学びを面白がる

キャシー自身は、彼女の子どもが図書館から本を借りてきたとき、一緒に何度の繰り返し読んだそうです。しかし、それだけではないそうです。音楽やダンスのような芸術にも触れる機会を作ったそうです。もちろんこの場合もお金を使わずにです。収益を上げることが目的ではなく、純粋にパフォーマンスを観客に楽しんでもらいたいと思って活動しているオーケストラや合唱団、ダンスグループが必ずあると言います。子どもは芸術に惹きつけられる存在と言ってもいいと言います。芸術に触れて感動し興味を揺さぶられると、子どもは自発的にその芸術に関する本を読み、見たことを絵に描き始めます。子どもとミュージカル「42nd street]を見に行った時のことは今でも忘れないそうです。あまりに感動して、一晩中二人でタップダンスを踊っていたそうです。

子どもが学びを面白がる気持ちに拍車をかける場所として子ども博物館の存在を忘れてはいけないとキャシーは言います。そこは、アメリカにおいてプレイフルラーニングを守る最後の砦と言える場所だと言うのです。子どもの想像力を大いに刺激し、子どもの興味を引き出す魅力的なコンテンツに溢れているのです。社会的な関わりを生み出したり体を動かしたりする工夫がなされていて、座って学ぶのではなく他の子とペースを合わせて取り組まなければなりません。こうした体験の後、家に戻ってどんなことがあったか語り合うことが、子どもの記憶力を育てると報告した研究もあるそうです。

別に博物館でなくてもかまわないと言います。コインランドリーに行った時でさえ子どもの記麿力を育てることはできると言います。お金を入れると大きな音を立てて機械がぐるぐる回り始めます。それを初めて見た子は興味津々でしょう。そこはどんなところだったか、静かなところだったかうるさいところだったか、特別の匂いがしたか、その匂いか好きだったか、そんなことを、父親、母親と楽しく話す機会を作ろうと提案します。もしかしたら待っている間に新しい友達ができたことを話すかもしれません。どんな話を子どもが話しかけてくるかワクワクして受けとめようと言います。どんな場所であろうと学びの冒険は始められるのです。こんな風に子どもが思えるようになったらどんなに素晴らしいだろうと言います。そのカギは親の姿勢にあると言うのです。そして、こんな提案をキャシーはしいています。「子どもが見つけた物事について一緒に面白がって語り合おう。そして子どもの問いかけに乗っかって、一緒に面白がって答えを見つけよう。」

知識コンテンツそのものを学ぶことの価値が以前に比べて下がったことは間違いないと言います。だからと言って子どもにとって全く重要でなくなったわけではありません。学ひ方を学び、生涯学び続ける人になるために必要なコンテンツは沢山存在するからです。このようなコンテンツを子どもは親の学ぶ姿勢を見て身につけてゆくのです。そして、キャシーは、親にこんなアドバイスをしています。「もしあなたが学びを愛するならば、あなたの子どももそれを見て学びを愛するようになるでしょう、もしあなたが子どもの問いかけを真剣に受けとめ、自ら答えを見つけようとし、子どもと一緒にどうやって答えを発見するか考えれば、あなたの子どもの学び方もそうなるでしょう。」

一緒に学ぶ

近所の公園は楽しく学ぶのに最高の場所だとキャシーは言います。秋になれば美しい葉っぱを拾って紙に貼ったり、フロッタージュという「こすり出し」アートの技法で、表面が凸凹した物の上に紙を置き、例えは鉛筆で擦ると、その表面の凸凹が模様となって紙に写し取られたりできます。春になれば多くの花がどのように咲こうとするか、そのプロセスを何度も繰り返し訪れて確かめることができるでしょう。最高の学びのチャンスがあちこちに転がっているのです。本当に価値のあるものはお金をかけなくても手に入るのです。

もしあなたの子どもが通う学校で芸術系の学びを殆どやっていなかったらあなた自身がやればいいのです。それも子どもが今学校で学んでいる内容と繋げてやります。国語の授業で読んでいる文章に出てくるワンシーンを水彩画にします。宿題を一緒にやるとしたらそのシーンを劇にして演じてみます。ダンスを組み合わせたり、歌を作ったりして、子どもが学ぶ必要のある様々な芸術の手法を学びに繋げることができるのです。更にそこにあなたも加われば、どうやって学びを面白がるか子どもに見せられるのです。自分の子どもに「教える」のではなく、自分の子どもと「面白がって一緒に学ぶ」ということなのです。それが子どもの教育に関わるということなのです。

もし子どもが芸術系の活動に強い関心を示したら、放課後のプログラムやサマーキャンプに参加させるのもいいでしょう。多くの子ども達に人気なのは演劇のキャンプです。恥ずかしがり屋の子でさえこのキャンプに参加したがります。芸術を通じて子どもの創造力に火がつくと思考力が高まり、実行機能スキルも向上します。太鼓サークルに参加した子ども達が自分の楽器を持って拍子をとっています。集中し完全に没入しています。こうした音楽活動が子どもの集中力を育て、実行機能スキルを伸ばすだけでなく、学び方を学ぶスキルを身につけるのにも役立っていることが研究によって明らかにされているそうです。

では、知識コンテンツを育てる環境をどう作ればいいのでしょうか。まずテレビを見せることはやめ、更に子どもが電子ゲームのスクリーンばかり覗き込む状況をなくします。これはとても重要なポイントであることは間違いないとキャシーは言います。ただ、全てのゲームを禁止すればいいというわけではありません。シムシティのように子ども自身が街を作り出してゆくゲームは子どもの想像力や思考力を刺激しますし、手と目を協調させる力を伸ばすゲームもあります。私達は産業革命の時に機械を打ち壊したラッダイト運動のような活動を今行いたいわけではないと言います。むしろ子どもの年齢が上がってきた場合、タブレットやパソコンを使って効果的に学ぶ価値があることも十分理解していると言うのです。

学びを深く愛する子どもが育つために何よりも心がけたいことは、子どもが関心を示した物事を本気で受けとめる大人の姿勢だと言います。自分の興味に導かれて取り組んでいるトピックは既に子どもにとって深い意味を持つものになっていますし、どうしたってそれに没入してしまうでしょう。ある人は子どもの時、クモが出てくる本ならばすべて読みつくしたと言います。そんなことを聞いてもしうちの子がそうなったら、本を買うお金がなくて困ってしまうのではないかと心配した人もいるかもしれません。しかしそんな時こそ図書館を大いに活用すべきです。キャシーの子どもが小学生だった頃、毎週一緒に図書館に行き、本を借りてきたそうです。自分の読みたい本を選ぶ時に感じる子どもの気持ちがどれほどの力を持つか想像してみてほしいとキャシーは言います。親である彼女も子どもが借りた本を心から面白がり、次に図書館に本を借りに行くまでの間、一緒に何度も繰り返し読んだそうです。

子どもと一緒に

子どもから出た質問には正直に答え、学びに熱中する人のモデルになりましょう。これこそ大人ができる子ども達へのこの上ない贈り物といえるとキャシーは考えています。あなたがすぐに答えられないような質問を子どもはするでしょう。その中で一番知られているのは「空はどうして青いの?」という問いだと言います。もし聞かれたら、すぐに答えようと焦ることなく一緒に面白がって考えようと言います。「そうか確かに空って青いよね。でもそうじゃない色の時もあるよね。夕焼けとかさ。一体空の色って何色なんだろう。どう思う?」と子どもに尋ねてみてもいいだろうと言います。

一緒に語り合って、想像を膨らませたり、インターネットで調べたり、近くの図書館に行って本を探してみたり、答えを見つけるためにいろいろやってみます。子どもにどう学んだらよいか、自分がモデルとなってみせることが何より大事なことだといいます。私たちが学び続ける存在であることを示して初めて、子ども達も学び続ける存在として成長していくのだと言うのです。

キャシーの友人が、「息子が毎晩、15分も本を読んでくれと言うもんだから、本当に大変」と電話してきたそうです。仕事をかかえている親はとても忙しいし、疲れているので苦痛だと感じてしまうのも無理はありません。ただ、せっかくならこの状況を面白い活動に変えてみるといいのではないかとキャシーは提案します。本をただ読み聞かせするのとは違う方法で物語の世界の入るのです。登場するキャラクターについて語り合い、子どもの生活とどんな繋がりがあるか一緒に考えてみるといいかもしれません。試しに一度やってみて欲しいとキャシーは言います。あまりにも面白いので驚くに違いないと言うのです。

 

 

もう一度学びを促進させる四つの条件を思い出してほしいとキャシーは言います。「自ら率先して行い、没入して関与し、意味を見出し、社会的に関わリ合うこと」で、抽象的な知識を覚えるのでなく現実の問題と繋げて、学んだことをより深く理解できるのです。どうしたら学校で学んでいるコンテンツと子どもの興味を繁げられるでしょうか。

例えばアメリカに最初に移住してきた人について学校で学んでいるなら、入植者が暮らした場所を訪れてみてもいいでしょう。食べ物がどこからやってくるのか学んでいるなら、農場へ行ったり、動物に触ることができる動物園に行ったりしてみるのもいいかもしれません。

また大学には子どもが好きな物を展示してある博物館がよくあります。大学の農学部の多くは昆虫を研究していて、子どもが夢中になる様々な昆虫を無料で見せてくれます。子どもの関心を引き出す場はいくらでもあるのです。キャシーは子どもが宿題をする時に一緒に自分の「宿題(仕事)」をすることが大好きだったそうです。子どもが小さい時、子どもを一人部屋で勉強させ、終わるまで出てきてはダメというやり方はしたくなかったそうです。むしろ自分の近くで作業させて、励ましたり学んでいる内容を一緒に面白がったりしたそうです。知識コンテンツは学び方によっては無味乾燥なものではなく学んで楽しいものなのです。集中して学びに取り組める環境を作れれば、子ども達は学び方を学ぶスキルと実行機能スキルを伸ばしてゆくだろうと言うのです。

学校外の学び

子どもは学校だけでコンテンツを学ぶわけではありません。このことをよく覚えておくべきだとキャシーは言います。子どもは学校外で多くの物事を学ぶのです。あなたと薬局やスーパーマーケットに買い物に行った時の会話を通じて。あなたと電車やバスに乗っている時。こうした全ての瞬間に子どもは学んでいるのです。いつでもどこでも、子どもは世界について理解を深めることかできるのです。キャシーは、そんなチャンスを活かして問いかけてみようと提案しています。そうすれば子どもは多くのことを学びとるでしょう。学校外でも学びを面白がる子どもは学校でも学びを楽しんでいるのです。子どもが過ごす時間の中で学校が占める割合は20%に過ぎません。大半を占める学校外の学び環境を豊かにするために、私達は、子ども達にとってのよき学びのモデルとなり、また子ども達と一緒になって学びに取り組んでゆこうと言うのです。

知識コンテンツは子どもだけでなく大人にとっても必要です。つまりこれを読んでいる皆さんにとっても深く関わることなのです。たからこそ、キャシーの考え方を学んでいるのです。知識コンテンツを学ぶ時カギになるのはモチベーションだとキャシーは言います。学びのモチベーションを持たない人は誰もいません。ただそれをうまく発揮していないだけだと言うのです。あなたの持つコンテンツはどのレベルにあるのでしょう?実は「皆がレベル4 !」だと言えるかもしれないと言うのです。なぜなら誰もが熟達している何かを持ち合わせているからだとキャシーは言うのです。ただそれを自分の関心のある限られた分野に留めてしまっているのです。キャシーは、「あなたは知識コンテンツの習得の範囲を自ら狭めていないだろうか。」と問います。新しい場所に行ってみたり、新しいことを学んだりしているでしょうか。私達は誰も全ての分野において熟達することはできません。しかしこれからの時代において、全ての人々に求められるのは常に情報を更新し続けることなのです。本来、学校教育はこのような学びの姿勢を子ども達に身につけさせたいと考えていたはずです。

ずっと見たいと思っていた絵画展には、是非子ども達も一緒に連れていきましょう。何を描いた絵なんだろう。何が見えるかな。どんなことが起きているシーンを描いたんだろう。というような問いを子どもに投げてみます。すると、これまで思いもしなかったような斬新な発見を子どもから聞くことかできるだろうと言うのです。新しい物事を学ぼうとするあなたの姿勢が子どもにも伝わって、あなたのように学びに開かれた人に成長してゆくのだと言うのです。

あなたが得意なことを誰かに教えてあげたことがあるでしょうか。自分が熟達していることを更に磨きたいなら、他の人に説明するのがいいと言います。これは自分の子どもに対してすぐにやれることだろうとキャシーは言います。もしパンを焼くのが得意なら一緒にパン作りに取り組むといいでしょう。子どもにも仕事を与えてあなたの持つスキルを伝授します。外国語に堪能なら、子どもが知っていることをその外国語に直して、あたかも秘密の言葉であるかのように教えてあげましょう。

知識コンテンツ

職種によって求められる知識コンテンツは異なりますが、レベル4に達するまで長い年月をかけて修業するプロセスが必要であることは変わりありません。但し、身につけるべき知識コンテンツはずっと同じではないと言います。変化しないビジネスなどないので、今のやり方でよいか常に見直すことを怠ってはならないのです。企業は顧客から情報を集め、顧客のまだ満たされていないニーズを探り当てる努力をします。アップル社はこのやり方で成長してきたと言います。アップルのリサーチャーは顧客用のチャットルームに入り込み、そこでなされているコメント、不平や関心のありかなどをしつかり把握するそうです。その中にあった「財布に入るコンピュータがあったら凄いよね」というチャットがきっかけとなってタブレット端末が生まれたのだそうです。知識というコンテンツを集めようとするアップルの意欲がコンピュータ市場を変える画期的な製品の誕生に繋がったのです。

もう一つ、レベル4で知識コンテンツを捉えようとしている企業の例として、幼児が落としても割れないお皿を製造している、アメリカの耐熱皿製造大手企業であるコーニング社をキャシーは挙げています。コーニング社は新たなビジネスチャンスを生みそうな最新技術と、文化的・歴史的な光を当てて製品を見直すこととを繁げる試みを続けているそうです。そのために年に一度、学術界、産業界の専門家を集めてカンファレンスを行うそうです。コーニング社はこれまでやってきたこととこれからやろうとしていることを両方考えて、進み続けながら振り返ることを大事にしているのだそうです。2015年10月に開かれたカンファレンスのテーマは「アメリカ人のお気に入り料理 耐熱ガラスの100年」でした。ガラス会社のデザイナーとマーケティング担当者と技術者が「料理は愛である」ということや、建築について、更には料理と性役割といったことについて考えるのです。

新しい知識を生涯学び続けること。これはどんな職業に就こうが、仕事の種類が何であろうが関係なく、全ての人々にとって必要なことだと言います。インドの哲学者、ジッドゥ・クリシュナムルティの言葉を私達は胸に刻んでおきたいとキャシーは言います。

「教育に終わりはない。本を読むのはテストに合格するためでも、教育を終えるためでもない。生まれてから死ぬまで、私達の全生涯が学びのプロセスなのである。」

この章の冒頭でキャシーが紹介したFCATの宣誓を生涯学び続ける誓いに変えてしまおうと呼びかけます。「さあ、皆さんも胸に手を置いて、言ってみてほしい。」

1.私はただ事実を覚えるために勉強するのではなく、知識のシステムを作るために概念を深く学びます。

2.私は「学び方を学び」ます。なぜなら情報は無限に増え続けるからです。

3.私はよく寝て、朝ごはんをしっかり食べます。これはずっと大事なこと!。

4.私は難しいこともすぐに諦めず、他の人とコラボレーションして、問題解決にチャレンシし続けます。

5.私は学んだことをどう現実場面で応用するかいつも考えます。知識は使う練習をしないと錆びついてしまうからです。

レベル4の熟達者

キャシーは、ゴルフを例に挙げて、初心者と熟達者と後が愛を説明しています。ゲームは進み、今度度はバンカーがフェアウェイを横切っていたとします。川とバンカーの違いはあるものの二つのホールは構造的には類似した状況です。プロは表面的な類似だけでなく、前方に障害物が立ちはだかる中でショットするという問題の「深層構造(deep structure)」まで考えています。このように熟達者は深い知識を持っているので、まだ低いレベルにある初心者の友達に合わせて、自分の思考プロセスを理解できる形で伝えることができると言うのです。子どもに教える人がレベル4の熟達者であってほしいと考える理由はここにあると言います。熟達者は単に専門知識を持っているからではなく、相手に合わせて多様な方法で説明したり、例を示したりできるからだと言うのです。カリキュラムガイドで書かれた通りにしか動けない素人とは大違いなのです。

数学のできない中学二年生の子がいました。この子に対して熟達した教師はその原因がどこにあるか的確に突き止めてサポートします。この子の場合、分母の大きい分数の方が大きいと考えていることが判かり、それは4年生の時に分数をきちんと学んでいなかったからでした。すぐに対処しこの問題を克服したら、めきめきと数学ができるようになったそうです。

九九のいくつかは覚えているものの掛け算に意味を見出すことができず、掛け算を拒否する子がいました。こういう場合も熟達した教師は、頭ごなしに「覚えろ」とか「やらないと困るぞ」とは言わず、子どもに気づかせる工夫をすることができます。この子に数える仕事を与え、掛け算をしないと困る状況を体験させたのです。もちろん本当に必要とされる仕事を自然な流れの中で課したのです。一枚のシートにつき6個のステッカー。シートは八枚。一体全部でステッカーは何枚あるのか……一枚一枚一枚数えていたら大変です。そう思った瞬間、彼の頭の中に「あっそうか。だから掛け算がいるんだ!」という考えが閃いたのです。以後彼は喜んで掛け算を学び始めたのです。

子ども、大学生、そして私達自身をレベル3、レベル4の段階へと高めてゆくのを助ける方法は沢山あります。日常の些細なことにも「意味」を見出し、表面的に考えないトレーニングをすることもできると言います。買い物一つとっても「かわいいケースに入っているから買う!」というような衝動的判断をしないで、自分のニーズに最も相応しいものはどれか、複数の条件を考慮して選ぶということから始めてみればいいとキャシーは提案しています。

新しい知識コンテンツを生涯学び続けるのが「「超」一流の熟達者」であると言います。ビジネスの世界においても、レベル3・レベル4の知識が重要です。スターバックスのバリスタはコンピュータによって制御されたレジを使いこなし、お客様とスターバックスならではの特別のやりとりをしなければなりません。セールスに携わる人はどの分野であれ、沢山の商品の名前と特徴を覚え、間違いなく商品を提供し親身に対応することを学ぶ必要があると言います。イベントプランナーは全体像と細かい部分との両方を頭に入れて、数々の決定をしなければならないのです。そうでないと、顧客にとって一生のイベントである結婚式や成人式が台無しになってしまいます。たとえば発達心理学のように、科学者は目指す分野、たとえば発達心理学について、大学院でメンターに導かれて、共に研究することを何年も積み重ねます。そしてレベル4に到達し一人前になると、自分なりの独自の視点を持って研究を続けていきます。職種によって求められる知識コンテンツは異なりますが、レベル4に達するまで長い年月をかけて修業するプロセスが必要であることは変わりないのです。

大人か子どもかは関係ない

マルコム・グラッドウェルのような著名な作家になるには一体どうしたらよいのでしょうか。世界中の14歳が受けるPISAテストにそのヒントがあるとキャシーは言います。高得点をとる学生は代数で学んだことと三角法で学んだこととを関係づけて、異なる領域の知識を繋げて考えます。問題を解くためにどんな制約を考慮しないといけないか見つけ出し、それは、この手の問題にはこの方略は使えないと判断することで、解法を適宜柔軟に考え直しながら知っている知識を適用するのです。このように熟達者は理解したこと、思いついたことをすぐに新しい問題に応用し、新しい関係を作り出すことができると言うのです。レベル3のように知っていることを広げて適用するだけでなく、レベル4は、全く新しい方法を見つけ出すのです。

全ての分野において熟達者と初心者とを区別することができると言います。子どもであっても熟達者になり得ると言うのです。アリゾナ州立大学のミッキー・チーはチェスの熟達者である子どもを研究したそうです。まず知能テストで行われる数唱テストを行うと、大人の方がチェスの熟達者の子どもより多く数字を記憶でき、より記憶の容量が大きいことが分かったそうです。しかしチェスの盤面の記憶については、大人よりもチェスの熟達者である子どもの方が優れていたそうです。どの領域であってもレベル4の熟達者になると、大人か子どもかは関係なく、その領域での問題解決の際に初心者が気づかない特徴を見つけることができるのだそうです。またその領域において大事な情報をより多く記憶しているので、深く分析ができ、経験したことがない状況にであってもすぐに対応できるのだそうです。

ここでキャシーは、もう一つゴルフの例を挙げています。ゴルフがうまくなるにはやはり長い年月のトレーニングが必要です。これまで経験したことのないコースでフェアウェイからグリーンへアプローチする時、熟達者はこれまでの知識を新しい状況に適応して対処するのです。フェアウェイの真ん中に川が流れています。プロゴルファーはここで様々な判断をします。リスクがあるのを承知の上で川を越えるボールを打つかどうか、どのクラブで打つか、風は追い風か向かい風か、こういった変数を全て考慮する必要があるのです。熟達者はただ漠然と物事を進めません。どうしたらベストかを考え、見極めてから行動します。更にもうだめだと簡単にあきらめたりすることもありません。知っていることを全て投入し、問題を解決します。それが熟達者なのです。自分の行動を的確に評価し、いつもと違ったことをしていないか常時チェックしています。レベル1やレベル2のゴルファーは自らに問いかけて確かめることなどせず、なんとなくショットし、ボールが川めがけて飛んでいくのをただ見つめるだけだと言うのです。レベル3のゴルファーはクラブを変えることぐらいはできるかもしれませんが、関連する要因を全て考霾して判断することはできません。関わってくる変数を全て思い浮かべ、どれに重みをつけるか決め、全体像をつかむことは難しいと言うのです。しかしレベル4のプロはこれができるので、トーナメントで優勝するのです。

熟達者

ひとつのボールの重さは、大きさの同じもう一方のボールの重さの2倍です。この二つのボールをビルの二階から同時に落下させたら、軽いボールが地面に届くまでにかかる時間はどう違うかという問いに対して、ニュートンの運動の第二法則に従えば両方のボールは同時に地面に届きます。これが物理学の基本概念です。しかし殆どの学生が、その中には授業でAをとった者も含まれていたのですが、間違ったのでした。同じテストを世界中の一万人を超える学生に行った結果は驚くべきものだったそうです。受け身で講義主体の伝統的な物理学の授業では、学生が物理世界について抱いている誤った理解を変えることはできなかったのです。へステンズはこう言っています。「学生は自ら知識を作りあげていかなければならない。受け身で教わって知識を取り込むことはできないのだ」と。マズールは、講義主体で学生が聞くだけの授業をやめ、小グループに分けて学生達が協力して課題に取り組む学び方に変えたのです。すると学生達の学びの質は急激に上昇したのである。キャシーらは更に深い学びに到達するにはどうしたらよいかも知っていると言います。そこで彼女らは、レベル3の先にある学びについて学習科学が明らかにしたことについて説明していきます。

次のレベル4は、「熟達者になる」です。熟達者とは、既存の知識を活かして新しい方法を思いつく者のことを言います。レべル3になれば自分が知っていることを新しい繋がりで見直したり、新たな方向性に広げたりできるので、子どもにとって大きな進歩です。知っていることを柔軟に使いこなせるようになるのです。では、この段階を超えてレベル4に進化するということはどういうことなのでしょうか。それは「その道のプロになる」という風に言えるのではないかとキャシーは言います。食堂の経営者、チームのコーチ、タクシーの運転手等分野は様々ですが、熟達者になると知っていることを自由自在に改善・修正して、柔軟に考えられるようになると言うのです。

マルコム・グラッドウエルは数々の本を出し、そのうちの4冊が『ニューヨークタイムズ」のベストセラー・リストに入っているという有名作家です。その中の1冊『天才!」(講談社)の中で1万時間ルールを提唱した心理学者、アンダース・エリクソンのことを書いています。どんな分野であれ、熟達者になるには1万時間の修業が必要だというのが1万時間ルールです。グラッドウェルも、自分がここまでの業績を上げられるようになるまでやはり1万時間ルールに従ってきたと言っているそうです。最初はずぶの素人で、ようやく熟達者の仲間入りをするまでに10年間、1万時間かかったのです。誰であろうとすぐに熟達者になれるわけではありません。たとえ生まれつきの才能を持っていたとしてもです。「才能に準備が伴って初めて達成することができる」とグラッドウェルは述べているそうです。どれだけ精一杯準備したかが何かを成し遂げようとする時のカギだと言うのです。分野によって練習に必要な時間は変わってくるでしょうが、手術室に入り初めて盲腸を切除したらすぐに外科医になれるわけでも、ビートルズの『ホワイトアルバム』が10代の時に書かれたわけでもありません。大変でも諦めず、粘り強く取り組み、熱心に練習し、グリットを持ち、失敗しても努力し続け、そこに才能が加わって、熟達者になるのです。しかし重要なのはただ一生懸命努力すればよいわけではないということだと言います。

 

繋がり

自分達の生活との繋がりを見出した時、学びは「意味のある」ものになるとキャシーは言います。学習科学における長年の研究によって、新しく学ぶ事柄は既に知っている事柄と結びつけて考えることで、理解しやすくなるということが解っています。柔軟に繋げて学ぶことこそ、私達が追い求めるやり方と言えると言うのです。移民について学ぶことになったとします。自分の知っている移民の人にまずインタビューに行くことにします。すると新しい土地に移住することの意味が自分にとって繋がりのある現実の問題として見えてきます。言葉の壁、孤立、住む家や仕事を探すことといった問題が自分の知り合いが直面している事実だと解り、移民について我がこととして理解するようになります。

大人の学びも同じだと言うのです。処方した薬を正しく服用する方法をどうしたらうまく患者に覚えさせることができるか、実験して確かめてみたそうです。一方のグループでは医者はただ服用の仕方のルールを伝えただけでした。一週間後にそのルールを覚えているかどうかテストすると、ルールを覚えていないどころか勝手に新しいルールを付け加えていたそうです。もう一方のグループでは、架空の患者についての物語として同じ情報を伝えました。すると一週間経ってもルールをきちんと覚えていたのです。やはり学びに「意味」が付け加えられる方が、ただ抽象的に説明されるよりも効果があるようです。

より深い学びは「社会的な関わり」によって生まれるとキャシーは言います。だからと言って、ただ二人が並んで座って学べばよいというわけではないと言います。学ぶ必要があることを関わり合いながら一緒に理解してゆく状況を作り出さないといけないと言うのです。他者と共に学ぶことが効果を持つということも、長年、学習科学が追究してきたことです。できる子とできない子をベアにして、それぞれが別の知識コンテンツについて学びます。例えば石の種類について学ぶ時、できる子は変成岩について、できない子は堆積岩についてそれぞれ学び、後で教え合うことにします。できる子はできない子に教える時間を奪われて学びが停滞するかというとそうではないと言います。むしろ教えることによって変成岩の理解がより深まったのです。一方できない子もクラス全体の前では解らないことを質問できませんでしたが、ペアだと堆積岩がどう形成されるかが解らないと相手に伝えることができるのです。

「社会的な関わり」が学びに効果があるということについて、最近こんなニュースがあったそうです。ハーバード大学の物理学の教授であるエリック・マズールは、一般的に大学の物理学の授業で行われている講義型のやり方に疑問を持ち始めました。そんな時にたまたまアリゾナ州立大学の物理学者、デビッド・へステンズの研究を見つけました。彼は自分の授業を受けている学生達の物理概念の理解を評価するためのテストを作ったのでした。テスト問題は次のようなものです。

「二つの同じ大きさのボールがあった。一方のボールの重さはもう一方のボールの重さの2倍だった。この二つのボールをビルの二階から同時に落下させたら、軽いボールが地面に届くまでにかかる時間は……。

繋がりを理解

知識コンテンツを主体的に獲得してゆくには、手や体を動かして何かやってみたり、作ってみたりするのがいいと言います。生徒は教師が一方的に授業するのを聞いていても、グループでプロジェクトに取り組む時のようにあれこれ考えたりしません。劇を上演したり、皆の考えを一枚の紙にまとめて表現したり、皆から寄付を募るための文章を書いたりする活動は全て、自ら率先して取り組む学びの良い例だと言うのです。しかしこういった活動は多くの学校が目指している方向と相容れないのが現状だとキャシーは言います。子ども達が問いを出し、自らその問いの解決に動くような学びをすれば、学校はわくわくする学びの場になるのに、学校にいる間、ただ椅子に座って黙々と作業している現状はとても残念でならないと言います。

子どもは火が大好きです。だからマッチやライターは隠さないといけません。しかしこのように子どもが根源的に持っている興味を出発点にして学びを深くしてゆくことができるとキャシーは言います。もし子どもが火について知りたいと思ったら、消防署を訪れて消防士にインタビューする機会を作ってあげましょう。前もってどんな質問をするか決め、現場に出向き、答えてくれた内容は忘れないようにメモしておきます。「難燃剤(frame retardant)」という難しい言葉を読めるようになり、身の周りのありとあらゆるところに使われているのを発見し、場合によっては健康を害する危険性のある薬剤であることを知ります。消火器がどうして火を消せるのか、そのメカニズムを知るのはまさに理科の学びそのものです。人類が火を発見した時のことを想像して書いたり、絵にしたりすることもできるでしょう。フィラデルフィアのフレンド・セントラル・スクールでは、こうしたやり方で「飛行」という概念を学ぶそうです。教師は毎年異なるテーマを選びますが、様々な教科のコンテンツへと自然に広がってゆくようにデザインされているので、学びは有機的に繋がり、生き生きと学ぶことができるのです。

今述べた「火」についての学びにはもう一つ大事なポイントが含まれているキャシーは言います。それは子どもが学びに「没入して関与する」ことの面白さを知るということだと言います。自分が本当に興味を持ったトピックについて子どもが学ぶ時、学びのモチベーションは頂点に達します。憧れの消防士にインタビューする時、先生と一緒に消火器の仕組みを学ぶ時、自ずと学びに「没入」してしまうでしょう。子どもが興味を持つからこそ「没入して関与する」学びになると言っても良いだろうとキャシーは言います。とはいえ子どもはいつでも何かについて興味を持っているわけではありません。むしろ初めは興味など持っていないことが多いようです。こんな時はどうしたらよいのでしょう。

ある都市部の学校で6年生を教えている先生はこんなやり方をしたそうです。果実について学ぶ授業を行いましたが、初めは何が果実かすら分からない子どもがいるような状態で「きゅうりって果物かな?」「果物って甘いもの?」「じゃあトマトは?」という質問にも興味を示しませんでした。そこでこの先生は移民の人達が買い物に行くマーケットを回って、子ども達が見たことがないような世界中の果物を集めてきました。子ども達の興味は一気に高まり、実際に食べてみたりしたのです。優れた教師はこうした工夫を織り交ぜて、子どもの興味を引き出そうとするのです。