人間関係で包み込む

プレイディの率いるこのクルーが活動をはじめてから、もう三年になるそうです。あとでプレイディと話したところ、この三年でメンバー自身やクルー内の力学についてかなり深く理解したので、日々の活動を生徒たちの特定のニーズに合わせて調整できるようになった、と説明してくれたそうです。ある少年は、この年ポラリスに転校してきたばかりでした。校長室に押し入ったためにまえの学校を退学になったのです。プレイディによれば、彼はポラリスではまえよりうまくやっているけれど、トラブルの経験を完全には払拭できていませんでした。彼との挨拶と握手のときにも、春休みは「赤」だったと、静かな声で報告したのは彼だけだったそうです。プレイディはその答えはとくに気にしませんでしたが、念のため彼と気の合いそうな少年とペアを組ませ、クルーのミーティングのあとに呼びとめて話しかけ、彼が大丈夫なことを確認したそうです。

クルーは、支えてくれる人間関係で生徒を包もうという、ELの戦略の中心をなす制度です。しかしタフ氏が見たところ、Elの手法においてさらに重要な要素は教育学的側面、つまり特徴的な学習指導の実践のなかにあります。ポラリスやほかのの提携校の授業は、アメリカのふつうの公立学校の教室よりも、生徒の参加を求める双方向のやりとりが多くなるようにつくってあります。生徒の議論や、大小のグループ活動が非常に多いのです。教師が会話を先導することはありますが、一方的に講義をする時間はほかの公立高校の教師たちよりもずっと少ないのです。ELの生徒たちは手の抜けない厳しい課題を長時間かけてやりとげ、教師や同級生からの批評をもとに、それを何度も大々的に改良します。多くの場合、課題はグループで協力して取り組み、クラス全体、学校全体、あるいは地域社会に向けての発表によって完結します。それに加え、可能なかぎり評価も自分たちで責任を持っておこないます。年に二回、成績表の出る時期が来ると、親やほかの家族が生徒主導の発表会に参加するために学校にやってきます。発表会では、5歳以上の生徒がみなその学期にやりとげたことや苦労したことを親や教師に向けて話すのです。

ELのカリキュラムや実践を導くのは、教育部門の責任者、ロン・バーガーです。バーガーは、公立学校の教師として働いたり、マサチューセッツ州の田舎で教育コンサルタントをしたりして25年を過ごした後、ELに加わったそうです。そして逆境のなかで育った生徒を多く抱えるポラリスのような提携校には特別な思い入れがあるそうです。バーガーの説明によれば、こうした感情はバーガー自身の子ども時代における、不安定で混乱した家庭で四人の兄弟とともに育った体験に根差していると言います。「逆境の代償は大きかった」とバーガーは言います。兄弟のなかには、大人になってから難題や危機に直面した、あるいはいまも直面している者もいると言います。結果として、不安定な家庭が引き起こすストレスやトラウマがどのように子どもの発達を揺るがし阻害するかは、直接の体験として知っているし、子どもたちが幼少期の挫折から回復するには正しい支援が不可欠だと理解している、とバーガーはタフ氏に話したそうです。