ペアの役割

セックスに見られる特徴も、ヒトが基本的にペアを維持する種であることを示しているそうです。発情期にのみ交尾する多くの霊長類と異なり、ヒトはいつでもセックスできます。また、女性がいつ排卵期にあるかは、行動や外見の特徴からはわかりません。妊娠可能な排卵期にある女性にのみアプローチする移り気な戦略がとれなくなり、確実に自分の子どもを残したければ、男性はペアをつくった女性と常に一緒にいる必要があるというのです。女性のほうも、ペアをつくって男性をつなぎとめておくことで、子育てや外敵からの防御に男性の協力を得られます。繁殖のためだけでなく快楽のためにヒトが行うセックスには、こうした男女のペアを維持するはたらきがあると考えられているそうです。

ヒトではさらに、ペアを基本とする単位が集まり、なわばりをつくって敵対することもなく、友好的に共存して大きな集団をつくります。しかし集団間ではかなり敵対的な闘争が起こることもありますが。ほかの霊長類は基本的に、集団のほかのメンバーの前でも平然と交尾を行います。しかし、ヒトは他者の目の届かない場所でセックスをします。ヒトでは、浮気を誘発することのないようにセックスが隠蔽されたのではないかとする説があるそうです。

直立二足歩行と脳の大型化のため、ヒトの出産は特に難産です。腰やお尻の部分にある骨盤は、二足歩行を支える重要な部位であるとともに、その内側には産道が通っています。二足歩行に適応したヒトの骨盤では、産道が湾曲して中央部が狭くなっており、胎児の頭がぎりぎり通れるだけの幅しかありません。これ以上産道を広げようとすると、骨盤の脚のつけ根が離れていき、足を踏み出すたび体の軸が左右にぶれて、二足歩行のエネルギー効率が低下します。そのため、胎児の頭がかなり通りづらいにもかかわらす、ヒトはこれ以上産道を大きくできなくなりました。

そして、ヒトの出産には命の危険がともなうようになり、医療の介入がない場合、出産によって母親が死亡する割合は1.5パーセントにのぼるとする報告もあるそうです。その一方、四足歩行をするほかの大型霊長類ではこうした制約がないため、胎児の頭に対して産道のサイズはわりと余裕があります。

大きくかたい頭を通すため、胎児のほうにもヒト独自の特徴が見られます。ヒトの産道の入口は左右に幅広で、出口は前後に広くなっています。前後に長い頭を通すため、胎児は、産道の入口では頭を横に向け、中央部で90度回転し、出口では頭を後ろに向けて出てきます。そして幅広の肩を通すため、また回転します。また、頭の骨は複数のパーツからなりますが、胎児の段階ではそれらがまだ完全にはくっついていません。頭の形が少し変わることで、産道の通過の困難さをやわらげます。

新生児の顔の向きも問題になるという説があるそうです。産道から出てきた新生児の顔は、ニホンザルなどの小型の霊長類では一般的に母親の腹側を向いていますが、ヒトでは背側を向きます。これは、胎児の頭の中でも最も大きくかたい後ろ側が、産道をどう通るかが異なるためだそうです。新生児が母親の腹側を向いていれば、母親は頭を出した新生児をひっぱって取り上げることができます。しかしヒトのように背側を向いている新生児を母親がひっぱると、新生児はエビ反りする方向に曲がり、場合によっては脊椎を損傷してしまいます。このため、ヒトの出産では産婆や親類などの他者がつきそい、胎児がなかなか出てこない時には、母親に代わって取り上げてやる必要があります。しかし、ヒトに近縁なオランウータンやチンパンジーでも、新生児の顔は母親の背中を向いて出てくるという報告もあり、頭が背中を向くと他者のつきそいが必要になるという因果関係に疑問を呈する研究者もいるそうです。