環境要因の改善

タフ氏は、こう助言をします。「もし目のまえの恵まれない幼い子どもたちの人生を変えたいと思うなら、私たちにできるのは環境要因を改善すること、つまり子どもたちが日々接する大人の行動や態度を改善することなのだ。」

タフ氏の考え方の前提は、「子ども時代は連続体である」ということだと言います。ですから、もし不利な条件下にある子どもがよりよい人生を送れるよう手助けがしたいなら、プラスに働く介入の機会を連続体のなかでできるだけ多く探す必要があるということになるのです。しかしそれでもなお、6歳未満の幼い時期、もっといえば3歳未満の時期こそが、子どもの発達を促す絶好のチャンスでもあり、危機が潜む期間でもあるというのです。いよいよ、私たちが携わっている年齢に関係する部分になります。そして、これには確固たるエビデンスがあるというのです。ごく幼い時期の子どもの脳は最もやわらかく、ほかのどの時期よりも環境からの影響を受けやすいのです。のちに様々な能力を支えることになる神経系の基盤が形成の途上にあるからです。この基盤が関わる能力には、読み書き計算や比較、推測を扱う知的能力だけでなく、学校の内外で生きていくための心の習慣や力、ものの見方まで含まれるというのです。幼いころに環境から受けた影響は増幅されると言います。よい環境にいれば先々の発達にとって非常によく、悪い環境にいれば非常に悪い影響が出るというのです。

子ども時代のとくに早い時期の脳の発達については科学的理解が進んでいるのに、逆境にある子どもたちを支援する政策については、充分な取り組みがなされているとはいえないとタフ氏は嘆いています。幼時期については、子どもたちのために使われる公的資金のごく小さな一部しか提供されていないと指摘しています。社会福祉費の総額のうち、幼い子どもに使われる金額の割合を調べた最近の国際的なランキングでは、対象となった先進国32カ国中、アメリカは31位だそうです。しかも、決して多いとはいえないその資金の大半が、幼稚園にあがる直前の子どもたちのために使われているそうです。つまり、「勉強」に必要なスキルを習得する、4歳児向け向けのプログラムに使われているのだそうです。では、日本ではどうなのでしょうか?

入園前プログラムの効果に関するデータは、いくらか雑多だろうとタフ氏は思っているようです。アメリカでは、誰でも利用できる全州規模のプログラムが増えつつあるようですが、これは恵まれない子どもたちだけでなく、裕福な家の子どもたちにも提供されているようです。こうした入園前プログラムができた背景には、政治的、社会的にさまざまな理由があると言います。一つには、あらゆる階層の子どもたちに等しく利益になる政策が望まれたためです。事実、中流階級の有権者たちが力を注ぎたがるのは、貧困層のみに向けられたプログラムではないのです。しかし生活にとくに不自由のない子どもたちのための入園前プログラムに教育的価値があるかどうかは、いまも議論がつづいているそうです。複数の研究により、統一の入園前プログラムが裕福な家の子どもたちのスキルに与えるプラスの効果はほとんどないか、まったくないことが明らかになっているそうです。それどころか、マイナスの影響さえ見られる場合もあるそうです。言い換えれば、貧困層の4歳児が幼稚園で必要とされるスキルを伸ばすためには、確かに役立ってはいます。プログラムが質の高いものであるかぎりはです。

環境要因の改善” への6件のコメント

  1. 悪い環境にいれば更に悪く、よい環境にいれば更に良くといったように、「幼いころに環境から受けた影響は増幅される」といった考えからも、乳幼児教育の重要さや難しさなども垣間見ることができます。良いから悪いまで幅広い視野で物事をとらえながらも、少しでも良い「プラスに働く介入の機会」を設けることに専念するべきなのですね。また、この差は、まさに格差をも生み出す方程式のように、子どもたちのこれから生きる豊かさにも直接的に影響してくることがわかります。そして、アメリカの31位には驚きました。このような背景も含め、ヘックマン氏のペリー就学前プロジェクト結果がアメリカ全土にさらに衝撃を与えることになっていたかもしれませんね。

  2. 我が家の日めくりカレンダーの12月7日の項には次のような言葉が書かれています。「「霧の中を行けば覚えざるに衣をしめる」よき人に近づけば覚えざるによき人となるなり。」これは曹洞宗の開祖道元禅師のお言葉です。このお言葉はタフ氏の「よい環境にいれば先々の発達にとって非常によく、悪い環境にいれば非常に悪い影響が出る」ということに繋がると思います。「幼い子どもに使われる金額の割合を調べた最近の国際的なランキングでは、対象となった先進国32カ国中、アメリカは31位」これは驚くに値しないのです。なぜなら、アメリカ合衆国は国連が30年前に採択した「子どもの権利条約」に署名はしておりますが、批准はしていない。つまり、国家として、税金を投入して子どもの権利を保障しなければならないのが、批准していないので連邦政府としてどうしようもない。あとは、州単位で、ということでしょう。よってUSA連邦政府は批准せずに今まで来たのかもしれません。お金が軽減されると考えたのでしょう。果たしてその結果はどう出てくるのでしょうか?

  3. 特に環境に左右されやすい子ども時代、もっといえば3歳までの時期に良い環境に身を置いておくことがどれだけ価値のあることであるのか、ということを感じます。日本にも「三つ子の魂百まで」という言葉がありますが、このことが研究で証明されているということになります。昔の人たちはこのことが分かっていた、昔の人々は子どもをみる視点というのが非常に優れていたのかもしれませんね。その先人たちから自分たちが学ぶことは多々あるのではないでしょうか。
    また、悪い環境に身を置くとどんどんと悪くなるようなことも書かれてありました。その振り幅はある意味では子どもの柔軟性の裏返しでもあるのかもしれません。そんな大切な時期の人間と、自分たちは日々過ごしていると思うと身を引き締めなければなりませんね。

  4. 以前ある人が「発達は一年遅れると倍遅れる」といっていたのを思い出しました。そのため、その時期にはその時期の発達があり、それを大人がゆがめてはいけないという話だったのですが、「よい環境にいれば先々の発達にとって非常によく、悪い環境にいれば非常に悪い影響が出る」という話にも同じようなことが言われているのですね。また、子どもにおける資金が「『勉強』に必要なスキルを習得する、4歳児向けのプログラムに使われている」というようなことは様々なところである話だと思います。そもそもの教育のとらえ方において、大きな差があるように思います。点数や成績、学力といわれるものが前に出てしまうあまり、本来の「生きる力」につながっていないということがあるように思います。IQよりもEQ、SQといったような視点の変換も考えていかなければ、通り一辺倒の環境の変化にしかならないでしょうし、「良い環境」というそのものの見方も大きくずれてしまうように感じます。

  5. 早い時期の脳の発達について理解が進んでいるのに研究が進んでいないのはその層を伸ばすことで得られるメリットが少ないからということでしょうか。今の日本でいえばこれから先の日本のためを思えば若者向けの政策を作るのが良いとはわかっていても、投票率の低い若者向けではなく投票率の高いお年寄り向けの政策しか作らないといったことに似てるような気がしました。目先の利益だけを追い求めてしまい、長い目で見たときに取り返しがつかなくなることがわかっているにも関わらず。

  6. 以前、2歳児クラスの時に受けた保育の質によって小学4年生の成績が決まると聞きました。保育が就学後の成績に影響を与えていることを知ったのはこの時で、同時に感じたのは、保育は就学してすぐの効果よりも、就学して何年後かの効果の為に行われるものなのだということでした。学生時代に試験の為に徹夜で暗記をしたことが、今殆ど思い出せず、また、今にいくらかかの役立ちでしかないように、保育の必要な時期に認知的なことを丸暗記させても、それはやはり短期的な効果しか得られないのだと思います。

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