科学的研究による裏付け

志望校に合格するために、ゲームをがまんして勉強に励む受験生。スポーツで勝利をつかむために、あらゆる誘惑に抵抗して研鑽を積むアスリート。会社を興すために、プライベートの時間を犠牲にして仕事に打ち込む起業家。そのあり方はさまざまですが、自分を律し、未来を信じ、目標に向かう人の姿は尊いものだと森口氏は言います。

しかし、このような目標のために自分をコントロールする力は、いわゆる「頭の良さ」とは違ったタイプの能力だと言われています。頭の良さとは、どれだけ知識を持っているのか、どれだけ速く問題を解けるのか、与えられた情報からどれだけ推測することができるのか、などを指します。このような頭の良さは、専門的には「認知的スキル」と呼ばれます。知能指数(IQ)は、認知的スキルの典型的な例です。

一方、目標のために自分をコントロールする力は、頭の良さとは直接的に関係しません。認知的スキルとは異なる能力という意味で、「非認知スキル」と呼ばれます。「社会情緒的スキル」とも言います。非認知スキルには、自分をコントロールする力の他に、忍耐力、自信、真面目さ、社交性など、さまざまなスキルを含みます。

数年前から、わが国においても、非認知スキルが子どもの将来にとって重要だと紹介する書籍やウェプコンテンツが増えてきました。しかしながら、それらの多くは、子どもの研究をしたこともない方々による、一部の研究成果に基づいた表層的な、時には誤った知識によって書かれていると森口氏は指摘します。

実際のところ、非認知スキルのなかには、IQなどと異なり、測定することすらできないものも多数含まれています。つまり、非認知スキルが大事だと言ったところで、それは絵にかいたモチであったり、科学的な研究に裏付けられているとは限らなかったりするのだと森口氏は言います。そこで彼は、非認知スキルのなかで、結局のところどのスキルが子どもの将来にとって大事なのかという疑問に答えようとしています。その答えを彼は、「自分をコントロールする力」だというのです。

それを説明するために、彼はまず「実行機能」について説明をしています。実行機能については、何度もこのブログに出てきて、心理学や神経科学の専門用語のために最初はよくつかめなかったこの機能が、次第にわかってきました。簡単に言うと、森口氏は、「目標を達成するために、自分の欲求や考えをコントロールする能力」であると言います。

実行機能は、英語で「エグゼクティブ・ファンクション」と言い、その意味は、会社組織における執行取締役であるということは以前に説明しましたが、その意味から森口氏は実行機能についてこう説明しています。

「執行取締役の主な業務は、営業をしたり、製品を作ったり、総務的な仕事をしたりすることではありません。会社の目標を定め、その目標を達成するために、営業、製造、総務などの現場に対して指示を出すことです。」

そこで、目標を達成するために、さまざまな苦難を乗り越えなくてはいけません。本業に注力するべきときに、妙な投機に手を出す誘惑にかられることがあるかもしれません。そのようなときに、執行取締役がしっかりと機能していれば、誘惑に打ち勝ち、本来の目標を達成することが可能となるのです。

ということで、執行取締役は会社組織における目標を定め、それを達成する役割を担いますが、同じように、実行機能は人間個人が持つ能力ではありますが、自分自身で目標を定め、その目標を達成するための能力であるということになるのです。

科学的研究による裏付け” への7件のコメント

  1. 非認知能力は「科学的な研究に裏付けられているとは限らなかったりする」。あると分かっていながらも、その根拠となるものが未だ明確ではないという点から、昔学んだ「ダークエネルギー」のようなものが頭に浮かんできました。数年後には、この根拠がはっきりする日も、そう遠くないなと思うのは、近年にみる科学技術の発展を体験しているからでしょう。11年前、携帯電話がこんなにも普及すると思っていた人はいたのでしょうか。仕事がコンピューターに奪われると認識していたでしょうか。誰一人思っていないことが、今この目の前で起こっているということは、これからの未来を予測するのはほぼ不可能であると感じています。しかし、傾向からある程度の予測はつくという目線から、我々は正しい情報を自ら入手していき、いち早く環境の変化に柔軟に対応していく姿勢を、子どもたちのモデルとしての実践者でありたいと思いました。不確実性の世の中においてこそ、人の真価が問われるということを身にしみて感じています。

  2. 認知スキルが点数や数値によって測定されるものに比べて、非認知スキルは非常に目に見えて数値化できるものでないことが多いというのはその性質上よくわかることであります。ある程度、数値化するというのであれば、マシュマロ実験のように長期的な追跡調査をしていかなければ分からないことが多く、その地域の偏りを無くしたりと様々な条件なども考慮するといった非常に息の長い研究をしなければいけなくなるのだろうと思います。しかし、この非認知能力は社会において、不可欠なものであり、特に「目標を達成するために自分の欲求をコントロールする」というのは昨今のニュースを見ていても欠けてきているようにも思います。スピード感のある現在社会においては、その変化に柔軟に対応することや粘り強く対応することができる人材が非常に重要になってくるのだと思います。だからこそ、こういった研究を通して、これからの社会に必要なことを知り、自分自身がその目標に向けて環境を整えていく必要がありますね。

  3. AI時代の社会において人間は二つのグループに分けられるそうです。一つはクリエーター、もう一つはサーバー。社会層を分けるのにホワイトカラーとブルーカラーとに分けられましたが、今後はどうやらクリエーターかサーバーか、ということのようです。この違いが実は今まで以上の格差になるとも言われます。サーバーは与えられたことを受け止めてやる人たち。AIに使われる人たちです。クリエーターはまさにAIを作っていく人たちのことのようです。今後は予測不可能な社会と言われます。その中でクリエイトしていく。相当の非認知能力が求められるでしょう。「実行機能」が十分に働いていなければ、簡単に安きに流れる、つまりサーバー側に属することになります。実行機能力を十分に持ったホモサピエンス集団こそが自らも救い他者も救うことになるような、そんな気がします。じゃぁ、これからの子どもたちはどのような環境においてどのような体験を重ねることが必要になってくるのか。何をすれば非認知能力が高まり、実行機能が十分なものになっていくのか。この問いの追及は自ずと子どもたちをめぐる環境の創造問題に繋がっていくことでしょう。

  4. 非認知能力を数値化するのは難しそうですね。
    社会は自分の思い通りにはならず、時には我慢も必要で、自分をコントロールしたり、立ち直らないといけないことばかりです。
    しかし、この力は自分ひとりでは身につけられないのではないかと思います。私自身、これまでの経験上、様々なことを乗り越えられてきたのは、誰かに支えられてもらったという実感があるからです。
    子ども達も見ていますと、友達同士で慰め合い、時にはケンカをしながらも、友達と一緒に遊びという目的を達成しようとしており、そんな子ども同士の関係性が築けるような環境が大事だと思います。

  5. 大人になって約20年ほどになりますが、自分の思い通りになることなんてあまりなかったように思います。社会に出ればそれが当たり前であり、自然なことであるのは当然のことですね。ですが、非認知スキルの中の特に自分をコントロールする能力が乏しいと、どうなってしまうのでしょう。困難に直面した時に「その人なりが出る」と言いますが、それは「非認知スキルがどれくらい備わっているのかが分かる」ということに言い換えることができるのでしょうか。思うのですが、人間の幸せは人との付き合いの中にあるのではないかと思います。ですが、不幸せも人との中にあるのではないかと思います。人と人のことは人間にとって特に大事なことだということだと思います。そんな大事な部分を支えている能力が非認知スキルは人同士の中でしか育まれないのであれば、できるだけそういう環境の中に身を置いてあげたいものです。

  6. 藤森先生の尊敬する点として講演などで話される内容にはほとんど確固としたエビデンスがあることです。話している内容に根拠があるというのは聞いている側はとても安心しますよね。さらにそこに藤森先生の見解や予想、そして経験談が加わることで内容がスッと自分のなかに入ってくるのを感じます。子供と接するときや子供と接している他の保育士を見ている時にこれが藤森先生が言われていたことだったのか、と振り返るタイミングが多々あるのは見透かされているようでたまに怖くなるほどです。

  7. 自分を健全に経営することができる為に、その時期に必要な学びを環境を通して与える、そう思うと目の前にいる子どもたち全員がその子自身の代表取締役であり、それを育てようとする僕ら保育士と言えるかもわかりません。就学する頃の子どもたちは会社設立から約6年、その経営状態がある意味で小学校という一律な環境の中で試されていきます。もちろんそこから育つものもありますし、新しい信念も生まれましょうが、会社の土台はやはりそこまでの時期にあるような気がして、改めて乳幼児教育の重要さを感じる思いがしました。

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