自律性重視

自律性重視の原則は、タフ氏が2015年春に訪ねたべつの学校の教員には即座に受けいれられたそうです。シカゴのウエストサイドにある「ポラリス・チャーター・アカデミー」です。ポラリスは、全国的な非営利団体であるELエデュケーションと提携しています。この団体はエクスペデュショナリ―・ラーニングと呼ばれる探検学習の名で知られていましたが、前年の10月に名称を改めています。エデュケーションの提携校は150を超え、それぞれの学校の背景もさまざまです。都市部にも地方にもあり、自主運営のチャーター・スクールも従来型の公立学校もあり、貧困地域にも中流の地域にもあるそうです。ELのネットワークのなかでも、ポラリスはとくに貧困層の生徒の多い学校だそうです。幼稚園児から8年生までが通う学校で、91パーセントの生徒に無料の昼食、もしくは昼食の補助金の受給資格があるそうです。学校の所在地周辺、ウエスト・ハンボルト・パークは、犯罪率も失業率も貧困率も高い地区です。

タフ氏はここ何年かのあいだに、シカゴとワシントンDCとニューョーク市にあるの学校を訪ねたそうです。El型モデルを何度も調査したのは、ELがターンアラウンドとおなじく、人間関係と学習指導という二つの“道具箱”を使っているからでした。

人間関係の側面で最も重要なのは「クルー」と呼ばれる制度で、生徒たちはグループ単位で数年にわたって一緒に話し合いをしたり助言を受けたりします。このEL型のモデルは、25年前にハーバード教育学大学院と「アウトワード・バウンドUSA」との共同研究から生まれたそうです。アウトワード・バウンドの原則である、共有された課題を通して自信と知識を育てることは、いまもEL型モデルの中心部分に残っています。アウトワード・バウンドの創設者、クルト・ハーンは、「われわれは乗組員だ、乗客ではない」というスローガンで有名で、ELの「クルー」もこの言葉から取った名前だそうです。Elの生徒は全員がどこかのクルーの一員となり、クルー単位で毎日30分ほど顔を合わせて、勉強のことや個人的なことなど、生徒にとって大事な問題について話をします。ミドル・スクールやハイ・スクールになると、10人から15人ほどの比較的仲のいい子どもたちでクルーをつくります。クルーのメンバーは二年間、ときにはそれより長いあいだ替わらず、担当の教師も毎年おなじです。その結果、ELの多くの生徒にとって、学校のなかでクルーが最も帰属意識の持てる場所になります。一部の生徒にとっては、学校だけに限らず生活全般における唯一の居場所にもなるのです。

ポラリスを訪ねた朝、タフ氏は6年生のクルーのミーティングに同席したそうです。担当はモリー・ブレイディ、この学校に勤めて6年になる教師でした。月曜日、三週間の休みが明けた初日で、ブレイディはまず生徒たちに、円のなかを歩いて隣りあった人と挨拶や握手をし、休みはどうだったか尋ねるようにいったのです。その質問への答えは「緑」か「黄色」か「赤」。それぞれ「よかった」「まあまあ」「ひどかった」の意味です。ここの生徒たちはタフ氏がシカゴでBAMの活動を見学したクレメンテの教室の生徒たちより5歳下でしたが、BAMと多くの点で共通点があったそうです。敬意があり、堅苦しくなく打ち解けた様子で、会話は当面の関心事と、大きな問題である、「理想を実現するにはどうしたらいいか?」「ポラリスを卒業したらどうしたい?」というあいだを行ったり来たりしました。