産後うつ

近年、産後うつのお母さんの脳活動を測定することで、その神経学的基盤が明らかになってきました。初産のうつのお母さんと健康なお母さんを対象に、生後15~18ヶ月になる自分の子どもと他人の子どもの表情を観察中の脳活動を測定したところ、うつのお母さんでは、自分の子どもの喜びの表情を観察したときに、共感や感情の認識にかかわる眼窩前頭皮質と島皮質の活動が低いことがわかりました。うつのお母さんにみられるこのような脳機能の異質性は、子どもの養育への動機づけを低下させたり、感情を親子で共有する機会などを奪うことにつながると考えられると言います。

では、実際に、産後うつは子どもの発達にどのような影響を及ぼすのかを今福氏は考察しています。産後うつのお母さんをもつ9ヶ月児では、笑顔の表出が少なく、ネガティブな感情をコントロール(抑制)するのが難しいようです。産後うつのお母さんと赤ちゃんのかかわりでは、アイコンタクトや身体接触という、母子の同調的な行動が少なくなるそうです。また、子どもが6歳の時点では、お母さんが慢性的にうつ症状を抱える場合に、そうでない場合と比べて、小学校入学時に精神疾患を発症するリスクが4倍にもなり、およそ60%の子どもが心配や恐怖を過度にかかえる不安障害や反社会的で攻撃的な行動をとる行為障害にかかるそうです。小学校にあがる児童期において、うつのお母さんの子どもは、他人の痛みを自分のことのように感じる情動的共感が低く、ひきこもりになりやすいうえに、学業成績にも芳しくない影響を与えることがわかっています。このように、出産後のお母さんの精神的な健康は、子どもの発達に長期的な影響を及ぼすというのです。

こんなに産後うつが子どもに影響するのであれば、ケアが必要なのは当然です。しかし、多くの場合、この時期に産休、育休を取得している場合が多く、母子が孤立していることが多いために、なかなかケアを十分にしてあげられない場合が多くあります。乳児期における保育園への入園を、保護者が保育を必要だと考えた時に、仕事をしていようが、育休中であろうが、入園できるようにすべきだと思います。さらに、産後うつはそれだけではないようです。

産後うつは、子どもへの虐待につながる場合も少なくないそうです。全国210ヶ所の児童相談所が児童虐待相談として対応した件数は、2017(平成29)年度で13万3778件におよび過去最多の件数になっていると言います。

虐待には、①殴る、蹴る、投げ落とす、激しく揺さぶるなどの身体的虐待、②子どもへの性的行為、性的行為を見せる、ポルノグラフィの被写体にするなどの性的虐待、③家に閉じ込める、食事を与えない、重い病気になっても病院に連れて行かないなどのネグレクト、④ことばによる脅し、無視、きようだい間での差別的扱い、子どもの目の前で家族に対して暴力をふるうなどの心理的虐待、の四種類があります。2017年度は、心理的虐待が最も多く、次いで身体的虐待、ネグレクト、性的虐待の順で件数が多いようです。

虐待を受けた経験は、様々な部分での脳の発達に多大な影響を及ぼすことがわかっています。このような影響を及ぼす虐待の原因の一つに、産後うつが関係していることがあるようです。

産後うつ” への6件のコメント

  1. 育休中という、ある程度閉鎖的な時期だからこそ、産後うつを招きやすいということもあるようですね。先日、ある知人も「自分も産後うつっぽくなったんだよね。赤ちゃんの夜泣きや育児に、どうしようもない虚無感が襲ってきて、どうして私だけ…って考えちゃってた。でも、夫のサポートだったり、他の人に頼ってもいいんだって思えてから、育児が楽しくなってきた。」と言っていました。とても献身的で協力的な旦那さんをもってしてまでも、産後うつは襲ってくるという現状を理解した上で、地域のあり方を考えなくてはいけませんね。そして、虐待についても、「マルトリートメント」という概念を最近知りました。身体的や育児放棄だけでなく、普段何気なく放っている言葉が、実は子どもの脳を変形させてしまう可能性があるということを、保育者は深く認識しなければと思います。

  2. 育休中や産休中の赤ちゃんと2人だけで過ごしているような時ほど産後うつにはなりやすいんですね。たしかに、その時にうつになってしまうと周りのフォローは少なくなってしまうのかもしれません。後からどれほどの影響をその赤ちゃんは受けてしまうのか、というのを今回の内容で知ったので周りの人たちがフォローできるような体制づくりが必要だと感じました。

  3. お母さんの産後鬱によって園に入って来たお子さんたちがいました。産後鬱は育児困難を招きます。病院による診断があれば、育児困難家庭として認可保育園への入園ポイントが高まるようです。園に子どもを入れられた産後鬱のお母さんはなんとか立ち直り、自立できるまでになりました。退園する時、そのお母さんから感謝の言葉を頂戴したことを今でも忘れることができません。藤森先生がコメントされているように、産後鬱の育児困難状況を顧みれば、「仕事をしていようが、育休中であろうが、入園できるようにすべき」であると私は思います。育休を2歳まで保障している我が国の施策は一見素晴らしいようで、実は虐待を助長し兼ねないということを私たちは忘れるべきではありません。子どもは生まれてから親以外の保育を必要としていると思います。保育を必要とするのは親ではなく、子どもだと思うのです。

  4. 妻が早番の朝、子どもたちを送り出すだけでも大変なのに、一番手のかかる時期に一対一で赤ちゃんと向き合い、そしてその向き合い方も白紙論の中にいれば苦しいばかりで、そして家事をして、夜は眠れず、そして一日が過ぎていきます。やりがい、生きがい、楽しみ、赤ちゃんとのやりとりの中にそれがあればこそで、うつ症状を抱えてしまう多くの場合は、本当に大変な日常の中に身を置いたのだろうと想像します。子育て神話が子育て環境を悪化させていることや、育休、産休の推進と同時にその環境に身を置く当事者へのケアを真剣に考えるべきだと思います。

  5. 産後うつの母親には共感や感情の認識に関わる眼窩前頭皮質と島皮質の活動が低いということがわかったのですね。保育においても「共感」という言葉は非常に重視されていますし、その関わりが子どもたちに大きな影響を与えるということもよく話に出てくることです。それが一番近い存在の母親の行為として受けられないことで精神疾患を子どもが患ってしまうというのは想像に難くないですね。産後うつにかかる期間が「産休育休」の期間に起きるというのを聞くと、やはり「その時期の赤ちゃんは母親といるのが良い」「赤ちゃんの時期から預けられるのはかわいそう」といった世間一般の考え方が根強いのかということがわかります。確かに母親や親との愛着関係はとても重要ではありますが、逆にそこに固執するあまり産後うつといったものによって赤ちゃんに精神疾患や虐待として影響が出ることは本末転倒です。本来の意味での「赤ちゃんの環境」というものを社会自体が知ることも必要なのだと思います。そして、そういった時に保育園やこども園がしっかりと母親をサポートできる環境を作ってあげる必要がありますね。

  6. 産後うつ中はケアがしづらくなるから産休中でも保育園に入れられるようにするべきだ、という部分で今まで子供のための保育園だと思っていた思考が大きく転換した気がします。そしてさらには親にとってプラスになることが結果的に子供にもプラスに繋がるという好循環を生み出すメリットの大きさにやはり保育園や幼稚園は全年齢、どんな条件の子も対象にすべきだという思考が固まりました。

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