思考の実行機能については

思考の実行機能については、たとえば頭を切り替えられることと、切り替えられないことを比べた場合、前者のほうが大事であることは間違いないと森口氏は言います。そういう意味で、思考の実行機能には安定感があり、その結果として、子育てや訓練の効果が比較的出やすいのです。

思考の実行機能が現在注目されている二つ目の理由は、小学校以降の学校生活への影響力が大きいと考えられているためです。ダニーデンやイギリスの研究から、実行機能は子どもの健康や経済状態に影響を与えることが示されているものの、どのような実行機能が、子どものさまざまな指標にどのように影響を与えるかが明確ではありません。実際、実行機能が高い子どもが、大人になったときに経済状態が良いという結果が事実だとしても、そこに因果関係があるのかどうかについて疑問を持たれる人もいるかもしれません。「子どものときに実行機能が高いから、大人になってから経済状態が良い」というような因果関係と、「子どもの頃に実行機能が高かった人が、大人になってからたまたま経済状態が良い」というような相関関係とは大違いです。この点は注意深く考える必要があると森口氏は言います。

そのため、最近では、思考の実行機能と感情の実行機能が、具体的に子どものどのような行動や能力に影響を与えるのかが検討されています。その効果が大きいのが、子どもの就学準備性に与える影響です。就学準備性とは、幼稚園や保育園に通う幼児が、小学校へ入学するためのスキルを身につけている状態かどうかということです。「小1プロブレム」などの言葉がある通り、幼稚園や保育園から小学校への移行は子どもにとって大きな問題となります。幼児期に、小学校に入るための準備が必要となってきます。

就学準備性には大きく分けて二つあると言われています。一つは学力の準備性です。小学校に入ると、国語や算数などの教科を本格的に習うことになります。それらの教科を学ぶためには、基本的な文字や数の知識が必要となってきます。たとえば、ひらがなの読み書きや、数を数える能力、簡単な足し算や引き算などが該当します。数多くの研究から、幼児期に思考の実行機能が高い子どもは、就学前後の学力準備性が高いことが報告されています。とりわけ、算数やその基礎となる知識の獲得に大きな影響力を持つことがわかっています。

さらに、思考の実行機能は、社会的・感情的準備性にもかかわることが示されているのです。こちらには、プレゼントをもらったらどのような気持ちになるのかなどのように相手の気持ちを正しく理解する能力や、困った相手を助けるような行動が含まれます。これらの能力は、学校生活において、クラスメートや教師とうまく付き合っていくために必須です。思考の実行機能が高い子どもは、社会的・感青的な準備性も高いのです。

一方、感情の実行機能は、主に問題行動とかかわります。たとえば、感情の実行機能が低い子どもは、怒りやすく、クラスメートとトラブルになりやすかったり、友達との共同作業が苦手で孤立しやすかったりします。このように、思考の実行機能も感情の実行機能も、小学校以降の学校生活に重要な役割を果たしますが、現在のところ、思考の実行機能は学力と関係することもあり、こちらに注目が集まっているのだそうです。