就学前プロジェクト

子どもたちを幼稚園のような施設に集め、週あたり12〜15時間ほど教育を受けさせました。先生は、みな4年制大学を卒業し、州政府が認可する幼児教育の資格も持っている一流の先生です。加えて、先生が週1回家庭訪問を行い、子育てについてのアドバイスを保護者(主に母親)に行いました。

このプログラムのユニークな点は、参加者を無作為抽選によって決めていることです。統計学では、無作為抽選を行い、プログラムに参加した子どもと参加しなかった子どもを比べることで、プログラムの効果を正しく測れることがわかっているためです。

抽選の結果、58人がプログラムへの参加を認められました。一方、65人がプログラムには参加しないものの、データ収集の対象として調査に参加しています。人数が少ないのは、プログラムの実施には大きな費用がともなうためだったそうです。もちろん、参加者の費用負担はなかったそうです。

ペリー就学前プロジェクトでは、子どもの認知能力や社会情緒的能力を測定の対象とするだけてなく、40歳に至るまで長期追跡調査を行っており、大人になってからの社会参加や生活状況を詳しく調べています。

これがペリー就学前プロジェクトの概要ですが、山口氏自身は、このプロジェクトの全体像を知ったときに、衝撃を受けたそうです。幼児教育について社会実験を行うという発想はもちろん、40歳に至るまで追跡調査を行うという気の長さ!人間を深く知ろうという情熱と根気に圧倒されたそうです。さらに言えば、こんなプロジェクトを1962年にやってしまうのですから、トランプ大統領でなくとも、アメリカという国の偉大さを感じずにはいられなかったと振り返っています。

ペリー就学前プロジェクトの短期的な効果は目覚ましいものでした。5歳時点で評価した知能指数、学力テストの点数は軒並み大幅に上がっていますし、情緒面で見ても、勤勉さが改善されたのでした。

しかし、知能面に対する効果は長続きしませんでした。知能指数に与える効果は、8歳時点でほぼ消えてしまったのです。この結果、ちょっと残念な感じがしますが、実は、多くの幼児教育プログラムに共通して現れるパターンです。大抵の幼児教育プログラムは、実施直後に大きな効果を見せますが、小学校入学後、2〜3年経つと、知能指数に対する効果は消えてしまうことが広く報告されています。

いっときの勉強で、長い間にわたって頭の良さを保ち続けられるというような、うまい話はないようです。やはり、勉強はやり続けなければ、頭の良さは早晩衰えてしまうのでしょう。人間、一生勉強というのは真理なのかもしれないと山口氏は述べています。

しかし、知能に対する影響がいずれ消えてしまうことをもって、この幼児教育プログラムには効果がなかったと結論づけるのは早計です。40歳になるまで追跡調査を続けた結果わかったのは、幼児教育は将来の高校卒業率を引き上げ、大人になってから仕事に就いている確率を上げ、所得を増やしたということだというのです。さらに、生活保護受給率を下げ、警察に逮捕される回数も減らすなど、さまざまな社会生活面で大きな効果を上げたことが明らかになったのです。

就学前プロジェクト” への8件のコメント

  1. 1962年、日本はどんな時代だったのでしょう。アメリカの先駆的な研究によって、私たちはその結果を知ることができています。冷静に考えても、「40年」という追跡調査は本当に貴重です。しかし、気になるのはペリー就学前教育で行っていた「教育」の内容です。画一的な方法ではなく、自ら考え、それを言葉で表現し、集団の中での自分の身の振り方など、主体的な遊びによって教育が行われた結果であるのでしょうか。記憶があやふやなのですが、「子どもたちが遊びを考える」「その遊びがよい良くなるためには何が必要かを考える」などであったかと思うのですが、定かではありません。

  2. 殊、保育や教育に関しては、その成果がどう表れてきているのか、調査する必要があると思っています。その点、ペリー就学前プログラムの結果が「40歳になるまで」追跡調査されたことは、山口氏でなくても、驚きに値します。わが子は1年間ですが、見守る保育経験を持っています。本人はそんな自覚はありませんが。親である私たちは卒園後見守る育児で子どもの育ちに寄り添ってきたつもりです。現在、我が子はそろそろ18歳になろうとしていますが、自立心旺盛なことと、友だちなど子ども同士の関係に重きを置く、そこに価値観を見出している、そんなふうに育ってきました。いわゆる、生意気盛り、です。そこに私は嬉しさを見出すのです。親バカですね。もっとも、この親バカ稼業も18年。ここまでくると、親バカも悪いことでじゃないなと思っています。統計学もある程度意味を持ちますが、やはり重要なことは、個別具体的なこと、だと思います。現場世界はこのことによってしか動かない。学者の先生たちはこのことをもっと真剣に考える必要があると思っております、悪しからず。

  3. この「ペリー就学前プロジェクト」で行った教育の内容はどんなものであったのでしょうか。結果から察するに自主性を重んじ、集団の中で遊びを通した教育であるような気がしますが…。
    1962年というと、自分の親が生まれたくらいですかね…そんなに昔からこのような研究、教育方法など、アメリカも時代がそのような人材が必要になっていたということなんでしょうか。40年という長い月日を費やした研究があったからこその今日の保育があると考えると、ありがたいものです。

  4. ペリー就学前プロジェクトが40歳までに至るまでの長期にわたる追跡調査というのはとても気の長い話ですが、それほど大規模な研究をすることはこれまでに見えなかった教育の意味や意図を見つけ出してくれる機会になっているように思います。また、ここで注目されるのは学力テストの結果が小学校入園後2~3年経つと、知能指数に対する効果が消えてしまうということです。これはよく考えておかなければいけない内容ですね。そして、その反面、知能指数ではなく、社会生活面での影響というのも無視できない結果です。日本の場合はほとんどの子どもたちが幼児教育を受けていますが、それほどの結果が見えてくるというのはとても興味深いものがあります。つまり、乳幼児教育において、多くは社会性に大きな影響があるということが見えてきます。発達はその時期に必要とされるものがあると聞きますが、この時期は社会性こそ重要視されるべきことをより意識する必要があるように思います。

  5. 幼い頃に丁寧に育てられることは決して不利益にならないということを改めて感じます。同時に、現代における丁寧さとは過保護や過干渉に直結してしまいそうな点が危惧され、それについては注意をしなくてはならないことかもわかりません。また、それは、家庭の子育てだけでなく、保育や教育の中でも言えることと思います。
    しかしながら、まるで何もされないよりはされた方がいい、ある意味ではその程度の保育観や教育観でよかったり、逆に過剰に詰め込むような内容でもよかったり、ある意味では何でもありで成立していた今まででしたが、新しい時代の到来にいよいよ合わなくなってきている、というところでもあるように思えます。また、現場の本音としては、このままでは無理がある、と感じる関係者の方も多いのではないでしょうか。学び続けたくなる子たちを育成する為に、学び続けたくなる環境、そして、側にいる大人も共に学び続けていけるような環境について、従来のものを見直す必要があるのだと思います。

  6. 知能面での能力の流れを見ると、神童ともてはやされた子供が次第に凡人に馴染んでいくような姿が脳裏に浮かびました。たしかにはやいうちからちやほやされると、自分はできると勘違いし努力をしなくなり結果として成績が落ちるということはあると思います。目先の点数などの結果を求めるより努力を積み重ねる力をつけることが先決ということでしょうか。

  7. 「いっときの勉強で、長い間にわたって頭の良さを保ち続けられるというような、うまい話はないようです。やはり、勉強はやり続けなければ、頭の良さは早晩衰えてしまうのでしょう」何か大切なことを教えてもらったような気がします。やはり、長きに渡って学びたいと思う気持ちというのはその人の持っている好奇心の強さなのかなと思いました。好奇心の強い人は常に学んでいますし、それを楽しんでいます。そのような好奇心が含まれる非認知能力こそ乳幼児期に育てたい力ですね。改めてペリー就学前プロジェクトの内容を理解するきっかけになっていてありがたいです。確かに、40年にも及ぶ追跡調査というのはインパクトがあります。それだけでその研究の説得力がかなり増すようなそんな感覚にもなります。

  8. いっときの勉強だけでは長い時間、頭の良さを保つのは難しいというデータは重要ですね。乳幼児期の時から英語、算数、国語などの認知的なものを教え込んだとしても、小学校に入学した時はズバ抜けた成績を叩き出しても、3年生ころになると周囲も自然と追いついてしまうと思うと、やはり乳幼児期に教え込んだ時間はなんだったんだろう?と思ってしまいます。それこそ藤森先生がよく言われる、乳幼児期にしか育たないもの、非認知能力の部分をしっかりと育つ環境が大切です。ただ40歳になって社会生活面で大きな効果をもたらしたということは、やはり知能的ではない部分もしっかり育ったということでしょうか?詳しいプログラムの内容を知りたいですね。

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