子どもたちの幸せ

家庭で褒められる経験と脳の発達について調べた研究があります。5~18歳の290名を対象に、お母さんが日常で子どもに対して褒めることを大切にしている程度と、脳の灰白質の容積との関連が調べられました。その結果、褒めることを大切にしているお母さんの子どもは、島皮質の脳容積が大きいことがわかりました。島皮質は、共感や感情制御にかかわる脳の領域です。この知見から、お母さんに褒められた経験を多くもつ子どもほど、感情にかかわる発達が良好であるといえそうです。さらに、共感力や、感情抑制力にも優れているのかもしれません。この研究ではさらに、思いやりにかんする誠実性と、創造性や好奇心にかんする開放性の性格特性をもつお母さんは、子どもを褒めることを大切にしている程度が高いことがわかりました。子どもの良いところをみつけて、それをことばにして褒めることは、私たちが思っている以上に重要な営みなのだと今福氏は言っています。

最後に、今福氏は、子どもたちの幸せについて考えてみています。2014〜16年に各国で行われたアンケート調査によると、日本の幸せの程度を個人の主観をもとに測った主観的幸福感は155ヶ国のうち51位、OECD加盟国では35ヶ国のうち27位でした。このアンケートでは、①一人当たり実質国内総生産、②助けてくれる親族や友人がいるかというソーシャルサポートの有無、③健康寿命、④人生選択の自由度、⑤慈善事業に寄付したかなどの寛容さ、⑥政府やビジネス界に汚職があるかという汚職、によって主観的幸福感が評価されました。この評価基準では、同一の経済水準の国と比較して、日本の主観的幸福感は低いことがわかります。

一方で、日本では幸せの捉え方が他国と異なるのではないかという考えもあります。幸せのイメージについて日米で比較分析した研究では、アメリカ人は「幸せは個人による目標の達成で得られる」など、幸せをポジティブなものとして捉えることが大半であったのに対して、日本人は「幸せになると他人から妬まれる」など、幸せをネガティブなものとしてとらえる傾向があることがわかりました。つまり、日本人は幸せを判断するときに、他人と同程度の幸せを手に入れることが基準になっている可能性があるというのです。

主観的幸福感を決定する要因としては、学歴や所得よりも、自己決定が強い影響を与えるようです。ここでいう自己決定とは、自らの判断で高校や大学などの進路選択を行った程度を指しています。日本の教育では、子どもたちはどの程度の自己決定ができているでしょうか。子どもたちが自分で行動を選択できるように環境を整備していくことで、満足度の高い生活を送ることができるようになるかもしれないと今福氏は言っています。

私も、この行動の選択はとても重要だと思っています。自己選択が保障されることで、免疫力が高まるという研究もあります。そのために、もう3年ほどまでになりますが、北欧に老人施設視察に行ったときに、多くの施設ではお年寄りの選択を保障することによって、生きる意欲を持たせているという話を聞きました。また、選択は、自己肯定感を育てることもわかっています。自分で何とかできるという確信が、自分を大切に思うようになります。また、選択は、これから必要な力としてOECDが示しているうちの一つとして「責任をとる力」というものも、自己選択をすることが必要だと思っています。この選択する力は、すでに赤ちゃんから持っていることを、現場ではよく見ることができます。何を食べたいか、何で遊びたいか、どこに行きたいかなど、赤ちゃんは選択し、主張するのです。