効果の期間

大入でも実行機能を鍛えることは理論上可能ですが、これらの研究に問題がないわけではないと森口氏は言います。たとえば、訓練をすることで実行機能が向上したとしても、その訓練を継続しない限りはその効果は一時的なもので、3カ月後などに再調査すると、訓練の効果がなくなっているそうです。筋肉もそうですが、やはり鍛え続けることが大事なようだと彼は言います。少しの間だけ訓練したところで、その効果は長続きしません。また、実験室のなかで実行機能が鍛えられるように思えたとしても、日常生活で必要とされる問題にはあまり役に立たないことも知られているそうです。

研究者の間でも、この問題については意見が大きく分かれているそうです。2014年に、心理学者や神経科学者らが、実行機能を含む認知機能の訓練は、訓練されたテスト以外にはあまり応用できない、効果がないという声明を発表したそうです。ところが、面白いことに、同じ2 014年に、別の研究者とセラピストらが、認知機能の訓練は訓練されたテスト以外にも効果がある、という声明を発表しているのです。全く正反対の声明が発表されているのです。一般向けにも「脳を鍛えるゲーム」が多く発売されていますが、ものすごくがんばって鍛えても、効果はわずかであり、訓練をやめたら効果はなくなり、しかも、日常生活にはあまり活かされないことがわかっています。

このように、大人になって実行機能を鍛えることは簡単ではなさそうだと森口氏は言います。彼は、実行機能を鍛えるよりも、実行機能がどのような状況下でうまく働かなくなるのかを理解し、ここぞというときに実行機能がしっかりと働くように準備することが大事だと思っていると言います。そのような心得をいくつか紹介しています。

まずは、感情の実行機能については、誘惑をできるだけ避けることだと言います。マシュマロテストに参加した子どもがマシュマロを見ないことで誘惑に耐えることができたように、ビルやタバコ、性的刺激などの誘惑をできるだけ目にしないようにすることが大事だと言います。これらを目にしてしまうと、私たちのアクセルが全開になってしまい、ブレーキが利かなくなってしまいます。お酒を控えているときには居酒屋を、禁煙時にはタバコの自動販売機をなるべく見ないようにすることが大事だと言います。

次に、感情の実行機能にも思考の実行機能にも言えることですが、ストレス時にはブレーキやハンドルの機能が著しく低下してしまいます。仕事で疲れているとき、人間関係でトラブルになったとき、感情や思考をコントロールすることはできません。強いストレスを感じているときには、休息が必要だと言います。関連して、睡眠不足のとき、不安なとき、抑うつ気味なときのように、精神的に健康ではないときにも実行機能はうまく働きません。このようなときに大事な決定をすることは避けたほうが無難だと森口氏は助言します。

また、筋肉のたとえのように、筋肉に似た側面もあります。たとえばべンチプレスをした後や、ダンベルで腕を鍛えた直後は、筋肉は十分に働きません。これと同様で、実行機能を使った直後には実行機能はうまく働かないと言います。たとえば、せっかくビールの誘惑には抵抗できたのに、タバコに手を出してしまうかもしれません。このような状況下では実行機能はうまく働きません。大事なときには、誘惑のある状況に身を置かないことが大事だと森口氏は言うのです。