柔軟な社会

今回は、このブログで「正解は一つじゃない子育てする動物たち」(東京大学出版会)という本を紹介しました。その中で、ヒトの子育てに関する章だけをとりあげましたが、そのタイトルのように、この本では、様々な動物の子育てが書かれています。ゴリラやチンパンジー、オランウータンなどの霊長類はもちろん、ラットやマウス、ハト、トゲウオ、ペンギン、ネコやイヌ、イルカ、昆虫のアリなど様々な動物の子育てのかたちを紹介しています。そこには、ヒトと共通なもの、ヒトと似ているもの、驚きの子育て戦略などがあります。このブログでは、それらの子育ての紹介はしませんが、最後に総合研究大学院大学学長である長谷川眞理子氏が、執筆しているあとがきの一部を紹介します。

彼女は、この本の特徴として、動物の子育てを紹介する本はいくつもあります。しかし、それは、どれか一つの動物について取り上げ、その動物から「学ぶ」という趣向の本が多いようです。しかし、本書の目的はそういうことではないと言います。その趣旨をこう言っています。「こんなにも多様な子育ての様子を知った後で、お父さんだけが子育てするトゲウオを見て、「お父さんだけでがんばりましょうね」などと言うわけにはいかないし、ほとんど社会生活というもののない単独性のオランウータンがお母さんだけで子育てするのをお手本に、「お母さんとの絆が一番です」などと言うわけにもいかないでしょう。では、子育てとはなんだろうと、本書は、より大きな視点から考える目を持たせてくれるのです。」

そして、それぞれの動物の子育てを紹介した後に、執筆者たちの自身の子育て経験に関する話がついています。それについて長谷川氏は、「それがまた面白いのです。周囲のさまざまな人たちに助けられながら子育てをし、研究を続けている話は、どれも示唆に富み、読む側に力を与えてくれます。」とあります。

さらに、最近の日本の現状をこう表現しています。「労働力不足と経済の停滞からか、女性にももっともっと働いてもらおうという風潮が強まっています。ところが、保育所の数は足りず、子育てしながら働く環境が整っているわけではありません。保育所に入れない待機児童の数は、全国で4万7000人以上です。なぜまだこんな状態なのかと言えば、高度成長期に『男は仕事、女は家事・育児』という役割分担が普通になってしまい、その後の社会の変化に全く適合できていない後遺症なのです。そして、少子化が進んでいます」と分析しています。

さらに、こんな社会状況がある一方で、「子どもはこういうふうに育てるべき」という、固定観念のようなものがたくさん転がっていると言います。古い考えが多く、「母性神話」「三歳児神話」など、神話と呼ばれるものも多いですが、相変わらず神話は存続し、信者はいなくならないと嘆いています。そのような状況の中で、動物の行動を研究する科学者たちは、少し異なる視点から子育てについて考えられる材料を提供しようと試みています。こうして、さまざまな動物の子育てをずらりと並べて見てみると、ヒトという動物の特徴が浮かび上がってくると長谷川氏は言います。

ヒトは社会生活をする動物です。脳が非常に大きいので、こんな大きな脳を持つ子どもを育てるのは、大変な仕事です。大人がいろいろと複雑な仕事をこなす生活をしているので、そのような大人に育て上げるまでの期間も長いのです。この大変な子育ては、母親のみ、父親のみ、といった片親でできるものではなく、両親のみでてきるものでもありません。ヒトの子育てには、血縁・非血縁を含めた多くの他者の協力が必要だと言うのです。これが、ヒトの子育ての原点だと言うのです。貨幣経済が浸透し、産業化が進み、都市化が進んで職住近接が壊れ、「専業主婦」という存在が出現するなど、ヒトの社会は常に変化してきました。その中で、時代に即した子育てに関する固定観念の数々も生み出されてきたのでしょう。「いろいろな固定観念を崩し、ヒトの原点は忘れずに、より多くの人々が子育てを楽しめる柔軟な社会をつくっていきましょう」と呼びかけて締めくくっています。

柔軟な社会” への4件のコメント

  1. 子育てに関わる全ての人の願いでもあるような「より多くの人々が子育てを楽しめる柔軟な社会」を作るという言葉は、より多くの子育て方法を知ることから始まるように、今回の章を読んでいて感じました。それが、ヒトだけに関わらず、イルカやアリやチンパンジーであるのですね。「人は人」「よそはよそ」と言いながらも、社会や世間といったものを自然に受け取り、自ら発信してしまっていることがあります。それらは、子育てでも言えることで、産まれた時は「優しく健康であれば…」と願いながらも、次第に他との比較やみんなと同じようにを望んでしまうのが育児であるかのように思ってしまう印象があります。子どもをどうするかよりも、子どもを見守る大人側の視点の柔軟さや、社会の寛容さが問われていることを改めて感じました。

  2. ホモサピエンスは現在、この地球上に70億人以上生きています。クジラやライオンはどれくらいの数生きているのでしょうか。チンパンジーやゴリラは。かつてヒト族のネアンデルタール人やフローレンス人などは滅び去りました。ヒト族の中で私たちホモサピエンスだけが70億人以上も存在している。向こう10年間で100億になるとか。このように他の動物に比してこれほど地球上に蔓延るようになった私たちの特徴について子育てを考える時振り返える必要があります。ところで、ホモサピエンスも殺し合いをします。年間50万人くらいが亡くなっているそうです。それでも増え続けているのは、殺し合い以上に大切にしていることがあるからでしょう。それは協力し合う、助け合う、互助や貢献、そして殺し合いをしながらも基本共生、という考え方があるからでしょう。「ヒトは社会生活をする動物」ですから、ヒトの育ちも社会で保障していく必要があると思います。子育ては家庭で、という考えのおかしさにみんな気付いてほしいと思います。

  3. 「高度成長期に『男は仕事、女は家事・育児』という役割分担が普通になってしまい、その後の社会の変化に全く適合できていない後遺症」役割分担で成立していた時代に育ったかといえばそうでなく、むしろそれこそ刷り込みとして、一つの価値観として、そのような男性像、女性像というものがある、という程度で成長をしました。同じような境遇で生きてきたにも関わらず、社会がこうもこのような役割を強く認識して手放せないような社会になっていることに改めて疑問が湧いてきます。神話にしても本当に古い価値観だと思うのでうが、それが根強い理由を理解することがとても難しいです。

  4. 「ヒトは社会生活をする動物です」「ヒトの子育てには、血縁・非血縁を含めた多くの他者の協力が必要だと言うのです。これが、ヒトの子育ての原点だと言うのです」という言葉からは保育において大切にしなければいけないことが見えてきますね。人と関わることであったり、他者がいる集団の中で生活し、他者との関わりの中で多くのことが学ぶことが人にとって自然なことであり、それを経験することで、人は成長していくということが分かります。しかし、核家族化が進み、周囲に親戚も、親しい人もいないという現代では子どもたちがこのような学びを行えるのは保育園や子ども園といった施設でしかできない体験になっていますね。だとすると私たちがやらなければいけないことは明確です。これに関しては常に藤森先生が言われていることですね。

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