかできるために、語彙理解の発達につながると考えられているのです。ピッケンズらは、修正齢3,4,7カ月の早産児と満期産児を対象に、発話者の口形と音声が一致した映像、これを一致発話と言いますが、その映像と不一致の映像、これを不一致発話と言いますが、その映像に対する選好を、選好注視法を用いて調べたそうです。その結果、満期産児では3ヶ月児と7ヶ月児の時点で、不一致発話に比べて、一致発話を長く注視したそうです。一方で、早産児ではそのような選好の偏りはみられなかったそうです。この知見は、修正齢7ヶ月までの早産児は、発話の視聴覚統合処理の能力が特異であることを示していると言います。

修正齢

早産児や低出生体重児は長期的にみると数々の発達上のリスクが存在する可能性があります。たとえば、満期産児と比べた場合に、早産児では社会的認知やことばの発達に問題を抱えることがより多くあるそうです。さらに、大規模フォローアップ研究では、周産期に重篤な疾患をもたない早産児においても、学齢期を迎える頃に、内在化問題や外在化問題などの問題行動、学業成績の低下、実行機能の遅れなどのリスクを抱えやすいことが示されているそうです。内在化問題とは過度な不安や抑うつなどの自分の中に問題が生じるものを指し、外在化問題とは攻撃行動や規範に違反する反社会的行動などの外にあらわれるものを指します。

また、早産児ではADHDや学習症などの神経発達症のリスクが、満期産児に比べて2.4倍も高いことが報告されているそうです。同様に、1980~2001年に出生した早産児では、自閉症の罹患率は在胎週数が短いほど高くなる傾向にあり、在胎週数23~27週で出生した早産児では満期産児の約3倍だったそうです。

したがって、早産児の発達にかかわる生後早期の指標を発見することは、その後の発達を支えるうえで重要な課題だと言われています。しかし、早産児の社会的認知やことばについて、特に赤ちゃんの時期の特徴は知見が少ないのが現状だそうで、まだはっきりしていないようです。このような現状を解決するためには、早産と満期産の赤ちゃんを対象として、社会的認知やことばの発達にかかわる早期の特徴と、その個人差を明らかにする必要があると今福氏は言います。

これらのデータを見ると、その差は、母体の胎内にいる期間を胎外で育つ環境の違いに大きな原因があるように思います。それは、赤ちゃんにとって、胎内にいるときだけでなく、出産後の育つ環境がいかに大切であるかということがわかります。もう一つ、早産児の問題は、生年月日が出産した日時であることがあると思います。それは、日本では、多くの学校を含めた施設は、生年月日別に分けられた集団において同じことをするのです。その中で3月生まれだけでもハンデがあることが多い中、早産児を多くのハンデを背負うことが多いのです。とくに発達を保障する乳幼児施設では、もう少し、一人一人の発達を見て、その課題によって保育をすることが必要だと思っています。そして、就学年齢の弾力化も検討するべきだと思っています。

そのような中で、早産児と満期産児の発達的特徴の比較を行う場合には、成熟をそろえるために「修正齢」が使われているそうです。修正齢は、出生予定日である妊娠40週から数えた年齢です。確かにその年齢を使うことで、育つ環境の影響についてより正確に比較できるようになります。今福氏らも、この修正齢を使って比較しています。

このように、他者との相互作用を観察した研究で、早産児は他者に対して、満期産児と異なる行動特微を示すことか明らかになってきているそうです。たとえば、在胎28~34週で出生した修正齢4ヶ月と6ヶ月の早産児は、満期産児に比べて他者の顔から視線を逸らす頻度が多いことがわかっています。さらに、在胎26~32週で出生した修正齢9カ月の早産児では、満期産児に比べて実験者が視線を向けた先の物体に対する注視時間が少ないようです。

子どもへの虐待

産後うつは、子どもへの虐待につながる場合も少なくありません。そして、虐待を受けた経験は、様々な部分での脳の発達に多大な影響を及ぼすことがわかっています。たとえば、暴言などの心理的虐待を受けた子どもは、ことばを産出する領域とことばを理解する領域の間を結ぶ弓状束の神経線維が異質であり、聴覚野の一部である上側頭回灰白質の容積がおよそ14%増加しているそうです。これは、シナプスの刈り込みがうまくいかなかったために生じると考えられています。神経細胞同士が過度に結びついていると、情報の伝達に不具合が生じ、ことばでのコミュニケーションに支障がでてくると考えられているそうです。

また、身体的虐待・厳しい体罰を受けると、前頭前野の中でも相手の心的状態を推測することにかかわる内側前頭皮質が小さくなるそうです。それはどういう影響が出るかというと、この領域の異常は、先述した行為障害や抑うつなどになりやすい感情障害とかかわっていると言われています。また、夫婦間のDVを目撃して育つと、視覚野が縮小すると言われています。また、性的虐待を受けると、受けていない人に比べて、視覚野の中でも顔の認知などにかかわる紡錘状回がおよそ18%も小さくなるそうです。友田氏は、「性的虐待被害者の左の視覚野が小さくなっているのは、詳細な画像や映像を見ないですむように無意識下の適応が行なわれたのかもしれない」と述べているそうです。

虐待を含む不適切な養育のことをマルトリートメントと呼ぶそうです。マルトリートメントは、子どもの脳の発達に大きなダメージを与え、さまざまな問題行動へとつながるということがわかっています。マルトリートメントを引き起こす原因としては、養育者の育児不安やうつなどの精神的な不安、社会経済状況や育児について相談できる人がいないことといった家庭を取り巻く問題などが考えられています。そのためにも、子どもの発達を支える家庭環境をより良いものにすることが、今求められているだと今福氏は言うのです。

他にも、様々に育児に対して考えなければならない課題があります。好娠22週から出生後七日までの期間を周産期といいます。この周産期に、特異な環境で過ごす子どもがいます。それは、早産の赤ちゃん、いわゆる早産児です。通常、赤ちゃんは妊娠37週0日~41週6日で生まれ、この期間に生まれた赤ちゃんを満期産児と呼びます。一方、早産児は妊娠37週未満で出生し、満期産児が母胎内で過ごす時期を胎外で過ごすのです。医療技術の進歩によって、早産児や出生時の体重が2500グラム未満である低出生体重児の死亡率は減少傾向にあります。特に、2017年の推計によると、日本では生後28日未満で死亡した赤ちゃんの割合は1000人あたり0.9人であり、「日本は赤ちゃんが世界一安全に生まれる国」になっているそうです。

その一方で、世界では早産児の出生率が増加傾向にあります。2010年の時点で、171ヶ国における早産児の平均出生率は全体の11.1%にのぼり、ヨーロッパ諸国で約5%、アフリカ諸国で約18%でした。日本における早産の出生率は、1980年には全出生件数の4.1%であったのに対し、2010年には5.6%と増加しています。同様に、低出生体重児は1975年には全出生件数のうち男児で5.5%、女児で4.7%であったのに対し、2016年には男児で10.6%、女児で8.3%と増加しています。それは、どのような問題を引き起こしているのでしょうか。

産後うつ

近年、産後うつのお母さんの脳活動を測定することで、その神経学的基盤が明らかになってきました。初産のうつのお母さんと健康なお母さんを対象に、生後15~18ヶ月になる自分の子どもと他人の子どもの表情を観察中の脳活動を測定したところ、うつのお母さんでは、自分の子どもの喜びの表情を観察したときに、共感や感情の認識にかかわる眼窩前頭皮質と島皮質の活動が低いことがわかりました。うつのお母さんにみられるこのような脳機能の異質性は、子どもの養育への動機づけを低下させたり、感情を親子で共有する機会などを奪うことにつながると考えられると言います。

では、実際に、産後うつは子どもの発達にどのような影響を及ぼすのかを今福氏は考察しています。産後うつのお母さんをもつ9ヶ月児では、笑顔の表出が少なく、ネガティブな感情をコントロール(抑制)するのが難しいようです。産後うつのお母さんと赤ちゃんのかかわりでは、アイコンタクトや身体接触という、母子の同調的な行動が少なくなるそうです。また、子どもが6歳の時点では、お母さんが慢性的にうつ症状を抱える場合に、そうでない場合と比べて、小学校入学時に精神疾患を発症するリスクが4倍にもなり、およそ60%の子どもが心配や恐怖を過度にかかえる不安障害や反社会的で攻撃的な行動をとる行為障害にかかるそうです。小学校にあがる児童期において、うつのお母さんの子どもは、他人の痛みを自分のことのように感じる情動的共感が低く、ひきこもりになりやすいうえに、学業成績にも芳しくない影響を与えることがわかっています。このように、出産後のお母さんの精神的な健康は、子どもの発達に長期的な影響を及ぼすというのです。

こんなに産後うつが子どもに影響するのであれば、ケアが必要なのは当然です。しかし、多くの場合、この時期に産休、育休を取得している場合が多く、母子が孤立していることが多いために、なかなかケアを十分にしてあげられない場合が多くあります。乳児期における保育園への入園を、保護者が保育を必要だと考えた時に、仕事をしていようが、育休中であろうが、入園できるようにすべきだと思います。さらに、産後うつはそれだけではないようです。

産後うつは、子どもへの虐待につながる場合も少なくないそうです。全国210ヶ所の児童相談所が児童虐待相談として対応した件数は、2017(平成29)年度で13万3778件におよび過去最多の件数になっていると言います。

虐待には、①殴る、蹴る、投げ落とす、激しく揺さぶるなどの身体的虐待、②子どもへの性的行為、性的行為を見せる、ポルノグラフィの被写体にするなどの性的虐待、③家に閉じ込める、食事を与えない、重い病気になっても病院に連れて行かないなどのネグレクト、④ことばによる脅し、無視、きようだい間での差別的扱い、子どもの目の前で家族に対して暴力をふるうなどの心理的虐待、の四種類があります。2017年度は、心理的虐待が最も多く、次いで身体的虐待、ネグレクト、性的虐待の順で件数が多いようです。

虐待を受けた経験は、様々な部分での脳の発達に多大な影響を及ぼすことがわかっています。このような影響を及ぼす虐待の原因の一つに、産後うつが関係していることがあるようです。