今福氏らは、修正齢6~12ヶ月の早産児と満期産児を対象に、赤ちゃんの社会的注意を、視線計測装置を用いて評価したそうです。具体的には、人と幾何学図形のどちらに興味があるのかを調べる「人と幾何学図形の選好課題」と、相手の視線方向を追う頻度を調べる「視線追従課題」を行ったそうです。
12ヶ月の時点で、早産児は満期産児に比べて、①人に対する興味関心が低い可能性、②視線追従の頻度が低いこと、がわかったそうです。これらは、先にあげた先行研究の知見と一貫するものです。視線反応を指標とした社会的注意の評価は、相互作用の研究に比べて、実験条件を統制できるメリットがあるそうです。そこで、乳児期の社会的注意の個人差をみることで、赤ちゃんの発達を評価し、支援につなげることができるかもしれないと考えたのです。
早産児では、ことばの発達にもリスクがある場合があるようです。たとえば、満期産児に比べて、在胎28~31週で出生した早産児は2歳までの理解できる語彙や話せる語彙の数が少なかったそうです。また、在胎28週未満で出生した6歳の早産児においても、語彙の理解や産出、文法知識に問題がみられる場合があるそうです。
早産児で言語獲得の過程におけるリスクが高い原因の一つとして、脳構造の成熟の非定型性があげられています。出生予定日の時期に早産児と満期産児の脳構造を比較した研究では、脳に重篤な損傷がない早産児においても、満期産児に比べて、白質や灰白質の体積が少ないことが示されているそうです。灰白質の大部分は、左角回や多感覚情報の統合に関与する脳領域を含み、読解などの複雑な言語機能との関連が示唆されています。したがって、このような早産児と満期産児の脳造の差異は、ことばの発達に影響すると考えられると言います。それは、どうしてでしょうか。やはり環境が影響しているのでしょうか。
早産児は、出生後の期間を集中治療室で過ごします。この集中治療室は医療機器などによって約50dBのノイズ音が存在する環境です。これは胎内で経験するよりも大きいノイズレベルであると考えられます。このような周産期の異質な経験環境は、早産児のことばの知覚処理にかかわる脳機能の発達に影響を及ばす可能性があると考えられています。
また、満期産児では、乳児期に視覚情報である口の動きと聴覚情報である音声が一致した発話を好む傾向が高いほど、ことばの発達が良好であるという報告があるそうです。これは、発話の視聴覚情報を統合処理する能力が高いと、言語入力を効率よく行うことかできるために、語彙理解の発達につながると考えられているのです。ピッケンズらは、修正齢3,4,7カ月の早産児と満期産児を対象に、発話者の口形と音声が一致した映像、これを一致発話と言いますが、その映像と不一致の映像、これを不一致発話と言いますが、その映像に対する選好を、選好注視法を用いて調べたそうです。その結果、満期産児では3ヶ月児と7ヶ月児の時点で、不一致発話に比べて、一致発話を長く注視したそうです。一方で、早産児ではそのような選好の偏りはみられなかったそうです。この知見は、修正齢7ヶ月までの早産児は、発話の視聴覚統合処理の能力が特異であることを示していると言います。