母音と子音

10.5~12ヶ月児を対象とした研究で、養育者と相互作用しているときに、子音を発話する頻度の多かった赤ちゃんほど、子音を弁別するテストでの得点が高い傾向にあったそうです。これらの知見は、生後一年までの赤ちゃんにおいても、音声産出にかかわる自分の運動表象(イメージ)が、発話知覚と関連する可能性があることがわかります。

つづいて、今福氏は音声の知覚と産出の発達的な関連についての神経科学的研究を紹介しています。イマダらは、新生児、6ヶ月児、12ヶ月児が、母音「あ」と子音+母音「ば」を継時的に聴取したときの脳反応を、脳磁図(MEG)を用いて記録したそうです。このとき、ミスマッチ陰性電位を指標としました。ミスマッチ陰性電位とは、参加者が継時的に提示された二つの情報を区別していることを示す指標だそうです。その結果、音声の知覚を担うウェルニッケ野では、すべての月齢の赤ちゃんで有意なミスマッチ陰性電位の反応がみられたのに対して、音声の産出を担うブローカ野では、6ヶ月児と12ケ月児においてのみ、有意なミスマッチ陰性電位の反応がみられたそうです。この結果がどのような意味があるのかということはわかりにくいと思いますが、こう考えます。6ヶ月児といえば、自分で子音と母音を組み合わせた音節を発声できるようになる時期です。したがって、イマダ氏らが研究した結果、音声産出経験が発話知覚時の情報処理に影響する可能性は生後6ヶ月頃から現れることを示していることになります。これは、生後早いうちから言葉を出すことに様々な条件があるということのようです。また、話者の口を長く注視した6ヶ月児では、発話の運動計画にかかわる左下前頭領域(ブローカ野)がより強く活動するようです。ということは、話し手の口に赤ちゃんが注目することは、ことばを話す準備につながっている可能性が高いということを今福氏は言っているのです。逆を言えば、赤ちゃんに話しかけるときには、私たちは、口をはっきり見せて、お口をしっかり開けて話しかける必要があるということにもなると思います。しかも、どうも口をしっかり見せる必要があるのは他にも理由があるようです。

赤ちゃんは、生後5ヶ月までに母音の音声模倣かできるようになるということがわかりました。3~4ヶ月児を対象とした研究では、口の形が「あ」で音声が「い」のように、視聴覚情報が不一致の場合に比べて、口の形が「あ」で音声が「あ」のように、視聴覚情報が一致した場合に、赤ちゃんは音声をより多く模倣しました。これは、音声模倣において、視聴覚情報が重要である可能性を示唆しています。このことは、小学校1年生の国語の授業で、母音の口の形をしっかり教えることと関係があるのです。私の著書の「こくごのはじまり」にも、母音による口の形の違いをしっかり体験させるように書かれてあります。

それでは、音声模倣をするときに、赤ちゃんは話者の顔のどこを見ているのでしょうか。これまでの研究では、音声模倣の産出の側面にのみ焦点が当てられており、知覚と産出の関係は不明でした。そこで、今福氏たちは、母音の音声模倣が可能である6ヶ月児を対象に、話者の口に対する注視行動と、母音の音声を模倣する頻度との関係を検証したそうです。

母音と子音” への5件のコメント

  1. 「話し手の口に赤ちゃんが注目することは、ことばを話す準備につながっている可能性が高い」という指標は、保育するときにとても参考になります。ただ、人はなんとなく、相手が自分の口元に視線がいっているときは自然とゆっくり話そうとするイメージがあります。それくらい、人は話している時に相手が何を見ているのかを気にする動物なのかもしれません。また、5カ月までの乳児が口からの情報を求める別の理由についても、母音と子音の使い分けがその後の模倣のしやすさ、そして模倣からの語彙習得、またまた、語彙の定着に有効に働くことが想像できました。保育士がゆっくりはっきり言葉を丁寧に使う理由は、ただお上品さを伝えるためではなかったということですね。

  2. 〝赤ちゃんに話しかけるときには、私たちは、口をはっきり見せて、お口をしっかり開けて話しかける必要がある〟赤ちゃんに話しかける時には自然とゆっくりと丁寧になる気がします。
    なんでだろうと考えてみて、自然とそうしていることに気がつきます。となるともし、赤ちゃんがそのようにゆっくり丁寧に話すように大人を仕向けているとしたら面白いな、とか思いました。そして、ゆっくりな口を十分に見つめて、自分の発達を促す。自発的な発達がそこにあるのではないか、と感じました。

  3. 私たち日本人が、英語等の外国語を習得する際、大切にしなければならないこと、それはphoneticsフォネティックスです。その音を出すために、口の開け方、舌の位置、鼻からの息の出し方、等々に注意を払うことです。残念ながら、我が国の英語教育は、このphoneticsを軽視してきたのではないか、と思うのです。つまり、読み書きを優先させた外国語教育に重点を置いた、ということです。ヒアリングとビジュアルを二の次とした。そもそも、言語はコミュニケーションスキルに関わります。なのに、読み書きに焦点を当ててしまった。最近、中国に行くことが多くなりましたが、彼の地において英語を話す人々の特徴は、まず発音に注意を向けている、ということです。中国語も発音はとても大切な言語です。中国人が留学せずとも英語が堪能になることの理由が今回のブログを読んでわかりました。

  4. 「口の形が「あ」で音声が「あ」のように、視聴覚情報が一致した場合に、赤ちゃんは音声をより多く模倣しました。」このような感覚であったり、耳で聞いたものを実際にやってみようとする感覚は、意識下に行われているとしても成長するにつれて忘れてしまって、赤ちゃんの頃の感覚は一つも覚えていません。ただ、想像するのは、全てにおいて鋭敏なアンテナが働いて、反応するものに体が反応してしまうような、今その意識を得たならばあまりにもハイで体がついていけないような感覚なのではないかと、想像します。そういう時期を、改めて白紙とは呼べない、と思いました。

  5. 話し手の口に赤ちゃんが注視することが赤ちゃんの言葉を話す準備につながっているのはかなり可能性が高いようですね。また、口を見て、使い方を知る過程を見てもミラーニューロンが関わっているのだろうなということが感じられます。赤ちゃんに話しかけることでことばの習得に影響があるのであれば、やはり口をしっかりと見せて話をする必要がとてもありますね。最近で予防のためもあるのでしょうが、いつもマスクを着けて保育をする人も多くいます。特に0歳児においては口元が見えるような配慮を考える必要がありそうです。母音と子音の関係はそれほどこれまで意識したことがなかったのですが、6か月ごろに子音と母音を組み合わせた音節を発話できるようになるのですね。発声が多い子どもほど、家庭や子どもの周囲で母親が話しかけたり、話している人を見る機会が多いのだろうということがわかります。そして、その逆もあるのかもしれません。そうやって子どもを見ていくとまた違った発見が見えてきそうです。

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