バウチャー

学校選択と私立学校への助成金による潜在的な悪影響、特に差別や社会の階層化を軽減するために、各政府は代替的な資金保障の仕組みを構築してきました。例えば、チリ、ベルギーのフランドル地方、オランダは、加重子ども資金助成をおこなっているそうです。これは子どもごとに助成金を割り当て、社会経済的背景やそれぞれの子どもたちの教育ニーズによって助成金額を決定するものです。このような恵まれない子どもたちを対象にした助成があることで、入学者数を競う学校は恵まれない子どもたちを受け入れやすくなっているようです。

フランスやギリシャに設置された「教育優先特区」のような地域に特化した支援制度は、学校間の成績の違いが大きく、特定の地域に成績が低い学校が集中するような場合に見られるようです。ベルギーでは、市場の大部分を構成する政府助成の私立学校は、公立学校とほぼ同額の助成を受けており、授業料を課したり入学者を選抜することは禁じられています。

公的資金が私立学校に供給される仕組みに細心の注意を払うことも重要だと言います。一つの方法はバウチャーによるもので、これは保護者への直接的な支援となります。2009年時点で、OECD加盟国でデータが利用可能な22か国のうち9か国は、政府助成の私立学校への入学を促すためにバウチャーを導入しています。そのうち5か国では、バウチャー制度の利用を恵まれない子どもたちに限定しています。24カ国のうち11か国では中学校でバウチャー制度を使用しており、そのうち7か国では恵まれない子どもを対象としていたそうです。高等学校では11のバウチャー制度のうち5つで収入調査が実施されていました。調査されたOECD加盟国の中で、7か国は小学校から高等学校までバウチャーを提供してしました。授業料税額控除は、保護者が私立学校の費用を税金負担額から控除できるものですが、バウチャーと比べてあまり利用されていないようです。2009年時点で、データを利用できるOECDの26か国のうち、税額控除を使用して政府助成の私立学校への入学を促しているのはわずか3か国だったそうです。

全ての生徒が利用できるバウチャー制度と、恵まれない子どものみを対象としたバウチャー制度の間には、学校選択の悪影響を軽減する役割において大きな違いがあるとシュライヒャーは考えています。全ての生徒が利用できるバウチャーは、学校選択の範囲を広げ、学校間の竸争を促すことになります。恵まれない子どものみを対象としたバウチャーは、学校で学ぶ機会の公平性の改善に役立ちます。私立学校への助成が同程度の国や地域を比較すると、バウチャー制度と対象を限定したバウチャー制度では、公立学校と私立学校の社会経済的環境に2倍もの大差があることがPISAによって示されたそうです。

バウチャー制度のあり方は、成功への重要な鍵を握っていると言います。例えば、私立学校の授業科や入学選抜基準を規制すると、バウチャー制度による社会的不公平を減らすことができそうだと言います。

さらに、それだけではないと言います。

私立教育

私立学校への入学が多くなると教育の民営化と言われ、教育は公共の利益という考え方から逸脱する動きだとみなされることがあります。しかし、そのような関連づけは短絡的だとシュライヒャーは言います。学校制度の大部分が民間によって通営されている国や地域では、そのような学校は法的には民間とみなされますが、実際には公的に機能しているようです。民間団体が運営しても公的な役割や機能を果たしており、その団体自身も公的教育の一部だと認識しているようです。これらの民間団体は学習指導要領の一部または全部に従い、質の良い教育を提供し、教育の公的な役割を果たしてるのです。また、私立学校が恵まれない地域に教育機会を提供し、公平性に寄与することもあるそうです。

他の分野の公共政策と同様に、公教育と私立教育の違いは往々にして明確ではないと言います。官民連携は、他の様々な公共政策で一般に認められており、教育が例外となる理由はどこにもないと言います。もっと現実に直結する課題は、全ての子どもたちに質の高い教育を提供する等の公共政策の目標をいかにして達成するかだろうと言うのです。

学校選択に対する反対意見の多くは、私立学校の普及は教育の質に悪影響をもたらすのではないかというものです。しかし、PISAのデータは、ある国の私立学校が占める割合と教育制度のパフォーマンスには関係かないことを示しています。学校の社会経済的環境を考慮した後でも、大半の国で公立と私立学校のパフォーマンスには違いがありません。違いがあるとすれば、主に公立に好意的な地域の場合だと言うのです。

国の教育制度レベルでは、公平性と私立学校に入学する生徒の割合は、実質的には無関係です。政府助成の私立学校へ入学する生徒の割合と生徒の成績との明らかな関係は、このような学校の運営の自律性の大きさによって概ね説明できると言うのです。このことにシュライヒャーは注目しています。学校選択の反対派の多くは、私立学校が占める割合が大きくなると学校間の競争や差別が拡大して教育制度が似非教育「市場」に変わってしまうと主張するからです。彼らは、私立学校が公教育と機能的に統合して助成金を受けると学校間の格差を助長し、学習成果という点での学校間格差がますます拡大すると主張します。しかし、国の教育制度レベルでは、私立学校が占める割合と、その割合によって説明されるPISAの点数の変動差に相関関係はないことをシュライヒャーはあらためて伝えたいと思っているようです。

おそらく最も議論が白熱するのは、私立学校にどれくらいの助成金が投入されるべきかでしょう。私立学校の校長からの報告によると、フィンランド、香港、オランダ、スロパキア、スウェーデンでは学校予算の90%以上、ベルギー、ドイツ、ハンガリー、アイルランド、ルクセンプルク、スロべニアでは学校予算の80%から90%が政府からの助成金だそうです。対照的に、ギリシャ、メキシコ、イギリス、アメリカでは、学校予算の1 %以下が政府からの助成金だそうです。ニュージーランドでは1 %から10%の間です。ここで注目すべきは、私立学校が助成金を受ける割合が非常に多い国や地域において、公立および私立学校の社会経済的環境にほとんど差が見られないことだと言います。OECD加盟国では、この45%の差異は私立学校への助成金の水準で説明がつくと言います。全ての参加国において、35%の差異は同様に説明できると言うのです。

学校選択

スウェーデンが重視する自律性と選択は、強力な規制の枠組みと介人力のバランスに欠けており、長年にわたって成功してきたスウェーデンの教育の質と公正さを脅かすというデータにはもっと検討する価値がありますし、関連する諸問題を政治的経済的に検討することも必要であると言います。保護者が選択できる度合いと学校制度の競争の度合いは国や地域によって様々であり、同じ国の中でも社会集団によって違いがあると言います。2015年のPISAで比較可能なデータがある18か国において、64%の生徒の保護者は「少なくとももう一つの学校を選ぶ選択肢があった」と回答しましたが、この割合は国や地域で大きな違いがあるようです。農村部や恵まれない環境の学校に通う生徒の保護者は、都市部の恵まれた学校に通う生徒の保護者と比べて、選択肢はあまりないと回答しています。

また、PISAでは、生徒が学校を選択する際に特定の基準をどれくらい重視するかについて保護者に意見を求めたそうです。主に学校の質、経済的配慮、学校の教育理念、家庭と学校の距離に関係がみられたそうです。18か国の教育制度において、保護者は生徒の学習到達度よりも、学校環境の安全性、学校の評判、学校が活発で楽しい雰囲気であることが重要だと考えているようです。

注目すべきは、農村部の恵まれない学校や公立学校に通う生徒の保護者は、都市部の恵まれた学校や私立学校に通う生徒の保護者よりも、家庭と学校の距離が重要だと考えている点だと言います。距離が重要だと考える保護者の生徒は、社会経済的環境を考慮してもPISAの科学的リテラシーではかなり低い点数だそうです。同じような傾向は、費用が安いことが重要あるいは非常に重要だと考える保護者の生徒にも見られたそうです。このような生徒は、費用が安いことは少しだけ重要あるいは重要でないと考える保護者の生徒よりも、科学的リテラシーの点数が30点も低いそうです。これはおよそ1学年分に相当します。繰り返しますが、恵まれない公立学校の生徒の保護者は、恵まれた私立学校の生徒の保護者よりも、学校を選ぶ際に学費の安さを重規します。裕福でない家族にとっては、学校に関する情報を得たとしても、子どもの成績に基づいて学校を選ぶのは難しいようだとシュライヒャーは言うのです。様々な学校を訪問する時間がないのかもしれないし、子どもが選びたい学校に通うための交通手段を確保できなのかもしれません。あるいは、子どもを自宅から遠い学校に送り、授業が終わった後に迎えに行く時間がないのかもしれません。

学校ンステムの竸争の度合いと私立学校への入学率は関係していますが、まったく同じではありません。OECD加盟国の平均では、15歳の生徒の約84%は公立学校、約12%は政府助成の私立学校、4 %強が政府から独立した私立学校に通っています。政府助成の私立学校に入学する12%の生徒のうち、38%は教会や他の宗教団体が運営する学校、54%はその他の非営利団体が運営する学校、8 %は営利団体が経営する学校に通っています。アイルランドでは玖府助成の私立学校に通う15歳の生徒全負が、宗教系の学校に通っています。オーストリアでは、政府助成の私立学校の生徒全員が、非営利団体が運営する学校に通っています。そしてスウェーデンでは、政府助成の私立学校の生徒の半数以上が、営利団体が運営する学校に通っているのです。

政府の責任

オランダでは、教育委員会の役割が議論の的となっています。最新のOECDレビューは、教育委員会と学校管理職間の透明性の改善と意思決定権限のバランスを改善し、教育委員会のガバナンスと説明責任を強化するようにオランダ政府に提案しています。

1980年代以来、政府は学校の責任範囲を増やしてきました。私立財団は、地方自治体が運営する学校に対して責任を負い、学校そのものは公立ですが、一括資金手当てが導入され、教育委員会は支出を決定する裁量を与えられてきました。一方、国の学習到達目標の設定や学力調査によって中央集権化への揺り戻しが起こっているようです。教育委員会は大規模になるほど、専門性が高まり財政的にも安定すると考えられることから、教育委員会の合併が進んでいるのです。

地方分権化したオランダの教育制度では、宗教法人や市民団体は、政府が定めた規定に従うかぎり自身が運営する学校に助成金を受けられます。公立および私立学校は、入学者数に基づき、一括配分式で同額の助成金を受けています。1980年代半ば以来、恵まれない子どもたちの教育にかかる費用が高額であることを考慮し、そのような子どもたちには追加の助成金が割り当てられています。助成金の金額は、以前は子どもたちの移民の環境に基づいていましたが、2006年から保護者の学歴に基づいて重みがつけられようになったそうです。

公的資金を受ける私立学校では、授業料を必須化したり、営利目的で運営することは許されませんが、国立の学校は保護者や企業からの自発的な寄付を受けられます。私立学校は、公立学校と比べてかなり高額の寄付金を受け取ります。公的資金を受けた私立学校は、入学試験を課すことはできませんが、入学見込みの生徒の保護者は、学校の特徴や方針に同意することが必要です。

ベルギーのフランドル地方と同様、オランダの教育制度は、保護者に広い選択肢を与え、公的資金で学校を組織する民間団体に助成金を与えます。これは一般的に公正な方法と見られます。この制度の全体的な質の高さは、その多様性、学校間の競争度合、教育委員会、学校管理職および教員が非常に自律的に運営していることに起因します。オランダは、PISAの成績では学校間に大きなばらつきがある一方、制度の公平性の維持という点では、ベルギーのフランドル地方以上に成功しています。説明責任制度は上手く機能しており、教員は専門家とみなされています。教育の質には比較的一貫性があるため、政府による一元的な監査が可能となっているのです。

ベルギー、香港、オランダ等のように選択に基づく学校システムが成功しているのとは対照的に、チリやスウェーデンでは、選択に基づく仕組みの導人によって社会的格差が拡大し、結果的に全体的な改善が見られないようです。2 015年5月、シュライヒャーらはこの点について報告書をまとめ、スウェーデンのグスタフ・フリドーリン教育大臣と当時のアイダ・ハッジアリーク後期中等学校・成人教育訓練大臣に提示したそうです。その5年前、2010年5月に、彼が、ストックホルムで開催されたヨーロッパ市長サミットで基調講演をおこなった際には、スウェーデンが重視する自律性と選択は、強力な規制の枠組みと介人力のバランスに欠けており、長年にわたって成功してきたスウェーデンの教育の質と公正さを脅かすことをデータで示したそうです。その時、スウェーデンの市民たちが、「市民からの要求に応えるために、他の事項よりも選択に重点を置いている」と回答したことに驚いたと言っています。

オランダの多様性

ベルギーのフランドル地方は、学校選択性の様々なメリットを享受していますが、一方、学校間で相対的に社会経済的格差が大きいことや、家庭環境と学習成果の強い関連性等、学校選択のデメリットに苦しんでる面もあるようです。しかし、教育システム全体を見ると、全ての学校に運営と説明責任の仕組みを導入することで、不平等や社会的差別を制限することに概ね成功しているようです。学習到達目標は、国のカリキュラムとは別に、各校の教育の質の維持の指針となっているようです。監査団は定期的に学校評価をおこない、学校の実績を監督しています。政府による統一学力テストはおこなわれていませんが、特定の教科におけるシステムレベルや学校レベルでの教育評価によって教育の質を管理しているようです。国の説明責任や監査という点では、公立学校と私立学校は同じように扱われています。

ベルギーのフランドル地方と同様、オランダには、15歳の生徒の3人に2人が公的に資金を受けた私立学校に通えるという優れた学校制度があります。これは非常に多様性に富んだ制度であり、学校間で教育方法、宗派、社会経済的側面に大きな違いがあります。しかし、2015年のPISAの科学的リテラシーの成績における学校間のばらつきは、OECDの国や地域の中でも最大といえるほど大きかったようです。成績差異の65%以上は、学校間の差異による成績差であったと説明することができるそうです。

イエナプランオランダの学校制度は、極めて地方分権化しています。学校の自律性は「教育の自由」という方針に基づいており、1917年以来オランダ憲法で保証されています。以前、オランダに行った時に、オランダにおける教育の自由化について聞きました。同様に、幼児教育においても自由化が進んでおり、公的な施設ではなく、企業型が多くありました。そして、同じ地域に、対照的な園や学校があり、保護者はどちらかを選べるようになっていました。その中から生まれたり、発展したのが、イエナプランであり、ピラミッドメソッドです。

イエナプラン

ピラミッドメソッド

これにより誰でも学校を設立し、教育方法を定め、その教育の基になる教育的、宗教的、イデオロギー的な方針を決定できるのです。原則として、保護者は子どもの学校を選ぶことができます。ただし、小学校を修了する際に教育の専門家による指導によって若干の制限があるようですが。一方、地方自治体は、学校構成や生徒負担金の不均衡を緩和するために、入学をある程度制限し、学校内の社会的多様性を広げることを支持しています。

2011年には、小学校の生徒の3人に1人は公立学校、3人に1人はカトリック系学校、4人に1人はプロテスタント系学校、残りは他の政府助成の私立学校に入学しました。公立学校は、誰でも入学できますが、政府助成の私立学校は、保護者が学校の特徴や方針に賛同しなければ生徒を受け入れない場合があるようです。

オランダの学校制度の際立った特徴は、教育委員会です。教育委員会は、学校よりも非常に大きな力を持っています。教育委員会は、学校内の法律や規制の執行を監督し、教員や職員を採用します。過去には公立学校の大部分を地方自治体が運営していましたが、独立した教育委員会が運営する学校も増えてきています。教育委員会を構成する学校理事は、ボランティアの場合があります。このボランティアは謝金があり、一般市民が鳴りますが、また、給与がある専門家が学校理事になる場合もあります。

ベルギーの選択制

ベルキーのフランドル地方における、2015年のPISAの科学的リテラシー、読解力、数学的リテラシーの成績は非常に優秀でした。12%の生徒が科学的リテラシーで最も優秀な成績を収める一方、中学校の75%、小学校の62%の生徒は公立学校に通っておらず、ほとんどの私立学校は政府助成であると考えられるようです。それらの学校は、地域の学力到達目標の達成を目指しており、国による質保証監査の対象です。公的制度から独立した私立学校はほぼなく、営利目的の私立学校はほとんど存在しないそうです。

フランドル地方には、「教育の自由」という憲法の原則、すなわちフランドル政府の規則を満たすかぎり、誰でも学校を設立し、その教育方針を決定する権利があります。学校は、入学試験、成績、宗教的背景、性別によって生徒を選ぶことはできません。保護者は入学する学校を選ぶことができ、生徒一人ひとりを基準として学校に割り当てられた資金を利用して、自宅から合理的な距離の学校に通学することが保証されています。しかし、その法的能力は十分ではないため、保護者の学校選択は常に保証されるものではなく、実際には制限される場合があるようです。

公的に運営される学校は、イデオロキー的に中立でなければなりません。学校当局は、宗教的および特定宗教と無関係でなければなりませんが、これは助成を受けている私立学校には当てはまりません。このような学校の大部分は、特定の宗教に基づいて運営されており、主にカトリック系ですが、特別な教育方法を使用するヴァルドルフ学校等も含まれます。いわゆるシュタイナー学校です。

フランドル地方は、広範囲にカトリック学校やその他の私立学校に依存していますが、学校が生徒を選ぶことは法律で禁じられています。学校には宗教的背景に関係なく、全ての生徒を受け入れる義務があるのです。幼推園、小学校、中学校教育では、授業料を課さず、小学校と中学校が料金を徴収する場合には、厳しい制限があるようです。

フランドル地方は、OECD加盟国で最も地方分権化された教育システムの一つです。公立学校と私立学校のどちらも自律的に運営されています。教員の採用、資金の配分、教職員以外の費用の決定も全て学校が管轄し、公的に規定された最小限の学習到達目標の範囲内であればコース内容を決定することもできます。学校は、様々な教育方法を採用できるため、中規模都市内の学校間では相対的に競争が多くなります。しかし、PISAの成績における学校間の差異は、加盟国でも最大です。

近年、都市部の学校間での社会経済的多様性への悪影響を緩和するために、学校選択はますます制限されているようです。入学における平等な機会を確保するための取り組みは、2003年に始まり数年後に調整されました。その教訓を活かし、2011年の法令では、学校周辺の社会経済的構成に比例して、恵まれない子どもと恵まれた子どもの双方に対して、定員を超える学校選択枠を確保しました。この方針は、いわゆる「地域交渉プラットフォームとして実現し、利害関係者が学校選択の制限に同意するのに役立っているようです。

ベルギーのフランドル地方は、学校間の競争を通じて、保護者に真の選択肢を提供する様々な教育方法、教育の質に対する強い意欲等、学校選択性のメリットを享受しています。

個人のニーズ

2012年は香港の教育制度にとって特に重要な年でした。新しい統合型教育制度の世代が初めて卒業を迎えたからです。過去数年間にわたる学習者を中心にした改革は、教育機会の大幅な拡大、教育重視から学習重視、暗記中心型の学習から学習スキル開発、経済的ニーズ重視から個人のニーズへの対応という転換を伴うものでした。

カリキュラムが広範かつ柔軟になるほど、知的側面、社会的側面、道徳的側面、美的側面のパランスが図られることになり、キャリアにかかわる能力、思考スキル、対人スキルを含む仕事に重要なスキルや、多文化世界で成功するための価値観や心構えの育成が重視されます。また、この改革には学校を支援する予算にさらなる柔軟性を持たせることも含まれていました。

PISAの結果は、香港が正しい道を進んでいることを示唆しています。その結果は、高い学力と生徒のより高度なスキルと学習者としての自信の著しい向上を示しているのです。確かに大学の順位も香港はとても高いところに位置しています。この結果は、数年間に渡る改革の結果であって、きちんと長期的見通しの中で行こなわれたのです。教育の成果は、かなり長い年月を要します。教育を受けた子らが、大学に入るころ、世の中に出るころ、人生を自分自身で歩み始めた頃にどのような成果が出るのかが問われます。このところが、日本はなかなか待てませんね。それは待てないのか、自信がないのか、十分な検討の末の改革をしていないのかわかりませんが、数年で見直されてしまいます。

また、香港が取り組んだポイントも参考になることが多いと思います。「教育機会の大幅な拡大」「教育重視から学習重視」「暗記中心型の学習から学習スキル開発」「経済的ニーズ重視から個人のニーズへの対応」です。また、カリキュラムが広範かつ柔軟性は、「知的側面」「社会的側面」「道徳的側面」「美的側面」のパランスが図られました。さらに、「キャリアにかかわる能力」「思考スキル」「対人スキルを含む仕事に重要なスキル」「多文化世界で成功するための価値観や心構えの育成」が重視されたのです。日本でも、こんな取り組み押したいですね。

しかし、香港の教育界が深刻な緊張関係にあることも確かなようです。長期的な理想と短期的に必要なこと、グローバルとローカル、学習指導要領が示す目標、個人の目標や社会経済的な目標、競争と協力、特別な教育と包括的な教育、知識の伝達と創出、新しいイノベーティブな学習指導要領への期待と強力な家庭教師産業が推進する受験に特化した教育、均一性と多様性、選択のためにテストと能力開発のためにテスト、これらの間に緊張関係があるとシュライヒャーは言うのです。たしかに、これらは、悩ましい課題ですね。

また、教育制度は現在、政治経済から大きな影響を受けるようになっています。政策はもはや官僚が決めるものではなく、再選を視野に入れた政治家が決めるものです。教員や学校管理職が選挙区の大部分を占めており、質の高い入試と評価体制の維持は大変難しい課題であるとも言います。

ここで、シュライヒャーは、ベルギーのフランドル地方とオランダでの、選択制の成功例を紹介しています。

香港の改革

バウチャーやバウチャーのような仕組みで個人事業者や、しばしば営利企業に公的資金が使われるため、多くの恵まれない子どもたちが通うであろう公立学校から教育の質の維持に必要なリソースが奪われることになると反対派の人たちは言うのです。その根拠をさらに吟味すると、このような主張はあまり明確ではないことがわかるとシュライヒャーは言います。香港の例が示しているというのです。香港では、事実上あらゆる分野の公的サービで市場主導型アプローチを採用していますが、教育機会の配分において、生徒の学力の高さと社会的公平性の高さの両立に成功しているのです。

かつて香港の学校教育は、慈善団体の寄付金でほとんど全ての資金を得ていました。1960年代になってようやく経済力が高まり、政府は教育への助成を開始しました。しかし、大多数の学校は慈善団体によって運営されていたため、政府はほとんど直接学校に介人しませんでした。一方、保護者は、学校選択や地域運営を通じて、学校への強力な影響力を持っており、学校運営協議会、、ホームスクール協力協議会の役員職に就きます。シュライヒャーが2012年に香港を訪問した際、当時のチェリー・ツェ教育局常任局長は、保護者は現場の動向に対して教育局よりも大きな影響力を持つシュライヒャーに話したそうです。この街の活気あふれるサイバーコミュニティが、質の高い教育を維持するように学校にさらなる圧力をかけているそうです。

ほとんどの大手新聞は、政策論争や学校紛争について報じています。当時彼が訪問した香港のエリート校の一つである英華女学校のルース・リー校長は、校長と教員はバランスのとれた生徒の育成と、保護者が生徒の大学進学のその先を見据えるための支援に重点を置きながら、管理責任、顧客に対する責任、専門家としての責任の間でバランスを図るために毎日懸命に取り組んでいると彼に説明したそうです。

しかしそれは、教育が政府の優先事項ではないことを意味しないと言います。逆に、香港はOECD加盟国よりも23%という多くの公的予算を教育に支出しているのです。さらに彼が印象的だったことは、教育に関心を持つのが教育局だげではないということでした。実質上その他全ての政府機関でも、教育は議題の上位に取り上げられているのです。例えば、当時の香港の中央警察署のロビン・イップ副所長は、指導人材の育成と投入が省庁を超えた優先事項としていかに重視されているかを説明したそうです。彼の署は、香港が金融、貿易運輸、教育を含む人材育成等の産業分野において、また中国本土との経済協力を深めるうえで、かにして競争力を維持するかを助言しています。

汚職に対抗する独立委員会である廉政公署のホー・ワイ・チー副署長とそのチームは、委員会の目的を汚職との闘いから汚職の防止に変更し、法とそれを遵守する機関を信頼する土壌を築くことを目的として、署員のほぼ5分の1を管轄区域全体の教育とコミュニティ・リレーションズ担当に配属したと説明したそうです。これには法に対する信頼を築き、倫理的ジレンマに対処し、署員のイメージを「刑務所に入れる人」から、「社会を維持する人」へと変えていく、中等学校の学習指導要領への取り組みが含まれます。

学校選択制

多くの国や地域は、学校システムの質、公平性、一貫性を確保する必要性と、保護者が求める学校選択の柔軟性や機会の両立に悪戦苦闘しています。

学校の自律性の向上は、高い成果をあげる教育システムの共通点のように思われますが、それらの教育システムが自律性を規定する方法は多様だとシュライヒャーは言います。例えば、学校の自律性と学校選択を連動させたり、学校選択と公平性のバランスをはかる方法があると言います。イギリスと上海はどちらも教育市場のメカニズムを強化していますが、イギリスの公共政策は保護者の選択肢を広げて学校教育を向上させることを目指しており、主に市場の需要側で実施されています。一方、上海の公共政策は最も恵まれない地域の学校に最も優れた教育リソースを供給し、供給側の条件を公平にすることを重視しています。フィンランドと香港はどちらも地域の自律性を重視していますが、フィンランドでは堅固な公立学校システムの中で自律性が実現されている一方で、香港のほとんどの学校は独立した学校理事会によって自由度が高く運営されています。

一部の国や地域では、学校選択と公平性に関する仕組みが同時に強化されています。例えば、イギリスでは教育省が資金を直接供与する地域当局管理外のアカデミーの数が増えているようです。同時に、イギリスは全ての子どもたちの社会経済的構成に基づいて学校に追加のリソースを提供するピューピル・プレミアムを確立しています。一部の国や地域でも、一定の公的資金を受給する政府助成の学校または独立した学校として、私立学校を公立学校の教育制度に統合しています。

学校選択制の資成派は、法的規制、経済的障壁、地理的障壁を問わず、教育の質、教育方法、宗教、授業料、学区等の理由で保護者が自分の気に入った学校に子どもを入学させる権利を擁護しています。その根底にあるのは、子どもたちの多様なニーズや興味を踏まえて学校システムの選択肢の幅を広げることで、学校選びに失敗したり、学校が合わないことで生じるコストが軽減され、社会的な価値が高まるとの考えです。より多くの選択肢を提供することで競争が刺激されることにもなります。また、選択肢を増やすことで、学校が新たな教育方法を取り入れたり、効率性を高めたり、学習の質を向上させたいと思うようになるはずです。賛成派は、現代社会でますます広がりつつある社会的多様性や文化的多様性によって、従来型の教育ではない教育を提供する運営主体や営利企業による学校運営等、教育環境にはさらなる多様化が求められていると主張しています。

学校選択制の反対派は、選択肢を増やすと、恵まれた家庭環境の子どもたちは大抵の場合、公立の学校システムを選ばないため、学校システムの社会的文化的な分断をさらに広げると主張しています。また、反対派は資源配分の考え方として、合理的な価格に基づいた経済兢争の理論モデルを過剰に信頼することも懸念しています。

マクロレベルでは、そうした分断は社会・文化・民族背景の異なる子どもたちと学んだり、遊んだり、交流したりする機会を子どもたちから奪いかねないというのです。その結果、社会的つながりが脅かされるのです。反対派にしてみれば、バウチャーやバウチャーのような仕組みで個人事業者や、しばしば営利企業に公的資金が使われるため、多くの恵まれない子どもたちが通うであろう公立学校から教育の質の維持に必要なリソースが奪われることになるというのです。

長い道のり

ニュージーランドで初めて一貫した学習指導要領の導入に成功した政府は、学校と教員に対し、これらのカリキュラムを実践し、生徒一人ひとりの学習状況を、モニタリングするために必要なツールを提供しています。しかし、学校システムのあらゆるレベルにまで戦略的思考と計画が行き渡り、全ての学校で学習指導要領が何を意味するのかを議論できるようになり、かつ教職員レベルで学習指導要領を効果的に実践できるような意思決定をおこなえるようになるまで、長い道のりは続くようです。

一方、ニュージーランドの教員組合は、外部への説明貢任を課す文化、さらに創造性と専門性を兼ね備えた教員と学校管理職を排斥する工場型組織が作りだされることに懸念を示し、規準と公的透明性について論争しました。評価ツールの性質と、専門家の判断に大きく依存することを考えると、こうした懸念は幾分見当違いのように思われますが、説明が不十分でした。自主性を尊重しつつ、学校を国の教育制度の一部としてとらえ、ピアラーニング用のツールとして、また学校管理職や教員の日々の教育実践を継続的に改善するためのツールとして国の規準を受け入れる、ホアナ・ピアソン氏のような校長があまりにも少なすぎるのだとシュライヒャーは言っています。

ニュージーランドも試行錯誤しながら教育改革を行なっているようですね。その中で、マオリに対する多様性とパートナーシップのすばらしさは、いろいろなところに影響しているようです。私が以前、教育改革に熱心な国は、幼児教育に対しても非常に関心が高く、新しい改革をしていくようだという感想を持ちましたが、ニュージーランドもそのようです。ニュージーランドというと、テファリキという保育カリキュラムが有名ですね。このカリキュラムの基本原理は、マオリの原理であった「子どもたちが学び育つように力を与える」を取り入れています。まさに多様性を受け入れることとパートナーシップの結果です。

多様性の受け入れを促進する政策は、学校の壁を超えて検討する必要があります。この中心には、保護者やコミュニティとの協力を促す環境づくりがあります。保護者と教員が信頼関係を構築すれば、学校にとって保護者は生徒の認知的かつ社会情動的な能力を育むための重要なパートナーになるのです。実際、校長が保護者からの高い学習目標や成績向上へのプレッシャーを感じるのは、学力の低い生徒が少数であることと関係するとPISAは示しているそうです。

中国四川省の成都市郊外の田舎町の教員に、ほとんど教育を受けていない保護者に子どもたちの教育に伴走してもらうために何をしたのかをシュライヒャーは尋ねてみたそうです。彼女は、学校の他の教員と同様、父兄に週2回電話し、子どもたちの学習の進み具合を話し合ったと答えたのです。彼女はクラスの出来事だけでなく、保護者のかかわり方等の一般的な内容についても話をしたそうです。彼女が抱えるその他多くの責任に加えて、どれほど苦労して保護者とかかわったかを尋ねると驚いた様子を見せ、それを負担と思ったことはまったくないと言ったのです。彼女は、保護者の協力と支援なければ教員の仕事をこなせないと感じていたのです。とりわけ、彼女の週当たりの授業時間を15時問に制限する学校システムが、彼女の取り組みを支えていたようです。