多動性と攻撃性

山口氏らは、続いて子どもの多動性傾向の指標を作ったそうです。実は、注意欠陥・多動性障害の診断には、アメリカ精神医学会で作られたガイドラインに基づく標準的な質問があり、これは世界中の小児科医の先生方が利用しているそうです。残念ながらそのものズバリという質問は「21世紀出生児縦断調査」には含まれていないそうです。

これがこの調査のちょっと残念なところだと山口氏は思っているようで、発達心理学の知見がもう少し反映されていれば、子どもの発達や心理状態について、学問的により裏づけのある指標が作れるのにと感じているそうです。調査設計の段階で、専門家の関与が十分でなかったのか、それとも何か別の事情があったのか、いずれにせよ、同じ費用や回答者の負担で、より多くのことが正確にわかったかもしれないので、公的調査の設計は、関係する学問分野の専門家の指導のもとで行うのが、社会にとって有益だと彼は考えています。

彼らの研究では次善の策として、多動性傾向の診断に使われる標準的な質問に比較的似た、以下の5つの項目を選びました。3歳半の時点で、それぞれについて、当てはまるか当てはまらないかで答えてもらいます。

1,落ち着きがない 2,飽きっぽい 3,人の話を最後まで聞かない 4,公共の場で騒ぐことがある 5,遊具で遊ぶときに順番を守れない

これらの多くに当てはまると、つまり、多動性傾向が強いと、学校生活をうまく送れず、将来の進学・就職において困ることが増える可能性があるといわれています。もちろん、これらはあくまでも目安だそうで、診断は専門家にお願いするようにと山口氏は助言をしています。これらの質問に答えるのは母親なので、どの程度、客観的に判断できるのかという疑問がわきます。しかし、複数の海外の調査によると、同様の質問を母親と幼稚園の先生の両者に答えてもらい、両者を比較した結果、かなりの確率で両者が一致したそうです。山口氏ら自身のデータで確認は取れていないので、たしかなことは言えないそうですが、このデータの信頼性を考える上で、参考になる情報だというのです。

また、ADHDはそもそも遺伝など生物学的要因によるのですから、保育園通いで良くなったり悪くなったりするものではないはずだと思われるかもしれません。たしかに、ADHDの原因は、脳の前頭野部分の機能異常とされていますが、遺伝的要因とともに、発育期の環境的要因も相互に影響を及ぼすと考えられているそうです。したがって、保育園通いにともなって、子どもの発育環境が変化すると、多動性傾向の表れ方が変わってくる可能性があるというのです。

また、子どもの攻撃性傾向についても、以下の三つの質問から指標を作成したそうです。1,おもちゃや絵本を壊すことがある2,人に乱暴することがある3気が短い

攻撃性傾向は、多動性傾向と類似点があり、両方を同時に抱える子どもも多いそうですが、両者は別々の問題行動として捉えるべきものと考える専門家が多いため、山口氏たちの研究でも区別して分析をしています。

では、こうした発達指標は、子どもの家庭環境によってどの程度異なっているのでしょうか。家庭環境を直接測るのが最も望ましいのですが、その点について詳しく知ることができないため、彼は、ここでは便宜的に母親の学歴に注目しています。父親の学歴でもいいのですが、子どもと関係がより密な母親を選んだそうです。

多動性と攻撃性” への6件のコメント

  1. 多動傾向を把握するための指標としてありました「1,落ち着きがない 2,飽きっぽい 3,人の話を最後まで聞かない 4,公共の場で騒ぐことがある 5,遊具で遊ぶときに順番を守れない」という項目を見てみると、保育士を悩ましている子どもの行動トップ5であるかのようです。先生たちは日々その子どもたちへの対応に試行錯誤を繰り返し、「本当にこのこのためになっているのだろうか」と反省をしてます。しかし、そういった問題に向き合うことこそ、保育を深める機会であることを知りました。そして、多動性と攻撃性を区別するということで、それら2つをまとめて子どもを見ていなかは重要ですね。子ども理解する上で、そういう行動をとる原因が異なってしまうと、正しい対策が取れなくなります。

  2. 調査研究をする際の苦労のようなものを感じます。これがあったらよかったのに、とか、あぁこれは必要がないかも等々。調査していく上でわかることも多いのでしょう。多動性と攻撃性、どの発達過程においてそれらを調べるか、でも大きく異なるような気もします。就学前で相当問題視された子も長ずるにつれて然程問題視されるどころか天才的な才能を発揮する場合もあるでしょう。近年「スペクトラム」という概念を耳にすることがあります。程度の差はあるよ、ということでしょうが、その概念の前にADHDと着くとまずそこから判断されてしまう、ということもあるような気がします。決めつけることの難しさを感じます。「母親の学歴に注目」。なぜなら「子どもと関係がより密な母親」だから。これも統計によるのでしょう。ちなみに、私の母は中学卒の学歴です。はたして、「母親の学歴に注目」することの意味はどこまであるのでしょうか。次のブログが楽しみです。

  3. 攻撃性と多動性を別々に捉えていくという視点を研究者の多くは持っている、ということでしたが、自分たちも一色担に考えてしまうのではなく、それぞれ切り離してみていく視点は大切なものだと感じました。そうすることで、その子の問題行動へのアプローチも別個で考えることができ、その子にとって暮らしやすい環境、過ごしやすいものが見えてくるのではないかと思いました。
    自分もそうでしたが、問題行動を起こす子どもについて考えていくことは大変なことであり、言ってしまえば楽しくないことでした。しかし、その子について考えていくことは、ひいては全体を考えていくことになるということ、その子が過ごしやすい環境はみんなも暮らしやすい環境であることを強く感じ、特別なことをしているという感覚ではなくなりました。

  4. 多動性傾向の指標も作られているのですね。確かにADHDは生物学的要因によるものでありますが、「子ども集団にいることで多動性傾向の表れ方が変わる」というのも実際の子どもの様子を見ていると感じるところではあります。家庭環境と保育環境における子どもへの影響や発達の表れ方がわかることで保育においても生かされることがあるでしょうし、子どもにとって必要な環境を設定するにおいても参考になるのではないかと思います。また、攻撃性傾向と多動性傾向を区別する話がありましたが、確かに多動性があるからといって、攻撃性の傾向があるかというとそうではないように思います。実際に、子どもの様子を見ていると、一概にADHDといっても型通りではなく、やはり個人差もありますし、傾向も違うように思います。統計的なものもあるのでしょうが、やはり一人一人にあった様子や環境にも目を向けていくことも必要ですね。

  5. 多動性傾向の指標がアメリカで作られたものが世界共通というところが面白いですね。日本とは文化も性格も全く違う国ですし、もっと相違点が多い国も他にあるであろうに世界共通で使えるということは、以前から藤森先生が強く言われている有能論の考え方の根拠になりうると感じました。どこの国のどんな子でも同じだけのちからをはじめから持っているからこそ三歳半という時期ならば世界共通の指標が使えるのですね。

  6. 保育がしょうがいを作り出すこともある、ということを聞いたことがありますが、もちろんその逆の、保育によってその性質に変化が表れる、ということもあることを改めて思います。保育の中で、子どもたち同士の関わりの中でそういった変化が生まれているのだと思うと、目の前の子どもたちは、その結果を見せてくれているのだと、子どもたちの今の姿は成長した結果そのものなのだと、新たな感動が湧いてきます。この保育だからこそ得られる感動があり、その感動をやはり多くの人と共有できたら、という気持ちになります。

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