実行機能と学力

実行機能と学力の関係はどうなのでしょうか?森口氏は、中学生の時のエピソードを紹介しています。彼が高校受験に臨んでいたときのことだそうです。「紅白歌合戦を見た人は志望校の入学試験に必ず落ちる」と、通っていた塾の講師が断言したそうです。視聴率低迷が叫ばれる紅白歌合戦ですが、その頃の視聴率は50%前後。中学生ともなれば流行の音楽が気にならないはずもありません。入学試験という一大事を目の前にした生徒たちは、この言葉を聞いて、一様に動揺し、当時流行していたtrfのステージを視聴するかどうか、真剣に相談したものだったそうです。

入学試験が実施されるのが、年明けの2月から3月。12月がら1月はいわゆる追い込みの時期で、ここで勉強に取り組むかどうかは、入学試験の結果に大きな影響を与えます。その大事な時期に、紅白歌合戦を見るのか、その誘惑に耐えて勉強に取り組むのか。「今日くらい、いいだろう」と考えて紅白歌合戦を見る生徒は、他の場面においても、目の前の誘惑に負けることが多いかもしれないと森口氏は言います。友達と遊びに行ったり、漫画を読んだり、ポケベルという、現在で言えばLINEなどのSNSを延々としたりして、勉強に取り組まないでしょう。一方、誘惑に打ち勝てる生徒は、他の場面でも、誘惑に抵抗し、勉強に励むことができるのではないかと言うのです。このように、実行機能と学力は関係するのだと森口氏は考えているようです。

ペンシルバニア大学のセリグマン博士らは、中学生においてIQと実行機能のどちらが半年後の学力と関係するかを調べたそうです。この研究では、IQの高さも半年後の学力に影響しましたが、実行機能にほうが、半年後の学力により大きな影響を与えたことが示されたそうです。つまり、IQの高さも実行機能も重要なのですが、実行機能のほうが学力に与える影響が大きいということだと言います。

以上の研究を見る限り、子ども期の実行機能が、大人になったときの健康面や学力に影響を与えるようです。

しかし、マシュマロテストのところで見たように、研究の信頼性の問題があるので、この研究成果が本当に正しいのかと疑いたくなるかもしれません。近年、ダニーデンの縦断研究とは異なる研究プロジェクトが、やはり実行機能が子どもの社会的成功に影響を与えることを示しているそうです。

森口氏は、次にイギリスの研究について紹介しています。イギリスでは、1958 年・1970年・1990 年・2000年に生まれた子どもたちを追跡する四つの大きな長期的な追跡研究が始まっているそうです。1990年のものと2000年のものについては、まだ十分な成果が出ていないので、森口氏は1958年のものと1970年のものを紹介しています。

バウマイスクー博士らのグループは、ある1週間に生まれたイギリス各地の子ども1万7000人が、誕生時に加えて、幼児期、児童期、青年期、成人期に研究に参加し、どのような人生を歩むかを検討しました。特にこの研究では就労状況への影響が調べられているそうですます。具体的には、子どもが10歳前後のときの実行機能を、教師が評定しました。

実行機能と学力” への7件のコメント

  1. 「紅白歌合戦を見た人は志望校の入学試験に必ず落ちる」と言っていた塾講師。これまで、自分が受け持った生徒たちの傾向をいったのでしょうかね。「その根拠は?」と、その塾講師に問いただすような学生はまた違った面白さがあるだろうなぁと想像してみました。また、ペンシルバニア大学での研究からは、IQの大切さがその後の学力に影響する以上に、実行機能の影響の方が高いという結果があるとのことで、IQ1択信仰は現代においてはもはやタブーであることを感じざるを得ません。

  2. IQに対する実行機能の優位性に関しては、おそらくそうだろうなと経験的に理解することができます。ところで受験生が大晦日にNHKの「紅白歌合戦」を観たか観ないか、そのことについては果たしてどうなのだろうかと疑問に思います。塾講師の発言は客観的というより、観ている暇があれば勉強しろ、的な檄と捉えることもできます。それでも誘惑に打ち勝つ精神力はやがて受験に臨んで更なる精神力を発揮し、ある意味で火事場のばか力を発揮する、という現象に繋がることも否とはしません。実際そうしたケースはあり得ますから。「ペンシルバニア大学のセリグマン博士ら」の研究によっても実行機能の優位性が表明されています。学力だけでなく、社会における成功も実行機能から来ていることでしょう。実行機能を培う、子どもたちの育ちの環境が必要ですね。

  3. 紅白歌合戦と合格率には実際どのくらいの関係があるのかはわかりませんが、実行機能の高さとIQの高さが比例することには頷けます。
    実行機能が高ければ、自分をコントロールし、学びへと向かう力も高いと思いますが、この実行機能を高くするためにはどのような環境が必要なのでしょうか。「ペンシルバニア大学のセリグマン博士ら」は就労状況への影響を調べ、実行機能の評価を教師がしたとありましたが、何を基準にどのように評価をしたのでしょうか。

  4. 「紅白歌合戦を見た人は志望校の入学試験に必ず落ちる」と言ったのが学校の先生ならその発言の根拠を聞き返してみたいものですが、塾の先生であるのなら、生徒の成績を上げるためのなんらかの措置でありそうな気がします。それが実行機能を駆使できる環境作りであると考えるなら、どうなんでしょうか。あまり腑におちませんが、そんな風に自分たちの時代は言われてきていたのだろうと思います。ですが、IQも実行機能の影響を多大に受けているということは、IQだけが学習には必要であるという考え方は改めていかなければならない時にきたのだと思います。

  5. この内容を見ていると、「あぁ、自分って実行機能低そう」と思ってしまいます。日本の場合、ここでの塾講師のように「勉強しなさい」ということはよく言われることは多いですし、塾講師の言うように、「先のことを考えると今は我慢することの方がいい」ということはわかっているのですが、なかなかそうもできないということはよくあることでした。ただ、確実に実行機能があり、自分で欲求をコントロールできるということが後のIQや認知能力が向上するというのは想像に難くはありません。ただ、多くの人は「我慢する」ことの大事さは結果にばかり目が向いており、「我慢している」過程においてはあまり評価されません。仕方のないことなのでしょうが、こういった過程を大切にする価値観は大人は持っていないといけないのでしょうし、そのためにもっと長い目で子どもたちの成長を見守るような視点をもたなければ、子どもも窮屈な生活を強いられているのだと思います。

  6. 目標を設定する力もも実行機能のなかには含まれるのでしょうか。私は身体が硬いため柔軟性がある人には強い憧れを持っているのですが、学生時代全く続かなかったストレッチが最近は二ヶ月以上ほぼ毎日続いています。以前ストレッチをすることを目的にするのではなく、全く別のゴールまでのプロセスにストレッチをすることを組み込むことで続くのだという話を聞き感心したのを覚えています。受験も点数を取ることを目標にするのではなく、モテるため、良い会社にはいるため、といった全く別の目標のなかに勉強を組み込むことが大事であり、その強い目標が目先に欲求に打ち勝つ力をくれるのかな、と思います。

  7. 勉強が実行機能の働くべき最大の対象事であると思うと、何だか少し寂しい気もします。その学問が楽しくて、追求したくてしている勉強であればもしかしたら紅白よりも楽しいからできるのかもからず、そういう才ではない才を持ち合わせていながら学力の向上だけを求められて進学を目指す環境にいる若い子たちは、勉強に向かっているだけで実は実行機能を存分に発揮しているのかもわからず、それをある意味では度外視して、紅白を見たら落ちるなんて、そんな可愛そうなこと言わないでほしい、と思えてきてしまいました。

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