配分の偏り

入園前プログラムに教育的価値があるかどうかは、プログラムが質の高いものであるかぎりは、貧困層の4歳児が幼稚園で必要とされるスキルを伸ばすためには、確かに役立ってはいます。しかしそれでも、限られた公的資金の大部分を入園前プログラムに費やしていたのでは、3歳未満の子どもとその親を支えるプログラムのための資金が、ほとんど残らないのではないかとタフ氏は指摘します。ある見積もりによれば、アメリカでは幼い子どものための公的資金のうち、3歳未満の子ども向けのプログラムに費やされるのはたったの6パーセントだそうです。残りの九四パーセントは3歳児向け、4歳児向け、5歳児向けのプログラムに使われているのです。タフ氏は、この配分の偏りは問題であると言います。いまや、のちの成功に影響を及ばす脳の発達は、人生の最初の3年間に起こるとはっきりわかっているのだからといいます。まさに、これは最近私の講演の中の中心的なテーマです。とうぜん、これは、脳の感受性の発達が大きな根拠になっていますが、タフ氏は、どのような説明をするのでしょうか?

彼は、ごく幼い時期に発達する能力は、数や文字を操る能力ほど簡単に入園テストで測れるわけではないが、まさに実行機能と密接に関わるものであるというのです。研究者らが最近になって結論づけたところによれば、この能力は、一つの活動に長期間集中する能力、指示を理解しそれに従う能力、失望や不満と折り合いをつける能力、ほかの生徒とうまくつきあう能力などですが、この能力は、幼稚園でもその後の学校生活でも、非常に重要になるということがわかっているのです。

低所得層の子どもたちの非認知能力をごく幼い時期に育てたいと願う者にとっていちばんの問題は、入園前プログラムで経験できる程度のつくられた体験では、あまり実行機能を発達させる助けにならない点であると彼は言います。実行機能は、環境との相互作用を通して形づくられるというのです。その環境の中心となるのは、親やまわりにいる大人たちだというのです。しかし、これが政策の立案者にとってはジレンマにつながっていると指摘します。親や世話人、そして彼らが子どものためにつくりだす環境こそが、子どもの将来を改善するためにごく幼い時期に使える最も有効な道具なのですが、乳幼児への語りかけをどんなふうにするか、子どもとどういったやりとりをするか、テレピをどれくらい見せるかといった親の行動のプライベートな部分を行政による介入のターゲットとすることには、多くの人々が抵抗を覚えるために難しいのです。

このジレンマは現実の問題であり、解決策を見つけるのは容易ではないとタフ氏は言います。しかし最近彼は、ルポを書くにあたって、幼時期の子どもの環境、とりわけ人生の最初の三年の環境に焦点を合わせて活動するいくつかの組織に出会ったそうです。それは、親をターゲットとしたものもありますし、子どもを支えて育む環境を、家の外につくろうとする試みもあるそうです。どれも完璧ではないそうですが、貧困層の子どもたちの人生に早い段階で介人するための新しい指針になるかもしれないとタフ氏は期待しています。

配分の偏り” への8件のコメント

  1. これまでの、保育という分野は「子ども」に焦点が当てられてきたと思います。それは当然です。直接的な関わりをするのは保育者である我々だからです。しかし、これまでのブログの内容を見ていると、子どもだけでは限界があるというか、それよりも効果的な手段が明確になりつつあるというか、その分野をもっと幅広くとる必要があることを感じざるを得ません。それが本文の「親やまわりにいる大人たち」という言葉だと思いました。大人が不適切な育児や最近の科学的なエビデンスなどを用いた子どもの基礎知識などに関心を寄せるようなきっかけ作りや運動が重要なのかもしれません。乳幼児教育に対する比重を「子ども」から「大人」へと移り変えた方がスムーズに行くこともあるかもしれないとも感じました。

  2. 3歳未満児保育が従来と異なった形でクローズアップされている気がします。最近の中国の動きからそのことを強く感じます。一方で、3歳未満児保育に関して先駆的に取り組んできたとする我が国の実際の有り様には疑問もあります。つまり、相変わらず、赤ちゃん白紙説、実は間違ったアタッチメントによる保育、情緒の安定ということの読み取り違いによる集団保育、が我が国のあちらこちらで見受けられるのです。「脳の感受性」のデータが出ているにもかかわらず、そのことをしっかりと踏まえて話をされるのは保育界では藤森先生以外にはまだいらっしゃらないような気がします。「のちの成功に影響を及ばす脳の発達は、人生の最初の3年間に起こるとはっきりわかっている」というタフ氏の見解、藤森先生のプレゼンを後押ししますね。そして「実行機能」の大切さが明確にされています。しかし、その大切はわかっていても、じゃあどう実践するの?という段になると「解決策を見つけるのは容易ではない」となります。「人生の最初の三年の環境に焦点を合わせて活動するいくつかの組織に出会ったそうです。」海外のこうした組織と私も繋がりたいと思います。日本のように「担当制」が良いと言うのかわかりませんが、関心はありますね。

  3. 今回の内容から、自分たち保育の現場にいる人たちからの社会への働きかけが子どもたちにとって大切なものとなるように思えました。〝実行機能は、環境との相互作用を通して形づくられるというのです。その環境の中心となるのは、親やまわりにいる大人たちだ〟とあります。ということは、それを伝えていくことが、今の子どもたちが将来を生き抜いていく力である実行機能を養うことができるのではないか、と考えました。
    これまで、子どもの周りにいる大人たちへの働きかけは二の次であったように思います。子どもへの働きかけが乳幼児施設の主たる部分であったように思いますが、それを大人への働きかけも考えていくことでスムーズにいく部分も出てくるのではないかと感じました。

  4. 日本の保育の無償化においても3歳児以上が対象で、0~2歳児へのこういった対応はまだまだ遅れているということが分かります。そもそも安倍総理大臣自体が「子どもは赤ちゃんのうちは親の元で」といっているように、根強く残る白紙論はなかなか拭うことができないものであるということが分かりますし、それは何も日本に限ったことではなく、アメリカでも同じような状況があるのですね。しかし、実際の子どもたちを見ているとやはり乳児から入ってきた子どもたちと3歳以上から入ってきた子どもたちとでは子どもの様子は違っています。親が思い描いている保育の形とこういった研究をもとに考える保育とではまだまだ大きな開きがあるように思います。この差を埋めるにはやはり行政の介入も必要なのかもしれません。大切なのは大人が持っている子ども観を変えていくことが重要であり、困難でもあるように思います。

  5. 三つ子の魂百までとはよくいったものですが、実行機能が低い人でも三歳までにできる関わりに比べれば大人はより高度なことをしているにも関わらず、三歳までの関わりが今を決めているというのは基本が大切なスポーツや勉強の世界のようですね。基礎ができていなければ応用ができるなんてあるわけはないのに、それがスポーツや勉強なら誰でもわかるのに、なぜか疎かにしてしまうですね。

  6. 養育者のプライベートな部分への介入の難しさを感じると同時に、だからこそ01歳児クラスの保育があのような形態になっているのだということを改めて理解できたように思いました。先ずはその子にあった生活リズムを養育者と一緒になって考えて、それはただ園に預けてもらって子ども同士が関わり合えればそれで良いというだけでなく、関わりたくなるように、更なる良好な関わりを持てるように、先ずは健康な心と体の土台たる部分を整えていく、あのクラスの子どもたち、養育者の方々へ、保育はそういった役割もあるのだと思いました。

  7. 3歳未満児への公的資金の投入が6%というのは驚きました。確かに、3歳以上児の方が、未満児に比べると効果は分かりやすいのかもしれません。しかし、効果が分かりにくいというのと効果が小さいというのは比例しませんね。そのためにも「この能力は、一つの活動に長期間集中する能力、指示を理解しそれに従う能力、失望や不満と折り合いをつける能力、ほかの生徒とうまくつきあう能力などですが…」という子どもを見る際のポイントのようなものがあると、教育の効果、必要性がよりクリアになるのかもしれませんね。とても分かりやすい見方だなと思いました。現場の中でこれらのことは大人はなんとなく理解していて、子どもたちを見ているとは思うのですが、言葉になるということはまた大切なポイントかもしれませんね。

  8. アメリカだけでなく、日本も乳児期に対しての保育が薄いというか、3歳児以上の子ども達への教育が重要である、それこそ幼稚園が教育というイメージがまだまだ強く残っている印象を受けます。藤森先生はもちろんのこと、タフ氏も成功に影響を及ばす脳の発達は、人生の最初の3年間に起こると言っているように、乳児保育の重要性を理解して欲しいと思いますが、そのために自分たちでできることはなんだろうか?とまず、嘆くよりも自分たちの足元をしっかりと固めようと思いました。

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