特定な人

ボウルビィの共同研究者であるメアリー・エインズワースは、愛着が個人によって異なることを発見し、そのタイプの違いを測定する方法を開発しました。ストレンジ・シチュエーション法と言われるこのテストでは、12~18カ月の子どもを対象に、養育者との分離・再会場面を実験的に設けて行動を観察することで、愛着タイプを分類していきます。

子どもと養育者の間に形成される愛着のタイプを、以下の四つに分類しました。①養育者と分離してもあまり泣かず、再会時にも自ら近接を求めず、養育者を回避する回避型、②養育者がいる時は養育者を安全基地として積極的に遊び、分離時には泣くが、再会すると自ら身体接触を求め、しばらくすると安心して遊びを再開する、最も挈ましいとされる安定型、③養育者がいても探索行動をあまり示さず、分離時に激しく泣き、再会時に身体接触を求めるが、容易に泣き止まないアンビバレント型、④再開時に顔を背けながら養育者に近づくなど、回避行動と接近行動が同時に見られたり、どっちつかずの状態が続いたりする無秩序・無方向型です。

子ども、特に赤ちゃんにとって養育者の存在は必須ですが、養育者を選ぶことはできないため、養育者のかかわり方に応じて自身の接近の仕方を調整し、自らの安全であるという感覚を維持すると言われています。安定型では、養育者は子どもの出すシグナルに応答性が高いので、子どもは養育者を安全基地として活用し、世界を広げることができます。回避型では、養育者の応答性が低いため、子どもは効果のない愛着行動システムを使わない方略をとるとされています。アンビバレント型では、子どもは応答に一貫性がない養育者に対して、高めに愛着行動システムを活性化させるように行動するとされます。無秩序・無方向型では、抑うつ傾向が見られたり、不安定であったり、虐待をしている場合もあり、子どもにとって愛着の対象かつ恐怖の対象となっているとされます。

つまり、子どもはとても柔軟であることがわかっているのです。実際、双生児研究によれば、おしなべて行動・心理的特徴の個人差には遺云の影響が大きいのですが、乳児期の愛着のタイプの個人差に関しては遺伝の影響が例外的に小さく、家庭環境の影響が大きいとされているそうです。養育者という環境に応じて、自身もふるまいを変えていると言えるのではないかというのです。

斎藤氏は、ここまであえて愛着の対象を「母親」と書かすに「養育者」としてきました。それは、愛着の対象は「母親」に限定されるものではないからです。ボウルピィ自身も、子どもの精神的健康に「母性的」愛情が不可欠だとしつつも、母性的養育者は必ずしも一人でなくてはならないとは言っていないのです。すでに、この辺から誤解があるようです。特定の人というのも、一人の特定の人と思い込んでいる人を多く見かけます。子どもは母親以外の人物に対しても愛着を形成し、母親、父親、保育者、それぞれに異なるタイプの愛着を形成するという報告もあるそうです。

幼少期に形成された愛着が、成長後もその人の社会性に影響を与えているかも定かではないそうです。仲間との社会的関係は母親との愛着のタイプでは決まらないという報告もあるそうですし、愛着のタイプも、成人後も不変な人もいれば、そうでない人もいると言うのです。共同保育をするというヒトの子育ての特微や、子どもの柔軟性を考えると、初期の養育者のみとの関係性がその後の人生をすべて決めてしまう、と考えるほうがおかしいかもしれません。ただし、虐待については、その後の子どもの発達に重大な影響を及ぼす恐れがあることは言うまでもありませんが。