強い意志

教育成果を向上するためには、投資よりも必要なものがあるとシュライヒャーは言います。全ての子どもたちの成功を信じることもその一つだと言います。西洋諸国の生徒が良い成績は遺伝によると考える場合が多いのに対し、東アジアの生徒の大半は努力の結果だと固く信じているようです。これは教育や社会環境によって、成績向上をめざす価値観の浸透が可能なことを示唆しているのです。

また、学校システムの質が教員の質を上回ることはないと言います。ワールドクラスの学校システムでは、必ず教員や指導教員の選考に細心の注意が払われます。どこに投資するかを決める際は、クラスの規模よりも教員の質を優先するのです。そして教員のキャリアアップのためにさらに学ぶ機会を提供します。また、ワールドクラスの国や地域は行政主体の管理責任体制から、教員主体の職務体制に移行しています。こうした国や地域の教員は、教育方法を改革し、自分自身と同僚の教員たちの指導力を向上し、より強力な教育実践に向けた能力開発に取り組むよう奨励されているのです。

これまでにすでに明らかになったように、成績上位国となるかどうかを決めるのはその国の場所や財力や文化ではありません。それは、自国の教育システムの足りない部分や不均衡を正確に見極め、是正に向けて資源を活用し、強い意思で改革をおこなう機動力です。ここで、成績上位5か国の教育システムのスナップショットを見てみます。

最初は、シンガポールです。シンガポールは2015年のPISAで他のどの国や地域、経済圏よりも高い得点をあげました。人口500万のアジアの都市国家の偉業は大いに話題を喚起し、各国はこぞってシンガポールの足早の成長から教訓を学ぼうとしました。

シンガポールの成長で最も目を引くのは、その成功が著しく低いレベルから出発したことです。1965年に独立したシンガポールは天然資源に乏しく、国民の識字率も低い貧困にあえぐ国でした。学校や大学もほとんどなく、経済も開発途上で未発達の、言語も宗教も異なる多民族からなる国家でした。

しかし、50年の間に、シンガポールはヨーロッパや北米、東アジアで成長を遂げた近隣のライバル国を追い越し、ゼロから国際的なトップレベルに上りつめたのです。一世代よりもわずかに長い期間に「第三世界」から「ワールドクラス」へと躍進したのです。

この成功の要因は何なのでしょうか?

シュライヒャーは、おそらくその第一は意思であろうと言います。シンガポールの教育改革は単なる偶然でも自然現象でもありません。教育によって経済発展をもたらそうという意図的な決定によるものです。教育が経済成長の原動力となったのです。

天然資源を持たず、近隣には大国が存在するシンガポールにとって、国民の教育こそが最大の資源であり、新興国建設の要でもありました。教育は、共通のアイデンティティを形成し、多民族多宗教の国民を一つにしたのです。

教育中心の一連の改革はシンガポールに経済成長をもたらし、その成長をさらに強固なものとしました。独立後の数年間のシンガポールは、まさにサバイバルの時期でした。教育システムは、海外企業誘致をめざす経済活動の担い手としての国民への基礎教育の充実に向けて発展していきました。

強い意志” への5件のコメント

  1. シンガポールの初代首相であるリー・クアンユー氏は、マレーシアからの追放という、半ばやっつけ仕事として就任した独立国家を、あらゆる手腕で国に繁栄をもたらしてきたと、中田敦彦さんのyoutube大学で語っていたのを思い出しました。リー氏が「他の国が必要とする国になる」「我々にあるのは戦略的な立地条件と、それを活かすことのできる国民だけだ」という強い意志を示し、それが原動力となっていっただけでなく、その後も「教育によって経済発展をもたらそうという意図的な決定」「教育が経済成長の原動力」という明確なビジョンと意志を歴代の首相たちが示してきた結果であることが伝わってきました。そして、本文で感動したのは「教育成果を向上するためには、投資よりも必要なものがあるとシュライヒャーは言います。全ての子どもたちの成功を信じること」という言葉です。意思とは、やはりこの“信じる力”があってはじめて発揮される要素でもあるように感じました。

  2. グローバル化に伴い私たちは世界各国の取り組みをかなりの速度で大量に仕入れることが可能になりました。このシンガポールの素晴らしい取り組みも知ることができますし、必要であれば、すぐに共有することができるのかもしれません。このように、参考になる取り組みをしているところから率先して学び、自国を発展させていくという姿勢はとても大切になってくるのではないかと感じました。強い意志というのもいいですね。危機感を共有し、そのために何が必要なのかということを明確にすることで、向かうべき先というのがはっきりして、行動にもつながっていくのかもしれません。私たちもまた、この保育を伝えていく、深めていくという意志を持てるのは本質的であり、時代に対応していることを示してくださる先生がいるからこそだなと感じました。

  3. シンガポールは実質、民主的な一党独裁国家であると聞きます。短期間にここまでの成果を上げられたのは、その要素が大きいのでしょう。先日のブログにもあったように、理想的な教育をやるかやらないか、できかないのだと思います。スタート地点は関係ないのでしょう。むしろ、中途半端に成熟した気になっている国家ほど、余計なしがらみや忖度が足を引っ張り、何も変わらないなんてことはありそうです。発展途上などと呼ばれていた国々が、変化する柔軟性を持っていることで、教育とテクノロジーの力によって、これまでに考えられなかった速度で先進国に追いつき、追い越していく日が来るかもわかりません。

  4. アンドレアス・シュライヒャー氏は、経済開発協力機構の乳幼児教育ケア局の局長です。エデュケーション2030を策定した主要メンバーの一人です。同氏が「教育成果を向上するためには、投資よりも必要なものがある・・・全ての子どもたちの成功を信じることもその一つ」と発言することの意味を私は過小評価することができません。子どもの成功を信じる。子どもの未来には成功か大成功しかないと信じることです。「一つ」とは言え、シュライヒャー氏がそう述べている事実に私は注目したい。藤森平司先生が「見守る保育の三省」の第一番目に掲げていること、それは「子ども存在を丸ごと信じたか」ということです。そもそも子どもは一人一人が成功する存在なんだ、人生を謳歌する存在なんだ、ということを言い表していると私は解釈しています。OECD・ECEC局による「エデュケーション2030」の根幹がFujimori Methodに通底していると私は認識しております。今回のこのブログでそのことをさらに確信するに至りました。

  5. シンガポールの経済や街、教育などがどんなものなのか見てみたくなる内容でした。その見てみたくなるようになった要因の一つとして〝教育によって経済発展をもたらそうという意図的な決定によるもの〟という「意志」だということでした。シンガポールはなんとなく流れに乗ったとか偶然とかでなく、主体的に発展を遂げた国だということなんでしょう。主体的というのは国レベルでもそのチカラは絶大なものであるということなんですね。そして、そのチカラの原動力は〝全ての子どもたちの成功を信じること〟なのではないでしょうか。丸ごと信じる、このことからはじまっていくことを感じました。

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