リスクを減らす環境

早産での出生は、赤ちゃんにとって、本来は母体で過ごすはずの胎児期に外界にでることで、過度な光や医療機器のノイズなどの異質な経験環境への曝露、痛みをともなう処置などによるストレスにつながるのです。その結果、脳の社会情動ネットワークである扁桃体、側坐核、視床下部、前帯状皮質、眼窩前頭皮質や認知ネットワークである背外側前頭皮質、海馬、基底核の成熟に負の影響をもたらすと考えられています。

社会的認知が脆弱である子どもは、児童・青年・成人期に社会的排斥としての仲間はずれや社会的挫折によって対人ストレスを受けるリスクが増加すると言われています。そのストレスが、報酬系回路として知られるドーパミン経路に影響を与えるからです。ドーパミン経路の障害は、早産児が成人になったときの精神病理に関連すると考えられています。このような理由で、早産児では社会的認知やストレス耐性であるレジリエンスに問題が生じるリスクが増加すると言われているのです。

また、生物学的リスクがある早産児では、子育て環境の影響も受けやすいと考えられます。また、早産を経験したお母さんでは、育児に対する不安や疲労感が高く、そのような精神的苦痛は子どもの在胎週数か短いほど強くなるようだと今福氏は言います。イギリスで行われた調査によると、早産や低出生体重で出生した子どもは両親からの身体的・性的・心理的虐待、ネグレクトを受けやすいと言われています。一方で、複数の研究成果をメタ分析した研究によると、子どもの行動に対して適切に応答する傾向は、早産児と満期産児のお母さんの間でそれほど違いがないとの見方もあるそうです。いずれにせよ、早産を経験した養育者や家族の精神的ケアを行うしくみをつくることは喫緊の課題だと今福氏は訴えています。

故園曽山に対しての最近の取り組みを今福氏は紹介しています。それは、ディベロップメンタルケアと言われているもので、早産児や低出生体重児などに対して、外的ストレスを最小限に抑えることで成長や発達を促すケアのことです。

医療現場で注目を集めているものに、カンガルーケアがあるそうです。カンガルーケアとは、その名の通り、お母さんの胸元で新生児と皮膚を直接触れ合わせるケアのことを言います。近年、カンガルーケアが母子のどちらにも良い影響をもたらすことが報告されています。たとえば、フェルドマンらは、周産期にカンガルーケアを14日間行ったところ、早産児の発達予後が10年間という長期にわたって改善することを示しました。具体的には、カンガルーケアを行った群ではカンガルーケアを行っていない群に比べて、子どもの自律神経系の機能や睡眠リズムの成熟が促進され、実行機能などの認知能力が向上したそうです。さらに、お母さんのうつ傾向が低下し、母子相互作用が良好になるなどの変化も見られたそうです。

皮膚接触をともなう母子相互作用は、オキシトシンと呼ばれるホルモンの放出を促します。オキシトシンは、ストレス反応を抑制する働きをするのです。また、養育に対する動機づけや感青の認識を促進する働きがあることが知られています。したがって、カンガルーケアにともなう母体のオキシトシン上昇が、お母さんのストレスや不安を低下させ、赤ちゃんに対する養育行動に良い影響を及ばすのではないかと考えられています。ただし、カンガルーケアは事故の報告もあるため、医師の十分な指導のもとに行われる必要があるそうです。