日本での研究

1958年・1970年のどちらの研究でも、教師が評定した結果から、子どもたちは、実行機能が高い群、中程度の群、低い群の三つに分けられ、それぞれの群の失業率を調べました。その結果、実行機能の違いによって、成人してからの失業率が、1〜2 %程度違うことが明らかになっているそうです。実行機能が高い群は、中程度の群よりも、失業率が低く、中程度の群は低い群よりも失業率が低いということです。この研究でも、子どものIQなどを総合的に評価しているそうです。マシュマロテストとは異なり、ダニーデンとイギリスの研究から、子どもの他の能力や家庭環境を差し引いても、実行機能が将来にわたって重要であることが明らかになったのだと森口氏は考えています。

森口氏は、ここまで、主に国外の研究から、自分をコントロールする能力、すなわち、実行機能が子どもの発達に重要な役割を果たしていることを紹介してきました。では、日本ではどうでしょうか?わが国にも、イギリスやアメリカとは規模や内容は異なりますが、いくつかの長期縦断研究があるそうです。有名なものとしては、環境省による、化学物質などの環境中の有害物質が子どもの発達に及ぼす影響を調べるエコチル調査や、厚生労働省による21世紀出生児縦断調査などがあるそうです。しかし多くの調査で知能や子どもの社会性の発達は取り上げられているのですが、子どものときの実行機能と大人になってからの経済指標や健康指標との関係についての科学的に妥当な証拠は、現在のところ森口氏が知る限りないと言います。

そもそも、日本では実行機能についての理解は十分ではないのが現状だと言うのです。アメリカ出身の医学者の知人が、日本の学校や医療機関で働いているときに、大いに困惑していたそうです。アメリカでは現在、実行機能の重要性が広く知られており、教育や子育てに生かそうという動きが広がっているので、日本でも同様だと思い込んでいたようです。ところが、実行機能を周りの教師や医療関係者は全く知らず、明らかにこの能力に問題を抱えている子どもに接していても、その問題に気付かないというのです。森口氏の感覚としても、実行機能という言葉は研究者の間では知られていますが、研究者以外の教師や保育士、行政の方々には通じないことがほとんどだと言います。この言葉を文字通りに読んでみても、イマイチ意味はビンと来ないのではないかと言うのです。ただし、教師や保育士の方も、この能力に無関心であるわけではないと言います。森口氏が以前勤めていた教育大学には、小中高の教師や特別支援学校で働く教師の方々が派遣されてきていたそうですが、なかにはこの能力に関心を持ち、研究をされている方もいたそうです。

また、彼が保育士や幼稚園教諭に実行機能の重要性を説明しに行くことがありますが、その際には彼の話を熱心に聞いてくれる先生方も少なくないそうです。最近は日本でも少しずつデータが集まりつつあり、わが国においても、子どものときの実行機能が、後の学力や人間関係に影響を及ぼすことが示されています。そのため、やはり日本においても実行機能は子どもの発達に重要だと考えていいのではないかと森口氏は言うのです。

日本での研究” への7件のコメント

  1. セルフコントロール、と言っても子どもたちにそんなことできるの?という感想が聞こえてきそうです。ましてや「実行機能」なる四字学術用語を言われても、子どもたちと直接触れる先生たちには確かにピンとこないかもしれません。それでも、実行機能について説明していくと、その先生たちも、なるほどなるほど、と頷きながら理解を深めていくことでしょう。もっとも、理解を深めても、現場の先生たちにとっては、じゃあ、どうしたら子どもたちの実行機能が向上するの?という疑問が聴いたその時湧き上がり、翌日保育現場に臨めば一昨日と代わり映えのしない保育実践を行っているのかもしれません。現場としては、どのような実践が子どもたちの「実行機能」の培いに資するのか甚だ疑問に思うところでしょう。何はともあれ、当ブログに接することによって「実行機能」の大切さに気づくわけですから、森口先生の講義を直に聴くか、あるいは本を読むか、そうでなければ、臥竜塾ブログを丹念に読むことでしょう。3つ目を推奨します。

  2. 思考や行動をコントロールできない大人は、社会にはたくさんいます。そんな方々は、どのような幼少期を過ごしていたのでしょうか。また、どのような人たちに育てられてきたのでしょうか。視点を変えてみて、その方々を教育・保育してきた大人は、何を大切にしていたのでしょうか。その「何を」が、昨今では変化してきただけでなく、より明確に科学的根拠に基づく内容になっていることは感じています。自分に振りかかってきた問題に対してどのように感情を抑制して対応するのか、その問題を打開するために思考をどのように切り替えるのか、これまでの経験から得た知恵を使ってどのように新たな能力へと更新していくのか。そして、我々はその能力をどのような環境を用意して、子どもたちが自ら獲得していけるようコーディネートしていくのかが問われています。実行機能を深めていく過程には、改めて、大人の役割を再認識することに繋がる印象を持ちました。昨日の茨城新聞に、取手にある小学校が、過去に起こったいじめの影響による自殺への対策として「複数担任制」をすすめる意向を示していました。少しずつですが、教育は変化していますね。

  3. 「最近は日本でも少しずつデータが集まりつつあり、わが国においても、子どものときの実行機能が、後の学力や人間関係に影響を及ぼすことが示されています。」とあり、日本でも研究がなされているのですね。非認知能力は最近ではよく耳にする言葉ですが、実行機能は藤森先生のブログで知りましたが、日本としては実行機能に関しては海外に比べて遅れてしまっているのですね。

  4. 実行機能は確かに日本においてはそれほど認知されていないですね。私もこのブログを読んでいなければ、知らなかったことだと思います。そもそも、子どもの教育や保育において、大人主導で教育や保育が進んでいくシステムの中、子ども主体や子ども自身が物事を決めていくということに抵抗がある現場において、「分かっていても、なかなか実践できない」といったことも多くあるでしょうし、「そんなのは理想だ」と言われることも多くあります。全く嘆かわしいことですが、だからこそ、実践とともに発信していくことが求められるのでしょうね。実行機能のように、「子ども本来の力」というものが見直され、白紙論ではなく、有能論を中心とした子ども環境や教育環境が整っていくことが今後より重要視されていくでしょうが、そのためには子どもを取り囲む大人がこういった子どもに本当に大切な能力に目を向けていくことは非常に重要なことだと思います。教育や保育をするべき本質である「社会を形成する資質」ということがどういったことであるのか、そのことにもっと目を向けていくことが、結果として実行機能を養う環境を作ることにつながるようにも思います。

  5. この一年で何度か研修に出させていただくことがありましたが、講師の質というのは今後の日本の全ての職業で求めていくべきものだと感じました。確かに実行機能を知らない教師や保育士は多くいるでしょうが、実行機能について知りたくない教師や保育士は一人もいないと思います。もちろん自らの学びに行く姿勢というのは何より大事ですがそれと同じくらい講師の講話力というのも大事と言えるのではないでしょうか。

  6. 我慢する力と似て非なる実行機能という力、その言葉にもその言葉が意味する内容にも、少しずつ慣れてきたような感があります。ブログを読み進めるにつれ、理解が増すのでしょう。同時にその力が重要であることも理解できます。何を知っているかより、その知っていることを実行できるかが大事であり、知っていても出来ないこと、そこに自制心や理性が必要なことであれば尚更のことで、正当な欲ならまだしも、善悪さえも頭によぎらないようなその場の欲求に身を任せてしまうことは、確かに身を滅ぼしかねません。保育によって、実行機能が子どもに根付き得るということを理解して保育にあたることもまたとても大切なことです。

  7. 「ところが、実行機能を周りの教師や医療関係者は全く知らず、明らかにこの能力に問題を抱えている子どもに接していても、その問題に気付かないというのです」この部分は日本の教育の特徴かもしれませんね。教育というのが個人の価値観であったり、感覚的なものである気がして、科学的な根拠のもとに成り立っていないようなそんな印象があります。それはやはり教育が大人から教えるというものであり、子どもが持っている力に注目してこなかったからでしょうか。そんなことを思ってしまいます。きっと、保育者も実行機能ということを知れば興味を抱いて、学ぼうとする人がほとんどではないでしょうか。このような機能が重要であるということが、科学的根拠の元に広まっていけば、また変化も起きてくるのかもしれません。

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