育休3年制

育休3年制は、意味あることか、無意味であるかということを経済学的に検証するために、すでに3年間の育休を取得できるドイツについてみていくことはどうかということがあります。しかし、山口氏は、ドイツの経験を日本に当はめて、育休3年制の良し悪しについて何かがわかるのかというと、それほど明らかになることはないと言います。日本とドイツでは、労働市場のあり方が大きく異なる上、人々の考え方や価値観、行動様式にも違いがあります。これらの違いを踏まえて、日本に育休3年制を導人した場合に何が起こるのかを予測するのはそれほど簡単ではないというのです。同じ政策でも、社会制度や文化の違いによって、その効果は少なからず変わってくることはよくありますから、海外の経験をそのまま日本に当てはめるのはやはり危険ではないかというのです。

「やってみなけりやわからない」といって、無分別に改革をスタートさせてしまうというのも危険だと言います。政策実施は、当初には十分予想されなかった副作用や社会変化をもたらすことも少なくないからです。できる限り詳細に、改革の結果として何が起こりそうか事前に検討しておく必要があるのではないかと忠告しています。

山口氏は、彼の研究の立場から、経済学の理論とデータ分析の手法を組み合わせることで、「育休3年制」について最善の予想を立てようとしています。すでにあるデータを活用し、女性の出産や就業行動について分析することで、その行動原理を数理モデル化したのです。その上で、「育休3年制」が導人された場合に、女性の出産や就業行動がどのように変化するかをコンピュータ上でシミュレートし、何が起こるのかを予測したそうです。

データ分析から、女性の就業行動原理を理解する上でいくつかの重要な発見がありました。第一に、正社員の仕事を見つけるのはかなり難しいということです。たとえば、ある年に主婦であった人が、翌年、非正社員の仕事に就く確率は10パーセントほどですが、これが正社員になるとわずか1パーセントにとどまるそうです。本人のスキルや雇用形態についての志望といった要素を考慮しても、正社員として就業するのはかなり難しいという結論は変わらなかったそうです。

いちど正社員の仕事に就いたら、在職中に次の仕事を見つけるのでもない限り、正社員の仕事を辞めないことが、女性のキャリアにとって重要になっているようです。これは、育休による雇用保障が重要であることを示唆していることになります。

第二に、幼い子どもを育てながら働くのはもちろん大変ですが、子どもが1歳になると、そうした負担は大きく減るということだと言います。この理由の一つには、0歳児保育を見つけるのに比べると、1歳児保育は比較的見つけやすいことを山口氏は挙げています。

また、子ともが1歳になるまでは、子どもの発達や母子の感情的な結びつきを重視して、自らの手で育てたいと感じている母親が多いことも関係しているのではないかと考えています。そうした母親にとっては、子ともがまだ1歳にならないうちに、子どもを預けて仕事に出るのは精神的な負担になります。

子どもを育てながら働く大変さは、子どもがいくつになってもなくなるものではありません。それでも、子どもが大きくなるにつれて、その負担感が少しずつ減っていくことを実感される方が多いのではないかと言います。そして、その負担感は、0歳児と1歳児で大きく異なるというのがここでのホイントだというのです。子育ての負担感がとりわけ大きな時期を、制度的にサポートしょうという現行の育児休業制度が、働くお母さんの大きな助けになっていることが示唆されているそうです。