経済再建

フィンランドの教育システムから何かを得ようとする人は皆、教員の質より大切なことはないと確信するだろうとシュライヒャーは言います。しかし、フィンランドもまた秀逸な教育システム構築に何十年もの歳月を必要としたそうです。教育の大御所としての地位は、繰り返しおこなわれる教育改革と変遷する経済の要請に対応じて、ゆっくりと手間をかけて築かれました。1960年代末に、高度な教育をグラマースクールに通う少数の限られた生徒だけではなく、全ての生徒が受けられるような包摂的なシステムへ移行することが決められたのです。移行が完了したのは1970年代末のことでした。移行の成功と変化に対する懸念の緩和のために、教員の質の大幅な向上が図られたのです。教職課程が大学に移され、より厳格なものとなったのです。

フィンランドの教育システム発展の背後の経済情勢はいつも良好だったわけではないようです。1990年代初頭、フィンランドの失業率は20%に達し、GDPは減少、公債は膨らみました。教育は、テクノロジーと成長するテレコミュニケーション市場向けに方向転換することでフィンランドの経済再建に貢献しました。19世紀のパルプ工場が21世紀初頭の携帯電話市場最大の企業となったノキアのような躍進に合わせて、研究開発に従事する国民が急速に増えたのです。

このような経緯から、フィンランドの経済事情が、より良い教育を受けた労働力と、その労働力を生む機会均等な教育システム、そして質の高い教員を必要としていたことがわかります。

さらにフィンランドの優れたコンセプトには、もう一つの特徴的な魅力があるとシュライヒャーは言います。それは、学校は、生徒の学業に留まらない総合的な支援をおこなっているのです。学校は温かい食事や、保健、歯科衛生、精神衛生、カウンセリングも提供する場所となっているのです。特別な支援を必要とする生徒への支援は、学校システムに不可欠な要素です。また生徒一人ひとりが学校から頻繁に個別の配慮を受けているのです。

最後に上海の実践を紹介します。ここ数年、私も上海に行くことが多くなりました。上海でも、シンガポール同様、乳幼児教育の改革に非常に興味を持っています。その上海では、どのような教育改革を行っているのでしょうか?

2009年に上海の生徒が初めてPISAを受検したとき、彼らはいきなり読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3科目全てでトップに躍り出ました。3年後もこの驚くべき成績を維持し、上海の教育システムの成功への関心がいっそう高まったのです。

上海は中国の代表ではありませんが、人口は2400万人以上で、PISA参加国の大半を上回る大都市です。

2015年には、北京、江蘇、広東も上海とともにPISAへの参加に合意し、あわせて2億3200万人の参加となったのです。そして4地域合同のグループとして数学的リテラシーと科学的リテラシーの上位10位以内にランクインしたのです。なんとなく、分かりました。中国での講演は、上海のほか、北京、先日は江蘇省だったのです。これらの都市がたまたま同じだったのでしょうか?

経済再建” への5件のコメント

  1. 「繰り返しおこなわれる教育改革と変遷する経済の要請に対応じて、ゆっくりと手間をかけて築かれました」とありました。やはりそれなりに時間がかかるというのはある意味では多くの人の救いにもなる事実かなとも思ったりします。改革は1日にしてならずではありませんが、しっかり時間が必要になるという事実を知ることで、困難なことが起きても乗り越えていける力にもなるのかなと思いました。「学校は、生徒の学業に留まらない総合的な支援をおこなっているのです。学校は温かい食事や、保健、歯科衛生、精神衛生、カウンセリングも提供する場所となっているのです。特別な支援を必要とする生徒への支援は、学校システムに不可欠な要素です」とありました。まさにこの直接的には見えにくいですが、確実に重要なものであることにもっと目を向けることが大切ですね。私たち人間も絶妙なバランスで成り立っていますね。様々な要素から構成されているはず。そのことを忘れてしまうと、教育もまた授業だけやっていればいいという乱暴な解釈にも繋がってしまうのかもしれませんね。「

  2. 「教員の質より大切なことはない」「秀逸な教育システム構築に何十年もの歳月を必要とした」というフィンランドの実践から、様々なことが読み取れますね。教育改革は、数年では難しいということはある程度理解していても、それを根気強く継続し模索し続ける政府の体制は整えるべきであるのかもしれません。また、何よりも「教員の質」を重要視することは、人格形成・人間性・教育観などが学業にも影響してくるということを示唆しているようにも感じました。そして、「北京、江蘇、広東も上海とともにPISAへの参加」。そして、講演依頼もその都市からというのは、繋がりを感じざるを得ませんね。学力向上のためには、「見守る」スタンスが適切であるということなのでしょうね。

  3. フィンランドもゆっくりと時間をかけて、システムを築いてきたことがわかりました。日本も戦後の復興という流れの中で成長してきた時期がありました。成功者の話でも、大きな挫折を原体験としている人は多く、その人たちは人並み以上の学びを自分に課しているものです。国も同様でしょうか。

    また、学校は学業のみならず総合的な支援を行なっているとありました。養護と教育、保護者支援も総合的に行う、保育の考えに通ずると感じます。感覚統合においても、情緒面、運動面、基礎感覚など様々な発達が脳機能という一つのストーリーで繋がっていることを学びました。精神は身体性にも認知面にも影響しており、学習意欲に関与しているのですね。

  4. パルプ工場からノキアを生み出す国に変身したフィンランド。森と水の国、ムーミンの国、オーロラの国、そうそう、サンタクロースの国、これらがたいていの日本人のフィンランド知識でしょう。PISAでトップの国、ということは教育関係者なら了解しているのかもしれませんが、一般の日本人は知りませんね。国が豊かになるためにはどうしたらいいか。本気で考え、実行した国の人々はとても自信に満ちています。かつて会ったフィンランドの方に対してそう感じました。「北京、江蘇、広東も上海・・・4地域合同のグループとして数学的リテラシーと科学的リテラシーの上位10位以内にランクイン」この事実を知っている日本人はどれくらいいるのでしょうか。藤森先生のおかげで、私の上海、北京、南京、杭州を訪問することができました。私がお会いした方々はどなたも素晴らしいと思えました。よく学んでいます。ますます成長していく都市、そうした印象を私は抱いています。

  5.  フィンランドの教育改革を推進してきたキーマンと脈々と受け継がれてきた理念と熱意に触れたいと思います。OECD保育白書を開いてみると『国家ECEC政策に関する決議』と国立福祉保健研究開発センター(STAKES)が鍵を握っている様です。改めてそのドラスティックな改革に感服します。保育白書にも優れて発展した安定したシステムと評されていますが、やはりそれをシステムとして運用しているのもパワフルだと思います。やはり理念と仕組みが両輪となって結果を出し続けていることが分かりました。理念と仕組み。GTにおいても園を預かる小生においても一番の関心事です。

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