保育環境の質

アメリカのテルマ氏らが作成した環境評価スケールにエカーズというものがあります。そこでは、保育環境の質を数値化する尺度では、①粗大運動遊びの空間などの「空間と家具」、②食事や午睡などの「日常的な個人のケア」、③絵本や会話などの「ことばと思考力」、④造形や音楽などの「活動」、⑤保育者と子どものやりとりなどの「相互関係」、⑥自由遊びや集団活動、障害のある子どもへの配慮などの「保育の構造」、⑦保護者との連携や研修機会などの「保護者と保育者」、の項目について評価されます。エカーズによって評価された保育の質が高いほど、11歳のときの子どもの認知や行動、社会性の発達が良好であるという報告もあるそうです。保育者が子どもの発達に果たす役割は大きいと今福氏は言います。

厚労省の3013年の調査によると、保育士としての勤務年数が5年未満である早期離職者の多さが問題となっています。保育士職への就業を希望しない理由としては、「賃金が希望と合わない」「休暇が少ない・休暇がとりにくい」などがあげられるといいます。保育者の処遇や勤務環境は、喫緊に改善されるべき問題だと今福氏は考えています。

職場でのストレスも離職の原因の一つであると考えられています。保育者が職場で抱えやすいストレスとしては「職場環境・職場の人間関係」「子どもの対応」「知識と現場のギャップ」があるようです。これらのストレスを低下させるには、ソーシャルサポートや研修への参加を促す体制を整える必要があると今福氏は考えています。

専門性の向上は、保育者としての自信である保育者効力感につながります。保育者効力感とは、「保育場面において子どもの発達に望ましい変化をもたらすことができるであろう保育的行為をとることができる信念」であると言います。赤ちゃんや子どもの発達を支える保育者が、幸福感を感じ、保育者効力感を育むことができる職場にしていくことが重要だと彼は提案しています。

今福氏は、彼の著書「赤ちゃんの心は どのように育つのか」のなかで、そのサブタイトルにあるように、社会性とことばの発達を科学しています。内容として、赤ちゃんや子どもを取り巻く現代社会・教育・子育ての現状についてみてきました。その中で、デジタルメディアの普及によって子育て環境が変化しつつあることや、家庭の貧困と発達の関係について触れました。保育・学校現場に目を向けると、小一プロプレムやいじめ、日本語指導が必要な外国籍の児童生徒の増加の問題などがありました。また、世界と比べると、日本人の自己肯定感や主観的幸福感は低い傾向にありました。

これらのトピックをなぜ取り上げたのか、それが、心の発達を考えるうえでなぜ重要なのかということの問いに、それは「現代社会が、今を生きる赤ちゃんや子どもの環境にほかならないから」だと答えています。そして、心の発達は、環境との相互作用によって変化します。ですから、環境が変われば、心の発達の様相も変化する可能性があるというのです。

保育所や幼稚園の教育は、「環境を通して行う」ことが基本にあります。ここでの環境について、今福氏はこう考えています。①人的環境、②物的環境、③自然環境、などに分けて考えられます。現代社会の現状をみてみると、人的環境にかかわる課題が多くあり、人間同士のコミュニケーションの問題が関係しています。デジタルメディアの普及をみても、SNS上で文字や写真、絵文字などを介したコミュニケーションが行われているのです。