親の影響力は?

まず、人の子育てを考えるうえで、そもそも「子育て」とはどのような意味があるのでしょうか?その時の親の役割とは何でしょうか?この本の中では、進化の中で子育てをまず捉えています。この章を受け持っているのは、慶応義塾大学文学部准教授である平石界氏です。

まず、彼が最初に本書で取り組んだのは、親は子どもの成長にどの程度の影響力を持っているかという課題です。このテーマは、ブログで紹介したジュディス・リッチ・ハリス氏を思い出します。彼女は、親の影響は、思っていたよりも少ないことを唱えました。平石氏は、どのように考えているのでしょうか?こんな問いかけをしています。「親が子育てをがんばればがんばるほど、子どもはもっとすこやかで、もっと賢く、もっと豊かな人間性を持つよう成長するのでしょうか。」

これに答えるために、平石氏はこんな論文を紹介しています。それは、彼によるとかなり衝撃的なものでした。その論文によれば、「賢さ」や「人柄」などに家庭環境が与える影響は、ごくごく小さいというものです。その論文は、バージニア大学のヒュースコットハミルトン心理学教授である、エリック・ネイサン・タークハイマーという人の論文です。彼は、特に遺伝子と環境の相互作用に関して、社会経済的地位とIQに対する遺伝子の影響を研究することで知られています。このテーマも、よくいろいろな人が研究しています。彼は彼の同僚と、2003年の研究で、環境が低所得の子どものIQの分散の約60%を占めているのに対し、遺伝子はそのほとんどを占めていないことを発見しました。

その研究からすると、平石氏は、たとえば「ほにゃらら教育法」で三人の子どもを育てたとしても、三人が揃いもそろって天才児・人格者に育つとは限らないということになるというのです。

この遺伝子による影響を調べるのには、双子の研究がよく行われます。なぜかというと、先のタークハイマー氏の論文の主張は、「行動遺伝学」という研究分野での数十年にわたる研究成果に基づくもので、その行動遺伝学における中心的な研究方法のひとつが双生児研究だからです。双子研究は何度も取り上げているので、随分と重なる部分も多いのですが、確認のため、平石氏の説明を聞いてみます。

世の中には一卵性双生児と、二卵性双生児がいます。見た目がそっくりな二人は、大体一卵性双生児です。似ているけど「そっくり」とは言えないね、となると二卵性双生児であることが多いです。それではなぜ二つのタイプの双生児で「そっくり度」が違うのでしょうか一卵性双生児の二人は遺伝子が同じだからでしょうか?そうだと言います。顔のつくりには遺伝の影響が大きいので、遺伝子が同じ一卵性双生児の二人は見た目もそっくりになるのだと考えられます。もしも顔の造作に家庭環境、たとえば毎日の食事などが大きく影響するなら、二卵性双生児も見た目がそっくりになるはずです。

それでは顔以外のこと、たとえば双生児二人の「賢さ」や「人柄」のそっくり度を調べたら、どのようになるでしょうかと平石氏は問うています。これらについては、数十年にわたって研究が行われてきたそうです。