創造性の危機

キャシーは、こんな問いを投げかけています。「紙コップの異なった使い方をできるだけ思いついてみてください」と。あなたは、どのくらい思いつくことができるでしょうか。何かを飲むため、植物を挿すため、ペークリップ入れ……。他には?

2010年、雑誌「ニューズウィーク」は創造性の危機という病が世界中に広まっているという特集記事を掲載したそうです。21世紀に必要なスキルとして創造性こそ大事と声高に叫ばれています。「ハーバード・エデュケーショナル・レビュー」から「ビジネス・ニュース・ディリー」まで各種メディアにおいて、アメリカの教育者、実業家、起業家達が創造的な発見なくして繁栄はないという考えを表明しています。もし私達の職場がクリエイティブイノベーションを解き放つような環境にならないなら、海外に産業は移転し、自動化が大幅に進展する中で、子ども達が将来就く仕事はなくなるだろうとキャシーは言います。まさに「我創造する、故に我あり」だというのです。

企業のトップや革新的な企業が創造的な思考力を発揮する人材を求めているのにもかかわらず、子ども達に対して何の備えもなされていないのが現状だと言います。アメリカのある研究者がこれまで行われてきたトーランス式創造性思考テストの得点を分析したところ、1990年までは得点が増加していましたが、それ以降20年にわたって、年々得点が下がっていることが分かったそうです。このテストで行うのは元々ある図形に線や形を書き込んで、これまで見たことのない絵をなるべく多く描くことです。1990年以降、以前に比べて得点が下がり続けているということは、テスト時にオリジナルで面白いデザインの絵を数多く出せなくなっていることを意味します。紙コップの新しい使い方についても同様です。多様な使い方を思いつくという数の面でも、他の人とは異なるユニークな使い方を思いつくという質の面でも以前に比べて低下しているそうです。別に紙コップの使い方なんてどうでもいいことではないかと思うかもしれませんが、ちょっとしたことを思いつくかどうかは、急な環境変化への適応力に繋がっているのです。

もし子どもが新しいおもちゃを買ってとせがんできたとします。その時アルミホイルとトイレットパーパーの芯で何か作ることかできるでしょうか。もし氷結した路面でタイヤが空回りし、あなたの車が立ち往生したとします。その時後輪にダンボールを噛ませて脱出できるでしょうか。こうしたちょっとした間題に私達は日々直面し、創造的な解決を求められていますが、それは地球規模の気候変動や貧困を解決するために必要になる創造力と何ら変わりはないのだとキャシーは言います。

創造力は知能とは異なるのでしょうか。創造力は賢さなのではないか。確かに賢さと創造力は相通じるものがありますが、知能と同じものとは言えないと言います。とても知能が高いのに道路が閉鎖されていたらパニックになったり、残り物で新しい料理を作ったりできない人をよく目にします。私達は批判的に考えられる人になる必要がありますが、それは従来言われてきたような知能とは異なります。ただ批判的に考えられるだけでは、新しい解決法を生み出せません。あれこれ試行錯誤しながら作り続ける達人(master tinkerers)を目指さないといけないとキャシーは言うのです。

創造性の危機” への6件のコメント

  1. これからの時代を生き抜いていく力にとって必要なことが、imaginationとcreativityだと言われます。日本語の音読みでは共に「ぞうぞうりょく」。漢字を充てれば想像力と創造力。この2つが必要とか。音が一緒というのは単なる偶然でしょうか。あるいは、何か深い意味があるのか。今回 master tinkererなる英語表現に出くわしました。「あれこれ試行錯誤しながら作り続ける達人」だとか。発明家と言われる人々がこの呼称の対象になるような気もしますが、どうやら、一般的にこうした人材がこれからは必要なのでしょう。空想膨らませながら、空想を空想のままにしておかず、何かを創造する。試行錯誤を繰り返しながら、我慢強く、諦めずに、チャレンジし続ける。就学前の子どもたちには何かに拘って取り組んで欲しいと思います。Master tinkererを目指して。「そればっかりやっている」、これは想像力と創造力を培うことに繋がるのでしょう。その「やっている」過程ははたで見ると同じ事の繰り返しでしょうが、やっている本人にとっては「試行錯誤」の連続なのでしょう。将来の問題・課題解決者の一人になることでしょう。

  2. 「あれこれ試行錯誤しながら作り続ける達人(master tinkerers)を日指さないといけないとキャシーは言うのです」とありました。そして、創造性を高めていくことの重要性とありました。いきなり、何か創造性の高いものを作りなさいと言っても無理ですね。エディケーション2030にも新たな価値を創造する力が重要であると示されました。あれこれ試行錯誤しながらということからもこれらの力を育んでいくためには様々なことを体験、経験するということが大切なのではないかと思いました。そして、それを自発的に行うということもまた大切であるように思います。自分で考えてあれこれ試行錯誤することで、様々な問題に対応する力も育まれるでしょうし、様々な体験をすることで、あらゆる体験、経験が関連付けられ、創造的なアプローチができるのではないかと思います。いろいろな経験、体験をしている人はやはり発想が柔軟であるように思います。

  3. 「こうしたちょっとした間題に私達は日々直面し、創造的な解決を求められていますが、それは地球規模の気候変動や貧困を解決するために必要になる創造力と何ら変わりはないのだとキャシーは言います。」

    保育の現場においては、この思考が非常に重要性を増すのだと考えました。子どもたちが日々、創造的に生活し遊んでいることを感じます。大人から見ると子どものすることは小さく見えがちです。しかし、創造力にスケールは関係ないのでしょう。

    子どもがその時の持てるだけの力を使って創造しているのだとしたら、それは今社会で活躍するクリエイターたちのそれと変わりない価値があるのですね。

    「それはこうして使うものだよ」「今は〜な時間だよ」少なからず使われている言葉です。時には安全面への配慮で必要なこともあります。しかし、どんな時でも創造力の芽は摘んでしまわないような、かかわりをしていきたいです。

    具体的に、そんな時には、
    「こんな面白さがあるね、ここが良いね、先生はここの部分が好きだな、先生もやってみたい!、わかるよ、その気持ちや考えは良いんだよ、だけどね…。」というように、第一声を受容的な言葉にして、受容を入り口にしていきます。

  4. 社会と教育にある温度差というのは「企業のトップや革新的な企業が創造的な思考力を発揮する人材を求めているのにもかかわらず、子ども達に対して何の備えもなされていない」状態のことをいっているのでしょうね。もちろん、企業に就職する人ばかりではありませんが、国の繁栄と企業の繁栄は少なくとも関連があるでしょうし、社会とのギャップに苦しむことなく、新しい時代のうねりを楽しみながら人生を謳歌することができるということでしょうか。そして、最後の「ただ批判的に考えられるだけでは、新しい解決法を生み出せません。」という言葉が胸に響いています。物事を批判している人ほど、「行動」に移していない印象があります。それは、言っただけで満足しているのか、それとも、動く勇気を持てないのか。やはり、「あれこれ試行錯誤しながら作り続ける達人」のような失敗を恐れず、そこから多くを学べる人が輝くのでしょうし、これは、この時代だからというわけでもない重要な能力であるようにも感じました。

  5. 企業や社会が求めている人材を教育でどのようにしていくのかという点で〝子ども達に対して何の備えもなされていないのが現状〟とありました。いわゆる矛盾している状態にあるのが現状であるということが分かります。その矛盾を小さくする、もしくは無くしていくために自分たちができることというのは確実にあるようにも思います。それが〝あれこれ試行錯誤しながら作り続ける達人(master tinkerers)を目指さないといけない〟ということとつながるのでしょう。失敗というのは何かをしてのことではなくて、何もしないことなのかもしれません。批判すること、意見することだけでなくてやってみるということの本質はここにあるのではないかと感じました。

  6. 「あれこれ試行錯誤しながら作り続ける達人(master tinkerers)」になるには、主体的である必要がありますし、主体的な取り組みであるからこそそこに試行錯誤があると考えます。産業革命があり、例えばベルトコンベアーから流れてくるものを単純作業の中で精密に素早く処理していくような仕事が誕生しました。そういった仕事の中に、新しいものを創出する力が必要かどうか、やり方を開発するにはしても、ベルトコンベアから流れてくるそのもの自体を試行錯誤の中から変えたり、ベルトコンベア自体を変えたり、そういったことは求められない限り必要のない力と言えるかもわかりません。
    流れてくるものを処理するような仕事は、人間の創造力を増長することは難しいのかもわかりません。それはベルトコンベアの例だけでなく、トップから降りてくるものを処理することに終始してしまう仕事であるとすれば、職種は様々に当てはまるように思え、創造力、想像力共に欠如しかねない日常の中にいる例というのは、実は少なくないように思えてきてしまいます。

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