言語獲得の過程

今福氏らは、修正齢6~12ヶ月の早産児と満期産児を対象に、赤ちゃんの社会的注意を、視線計測装置を用いて評価したそうです。具体的には、人と幾何学図形のどちらに興味があるのかを調べる「人と幾何学図形の選好課題」と、相手の視線方向を追う頻度を調べる「視線追従課題」を行ったそうです。

12ヶ月の時点で、早産児は満期産児に比べて、①人に対する興味関心が低い可能性、②視線追従の頻度が低いこと、がわかったそうです。これらは、先にあげた先行研究の知見と一貫するものです。視線反応を指標とした社会的注意の評価は、相互作用の研究に比べて、実験条件を統制できるメリットがあるそうです。そこで、乳児期の社会的注意の個人差をみることで、赤ちゃんの発達を評価し、支援につなげることができるかもしれないと考えたのです。

早産児では、ことばの発達にもリスクがある場合があるようです。たとえば、満期産児に比べて、在胎28~31週で出生した早産児は2歳までの理解できる語彙や話せる語彙の数が少なかったそうです。また、在胎28週未満で出生した6歳の早産児においても、語彙の理解や産出、文法知識に問題がみられる場合があるそうです。

早産児で言語獲得の過程におけるリスクが高い原因の一つとして、脳構造の成熟の非定型性があげられています。出生予定日の時期に早産児と満期産児の脳構造を比較した研究では、脳に重篤な損傷がない早産児においても、満期産児に比べて、白質や灰白質の体積が少ないことが示されているそうです。灰白質の大部分は、左角回や多感覚情報の統合に関与する脳領域を含み、読解などの複雑な言語機能との関連が示唆されています。したがって、このような早産児と満期産児の脳造の差異は、ことばの発達に影響すると考えられると言います。それは、どうしてでしょうか。やはり環境が影響しているのでしょうか。

早産児は、出生後の期間を集中治療室で過ごします。この集中治療室は医療機器などによって約50dBのノイズ音が存在する環境です。これは胎内で経験するよりも大きいノイズレベルであると考えられます。このような周産期の異質な経験環境は、早産児のことばの知覚処理にかかわる脳機能の発達に影響を及ばす可能性があると考えられています。

また、満期産児では、乳児期に視覚情報である口の動きと聴覚情報である音声が一致した発話を好む傾向が高いほど、ことばの発達が良好であるという報告があるそうです。これは、発話の視聴覚情報を統合処理する能力が高いと、言語入力を効率よく行うことかできるために、語彙理解の発達につながると考えられているのです。ピッケンズらは、修正齢3,4,7カ月の早産児と満期産児を対象に、発話者の口形と音声が一致した映像、これを一致発話と言いますが、その映像と不一致の映像、これを不一致発話と言いますが、その映像に対する選好を、選好注視法を用いて調べたそうです。その結果、満期産児では3ヶ月児と7ヶ月児の時点で、不一致発話に比べて、一致発話を長く注視したそうです。一方で、早産児ではそのような選好の偏りはみられなかったそうです。この知見は、修正齢7ヶ月までの早産児は、発話の視聴覚統合処理の能力が特異であることを示していると言います。

修正齢

早産児や低出生体重児は長期的にみると数々の発達上のリスクが存在する可能性があります。たとえば、満期産児と比べた場合に、早産児では社会的認知やことばの発達に問題を抱えることがより多くあるそうです。さらに、大規模フォローアップ研究では、周産期に重篤な疾患をもたない早産児においても、学齢期を迎える頃に、内在化問題や外在化問題などの問題行動、学業成績の低下、実行機能の遅れなどのリスクを抱えやすいことが示されているそうです。内在化問題とは過度な不安や抑うつなどの自分の中に問題が生じるものを指し、外在化問題とは攻撃行動や規範に違反する反社会的行動などの外にあらわれるものを指します。

また、早産児ではADHDや学習症などの神経発達症のリスクが、満期産児に比べて2.4倍も高いことが報告されているそうです。同様に、1980~2001年に出生した早産児では、自閉症の罹患率は在胎週数が短いほど高くなる傾向にあり、在胎週数23~27週で出生した早産児では満期産児の約3倍だったそうです。

したがって、早産児の発達にかかわる生後早期の指標を発見することは、その後の発達を支えるうえで重要な課題だと言われています。しかし、早産児の社会的認知やことばについて、特に赤ちゃんの時期の特徴は知見が少ないのが現状だそうで、まだはっきりしていないようです。このような現状を解決するためには、早産と満期産の赤ちゃんを対象として、社会的認知やことばの発達にかかわる早期の特徴と、その個人差を明らかにする必要があると今福氏は言います。

これらのデータを見ると、その差は、母体の胎内にいる期間を胎外で育つ環境の違いに大きな原因があるように思います。それは、赤ちゃんにとって、胎内にいるときだけでなく、出産後の育つ環境がいかに大切であるかということがわかります。もう一つ、早産児の問題は、生年月日が出産した日時であることがあると思います。それは、日本では、多くの学校を含めた施設は、生年月日別に分けられた集団において同じことをするのです。その中で3月生まれだけでもハンデがあることが多い中、早産児を多くのハンデを背負うことが多いのです。とくに発達を保障する乳幼児施設では、もう少し、一人一人の発達を見て、その課題によって保育をすることが必要だと思っています。そして、就学年齢の弾力化も検討するべきだと思っています。

そのような中で、早産児と満期産児の発達的特徴の比較を行う場合には、成熟をそろえるために「修正齢」が使われているそうです。修正齢は、出生予定日である妊娠40週から数えた年齢です。確かにその年齢を使うことで、育つ環境の影響についてより正確に比較できるようになります。今福氏らも、この修正齢を使って比較しています。

このように、他者との相互作用を観察した研究で、早産児は他者に対して、満期産児と異なる行動特微を示すことか明らかになってきているそうです。たとえば、在胎28~34週で出生した修正齢4ヶ月と6ヶ月の早産児は、満期産児に比べて他者の顔から視線を逸らす頻度が多いことがわかっています。さらに、在胎26~32週で出生した修正齢9カ月の早産児では、満期産児に比べて実験者が視線を向けた先の物体に対する注視時間が少ないようです。

子どもへの虐待

産後うつは、子どもへの虐待につながる場合も少なくありません。そして、虐待を受けた経験は、様々な部分での脳の発達に多大な影響を及ぼすことがわかっています。たとえば、暴言などの心理的虐待を受けた子どもは、ことばを産出する領域とことばを理解する領域の間を結ぶ弓状束の神経線維が異質であり、聴覚野の一部である上側頭回灰白質の容積がおよそ14%増加しているそうです。これは、シナプスの刈り込みがうまくいかなかったために生じると考えられています。神経細胞同士が過度に結びついていると、情報の伝達に不具合が生じ、ことばでのコミュニケーションに支障がでてくると考えられているそうです。

また、身体的虐待・厳しい体罰を受けると、前頭前野の中でも相手の心的状態を推測することにかかわる内側前頭皮質が小さくなるそうです。それはどういう影響が出るかというと、この領域の異常は、先述した行為障害や抑うつなどになりやすい感情障害とかかわっていると言われています。また、夫婦間のDVを目撃して育つと、視覚野が縮小すると言われています。また、性的虐待を受けると、受けていない人に比べて、視覚野の中でも顔の認知などにかかわる紡錘状回がおよそ18%も小さくなるそうです。友田氏は、「性的虐待被害者の左の視覚野が小さくなっているのは、詳細な画像や映像を見ないですむように無意識下の適応が行なわれたのかもしれない」と述べているそうです。

虐待を含む不適切な養育のことをマルトリートメントと呼ぶそうです。マルトリートメントは、子どもの脳の発達に大きなダメージを与え、さまざまな問題行動へとつながるということがわかっています。マルトリートメントを引き起こす原因としては、養育者の育児不安やうつなどの精神的な不安、社会経済状況や育児について相談できる人がいないことといった家庭を取り巻く問題などが考えられています。そのためにも、子どもの発達を支える家庭環境をより良いものにすることが、今求められているだと今福氏は言うのです。

他にも、様々に育児に対して考えなければならない課題があります。好娠22週から出生後七日までの期間を周産期といいます。この周産期に、特異な環境で過ごす子どもがいます。それは、早産の赤ちゃん、いわゆる早産児です。通常、赤ちゃんは妊娠37週0日~41週6日で生まれ、この期間に生まれた赤ちゃんを満期産児と呼びます。一方、早産児は妊娠37週未満で出生し、満期産児が母胎内で過ごす時期を胎外で過ごすのです。医療技術の進歩によって、早産児や出生時の体重が2500グラム未満である低出生体重児の死亡率は減少傾向にあります。特に、2017年の推計によると、日本では生後28日未満で死亡した赤ちゃんの割合は1000人あたり0.9人であり、「日本は赤ちゃんが世界一安全に生まれる国」になっているそうです。

その一方で、世界では早産児の出生率が増加傾向にあります。2010年の時点で、171ヶ国における早産児の平均出生率は全体の11.1%にのぼり、ヨーロッパ諸国で約5%、アフリカ諸国で約18%でした。日本における早産の出生率は、1980年には全出生件数の4.1%であったのに対し、2010年には5.6%と増加しています。同様に、低出生体重児は1975年には全出生件数のうち男児で5.5%、女児で4.7%であったのに対し、2016年には男児で10.6%、女児で8.3%と増加しています。それは、どのような問題を引き起こしているのでしょうか。

産後うつ

近年、産後うつのお母さんの脳活動を測定することで、その神経学的基盤が明らかになってきました。初産のうつのお母さんと健康なお母さんを対象に、生後15~18ヶ月になる自分の子どもと他人の子どもの表情を観察中の脳活動を測定したところ、うつのお母さんでは、自分の子どもの喜びの表情を観察したときに、共感や感情の認識にかかわる眼窩前頭皮質と島皮質の活動が低いことがわかりました。うつのお母さんにみられるこのような脳機能の異質性は、子どもの養育への動機づけを低下させたり、感情を親子で共有する機会などを奪うことにつながると考えられると言います。

では、実際に、産後うつは子どもの発達にどのような影響を及ぼすのかを今福氏は考察しています。産後うつのお母さんをもつ9ヶ月児では、笑顔の表出が少なく、ネガティブな感情をコントロール(抑制)するのが難しいようです。産後うつのお母さんと赤ちゃんのかかわりでは、アイコンタクトや身体接触という、母子の同調的な行動が少なくなるそうです。また、子どもが6歳の時点では、お母さんが慢性的にうつ症状を抱える場合に、そうでない場合と比べて、小学校入学時に精神疾患を発症するリスクが4倍にもなり、およそ60%の子どもが心配や恐怖を過度にかかえる不安障害や反社会的で攻撃的な行動をとる行為障害にかかるそうです。小学校にあがる児童期において、うつのお母さんの子どもは、他人の痛みを自分のことのように感じる情動的共感が低く、ひきこもりになりやすいうえに、学業成績にも芳しくない影響を与えることがわかっています。このように、出産後のお母さんの精神的な健康は、子どもの発達に長期的な影響を及ぼすというのです。

こんなに産後うつが子どもに影響するのであれば、ケアが必要なのは当然です。しかし、多くの場合、この時期に産休、育休を取得している場合が多く、母子が孤立していることが多いために、なかなかケアを十分にしてあげられない場合が多くあります。乳児期における保育園への入園を、保護者が保育を必要だと考えた時に、仕事をしていようが、育休中であろうが、入園できるようにすべきだと思います。さらに、産後うつはそれだけではないようです。

産後うつは、子どもへの虐待につながる場合も少なくないそうです。全国210ヶ所の児童相談所が児童虐待相談として対応した件数は、2017(平成29)年度で13万3778件におよび過去最多の件数になっていると言います。

虐待には、①殴る、蹴る、投げ落とす、激しく揺さぶるなどの身体的虐待、②子どもへの性的行為、性的行為を見せる、ポルノグラフィの被写体にするなどの性的虐待、③家に閉じ込める、食事を与えない、重い病気になっても病院に連れて行かないなどのネグレクト、④ことばによる脅し、無視、きようだい間での差別的扱い、子どもの目の前で家族に対して暴力をふるうなどの心理的虐待、の四種類があります。2017年度は、心理的虐待が最も多く、次いで身体的虐待、ネグレクト、性的虐待の順で件数が多いようです。

虐待を受けた経験は、様々な部分での脳の発達に多大な影響を及ぼすことがわかっています。このような影響を及ぼす虐待の原因の一つに、産後うつが関係していることがあるようです。

四つの要因

フェルドマンらは、10歳までの子どもの発達に影響を及ぼしうる四つの要因をあげてい

ます。①三つ子以上を出産する多産、②お母さんの産後うつ、③早産、④戦争や災害などによる反復性の心的外傷です。

多産の場合には、三つ子のうち1名が子宮内発育不全になる割合が三分の二ほどあるそうです。子宮内発育不全の子どもは、認知や社会性の発達が遅れ、問題行動がみられやすくなると言われています。反復性の心的外傷は、たとえば戦争を経験するとストレス耐性が弱くなり、心的外傷後がストレス障害や精神疾患にかかる可能性が高くなるようです。

では、2番目の産後うつと3番目の早産については、どのような影響を及ぼすのでしょうか?今福氏は、それについて、詳しく述べています。

産後うつはお母さんが出産後に発症するもので、不安、緊張、抑うつ感、罪悪感などの精神症状と疲労感、頭痛、食欲不振などの身体症状がみられます。産後うつは、およそ10~15%のお母さんが経験すると言われています。産後うつの原因としては、外的要因としては、育児にともなう不安や悩みなどのストレスや身体的な疲労、配偶者のサポートの欠如などがあげられます。さらに、体の内部では、産後はホルモンバランスの急激な変化が起こります。たとえば、エストロゲンやプロゲステロンなどの女性ホルモンは、妊娠後に多く分泌されるようになりますが、産後は女性ホルモンの分泌量が大きく低下するそうです。女性ホルモンの減少は、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質の働きに負の影響を与えます。神経伝達物質育が不活性化すると、前頭葉の機能が落ちることで意欲や思考が低下してしまうというのです。

今福氏は、まず、そもそも、養育行動はどのように生じるのかを説明しています。赤ちゃんが生まれると、養育者は赤ちゃんの見た目や肌触り、匂いなどの感覚刺激を受け取ります。このとき、感覚の受容にもとづく養育への動機づけが起こると言われていますそれが、「赤ちゃんへの注目」です。その後、赤ちゃんへの接触(タッチ)、発声、授乳などの「反射的な養育行動」が行われます。そして、赤ちゃんとのかかわりによって誘発された感情は、「感情制御」をすることで対処する必要があります。最終的に、なぜ赤ちゃんが泣いているのか、もしくは笑っているのかなどの状態を把握するために、共感や心の理論などを通して「認知」します。このような「赤ちゃんへの注目」「反射的な養育行動」「感情制御」「認知」というプロセスが正常に機能することによって、適切な養育行動が行われるのです。

では、産後うつは、養育行動にどのような影響をもたらすのでしょうか。はじめて子どもを出産した初産のお母さんとその5ヶ月児を対象に、お母さんの子どもとのかかわり方とうつ症状との関連が調べられたそうです。まず、いつもどおりお母さんが子どもと2分間かかわった後に、次の2分間はお母さんが無表情のまま子どもとかかわります。最後の2分間は、お母さんがいつもどおり子どもとかかわろうとします。このとき、お母さんが無表情になると、たいていの子どもは不快な情動状態になります。その結果、うつ症状の強いお母さんは、最後の2分間に子どもの不快な情動状態を軽減する行動をとることがむずかしい傾向にあったそうです。また、うつ症状が強いお母さんでは、対乳児発話をすることや発話自体の頻度が少なく、授乳や寝かしつけなどの行動についても頻度が少ないことがわかりました。うつ症状が強いお母さんは、養育行動が特異になる傾向があるようです。

胎児期の環境

これまでの解説を読むと、心の発達は生後早期から始まっているようです。同様に、どのような環境で過ごすかによって、子どもの発達は大きく左右されると考えられるのです。生後の環境が発達に及ほす影響について、今福氏は事例をあげて説明をしています。

ヒトの脳の発達をみてみると、脳は生まれるまでの間に加速度的に発達します。チンパンジーの胎児の脳体積の発達と比べると、その差異が明確だそうです。ヒトの出生時は脳の重さはおよそ400グラムですが、その後、成人ではおよそ1400グラムになります。このように、脳の構造や機能がめまぐるしく発達する時期において、環境での経験はどのような影響を及ぼすと考えられているのでしょうか。

近年、医学系の分野において、発達初期の環境が成人期以降の疾病リスクに影響を及ぼすという考え方が提唱されています。DOHaD仮説と呼ばれている説です。DOHaD仮説とは、胎児期の環境が成長後の健康・疾病リスクにかかわるという考えで、たとえば、お母さんが肥満傾向、もしくは痩せ傾向にあると、胎児に届く栄養が偏り、将来的に肥満や生活習慣病のリスクが上昇すると言うのです。

それは、様々な母親の生活習慣が赤ちゃんに影響を与えることを訴えています。お母さんが摂取したものは、胎盤を通じて胎児に届きます。したがって、健康を害するものが取り込まれると胎児にも悪い影響がでる可能性があるのです。たとえば、お母さんが喫煙をするとどうでしょうか。喫煙によって、ニコチンや一酸化炭素が胎児に運ばれます。これらの物質は、末梢血管の収縮をひきおこし、血流の悪化や血液中の酸素を奪う働きをします。

飲酒はどうでしょうか。お母さんがアルコールを摂取すると、胎児の血中のアルコール濃度が上昇し、胎児が先天性の異常である胎児性アルコール症候群になる可能性もあります。胎児性アルコール症候群では、子どもの発育遅延、中枢神経の障害(学習、記憶、注意の持続、コミュニケーションなどへの負の影響)、特異的顔貌(目が小さい、唇が薄いなどの顔の特徴)などの症状がみられます。これらのことにもう少し気がつくことが必要です。いろいろな言い訳をして、また、周囲の影響がなさそうな例を出して、そんなことがないと自分に言い聞かせている姿を見ることがありますが、子どもたちを相手にしている仕事であれば、少しのリスクでも避けなければなりません。

数々の研究成果をまとめたレビュー論文においても、胎児期に飲酒や喫煙にさらされた子どもは、不注意や衝動性に特徴づけられるの発症リスク、攻撃性の高さや犯罪などの問題行動、認知機能の低下のリスクが増加することが認められています。これらの子どもへの影響は、一日にグラス一杯という軽度の飲酒や、お母さんが受動喫煙をした場合においても報告されているそうです。このように、喫煙や飲酒は身体・脳の発達に負の影響を与える恐れがあります。また、飲酒や喫煙は、妊娠37週未満で出生する早産や2500グラム未満という低出生体重での出生、流産などのリスク因子となることがわかっています。

フェルドマンらは、10歳までの子どもの発達に影響を及ぼしうる四つの要因をあげてい

ます。①三つ子以上を出産する多産、②お母さんの産後、うつ、③早産、④戦争や災害などによる反復性の心的外傷です。

語りかける大切さ

マツダらは、養育経験のない成人男性と女性、喃語期である生後8ヶ月前後の赤ちゃんをもつお父さんとお母さん、二語文を話す幼児のお母さん、小学一年生の児童をもつお母さんを対象に、対乳児発話を聴取しているときの脳活動を、fMRIを用いて測定しました。その結果、生後8ヶ月前後の赤ちゃんをもつお母さんでは、ことばを聞くことにかかわるウェルニッケ野と、ことばを話すことにかかわるプローカ野において、大きな脳活動がみられたそうです。しかし、それ以外の対象者では、当該領域の大きな脳活動はみられなかったそうです。それは、どういうことを表しているかというと、生後8ケ月前後の赤ちゃんをもつお母さんは、いつも赤ちゃんに対して話しかけているので、対乳児発話に対する脳の感受性も高くなるということのようです。さらに、発話の運動にかかわるプロ―カ野の活動は、社交性や活動性の高さにかかわる外向性か高い人ほど強くなったそうです。これは、よく赤ちゃんにかかわろうとする性格特性であるパーソナリティをもつお母さんほど、赤ちゃんに対してことばを伝えようとしていることを暗示していることが考えられます。同様に、お母さんの対乳児発話に対する感受性の高さは、日常場面で「わんわん」などの育児語を使用する頻度の多さと関連するそうです。今福氏は、育児に対応した脳は、赤ちゃんとのかかわりの中で育まれるのかもしれないと考えているようです。

また、うつ傾向が強いお母さんは、生後3~4ヶ月の自分の子どもに対乳児発話で語りかける時間が少なく、子どもの発声に応答するのも遅いそうです。対乳児発話は、乳児期における音韻や語彙の獲得を促すため、うつ傾向が強いお母さんによる対乳児発話の使用の少なさは、赤ちゃんのことばの発達に負の影響を及ばす可能性があるといわれています。

ことばは、赤ちゃんが音声や発話を見聞きし、発声することで発達します。大人の語りかけは、赤ちゃんがことばを学ぶ環境になるのです。今福氏は、「ことばが発達するしくみを理解して、より良いことば環境をつくることが、大人の重要な役割です。」と助言をしています。

これらの会話に関する研究は、いかにこどもへの大人からの言葉がけが大切であるかということで、保育でも重要な示唆を与えてもらえます。しかし、私は今後の研究に期待したいことは、会話は赤ちゃんと大人との関係だけでなく、子ども同士の関係の中でも行われます。それは、まだ言葉の出ない赤ちゃんでもお互いに表情や身振り、手振りで必死に会話をしている姿を見ることが多いからです。その関わりが、将来の音韻や語彙の獲得に影響するのかということのほかに、話そうとする意欲や、相手の気持ちに共感することでの会話の質の高さに影響するのだと思っています。

また、子ども同士の会話は、かつての家庭の中では、兄弟の中で行われてきました。それは、年の違う子ども同士の会話です。いわゆる異年齢同士の会話からは、大人との会話ではない、違う力が育つような気がしています。もう一つ、赤ちゃんにとって重要な会話の相手にお年寄りがいると思います。それは、相互にとって意味あることだと思っています。もちろん、これからは、他民族との会話も重要かも知れませんが、社会の中で生活をしていく上で、様々な年齢の人との会話がとても重要にも関わらず、子どもたちの環境の中からは、特に乳幼児期の環境からは親子以外の人との会話がなくなってきています。かつての様々な人に囲まれての育児が必要になってきますね。

歌いかけ

なぜ、歌いかけのときに、赤ちゃんは話者の口を一番長く見たのでしょうか。その理由の一つに、視覚情報の顕著性が高かったことが考えられると今福氏は言います。実際に、話者の口の動きを分析した結果、歌いかけ条件、対乳児発話条件、対成人発話条件の順で、口の運動変化量が大きい傾向だったそうです。また、聴覚刺激の音響特徴を分析したところ、歌いかけ条件はほかの条件に比べて、平均周波数が高く、話速が遅く、周波数の範囲が狭い傾向にあったそうです。歌いかけの誇張された口の動きや音響特徴が、話者の口元の顕著性を高めた結果、赤ちゃんは歌いかけている話者の口を最も長く見たと考えられると今福氏は考えています。以前、紹介したように、話者の口を見ることは、赤ちゃんのことばの発達に効果的です。したがって、歌いかけによる赤ちゃんとのかかわりは、発話の視覚情報の利用を促進し、ことばの発達に寄与する可能性があることになるのです。

また、歌いかけは、赤ちゃん―大人―モノの三項関係の構築に影響を及ばすかもしれないと今福氏は考えています。大橋らは、12~13ヶ月の赤ちゃんを対象に、大人による絵本の読み聞かせ方の違い、つまり対成人発話、対乳児発話、歌いかけの場合によって、顔や絵本に対する赤ちゃんの注意の向け方にどのような影響がみられるかを、視線計測装置を用いて検討したそうです。その結果、歌いかけのときに、赤ちゃんは絵本を読んでいる大人の顔を最も長く注視したそうです。顔は、読み手の心的状態が表れると言われています。したがって、歌いかけによる絵本の読み聞かせが、読み手の心的状態と絵本を関連させて理解することを促す可能性を示唆していることになるのです。

歌いかけの効果は、ことばの発達に限らないと言います。歌いかけには、ストレス反応の指標であるコルチゾール値を収斂させて、赤ちゃんの覚醒度を安定させ、注意を維持する効果があることがわかっているそうです。乳幼児期の感情の制御や注意機能は、後の実行機能や自己制御などの認知能力の発達や問題行動と関連することもわかっています。歌いかけによる赤ちゃんとのかかわりは、安定した内部状態を基盤とした発達を支えるのに有効であるかもしれないと今福氏は考えているようです。

子育てにおいて、対乳児発話や歌いかけはあらゆる国や文化でみられるようです。アマノらは、子どもが0~5歳の期間に、およそ1ヶ月おきに母子の相互作用を観察し、お母さんの発声を分析したそうです。その結果、子どもが生後18~24ヶ月の二語文を話しはじめる前後の期間に、お母さんの発声の基本周波数が変化することがわかったそうです。つまり、二語文が始まる前には、お母さんは子どもに対して高い声で話しかけ、二語文が始まった後にはそれほど高い声で話しかけないようなのです。養育者は、子どもの発達段階に応じて語りかける音声のピッチを調整しているということになります。この結果も面白いですね。自然とそうなっているのです。

では、養育者が行う独特な語りかけの背後には、どのような神経基盤があるのかということを紹介しています。マツダらは、養育経験のない成人男性と女性、喃語期である生後8ヶ月前後の赤ちゃんをもつお父さんとお母さん、二語文を話す幼児のお母さん、小学一年生の児童をもつお母さんを対象に、対乳児発話を聴取しているときの脳活動を、fMRIを用いて測定したそうです。

対乳児発話

養育者を含む大人は、赤ちゃんに対しての対乳児発話は、大人に向けて話す対成人発話に比べて、対乳児発話はピッチが高く、ピッチの範囲が広く、すなわち抑揚があり、発話がゆっくりであるという音響特徴をもっているそうです。また、歌いかけもピッチが高いという音響特徴をもちますが、対乳児発話に比べて発話の速度がさらに遅く、一息中のピッチ変化が小さという特徴をもっているそうです。このような大人の発話スタイルは、赤ちゃんにどのような影響を与えるのかを今福氏は考察しています。

赤ちゃんは、対成人発話よりも対乳児発話を好み、対乳児発話に比べて歌いかけを選好することがわかっているそうです。このことは、対乳児発話や歌いかけが、赤ちゃんの注意をひきつける特性をもつことを示しているということになります。ホマエらは三ヶ月児を対象に、朗読された抑揚のある音声と、声の抑揚を平坦にした音声を聴いたときの脳活動を比較検討したそうです。その結果、声の抑揚を平坦にした音声に比べて朗読された音声に対し右側頭部でより強い活動がみられたそうです。これは成人でもみられることだそうですが、乳児期の早い段階で、韻律の情報が右の側頭葉で知覚処理されていることを示していることになります。それはどういうことかというと、赤ちゃんは生後早期から音声の抑揚に感受性をもつために、対乳児発話や歌いかけを好むということがわかります。

さらに、これらの発話は、赤ちゃんのことばの発達に寄与することがわかっているそうです。たとえば、お母さんが対乳児発話のように抑揚をつけて赤ちゃんに話しかけているほど、およそ生後12ヶ月の時点で、子音の音声を区別する能力が高く、日常生活で大人が赤ちゃんに対して対乳児発話を使用する時間が長いほど、生後24ヶ月の時点で話せることばの数が多くなることがわかっているそうです。しかし、大人の発話スタイルに着目したこれまでの赤ちゃん研究は、音声刺激のみに対する反応を分析したものがほとんどだそうですが。

大人が対乳児発話や歌いかけで赤ちゃんに語りかけるときに、視覚情報である口の動きはどのような意味をもつのでしようか。グリーンらは、大人が対乳児発話で話しているときと、対成人発話で話しているときの口の動きを、モーションキャプチャという人間の動きを数値化する装置で測定したそうです。その結果、対成人発話に比べて対乳児発話で発話した場合において、話者の口の運動量が顕著に大きくなることが明らかになったそうです。それはどのようなことを意味するかというと、大人が赤ちゃんに対乳児発話や歌いかけで語りかけるときには、聴覚情報に加えて、視覚情報が誇張されるのです。視覚情報が誇張される場合に、赤ちゃんは話者の口をより長く注視する可能性があるのです。

そこで今福氏らは、大人の発話スタイルの違いが、話者に対する赤ちゃんの顔注視行動に及ぼす影響を検討したそうです。参加児の月齢は、話者の口を注視する傾向が出現し、喃語を話しだす6ヶ月児、および初語を発話しはじめる12ヶ月児にしたそうです。参加児が観察する映像には、保育者である大人の女性が対成人発話、対乳児発話、歌いかけのうちのどれかの発話スタイルで絵本の一節を朗読しているものを使用し、映像視聴中の赤ちゃんの視線反応を、視線計測装置を用いて測定したのです。その結果、発話スタイルの違いによって、話者に対する赤ちゃんの口注視行動が変化したそうです。すなわち、6ヶ月児と12ヶ月児は、対成人発話条件と対乳児発話条件に比べて、歌いかけ条件で話者の口を長く注視することがわかったのです。

赤ちゃんの会話

発話を介した相互作用の代表的な形態として、ターンテーキングという話者交代があると言います。ターンテーキングとは、話し手と聞き手が交互に話者になることを指すそうです。発話を介したターンテーキングは、音声器官が発達しており、さえずるものが多いスズメ目スズメ亜目である鳴禽類の鳥やアフリカゾウ、原猿類、サルなどでもみられているそうです。一方、同じターンテーキングでも、ヒトとほかの動物との間では差異もあると言います。動物のターンテーキングはヒトに比べて、その文脈が限定されていると言うのです。たとえば、動物は警戒や求愛などの限られた場面でターンテーキングがよくみられると言うのです。

大人同士の会話では、ターンテーキングにおける一つの発話の長さがおよそ2秒であり二者の発話間間隔はおよそ250ミリ秒と非常に短く、発話間の重なりはほとんどみられないそうです。この短時間で、聞き手は、①話し手の発話が何を意図しているかを予測して理解し、②発話内容の理解、調音を通して発話をする準備を行い、③話し手の発話の終結を韻律の手がかりから推測し、④その終結後に発話をする、ということをしなければならないのです。このように行うことを列挙すると、随分と難しいことを瞬間に行なっているのですね。ターンテーキングを行うには、話し手と聞き手のそれぞれが話者の心的状態を理解する必要があります。そのため、ターンテーキングをより長く継続するには、他者の心的状態の推測に関係するメンタライジングが必要であると考えられます。また、二者間における発話のターンテーキングでは、自他の視点変換にかかわる側頭・頭頂接合部が中心的な役割を果たしていることになるそうです。

発達的観点からみると、赤ちゃんと大人における発話のターンテーキングは生後2ヶ月から観察され、大人同士のターンテーキングとは異なる特徴をもっているそうです。たとえば、赤ちゃん同士のターンテーキングでは、双方の発話の重なりが顕著にみられるそうです。これは、乳児期にはターンテーキングにかかわる神経基盤の発達が未成熟であることが考えられています。生後3、4、5、9、12、18ヶ月の赤ちゃんとお母さんの自由遊び場面を観察した研究では、赤ちゃんの月齢が9ケ月以前の場合と比べて、それ以降の月齢の場合に、赤ちゃんとお母さんの発話間間隔が長くなることがわかったそうです。また、ここにも最近私が気になっている「9ヶ月」という時期が示されています。この生後9ヶ月は、自己―他者―モノの三項関係が始まり、相手の意図が理解できるようになる時期だと言われています。ターンテーキングには、相手の意図を推測する必要があるため、生後9ヶ月の時期にターンテーキングの質が変化すると考えられます。赤ちゃんは有意味語をほとんど話すことはできませんが、大人と「会話」をしていることになるのです。

私たちは赤ちゃんや子どもとかかわるとき、わらべうたや手遊びをします。このときにみられる音声には、どのような特徴や効果があるのかということを今福氏は説明しています。

養育者を含む大人は、赤ちゃんに対して対乳児発話や歌いかけなど、特徴のある音声を用います。対乳児発話は、赤ちゃんに話しかけることで、マザリーズとも呼ばれるそうです。