習得学習

これらは完全習得学習が、その概念が生まれ研究されてきたヨーロッパよりも、東アジアにおいて浸透し、成功している説明になるかもしれないとシュライヒャーは考えています。完全習得学習は、学習は順序立てられるものであり、前段階の課題を修了することが、次の課題を修了するための基盤になるとの考えに基づいています。アメリカの心理学者ジョン・キャロル氏によると、生徒の学習成果は生徒が学習のために必要とする時間や指導の程度、さらに学習機会と指導の質が生徒のニーズを十分に満たしているかどうかを反映すると言っています。これは教員にとって、クラス全体の学習目標を多様にするだけではなく、各生徒が自分に合った方法で学ぶ機会を得られるように必要なことは何でもすることを意味しています。ある生徒は授業時間の延長を希望しますが、他の生徒はしないでしょう。ある生徒は他の生徒とは異なる環境で学ぶことを希望するでしょう。この背後には、深い信念があります。すなわち、全ての生徒が学び成功できる、そして教員の仕事は教室の中であれ外であれ、生徒が自分の可能性を実感するのに役立つ学習環境をデザインすることだという信念です。全ての生徒がそれぞれの連続した課題を修了するということは、その結果に違いがないということであり、社会経済的背景が学習成果に与える影響が少ないということです。まさにその結果は、東アジアの教育システムをPISAとは一線を画すものにしています。

このデータは、もう一つの見方を示してくれると言います。生徒が教員から受けた支援の度合いを調査したの結果によると、生徒の回答は、彼らが異なる進路を選択した年齢に密接に関係していたそうです。教員から受けた支援が最も小さいと回答した国には、生徒が早い段階で学力によって異なる学校種に振り分けられる国が多かったそうです。オーストリア、ベルギー、クロアチア、チェコ、ドイツ、ハンガリー、ルクセンブルク、オランダ、スロパキア、スロベニア、スイスです。たとえ回答形式の違いが国際比較を慎重におこなう必要性を示していたとしても、これらの結果は驚くべきことではないとシュライヒャーは言います。生徒を異なる学校種に振り分けると、クラスの同質性が高まり、授業がよりわかりやすくなります。教員は生徒一人ひとりに対して、「関心を示す」「より丁寧に指導する」「生徒と一緒に取り組む」等の気を遣う必要はないと感じるだろうと言うのです。

PISA2015 でトップとなったシンガポールの小学校は能力別の学級編制でしたが、国が教育目標を引き上げた際に修正されました。現在シンガポールでは、落ちこぼれそうな生徒を様々な方法で早期に特定して診断し、彼らを軌道に乗せるために必要なありとあらゆる支援をおこなっているそうです。PISA2015 の結果は、シンガポールがカナダやフィンランドのような教育の公平性の水準に向かっていることを示していますが、政府の経済政策および教育政策によって社会的流動性が高まり、共有の使命感が生まれ、教育の価値が広く行き渡っています。

フィンランドの特別教員も同様の役割を果たしているそうです。クラス担任と緊密に連携して支援を必要とする生徒を特定し、課題を抱える生徒がクラスメートに追いつけるように個別あるいは小グループで支援します。問題を特定し、特別教員に連絡することは、クラス担任だけの仕事ではありません。