間違った教育改革

なぜ私達は、教育玩具の力まで借りて子どもの頭を事実でいっぱいにすることが「成功」への道だと思ってしまうのだろうかとキャシーは問いかけます。何十年にもわたって、私達は色々な方法で子どもにコンテンツを覚えさせようと躍起になってきましたが、その傾向は強まる一方だというのです。知識や技能というコンテンツは、これまで学びの王座に君臨し、特に人生を決めるような重要な評価をする際に用いられてきたと言います。しかし、そこには、これからの子ども達が必要とする、幸せで、社会的な、善き市民という要素の入る余地がまったくありません。どうして私達は、子ども達を、受け身で教わる対象として捉え、事実を覚えさせることを優先し、社会的になることは二の次と考えてしまったのだろうかとキャシーらは言うのです。

その経緯について、彼女らは、20世紀半ばまで遡って説明しています。当時、アメリカはソ連(現ロシア)と冷戦状態にあり、それが教育改革を促進させることになったのです。それは、アメリカ教育改革暗黒史の始まりだったのです。1957年10月4日の『ニューヨークタイムズ』の見出しは「ソ連、人工衛星スプートック打ち上げ」でした。この歴史的事件が史上空前の教育改革を引き起こすことになり、私達に大きな影響を与えることになったのです。そして、「ロシア人が勝ったのは、彼らの学校教育が優れているからだ」という議論が巻き起こりました。最早、字宙進出竸争に留まらす、将来の人類のため、そして世界の覇権を握るための競争へと発展していったのです。1年後の1958年、学生達の学業成績を向上するために作られた国家防衛教育法が議会を通過しました。特に数学と科学の教育を強化することが急務となり、1960年代には、教師達でさえ理解するために悪戦苦闘した「新数学」と呼ばれる新カリキュラムが導入されたのです。今でもこの流れは形を変えて続いており、STEM(Science Technology Engineering and Mathematics)と呼ばれる科学・技術・工学・数学を重視する教育の重要性が叫ばれています。

次世代のスプートニクを開発する人材を生み出すために、何百万人ものアメリカ人の子どもが進むべき道をどのように変えてゆくのか。この問いに答えたのが、1983年に発表された「危機に立つ国家』というタイトルの、簡潔でインパクトのある報告書でした。著名な科学者、政策立案者、教育者が作成したもので、私達の不安を掻き立てる書き出しで始まっています。

「私達の国家は危機に瀕している。かつて私達は、商業、産業、科学、技術革新の何れの分野においても他の追随を許さない優位を保っていた。しかし今や、世界中のライバル達に追い抜かれようとしている……一世代前、こんな事態に陥ると誰が想像できたであろうか。他国の教育レベルは我々に匹敵するどころか上回ろうとしているのである。」

11年後、クリントン政権において『危機に立つ国家』でなされた提言は「2000年への目標:アメリカ教育法」として法案が提出され、1994年3月31日に成立しました。これにより、21世紀の世界での競争力を維持するため、アメリカは2000年までに読み書き、数学、科学について高レベルの学力を身につけることを目指すことになりました。具体的な義務目標は「アメリカの学生は、数学・科学の学力で世界トップになる」「アメリカの全ての成人は、読み書きできる力と、グローバル経済で勝ち抜くために必要な知識やスキルを持ち、市民としての権利を行使し、義務を果たす」というもので、要求レベルが非常に高いものでした。

間違った教育改革” への6件のコメント

  1. Make America Great Again! このスローガンは、トランプ現米国大統領の来たる12月大統領選挙に向けたスローガン、いや公約です。Great Again とは現在のコンテクストにおいて如何なる意味を有するのでしょうか。スプートニク前の偉大なるアメリカをもう一度、ということでしょうか。米国はその教育方法において、モンテ、STEM、ヘッドスタート等打ち出してきました。その結果はどうでしょう?今回の新型コロナウイルス感染症による死者数を見るとその結果がわかります。あるいは、あの人種差別による事態。米国は歴史的に様々な民族によって国を成してきた、ある意味で、一つの世界、です。さまざまな人種によって国が形成されています。現在でもなお、先進的な提案が彼の国からなされています。それでも、現大統領が選ばれる教育水準の国家です。このことを私たち日本国民はどう考えるか。「アメリカの学生は、数学・科学の学力で世界トップになる」このことに関してはOECDのPISAがある意味での答えを出しています。米国を世界のトップに立たしめているのは、インド人であったり、東アジア人だったりしている、というもう一つの事実があります。あっ、ヨーロッパ人も。ホモサピエンスはその叡智を集約して、一人ひとりが幸せになるように、ウエルビーングを実現できるように、考え行動していく必要があると思います。

  2. 過去のアメリカは、まさに世界を率いる存在であったと思います。しかし、有人ロケット競争に敗れたアメリカは、大きな転機を迎えました。そこから、世界の発展を望み、世界をリードするアメリカから、自国のみを優先する、他国を押し除けるといった傾向が強くなった印象です。ハラリ氏も、「アメリカは世界のリーダーになろうとしない」といったニュアンスを語っていたのを思い出します。自国のみを優先するよりも、他国の繁栄発展を手助けする方が、結果的に経済発展・学力向上・技術革新につながっていくのだと感じています。そして、「新数学」からの「STEM(Science Technology Engineering and Mathematics)と呼ばれる科学・技術・工学・数学を重視する教育」への動向など、科学技術の発展に伴い、教育も変化している様子がわかります。

  3. アメリカとソ連の対立と有人ロケットの開発に負けてしまったという事実が教育方法を変えてしまうことになったということははじめて知りました。アメリカという国の影響は世界中にまで及んでしまうというのは、その前の第二次世界大戦があるのだろうと思います。そして、その世界大戦が起きたのもある意味でそう教育されてきた人間が引き起こしている、と考えると全てはつながりがあることになります。これからも今の現状をしっかりみていくことで、先が予測できる、世界の流れというのはそんな仕組みになっているような気がしました。

  4. 子どもへの要求の度合いが高まれば、自然目の前の子どもの姿を受け止めることや見守ることはできなくなり、大人側からの一方的な指導や養育が進行するでしょう。それをしてきたから学力水準が高かかったわけではなかっただろうに、一度大人の勝手なスイッチが入ると巻き込まれるのはいつも子どもだと思えてきます。スプートニクショックのような大きなショックが教育を子どもたちに寄り添ったものへ導いてくれると信じたいですが、そのようなショックがない限りこのまま進むことがあるのだと思うと、まだまだ子どもたちは辛い思いをしなくてはならないのかもわからないと思えて、胸が痛くなります。

  5. 今の時代に比べ技術力やIT産業がそれほど伸びていない時代だったからこそ起きた教育の転換ですね。そしてそれは、必要な変化であり、その変化が起きたからこそ、今のコンピューターに溢れたこの世の中があるといっても過言ではないのでしょう。では今必要な教育の転換はなんなのでしょうか。さらに知識を詰め込むことなのか、それ以外の分野なのか、答えは火を見るより明らかであると思います。

  6. 「将来の人類のため、そして世界の覇権を握るための競争へと発展していったのです」とありました。教育というのは国の都合で左右されるということを改めて強く感じます。国家がどんな人材を求めているかがもろに教育には表れてくるのかもしれません。今回のコロナ騒動によってあらゆる価値観が揺らいでいるような印象を受けます。経済優先という資本主義の危うさのようなものも感じてしまいます。一つの方向、一つの価値観にだけ縛られていると未曾有の事態に対応できるのかとても不安になります。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です