脳内の仕組み

感情の実行機能と思考の実行機能は、どちらも幼児期から児童期頃までに発達することがわかりましたが、このような変化はなぜこの時期に起こるのでしようか。森口氏は、次にこのような変化を引き起こす脳内の仕組みについて説明しています。

最近では、テレビや新聞、インタ1ネットの記事などで、脳に関する話をよく見かけるようになりましたが、森口氏は、「脳科学に基づく記憶術」「〇〇をすると脳が若返る」「男女の違いは脳にある」などの多くは科学的根拠が乏しいのですが、脳研究の進展によって一般にも浸透してきたということだと考えています。そこで、彼は、実行機能に関係のある脳について考察しています。

私たちの脳の表面にある大脳皮質は、前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉の四つの領域から構成されています。このなかでも、実行機能と最もかかわりのある脳領域は、前頭葉だと言います。前頭葉の重要性については、何度かブログの中でも紹介しましたし、一時ずいぶんと話題になった時期もありました。もともとは、事故などで損傷した患者から示されたのです。最も有名な患者は、フィニアス・ゲージという人物です。この患者は、19世紀の鉄道労働者でした。もともとは、非常に責任感が強く、親しみやすい人物だったそうです。ところが、仕事中に事故にまき込まれ、鉄の棒が頭を貫通してしまいました。何とか一命をとりとめたものの、前頭葉の一部の領域が損傷されてしまったのです。

事故の後、この患者の心に大きな変化が生じました。最も大きな変化は、自分をコントロールすることができなくなったという点です。とても思慮深かったこの男性は、感情を抑えることができず、同僚への気配りもほとんどできなくなってしまいました。このような事例から、前頭葉の働きに注目が集まるようになったのです。

その後の研究で、一部の前頭葉損傷患者は、切り替えテストが苦手であることが示されたそうです。ブログで紹介したテストは子ども向けなので、大人ではもう少し難しいものを用いるそうですが、このようなテストで、前頭葉を損傷した患者は、ルールを切り替えることができないそうです。

このような研究結果から、前頭葉は、自分をコントロールする能力である実行機能の中枢であることが指摘されるようになったのです。前頭葉にもさまざまな領域があるそうですが、前頭葉の前方に位置する前頭前野が、特に実行機能に重要な役割を果たしていることがわかっています。この前頭前野を中心にして、さまざまな脳領域が活動することで実行機能が成立しているのです。

感情の実行機能と思考の実行機能に分けて、具体的に脳内機構を考えます。すると、感情の実行機能には、アクセルとブレーキの二つの側面があることは説明しました。食べ物など自分にとって価値があるものを見たときの欲求に該当するのがアクセルで、アクセルの働きを抑えるのが、ブレーキでした。面白いことに、私たちの脳内に両者に対応する働きがあるそうです。

脳内の仕組み” への6件のコメント

  1. 実行機能が大脳皮質の前頭葉にある、ということは当ブログを読み続けているので、なるほどと頷くことができます。「19世紀の鉄道労働者」の話に関しては、間違っていなければ、ミラーニューロンか何かの時に教えて頂いたことです。とても衝撃的な印象を抱いたことを今も覚えています。そして今回また紹介され、ミラーニューロンどころか、どうやら非認知能力の中でも最も重要な役割を果たす実行機能に関わることがわかると、前頭葉しかも前頭前野の重要性を認識しなければなりません。そしてその脳機能が発達する環境が当然あるでしょう。遺伝もあるとは思いますが、どんな環境の中でその脳発達が遂げられていくのか。実行機能の発達こそは民主的で平和な社会の形成に必要なことでしょう。この機能が発達していない人々の割合が多くなればなるほど、形成される社会は危ういものとなるのでしょう。この機能を発達させる環境について私たちは知らなければなりませんね。

  2. 脳内のメカニズムを知ることは、不慮の事故からの事例を参考にするという方法をとらざるを得ない部分もあることを感じました。同時に、脳波だけでなく、様々な視点からの研究やアプローチの大切さを感じます。また、前頭葉の前頭前野の働きによって実行機能が機能するということがすでにわかっているというのはすごいですね。脳は後ろから前に発達すると以前学んだ気がします。つまり、前頭葉は最後の方に発達する部分であると考えると、3,4歳ではなく5,6歳であるというのも納得できますね。

  3. これまでの人類史でいろんな事故、怪我などがあったと思いますが、不慮の事故からの気づきが脳の研究のきっかけとなっている事実に複雑な気持ちになります。ですが、失敗から学ぶこと、それもまた繰り返さないための人間の生きる術となるのかもしれませんね。
    そして、前頭葉と前頭前野という脳の部分は現代の社会を生き抜いていくためにはなくてはならない部分であるのではないかと思います。この部分の発達というのは自分たちは知っておく必要があることを感じました。

  4. まだまだ脳のメカニズムが完全に分かってきているとは言い難いのでしょうが、多くの事例に応じて、少しずつひも解かれてきているのが分かります。そして、そういったひも解かれたことがただ単に人類の神秘ということだけではなく、科学的な側面も含めた教育や保育にもつながるということにとても面白さを感じます。まさかそことここがつながるとはといった感じです。しかし、人の進化と社会は繋がるものであり、社会と教育はつながるものです。より良き社会のためにこういった研究の成果を利用するに越したことはなく。では、こういった研究にどう着目し、どう生かしていかなければいけないかを考えるかということが現場では求められます。広い視野から得たものを保育に生かすという姿勢はこのブログから学んでいます。

  5. 理性を司っているまさに人が人であるための、そして野生の動物とは一線を画すための部位が損傷を受けてしまっても、人は生命活動を何ら問題なく続けていけるというのは何だか少しむなしくも思います。生命活動を行うのに全く影響がない部位なのにその人のその人らしさやアイデンティティーは失われてしまうんですね。ただ逆に言うとやりたいことを抑える力がなくなったということはその人の本来の欲求が表出したとも言えるのでしょうか。人の脳というのは私の理解力ではまだまだ少しも理解できません。

  6. 脳の損傷で全く人格までもが変わってしまうことがあるのですね。
    年を取るにつれて頑固になってしまうのは脳機能と何か関係があるのでしょうか。アクセルとブレーキ、どちらとも必要であり、いかにバランスを取れるかが社会生活にとっては重要ですね。

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