聴覚の機能

次に、私たちが日常的に使用している、ことばの発達について紹介しています。私たちはことばを巧みに操り、コミュニケーションをしています。ことばの発達には、どのような経験や環境が良いのでしょうか。

ヒトの聴覚の機能は、胎児期から働きはじめています。胎児は羊水に満たされた胎内で音を聞きます。そのため、音の高さや明暸さは限られますが、外界の話し声を聞くことができます。また、お母さんの声や心音の場合には、骨伝導によってより明暸に音を聞くことができるのです。胎内で聞いた音の経験は、誕生後にも何らかの影響を与えているようです。たとえば、新生児の泣き声のイントネーションが、お母さんの話すことばの特徴を反映している可能性が報告されています。マンペらは、語尾が上がる特徴をもつフランス語圏の新生児は、発声の後半にイントネーションのピークをもつ泣き方をし、一方で、語尾が下がる特徴をもつドイツ語圏の新生児は、発声の前半にイントネーションのピークをもつ泣き方をすることを発見しました。また、新生児は生まれたばかりであるにもかかわらず、外国語に比べて母国語を好んで聞きます。このような生後早期にみられる特徴も、胎児期から音を聞いていたおかげかもしれないと言うのです。

ヒトは生まれてからどのようにことばを発達させていくのでしようか。生後一年の間は、母音や子音などの音韻と、音の高さの変動や抑揚、リズムなどの韻律(プロソディー)の情報を知覚処理する経験が重要となります。ことばを聞く、話すことを通して、私たちは徐々にことばを獲得していくのです。ちなみに、音声などを知覚することによる学習を、感覚学習と呼び、発声によって音声と口の動かし方の対応関係を学ぶことを、感覚運動学習と呼びます。

まず、ことばを聞く・知覚することの発達について説明をしています。まず、驚くべきことに、赤ちゃんは生後半年の間、あらゆる言語の音韻を区別きるとされています。一方で、それ以降の時期では、加齢にともなう脳機能の発達変化によって、周囲の大人が話している音韻のみを知覚するようになるそうです。つまり、あらゆる音韻を区別する能力は徐々に低下していくというのです。これを裏づける現象を、知覚的狭窄化というそうです。

クールらは、英語圏と日本語圏の6~8ヶ月児と10~12ヶ月児を対象に、音韻「R」と「L」を区別する能力を調べました。その結果、日本語圏の赤ちゃんは、6~8ヶ月児の時点では、母語にない「R」と「L」を区別することができる一方で、10~12ヶ月児では、これらの音を区別する能力が低下したのです。他方、英語圈の赤ちゃんは、生後6~12ヶ月にかけて、「R」と「L」を区別する能力を上昇させたそうです。このことは、生後6~12ヶ月の間に、母語の音韻を知覚する能力は保たれ、母語にない音韻の知覚能力は減衰することを示しています。つまり、この期間にはじめの音韻学習の敏感期があると考えられます。敏感期とは、効率良く発達することが可能な特定の時期のことを言います。私たちは、誕生時にはあらゆることばに対応できる能力をもっていますが、環境の経験を通じて、母語の音韻体系に適合したことばの知覚能力を発達させていくようです。この背景には、脳内の不要なつながりは除去されるというシナプスの刈り込みがかかわっていると考えられています。

聴覚の機能” への6件のコメント

  1. 「新生児の泣き声のイントネーションが、お母さんの話すことばの特徴を反映している可能性」があるというのは面白いですね。胎児の時から、骨伝導によって母親の言葉、または周囲の人の言葉の影響を受けていることで、そこからすでに聴覚を機能させているということ、また、その能力によって何か必要な情報を自ら取得しようとする背景が感じられます。声を聞き分けられることによって、身を守るための手段としてなのか、それとも、生きていく上で都合の良いことなのかはわかりませんが、その可能性を信じて胎児への言葉がけというのは、これから重要な要素となることが想像できます。胎児への言葉がけを行うことにより、「オキシトシン」の量に変化が起きるとかも考えられますね。そして、日本人が苦戦する「L」と「R」の発音。「6~8ヶ月児の時点」での能力に関連しているのであれば、その時期に「L」と「R」に触れる機会が少ない日本人の苦手分野は、仕方のないことなのでしょうね。

  2. 新生児の泣き声がお母さんの使用言語の特徴を反映させているという研究成果はおもしろいですね。胎児の頃から感覚学習を行っている。人は生まれる前から学習を始めていると言えるようです。私は言語が好きですから、今回のブログで紹介されていることに興味津々です。イントネーションのこともさることながら、母音と子音さらには子音の中でもL音やR音の区別あるいはR音のL音への同化について今回、認識を新たにすることができます。ここでも9ヶ月分岐点を見て取ることができます。他者とのコミュニケーションというkとがクローズアップされ始める時期ということでしょう。音韻と韻律の情報処理については、方言についても言えますね。あちこちを旅すると、その地域地域によって音韻と韻律の相違を発見しては喜んでいる自分がいます。海外に行っても、その地域の言葉がとても気になります。この前シンガポールに行った際はマレー語に触れることがあり、フィリピン・マレーシア・インドネシア地域という一つの地域を言語によって想像してみました。

  3. 人は胎児の頃から学習しているということになりそうな研究結果が得られているんですね。このことから、まだお母さんのお腹の中にいる頃からの言葉かけが意味のあるものになるのかもしれませんね。我が家の生後2週間ほどの新生児はやはりと言いますか、どうやら母親の声がするとそちらの方に顔を向けたりして反応するようです。そして、なぜか年少の2番目の声にも敏感に反応している気がします。イントネーションが母親に似ているのでしょうか。このようなものが胎児からの学習をしているということの裏付けになるのだと、今回の内容を飲んでいて思いました。

  4. 胎児は母親の声を明瞭に聴いているとのことですが、難聴などの障害をもっていることで普段会話をあまりしない母親から生まれる子供には何かしらの影響はあるのでしょうか。以前難聴の子供が補聴器をつけることで初めて母親の声を聴くという動画を見たとき、子供がものすごく幸せそうな顔をしたのを見て母親の声には子供を安心させる何かしらの力があるのだろうと思っていたので、今回のブログの内容を見て少し気になりました。

  5. 日本語を聞き取りやすいように刈り込まれた我が脳で、音楽をよく聴きますが、英語の歌詞は英語として入ってはくるのですが、綴りが頭に浮かぶわけではなく、イントネーション重視の、しかも適当なカタカナ英語で頭に残ります。英語というより、英語みたいな日本語として入ってきているのかもわかりません。胎内にいた頃から日本語だけで育ってきたわけですから改めて納得すると同時に、やはり英語を聞く、話すということに得手不得手があることは当然なのだと思えてきます。育ってきた環境が違うのですから、全員が話せるようになるものでもないと思うと、英語が出来なかったことで落ち込んだりすることもなく、自分の資質に合った得意なことを見つけて伸ばしていけばいいのだと改めて思います。

  6. 胎児のころから音声を聞いていることで、親しみのある言語の理解がすでに始まっているのですね。これまでの赤ちゃん研究の紹介の中で、胎児期から赤ちゃんは様々な影響を受けていたり、試していたりとすでに人としての機能はすでに有しているということが言われていました。聴覚の機能もすでに胎児期から始まっているのですね。初めはすべての音韻を聞き取れるというのは得したように思いますが、早く生まれた環境に適応するには母語の音韻体系に適合しするように変化させていく方がより自分の遺伝子を残すことができるということで進化していったのでしょうね。それにしても、母親の話す言葉の特徴を反映して、赤ちゃんの泣き声にも影響が出てくるというのは面白いですね。泣き声を上げるというのも言語獲得には重要な意味合いを持っているのかもしれないですね。何にしても、赤ちゃんが胎児のころから学ぶことをすでに始めていて、環境に適応するように脳内でシナプスの刈り込みを行っているのですね。おそるべし。

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