日常的な行動や問題

私たちの脳はついつい高カロリーのものに反応してしまうようですが、現代の日本のように食料に比較的恵まれている社会では、高カロリーのものを選択することは必ずしも良いことではないようです。高カロリーのものを選びたくなる傾向をコントロールすることで、肥満や栄養の偏りを防ぐ必要があるというのです。

実行機能が高ければ、目の前にある食べ物や飲み物などの誘惑に負けないような生活慣をつくることができます。それが積み重なることによって、健康維持ができるのです。

食欲の次は、性欲について森口氏は考察しています。性欲も私たちの脳のなかに組み込まれている生理的欲求であり、ときに抗うのが難しいものの一つです。その難しさは、古代より、宗教、規範、法によって性欲にかかわる不適切な行動をさまざまに抑止しようという試みがあったことからも明らかだと彼は言います。

しかし、この性欲に負けてしまうことで、人生を狂わせる例は枚挙にいとまがありません。食欲の場合、一度くらい自分の食欲に負けること、たとえば誘惑に負けてラーメンを食べてしまうことは、それ自体が人生の大きな損失になるということはありません。一方、性欲が恐ろしいのは、これに負けてしまうと、社会的立場を失ったり、家族を失ったりすることに直結してしまいかねないことだというのです。

性的刺激は、私たちに強い誘引力を持っています。男性は特に視覚的な性的刺激に反応しやすく、性欲を抑えることに失敗しやすいので、要注意だと森口氏は言います。マーストリヒト大学のロドリゲス=ニエト博士らの研究によると、性的な刺激を見ないようにするためにもある種の実行機能が必要であるようです。

テレビやインターネットなどを通して、政治家や芸能人が、浮気や不倫スキャンダルで政治生命や芸能生命に大きなダメージを受けるという話はよく聞きます。浮気以外にも、実行機能の低い男性も女性も、見境のない性的行動をしてしまったり、避妊具を使用しなかったりということが報告されています。誰と性的行動をするかなどはもちろん当人の自由でありますが、望まない妊娠をすることによって、自分の人生の択肢の幅が狭くなることもありえるのではないかと森口氏は言うのです。

さらに、性的欲求を制御することができず、さまざまな罪を犯してしまうこともあります。性的犯罪など、被害者や当人の人生はもちろんのこと、さまざまな人の人生を狂わせしまう可能性すらありというのです。

これ以外にも、幸福感や精神的な健康とも自分をコントロールする力は関係すると言います。タバコやドラッグなどに依存するようになる等々、青年期から成人期においてさまざまな問題に実行機能はかかわってくるというのです。この点も、ユトレヒト大学のデ・リッダー博士らの分析を始めとするさまざまな研究によって示されているそうです。

タバコの値段が高くなったことや、タバコを吸える場所が減ったことなどにより、我が国における喫煙率は、年々減少しています。厚生労働省の統計によると、40年前の男性喫煙率は約73%、女性の喫煙率は約15%でしたが、2017年の喫煙率は男性約30 %、女性10%弱と、特に男性で大幅に下がっているようです。とはいえ、やめられない人がいることも事実ですし、喫煙者のなかには本来禁煙とされているところで喫煙をする人などもいます。

このように、私たち大人の日常的な行動や問題に対して、実行機能は非常に影響力を持っていることが、これまでの研究から示されているのです。