保護者への介入

1986年、ジャマイカの首都キングストンにある最貧困地域で、西インド諸島大学の研究者のチームがある実験をはじめたそうです。30年以上にわたるこの実験は、親への介入の効果について数々の証拠を示してきたそうです。129人の乳幼児とその家族を対象とした実験で、開始当初、この乳幼児たちには肉体面、あるいは精神面でなんらかの発達の遅れがありました。対象の家庭は四つのグループに分けられました。一つは、有資格の研究者による一時間の家庭訪問を週一回受けるグループです。この研究者は、子どもと遊ぶ時間をもっと取るように、例えば、絵本を読みきかせたり、歌を歌ったり、いないいないばあ遊びをしたりするように親を指導しました。二つめのグループは、牛乳由来の栄養補助食品を毎週一キロずつ受けとります。三つめのグループは、補助食品と家庭訪問の両方を受けます。四つめのグループは対照群で、何もしません。

介入そのものは2年で終了しましたが、チームはその後も子どもたちを追ってきたそうです。その子どもたちはいまでは三〇代前半になっています。結果をいうと、子どもの人生に大きな変化をもたらしたのは栄養の補助ではなく、もっと子どもと遊ぶようにという親への指導だったそうです。指導を受けた親の子どもたちは、子ども時代をよりうまく乗りきったのです。知能指数のテストの成績がよく、攻撃的な行動はすくなく、自制ができたそうです。こんにち、大人になった彼らの年収は、家庭訪問を受けなかったグループの子どもたちよりも平均して25バーセントも高いそうです。収入を含むあらゆる尺度から見て、発達に遅れのあった子どもたちが、まったく発達遅れの徴候のなかった同年代の子どもたちに追いついているそうです。

ジャマイカの実験で、貧しい親への家庭訪問には、予算を割いてもいいだけの潜在的効果があるとわかりました。しかし訪問者による親への指導がごく一般的なものでしたので、実験後にふたつの重要な疑問が残ったそうです。まず、親のどの行動がいちばん大事だったのか?どういった方向づけが、不利な条件下にある親たちにさらに、訪問者からのどの指示が、その大事な行動を取らせたのか?

こうした疑問への答えについては、まだ不確かな部分が多いそうです。こんにちのアメリカでは、家庭への介入方法はおおまかにいって三つあり、競合するものもあれば、部分的に重なるものもあるそうです。一つはおもに子どもの健康をターゲットにしたものです。もう一つは子どもの認知能力、とりわけ語彙と読解能力をターゲットとしたものです。三つめは、子どもと親との関係をターゲットにしたものです。

こんにちアメリカで最も広くおこなわれている家庭訪問プログラムは、おもに健康に焦点を合わせたものだそうです。ナース・ファミリー・パートナーシップと呼ばれるプログラムでは、有資格の看護師を低所得の妊婦、ほとんどが10代の未婚女性ですが、彼女らのもとへ派遣しています。現在、3万を超える世帯がこのプログラムに登録しているそうです。看護師は2年半のあいだ定期的に母親のもとへ通い、煙草をやめさせたりといった健康指導をおこない、子どもを安全に育てる方法や、母親自身の生活をうまく軌道に乗せる方法などについてアドバイスをしているそうです。

保護者への介入” への6件のコメント

  1. 以前のブログでも、早期の健康への投資が、国の将来の医療費負担を軽減させるといった内容が書かれていたことを思い出しました。健康と医療という誰か見ても理解しやすさから、国はまず初めにこの分野から取り組もうとすることは安易に想像できます。しかし、昨今では乳幼児教育が直接的な国力へとつながる要素であることが明確になってきたということで、医療と同等、もしくはそれよりも力を入れる分野であることを感じています。ジャマイカでの保護者介入の事例でも、若くして親となった人たちにとっては、育児経験者の言葉や体験談などはとても心強いだけでなく、共に時間を共有する時間を確保することが子どもだけでなく、保護者にとっても有効であることを知れる機会というのは大きいですね。

  2. 今回も面白い調査とその結果が紹介されています。家庭への介入。実際にやるとなったら、結構大変なような気もします。「子どもの人生に大きな変化をもたらしたのは栄養の補助ではなく、もっと子どもと遊ぶようにという親への指導だった」とか。「絵本を読みきかせたり、歌を歌ったり、いないいないばあ遊びをしたりする」。この例を見る限り、家庭とは異なる保育施設で保育を実施したほうが効果的、なような気もします。もっとも公費を投入しなければそうした施設は作れないでしょうから、まずは家庭の母子関係構築から、ということなんでしょうか。子どもの成長発達を可能な最大限度において遂げさせることを考えるなら、一日中家の中で母子関係でいるよりも外に出て、子育ち支援をするグループと繋がりながら、子どもの自立・自律や他者の理解の仕方などを子どもが体験できることが肝要かと思えるのです。

  3. 〝子どもの人生に大きな変化をもたらしたのは栄養の補助ではなく、もっと子どもと遊ぶようにという親への指導だった〟とあります。子どもと遊ぶにはやはり余裕が必要であり、その余裕を作り出すために、いろんな自分なりの工夫をしているつもりの自分です。
    一昔前はみんなで暮らしていたので、親に余裕がなくても子ども同士で遊ぶ中で学びがあった、が今では一世帯で住んでいて余裕がない…。から必要な学びが得られない。なるなら乳幼児施設の役割は将来のために大切なものとなりますね。

  4. 改めてこういった視点を見ていると人は社会性を持って生まれてきているということが分かりますし、人と関わることが、人が生きていく上での「生きる力」となるとても重要な要素であるということが分かります。それは親子間での関わりであっても大きな影響があるのですね。健康や医療において、結果が出るのはすぐに出ますが、このように関わりの質の違いが、将来への生活に影響があるかどうかは、とても長い歳月を要しますし、絶えず観察していかなければいけません。そして、そのエビデンスを見出すことこそ、とても難しいことだと思います。だからこそ、こういった結果が出たことはとても重要なことであると思います。ここから見えてくる結果はこれからの育児環境をどう方向づけていくかということにとても貢献する結果ですね。

  5. 最貧困地域だからこそ遊んでいられないような家庭環境もあったのでしょうが、それを改善させたというのはどのような言葉がけや気遣いがあったのかとても気になるところです。ただ最貧困地域で行ったということは確実に底上げに繋がることは証明されましたが、これが高所得層にも同じやり方が通用するのかというのは是非実証してほしいところですし、通用しなかったときに何が足りなかったか等もとても気になりますね。

  6. 最貧困、日本ならではの基準を設ける必要があるのかもわからないと思えてきてしまいます。日本の場合、家庭訪問をするだけで解決されるものではないことは想像ができ、そして貧困層に資金を提供することだけでも解決できることでないことも理解できます。先日のブログにありました、慢性的なストレス、これを日本ならではに解決していかなくては、これから生まれてくる子どもたちもそのストレスに晒されて日々を送ることになってしまうでしょう。日本ならではの貧困の定義をもち、それを具体的に解決していくことは、新しい未来の創出と具体的に結びついているのではないかと考えます。

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