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仕事への復帰

仕事を失っても、比較的早く次の仕事が見つかるような流動性の高い労働市場ならば、雇用保障は大きなありがたみを持たないでしょうが、日本は、こうした流動性の低い労働市場ですので、雇用保障があることで、お母さんの出産後の仕事の続けやすさが大きく変わってくると山口氏はいいます。雇用保障によって、この職探しの困難を取り除くことができるためです。

しかし、データによると、あまり長い育休は逆効果になるようです。育児体業による雇用保障で新たに仕事を見つける必要はなくなったとはいえ、あまりに長い間仕事を休んでしまうとかえって復帰が難しくなるかもしれないというのです。それは、週末休み明けの月曜日に、なんだか出勤したくないと感じてしまうのと同じ心境だというのです。

日本の育休制度は、職場復帰を前提としていますが、そのまま退職してしまった場合でも給付金の返還などのペナルティーはありません。そのため、休業期間が長くなるほど、職場復帰がおっくうになってしまうこともあるのではないかと山口氏は考えています。

またさらに彼は、一部の専門職では、仕事から長期に離れてしまうと、職業人としての能力に大きなダメージを受けてしまいかねません。たとえば、高度な研究職、技術職では常に新しい知見・技術が時代遅れになってしまうことが考えられると言います。

また、人脈作りが重要な営業職などの仕事でも、長期に育休の間に顧客を取られてしまったり、人脈が失われてしまったりすることがあるでしょう。こうした仕事についている人たちは、育休期間が長くなればなるほど職場復帰が難しくなってしまいます。

では、条件の悪いアメリカではどうでしょうか?最近、アメリカのIT企業では、育休の充実で人材確保をしているようです。企業にとって、育児休業は優れた従業員を自社につなぎとめるためにも有効な手段です。

「育休後進国」のアメリカですが、近年ではグーグルやフェイスブックといったIT企業を中心に、独自の育休制度を準備する企業が増えてきているそうです。IT業界では優秀な人材の引き抜き合戦が激しいため福利厚生に力を入れており、人材確保の一環として有給の育休を社内制度として認めるようになったのです。

一方で、育休が企業にとって負担とならないよう、多くの国々で制度的に配慮されています。日本では、育休の給付金は雇用保険から支払われますし、休業中の健康保険料や厚生年金保険料の支払いは免除されているため、これらが企業にとって負担となることはありません。しかし、こんなことが懸念されます。たしかに育休中の社員の穴埋めのために、たとえば派遣社員を手配しなくてはならないケースなどが出てくるかもしれません。また、引き継ぎにともなって一時的に仕事が滞ることもあるでしよう。これらは小さい職場では無視できないコストかもしれませんが、そうしたコストを軽減するために中小企業に対し両立支援等助成金が支給されています。-

では、アメリカ以外のヨーロッパとカナダで行われた育児休業制度改革の政策評価はどうでしょうか?山口氏は、育休は母親が仕事を続ける上で助けになるのか、育休を取って母親が家にいることは子どもの発達にとってプラスなのかといった点について考察しています。

育休の二本柱

育休の取得は原則として1年間認められていますが、保育園に入れないなどの事情があれば最大で2年間まで育休を取ることができます。日本での育休導入当初は、いわゆる正社員しか取ることができませんでしたが、現在では、一定の条件を満たせば正社員でなくとも育体を取ることができます。ただし、厳密に言い換えると、「当初は常用労働者しか育体取得できなかったが現在では一定の条件を満たした有期雇用者も育休取得できる」ということです。そして、育休期間中に支払われる給付金は、日本では月額に上限はありますが、最初の半年が休業前賃金の67パーセント、そこから先は50パーセントが支給されます。

育児休業制度そのものは、ほとんどの先進国で取り入れられていますが、その手厚さは国によって大きく異なっているようです。なんと、一番短いのはアメリカで、なんとわずか12週しかありません。産休が産後8週とれるわけですから、そこからひと月しか育休が取れないことになります。対照的に、特に長いのは一部のヨーロッパの国々で、ドイツ、フランスなどでは約3年間も雇用が保証されているようです。下には下がありますが、上には上がありますね。保育園に入園できないときに限って2年間育休が取れるということで、意図的に入園できないようにしている保護者についてのテレビのコメンテーターは、このドイツやフランスの例を出して、日本でも2年間育休を取得できるようにすればいいのにということを言っていました。しかし、私は、そう簡単な話ではないと思っています。それは、後で書きますが、山口氏はどう考えているのでしょう。

次に、フルタイムで1年間働いた場合と比べて、支給される給付金は、何パーセント程度になるのかのデータについて検証しています。ここでも一番少ないのはアメリカで、なんと給付金はゼロです。一方、スペイン、ポーランド、メキシコといった国々では100パーセント支払われているようです。この点でも、日本はこのグラフの中央値を超えてやや多めのようで、諸外国と比べて、制度面が特に劣っているということはなさそうです。それにしても、女性の社会進出において先進的なアメリカが、こんなに二本柱が共に少ないのは、どうしてだろうかと思ってしまいます。

そこで、山口氏は、育児休業制度のあり方で、母親の働きやすさはどう変わるのかということを考察しています。その中で、制度上、父親も育休を取ることができますが、育休制度の影響を強く受けるのは母親であることが多いため、まずは母親の立場から見た育休制度を経済学的な視点から考えています。

育休が母親の就業を助ける最大の理由は雇用保障ですが、そのありがたみは社会のあり方によって大きく変わってくると言います。仕事を失っても、比較的早く次の仕事が見つかるような流動性の高い労働市場ならば、雇用保障は大きなありがたみを持たないだろうというのです。そうした社会では、出産に合わせて退職し、本人が仕事に復帰したいタイミングで仕事探しを始めても、大きな問題なく新しい仕事を始められるからだというのです。

一方、日本はそうではないと山口氏は思っています。諸外国と比べると、クビになりづらく、職は安定しているのですが、ひとたび仕事を離れると次の仕事を見つけるのは大変だというのです。これはいわゆる正社員の仕事によく当てはまります。

経済学

様々な分野で、様々な団体が公私含めて様々な統計を取っています。それは、どのような人を対象に、どのくらいの人数、どのような質問でそのデータをとっているかによって結果が違ってくることがあります。しかし、そのデータには、ある真実や、ある課題、ある示唆を与えてくれることも多いのです。山口慎太郎氏は、“「家族の幸せ」の経済学”(光文社新書)という本の中で、子育て、赤ちゃんに関するデータをもとに、私見を述べています。この本のサブタイトルには、「データ分析でわかった結婚、出産、子育ての真実」と書かれてあります。

彼は、東京大学の経済学部で結婚、出産、子育てなど家族にまつわる問題を分析対象とする「家族の経済学」と、労働市場や人事制度を分析対象とする「労働経済学」を研究、教育をしていると本人によって自己紹介されています。そして、彼が家族の経済学を専門にしようと思ったのは、海外経験が影響していると言っています。それは、留学していたアメリカやカナダでは、女性の活躍はめざましく、社会の重要な地位についている人も珍しくなかったと言います。そこで、日本でも、女性がより活躍することで、経済と社会の活性化につながるのではないかと考えて、「家族の経済学」研究するようになったというのです。

この本では、結婚の経済学、赤ちゃんの経済学、育休の経済学、イクメンの経済学、保育園の経済学、離婚の経済学の6章に分けて書かれてあります。その中で、いくつかを取り上げてみたいと思います。そこでは、彼によるデータの分析と、私の考えを少し入れた分析を書いてみたいと思います。

まず、育休についてです。以前のブログで、最近、それについて取り上げたことがありました。それは、2016年に「保育園落ちた日本死ね!!! 」と投稿されたフレーズが、国会で採り上げられ「保育園落ちたの私だ」デモが行われるなど大きな動きとなったことについてです。いわゆる入園できず、待機児問題がクルーズアップされた出来事でした。それが、数年後には、「保育園落ちろ!」という言葉がささやかれるようになりました。それは、育休の取得は原則として1年間認められていますが、保育園に入れないなどの事情があれば最大で2年間まで育休を取ることができるため、意図して保育園に入園できない状況をつくる保護者が問題になったのです。そのことが問題になった時、テレビでも取り上げられ、外国による育休制度が参考に示されました。私は、それのデータに対する多くのコメンテータの意見には、少し異論がありました。そのデータ分析には、片手落ちがあるからです。それについては後で述べますが、山口氏は、これらのデータから、どのような分析をしているのでしょうか?

まず、雇用保障と給付金について整理しています。それは、育児休業制度の二本柱は、雇用保障と給付金だからです。このように説明しています。「雇用保障があるということは、育休を取得しても、それが理由でクビになったり、給料を下げられたりといった不利益な取り扱いはされないということです。もう一つの柱である給付金は、育休前の勤務状況と所得に応じて、育休中に受け取れるお金のことです。」ただし、給付金は雇用保険(失業保険)から支払われているため、給付金の支給が会社の経営を圧迫するということはありません。では、そこにどのような問題があるのでしょうか?

データの読み取り

いろいろなことを研究するにあたって、理系の場合は、実験を積み重ねていく場合が多いです。何度も失敗を繰り返しています。先日ノーベル化学賞を受賞した吉野彰さんも、当然そのような苦難の道をたどったことでしょう。AERAdot.の記事にも「スマホなどで欠かせないこの電池の開発は、死屍累々の歴史でもあった。」とあります。そして、「開発の芽が出た70年代から四十数年後、リチウムイオン電池はIT機器だけでなく電気自動車にも使われるようになり、21世紀の生活を底で支えている。ウィッティンガム、グッドイナフの業績を生かしてコードレス/ワイヤレスの機器を支える「底力」としての電池を製品としてまとめた吉野の研究開発力は語り伝えられるものだろう。」何十年にもわたってのコシノさんの研究は、様々な困難があったでしょうが、このように脚光を浴びない中にも、何十年も研究している人たちも大勢いるでしょう。

また、植物学者とか昆虫学者の研究は、実際に自ら植物を育てたり、昆虫を育てたりする中で、ひたすら観察します。様々な条件の中ではどうであろうかなど試行錯誤が繰り返されるでしょう。

それに対して、いわゆる文系の研究はどうでしょうか?たとえば、保育の研究はどうでしょうか?人そのものの研究のため、なかなか実態がつかめないなか、ピアジェが心理学を応用して、保育を語るようになりました。それは、大いなる進歩です。また、様々なデータからいろいろなことを判断します。実際に、データがものを言うことがあります。しかし、私は、データ自体は正しくても、その読み取り方に様々な見解が生まれてしまうことを理解する必要があると思っています。以前、ブログで紹介いたのですが、その点に関して、ハリスは疑問を持ったのです。こんなことを以前紹介しました。

子育て神話は人為的な神話であるとハリスが述べたときに、多くの人たちがすんなりとそれを信じることができなかったのは、信じることができないだけの根拠があまりに多かったからです。私たちは、親が子どもに影響を及ぼすのを自分の目で見て知っています。しかも社会化研究者はそれを証明するデータを山ほどもっています。それに対して、ハリスは確かにそうだと言います。しかし、こんなことを問いかけています。「自分の目で見たというのは一体どこで見たのか。研究者はそのデータをどこで集めたのか。確かに親は子どもに影響を及ぼします。しかし親が一緒でないときにもそれらの影響が引きつづき残っているという証拠はあるのだろうか。親の前では気むずかしい子も、もしかしたら同級生や先生の前ではすっかりとりすましているかもしれない。」

そして、こんなことを指摘しています。「社会化研究者たちが信じる子育て神話を裏づける証拠の多くは、親の前での子どもの行動観察、もしくは母親が記人した子どもの行動に関するアンケートなどに基づいている」というのです。確かに、子どもたちの多くは親の前と外での姿が違います。ですから、研究者は家庭環境の影響、たとえば離婚による影響などを実証しようとするので、家の中での子どもの様子を観察しますが、その場所は最近子どもにとって不愉快な出来事が多発した場所でもあります。さらにひどいことに、研究者たちは、とりわけ離婚の混乱後で決して中立的な観察者とはいえない親に、子どもの行動について質問しているのです。

そして、こんな指摘をしています。「このようなある意味で片手落ちの研究結果によって、子どもを判断し、決めつけてしまうことが多いようです。状況の作用は発達心理学がかかえる大きな問題のようです。状況の作用によって、研究者が考えるもの、もしくはそうあってほしいと願っているものとは違った意味をもつ相関関係が生み出されてしまうようです。」

日常的経験

今福氏は、その著書のサブタイトルに「社会性とことばの発達」が書かれていますが、子の発達は、コミュニケーションにかかわるものです。したがって、社会性とことばの発達の科学的理解は、現代社会の問題を解決するために非常に重要であると今福氏は考えたのです。たとえば、自己肯定感の低下傾向の改善には、褒められる経験が鍵を握るかもしれないというのです。

社会性とことばの発達について振り返ると、ヒトは胎児期からお母さんの声に感受性を示し、新生児期には顔や声への選好や新生児模倣がみられ、その後は4歳以降の心の理論の獲得に至るまで、その発達は連続的に進むことがわかります。乳児期の共同注意の能力が心の理論の発達と関連し、子どもの自己制御能力が将来の成功や健康と関連する、という報告もありました。

そして、その時に抑えなければいけないのは、社会性とことばの発達には敏感期や適した環境があり、大きな個人差があるということです。そこで、発達初期の経験環境が、心の発達に長期的な影響をもたらす可能性にも言及してきたと言います。それゆえに、子育て、保育、教育を考えるうえで、赤ちゃんの頃から始まる心の発達のしくみを理解することが欠かせないのです。この今福氏の主張が、私は共感することです。確かに、心の発達には遺伝の影響も50%弱ほどはあると考えられてはいます。しかし裏を返せば、残りの50%強は心の発達に環境が担うといえ、その役割は大きいと今福氏は主張するのです。

今福氏は、日々、赤ちゃんや子どもにかかわるさまざまなニュースが飛び込んでくる中、子どもたちの発達に適した環境をどのように整備すればよいのかを考えなければならないというのです。そして、その環境を考えるためには、子どもたちの心の発達を理解することが重要であるというのです。

京都大学院教授である明和政子氏は、今福氏の歩みを二つにまとめています。一つ目は、ヒトに特有の認知能力、特に言語の獲得について独自の視点から切り込んだ研究であると言います。他者とコミュニケーションする経験を通じて、ヒトはどのように言語を習得していくのかを解き明かしてきたそうです。相手から話しかけられる場合、私たちは、他者の顔や口唇部の動きをみる視覚、発話による聴覚情報を同期的に処理しているのです。今福氏は、そうした多感覚情報の同期生にどのくらい敏感であるかが、乳児のその後の言語発達を予測することを見出したのです。乳児期の認知発達が、他者との日常的経験により支えられている点を重視した、彼ならではの発想による成果であると明和氏は言っています。

二つ目は、早産にともなう胎内経験の短縮や、胎児期から新生児期の周産期の医療的措置等の経験が、後の認知発達の個人差と関連することを実証した研究であるということだと言います。今福氏は、京都大学医学部付属病院の医師らと5年以上にわたり共同研究を行ってきたそうです。早産児と満期産児を対象に、生後2年間の認知発達を追跡してきた結果、周産期に経験する環境の異質性が、後の認知発達、特に社会的認知機能の発達と関連することを突き止めたのです。周産期環境の異質性に着目し、認知発達との関連を検証した研究は世界的にもほとんど行われていなかったため、彼の研究は今、世界的な注目を集めているそうです。こうした基礎的知見は、臨床場面での応用も強く期待されているそうです。

保育環境の質

アメリカのテルマ氏らが作成した環境評価スケールにエカーズというものがあります。そこでは、保育環境の質を数値化する尺度では、①粗大運動遊びの空間などの「空間と家具」、②食事や午睡などの「日常的な個人のケア」、③絵本や会話などの「ことばと思考力」、④造形や音楽などの「活動」、⑤保育者と子どものやりとりなどの「相互関係」、⑥自由遊びや集団活動、障害のある子どもへの配慮などの「保育の構造」、⑦保護者との連携や研修機会などの「保護者と保育者」、の項目について評価されます。エカーズによって評価された保育の質が高いほど、11歳のときの子どもの認知や行動、社会性の発達が良好であるという報告もあるそうです。保育者が子どもの発達に果たす役割は大きいと今福氏は言います。

厚労省の3013年の調査によると、保育士としての勤務年数が5年未満である早期離職者の多さが問題となっています。保育士職への就業を希望しない理由としては、「賃金が希望と合わない」「休暇が少ない・休暇がとりにくい」などがあげられるといいます。保育者の処遇や勤務環境は、喫緊に改善されるべき問題だと今福氏は考えています。

職場でのストレスも離職の原因の一つであると考えられています。保育者が職場で抱えやすいストレスとしては「職場環境・職場の人間関係」「子どもの対応」「知識と現場のギャップ」があるようです。これらのストレスを低下させるには、ソーシャルサポートや研修への参加を促す体制を整える必要があると今福氏は考えています。

専門性の向上は、保育者としての自信である保育者効力感につながります。保育者効力感とは、「保育場面において子どもの発達に望ましい変化をもたらすことができるであろう保育的行為をとることができる信念」であると言います。赤ちゃんや子どもの発達を支える保育者が、幸福感を感じ、保育者効力感を育むことができる職場にしていくことが重要だと彼は提案しています。

今福氏は、彼の著書「赤ちゃんの心は どのように育つのか」のなかで、そのサブタイトルにあるように、社会性とことばの発達を科学しています。内容として、赤ちゃんや子どもを取り巻く現代社会・教育・子育ての現状についてみてきました。その中で、デジタルメディアの普及によって子育て環境が変化しつつあることや、家庭の貧困と発達の関係について触れました。保育・学校現場に目を向けると、小一プロプレムやいじめ、日本語指導が必要な外国籍の児童生徒の増加の問題などがありました。また、世界と比べると、日本人の自己肯定感や主観的幸福感は低い傾向にありました。

これらのトピックをなぜ取り上げたのか、それが、心の発達を考えるうえでなぜ重要なのかということの問いに、それは「現代社会が、今を生きる赤ちゃんや子どもの環境にほかならないから」だと答えています。そして、心の発達は、環境との相互作用によって変化します。ですから、環境が変われば、心の発達の様相も変化する可能性があるというのです。

保育所や幼稚園の教育は、「環境を通して行う」ことが基本にあります。ここでの環境について、今福氏はこう考えています。①人的環境、②物的環境、③自然環境、などに分けて考えられます。現代社会の現状をみてみると、人的環境にかかわる課題が多くあり、人間同士のコミュニケーションの問題が関係しています。デジタルメディアの普及をみても、SNS上で文字や写真、絵文字などを介したコミュニケーションが行われているのです。

育児幸福感

赤ちゃんや子どもにとって、養育者は一番身近な存在といっても過言ではないと今福氏は言います。以前紹介したように、養育者の精神的健康は、子どもの発達に影響を及ぼします。したがって、養育者が幸せを感じて子育てができる環境は、赤ちゃんや子どもにも良い影響があると今福氏は考えています。育児幸福感とはどのようなことなのでしょうか?彼は、育児幸福感は、「育児中のお母さんの肯定的な情動」のことだと説明しています。育児幸福感尺度では、①子どもが元気に成長しているとき安心する「子どもの成長」、②子どもと一緒にいるだけで幸せだと感じる「希望と生きがい」、③子どもによって自分の心が変わり、強くたくましくなった「親としての成長」、④子どもをきつく叱った後でもすぐなついてくれるときに安心した気持ちになる「子どもに必要とされること」、⑤夫が育児に協力してくれることに感謝するとともに安心した気持ちになる「夫への感謝の念」、⑥子どもを通して人とのつながりができたとき嬉しい「新たな人間関係」、⑦子どもに助けられたとき感謝の気持ちになる「子どもからの感謝と癒し」、⑧子どもを産めたことに喜びと誇りを感じる「出産や子育ての意義」、の8因子によって、子育て中に感じる幸せな気持ちを評価します。

育児幸福感の高さは、子育てで感じるネガティブな情動である育児ストレスの低さとかかわるようですが、その関連は弱いことがわかっているそうです。育児幸福感を高め、育児ストレスを低めるためには、異なる援助が必要であるのかもしれないと今福氏は考えています。また、育児幸福感は、お父さんでも研究がされているそうです。どうやら、お父さんはお母さんと共通した育児幸福感を抱いているようです。

また、母子世帯1233、二親世帯2646、計3879世帯を対象とした調査によると、日本の母子世帯のお母さんは、二親世帯のお母さんに比べて、幸福感が低い傾向にあったそうです。また、日本の母子世帯の相対的貧困率は五割を超えており、周囲の人々の心理的な支援であるソーシャルサポートを受けにくい場合も多いようです。家庭が望む子育て支援策を具体的に明らかにすることで、多様なニーズに応える政策を考えていくことが重要ではないかと今福氏は考えています。

一方、0~2歳の第一子をもつ妻・夫へのアンケート調査では、二親世帯においてお父さんの育児頻度か調べられました。たとえば、「○〇ちゃんを寝かしつける」にかんして、お父さんの41.2%が「ほとんどしない」、27.2%が「週に1~2回する」と回答したようです。このように、お父さんの育児への参加は、依然として低い状况にあります。お母さんの心を支えるお父さんの育児参加を促すしくみづくりも必要でしょう。これによって、より幸せな子育て環境になると考えられます。

保育士や幼稚園教諭は、子どもの発達に大切な乳幼児期に、教育や養護にたずさわる職業だと彼は考えています。日本では、社会的ニーズの変化にともない、保育の質の向上や評価が求められるようになっています。保育の質について2018年に厚労省が示したものには、「子どもたちが心身ともに満たされ、豊かに生きていくことを支える環境や経験」のことで、社会や文化における保育の機能によって規定されるものとあります。

子どもたちの幸せ

家庭で褒められる経験と脳の発達について調べた研究があります。5~18歳の290名を対象に、お母さんが日常で子どもに対して褒めることを大切にしている程度と、脳の灰白質の容積との関連が調べられました。その結果、褒めることを大切にしているお母さんの子どもは、島皮質の脳容積が大きいことがわかりました。島皮質は、共感や感情制御にかかわる脳の領域です。この知見から、お母さんに褒められた経験を多くもつ子どもほど、感情にかかわる発達が良好であるといえそうです。さらに、共感力や、感情抑制力にも優れているのかもしれません。この研究ではさらに、思いやりにかんする誠実性と、創造性や好奇心にかんする開放性の性格特性をもつお母さんは、子どもを褒めることを大切にしている程度が高いことがわかりました。子どもの良いところをみつけて、それをことばにして褒めることは、私たちが思っている以上に重要な営みなのだと今福氏は言っています。

最後に、今福氏は、子どもたちの幸せについて考えてみています。2014〜16年に各国で行われたアンケート調査によると、日本の幸せの程度を個人の主観をもとに測った主観的幸福感は155ヶ国のうち51位、OECD加盟国では35ヶ国のうち27位でした。このアンケートでは、①一人当たり実質国内総生産、②助けてくれる親族や友人がいるかというソーシャルサポートの有無、③健康寿命、④人生選択の自由度、⑤慈善事業に寄付したかなどの寛容さ、⑥政府やビジネス界に汚職があるかという汚職、によって主観的幸福感が評価されました。この評価基準では、同一の経済水準の国と比較して、日本の主観的幸福感は低いことがわかります。

一方で、日本では幸せの捉え方が他国と異なるのではないかという考えもあります。幸せのイメージについて日米で比較分析した研究では、アメリカ人は「幸せは個人による目標の達成で得られる」など、幸せをポジティブなものとして捉えることが大半であったのに対して、日本人は「幸せになると他人から妬まれる」など、幸せをネガティブなものとしてとらえる傾向があることがわかりました。つまり、日本人は幸せを判断するときに、他人と同程度の幸せを手に入れることが基準になっている可能性があるというのです。

主観的幸福感を決定する要因としては、学歴や所得よりも、自己決定が強い影響を与えるようです。ここでいう自己決定とは、自らの判断で高校や大学などの進路選択を行った程度を指しています。日本の教育では、子どもたちはどの程度の自己決定ができているでしょうか。子どもたちが自分で行動を選択できるように環境を整備していくことで、満足度の高い生活を送ることができるようになるかもしれないと今福氏は言っています。

私も、この行動の選択はとても重要だと思っています。自己選択が保障されることで、免疫力が高まるという研究もあります。そのために、もう3年ほどまでになりますが、北欧に老人施設視察に行ったときに、多くの施設ではお年寄りの選択を保障することによって、生きる意欲を持たせているという話を聞きました。また、選択は、自己肯定感を育てることもわかっています。自分で何とかできるという確信が、自分を大切に思うようになります。また、選択は、これから必要な力としてOECDが示しているうちの一つとして「責任をとる力」というものも、自己選択をすることが必要だと思っています。この選択する力は、すでに赤ちゃんから持っていることを、現場ではよく見ることができます。何を食べたいか、何で遊びたいか、どこに行きたいかなど、赤ちゃんは選択し、主張するのです。

自尊感情尺度

近年、日本の自己肯定感の低さが問題になっています。自己肯定感とは、自尊感情とも言い、肯定的な自己評価や自分を価値あるものとする感覚を意味します。その自己肯定感が日本の若者が低くなっているのです。たとえば、日本を含む7ヶ国の13~29歳を対象に行われた内閣府による2014年の意識調査では、「自分自身に満足していると思うか」という質問に対して、「そう思う」や「どちらかといえばそう思う」と答えた人は、日本では45.8%、アメリカでは86.0%、同じアジアの韓国では71.5七%でした。日本では、半分以上の人が自分に満足していないと感じているようです。

心理学の分野では、自己肯定感を測る有名なものに、「ローゼンバーグの自尊感情尺度」があるそうです。この尺度は以下の10項目で構成され、「いいえ」「どちらかといえばいいえ」「どちらかといえばはい」「はい」の4件法で評価されます。10項目は、①私は自分に満足している、②私は自分がだめな人間だと思う、③私は自分には見どころがあると思う、④私は、たいていの人がやれる程度には物事ができる、⑤私には得意にうことがない、⑥私は自分が役立たずだと感じる、⑦私は自分が、少なくとも他人と同じくらいの価値のある人間だと思う、⑧もう少し自分を尊敬できたらと思う、⑨自分を失敗者だと思いがちである、⑩私は自分に対して、前向きの態度をとっている、の10項目です。その中で、②⑤⑥⑧⑨は逆転項目で、回答したものと逆の得点をつけます。

なぜ日本の若者は、自分に対する自信や満足感が低いのでしょうか。日本は謙虚であることを美徳とする傾向があるために、控えめな回答がなされたのでしょうか。あるいは、日本人は自分と他人との関係を重視する相互協調的自己観をもつ傾向があるために、自分よりも他人との関係を重視してしまい、自分を疎かにしてしまうのでしょうか。様々な理由が考えられていますが、この点については、未だに答えがでていないそうです。

では、子どもの自己肯定感を高めるには、どのようなことが大切なのでしょうか。今福氏は、こんなことを提案しています。小学5~6年生を対象にした研究では、学校生活において教師から褒められる経験が、自己肯定感や学習意欲、学校生活満足度と関連していることが明らかになっています。これは、教師が子どもを褒めることが、子どもの自信や勉強への動機づけ、学校での生活に広く影響を及ぼすことを示しています。一方で、日本の教育は子どもの問題をみつけるという側面に重きがおかれている印象を今福氏は受けていると言います。しかし、上記のような研究結果をみると、学校教育においても子どもの良いところを褒めることを積極的にしていくべきではないかと今福氏は言うのです。

褒められる経験をすると、私たちにはどのような変化が起きるのでしょうか。今福氏は、ある実験を紹介しています。私たちは、お金という物質的な報酬を手に入れたときに線条体という脳の部位が活動します。線条体には、ドーパミンという快楽にかかわる神経伝達物質を受け取る受容体があります。つまり、お金を手にすると、私たちは快楽を覚えるのです。これが、他者から良い評判を得るという社会的な報酬の場合にはどうでしょうか。驚くべきことに、お金を手にしたときと同様に、他者から良い評判を得ると線条体が活動しているのです。他者から良い評判を得ることと褒められる経験は異なりますが、社会的報酬という観点からみると類似しています。他者から良く評価されたり褒められると、私たちは快楽を感じるようです。

共通項

自己制御は将来の成功や健康につながる重要な能力です。では、自己制御はどのように育むことができるのかということを今福氏はこう考えています。どうやら、ごっこ遊びをすると自己制御の一部が促進されるようだというのです。ごっこ遊びは2歳頃からみられるようになり、何かになったつもりで遊ぶものです。たとえば、子どもたちは、おままごとやお店屋さんごっこで遊びます。

3~5歳の幼児が、空想的なごっこ遊びをする群、空想的でない遊びをする群、普段通りの遊びをする群の三つのグループに分けられ、それぞれが遊びを5週間で1回15分、計25回行ったそうです。空想的なごっこ遊びをする群では、宇宙に冒険に行くなどの遊びをしました。その結果、空想的なごっこ遊びをする群は、歌やお絵かきなどの空想的でない遊びをする群に比べて、切り替え能力や更新能力が高くなることがわかったそうです。

家庭環境が貧しいSESの低い4歳の子どもを対象とした研究では、動物や人のキャラクターになりきって劇を演じたり、感情を表現するようなごっこ遊びをすると、感情的な自己制御が向上することがわかったそうです。これらの結果は、日常的に保育所や幼稚園で経験する演劇やごっこ遊びが、自己制御の発達に有効であることを示していることになるのです。

空想的なごっこ遊びをする群は、歌やお絵かきなどの空想的でない遊びをする群に比べて、切り替え能力や更新能力が高くなることがわかったということで、この遊びの差は、感情を表現する遊びと、そうでない遊びの違いとしてとらえています。確かにそのような遊びの内容の差はあるかもしれませんが、では、絵を描くことはどうでしょうか?絵を描くことは、感情を表現する活動です。しかも、子どもたちは空想の世界の中で絵を描いていることが多いのです。ですから、自己制御の発達を促しているのは、私は、子ども同士、集団で遊ぶものと、一人で遊ぶものとの差ではないかと思っています。たとえば、ごっこ遊びや演劇遊びは子ども集団が必要です。そして、その集団の中で、1つもモノを作り上げるには、個々の思いと集団の思いを両立させていかなければなりません。そして、その時には、一人の思いを抑制することが必要になってきます。そして、その時の条件として共感力が必要になってくると思います。それに対して、歌やお絵かきは、それほど他者と合意をする必要がありません。その活動には、個人の思いを優先させることができるのです。今後、子ども集団の役割を研究することが求められます。

また、養育者が二ヶ国語を話す環境で育ったバイリンガルの子どもでは、実行機能の発達が早い可能性が指摘されているそうです。また、生後11ヶ月のバイリンガル児では、第一母語と第二母語のそれぞれの言語の二種類の音を聞いたときに、実行機能にかかわる脳部位の活動がみられているようです。バイリンガル児は二つの言語を聞き分け、使い分ける必要があるために、実行機能を使って日常生活を送っていると考えられているそうです。