正しいメッセージ

ジャクソンの研究は、非認知能力が働いた結果として現れるポジティブな行動を測定するというものです。この研究は、それまでの子育ての研究との類似がいくつか容易に見てとれるとタフ氏は言います。ABCやFINDのようなプログラムにおける親のコ-チは、親たちが子どもをあやすときにどの童謡を歌おうと、どんなふうにいないいないばあ遊びをしようと、そこにはこだわりません。味つけはどんなふうでもかまわないのです。大事なのは温かい、正面から向き合ったやりとりだとわかっているからだとタフ氏は言います。そうしたアプローチはどんなふうに実行されようと、子どもたちに深い、何よりも大事なメッセージを伝えます。帰属意識、安全、安定についてのメッセージ、世界のなかでの自分の居場所についてのメッセージです。こうした認識は、曖味で感傷的にさえ見えるかもしれませんが、乳幼児の脳のなかではシナプスの形成、樹状突起の剪定、DNAのメチル化などの神経化学反応として、はっきりとしたかたちを取ります。これらすべてが、直接的であれ間接的であれ、この先の学校での成功に貢献するのだと言います。

教室で起こる連鎖反応もじつはこれと似ているかもしれないとタフ氏は言います。教師は生徒たちに深いメッセージを伝えます。たいていはそれとなく、あるいは無意識に訴えかけるように、帰属意識やつながり、能力、チャンスについてのメッセージを伝えます。こうしたメッセージは、10歳児の脳には10カ月の乳児の脳に起こるほどの影響は与えないかもしれませんが、それでも生徒の心理に、行動に、深く響くのです。子どもたちが学校への帰属意識を持てれば、自分たちの成功を信じてくれる大人、思いやりと敬意をこめて関心を向けてくれる大人から正しいメッセージを受けとれば、彼らは教室に欠かさず来るようになり、むずかしい作業にも粘り強く取り組み、学校生活のなかで数えきれないほど起こる小さな挫折や不満からすばやく立ち直れるようになるというのです。幼少期の子育てにおける親の敏感な反応によって、子どもの頭のなかに知的な物事を習得するための素地がつくりだされたのとおなじように、学校では教師からの正しいメッセージが、生徒の頭のなかにさらに進んだ、手ごわい学業に取り組むための素地をつくりだすのです。

では、そのメッセージとはどういったものなのでしょうか?教師はどのように生徒にそれを伝えればいいのでしょうか?これは現在の教育界でとくによく議論される問題で、このテーマの研究の第一人者が、シカゴ学校研究協会のカミーユ・ファリントンです。都心の高校に勤めていた元教師で、15年の勤務ののち、イリノイ大学シカゴ校で都市部の教育政策を研究して博士号を取得しました。ほかの多くの高校教師とおなじく、ファリントンも一部の生徒の行動や選択に戸惑いを覚えたそうです。生徒たちはなぜ、勉強に打ちこんで教育の恩恵を受けようというモチベーションを維持できないのだろうか?どうして彼らのモチベーションには予測のつかない浮き沈みがあるのだろうか?

2006年に博十課程での研究をはじめると、ファリントンはモチベーションに関するひたい理の最新の研究にどっぷり浸ったそうです。その中で、デシとライアンの報酬とインセンテイプに関する論文を読みました。キャロル・ドウェックのモチベーションに関する論文も読みました。

正しいメッセージ” への8件のコメント

  1. 本文を読んで中学校時代を思い出しました。ほとんどが、あやふやな記憶ですが、ある先生から言われた「すすんでトイレ掃除ができる人になりなさい」と、「気づき、考え、実行する」という言葉だけはなぜがはっきりと覚えています。当時はまだ、あまり意味はわかりませんでしたが、その先生たちの本気のメッセージが僕のこころに届いたのでしょう。そして、その一人の先生は、「気づき、考え、実行する」を見事実践している先生でした。具体的には、士気が下がった僕たちに気づき、自分にできることを考え、自らの頭を丸坊主にすることを実行した部活の顧問の先生です。大人の本気を始めて見た経験でした。この方法が正しいかはわかりませんが、何を伝えようとしているのかは感じとれました。僕はまさに「温かい、正面から向き合ったやりとり」であったと今は思っています。

  2. 見守る保育が方法を伝えるのではなく、考え方を伝える、ということと軌を一にしている、と今回のブログを読み感じました。「温かい、正面から向き合ったやりとり」や「帰属意識、安全、安定についてのメッセージ、世界のなかでの自分の居場所についてのメッセージ」。就学前の児童に接する時の大人の心得と言っていいでしょう。普段、どんなやりとりを先生たちは子どもたちと行っているか、に通じます。親とのやり取りそして先生とのやり取り。そしてもっと大事なことは、子ども同士のやりとりがどうであるか、ということでしょう。大人は、上述のような「やりとり」や「帰属意識、メッセージ」を子ども同士の間で実現できるように子どもたちをつなぎ発展させているのでしょうか。この「つなぎ発展させる」やり方として大人からのメッセージ等の発信があるような気がしました。

  3. このことを考えていくと、保育士や教育者の採用の様式にも関係してくるかもしれませんね。どうしても就職試験というと、成績やテストによるものや、ピアノの技能など、そういったもので見られることが多いですが、そういったものは「味付け」のものでしかなく、「大事なのは温かい、正面から向き合ったやりとり」ができる人を教育をするものとしては採用の要件にしていかなければいけないということが分かります。最近では様々な企業でも、筆記試験よりも面接のほうが重視されていると言われています。企業でもこういった非認知スキルといったものが企業の利益にもつながるというのかどうかはわかりませんが、教育や保育においてはより重視していきたいものです。

  4. 「味つけはどんなふうでもかまわない」昔から、日本古来の手遊びにあるような、マイナー調のような暗い雰囲気の曲が苦手でした。この度の内容を知ってそれが保育において、子育てにおいて重要でないということを知り、改めて歌の楽しさや音楽の楽しさを子どもたちと共有していくことに明るい気持ちになれたというか、重要な点を再確認できた思いがして、気持ちが軽くなります。「大事なのは温かい、正面から向き合ったやりとり」ここにあるのは子ども対大人を示しているように思えますが、それはこれまでの流れがそうさせるのであって、子ども同士は必要がない、子どもは大人に養育されるべき、という観点でないことを理解しておく必要があるかもわかりません。

  5. 藤森先生が講演などで保育の方法を教えるのではなく、考えや心構えなんかを伝えているのにはそのような意味合いがあるのだということを今回の内容から読み取りました。方法はどうでもよく〝温かい、正面から向き合ったやりとり〟をすることで子どもたちが変わる、つまり、こちらの意図や意思はどんな形であれ、敏感なアンテナを張っている子どもたちに伝わる、ということでしょう。
    そして、伝わっているのならば子どもたちは行動を自ら改めていくということで、自分たちにできることがより明確なものとなったのではないかと思います。

  6. 最近私が意識している親と保育士の役割の違いについてまた理解を深められたような気がします。もちろんどちらも暖かく応答的な関わりをするわけですが、家で両親との関わりの素地ができているからこそ園での帰属意識を持ちやすくなるし、園で関わりの素地を作ることで学校へ進んだときにさらに帰属意識を持ち挫折や不満からも立ち直ることができやすくなるのかなと感じました。見守る保育の根底にある親との暖かな関わりとそこから系統的に育まれていく社会生活で必要な力への理解をさらに深めたいと思います。

  7. とても大切なメッセージがありました。「大事なのは温かい、正面から向き合ったやりとりだとわかっているからだとタフ氏は言います」とありました。藤森先生は見守る保育の考え方を示しています。決して方法論の話をしている訳ではありません。同じ山は目指すが登り方はそれぞれでいいという話もされます。そして、三省の中には、子どもには人格が伝わるという言葉があります。保育者として思いやりをもち、子どもと接することが何より大切であるということを改めて感じました。技術論や方法論ではなく、人としてどう子どもと向き合っていくのかそれが何より大切ですね。イチロー氏も「最近の野球は技術論ばかりで、心がない」という話をされていました。これからの未来、私たち人類が大切にしなければいけないことを忘れてはいけませんね。

  8. 大人から子どもへの正しいメッセージ・・・とても深い言葉です。ブログに書いてあるように、童謡を歌ったり、いないいないばぁをしたり年齢や発達に合わせたメッセージを伝える必要がありますし、何よりも温かく、正面から向き合ったやりとりが重要ですね。これは藤森先生が見守る保育での話でよくされます。また見守る保育の三省にも通じるところがあります。こうした大人とのやりとりによって、子どもは大人の気持ちを敏感に感じ取り、モチベーションが上がり、成功する力を身につけていくのですね。

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