研究手法

発達科学や発達心理学は、実証研究によって心の発達にかんする多くの知見を明らかにしてきました。今福氏は、これらの研究につての手法を説明しています。研究の中で、実証研究とは、対象者を観察・実験することで得られたデータを分析することによって行うものを指します。では、データはどのように取得するのでしょうか。心は目に見えません。そこで、心が反映される指標を集めます。指標には、反応時間、視線反応、質問紙、面接などの行動指標や、脳電位・血流、心拍、発汗などの生理指標があります。指標を集めることで、私たちの心を間接的に見ることができると言うのです。

では、発達の初期段階にある赤ちゃんの心は、どのように「見える化」できるのでしようか。今福氏は、こんな例を出しています。たとえば、赤ちゃんがある種の刺激を顕著に好む性質を利用した選好注視法や、一定時間連続して提示された刺激に飽きる性質を利用した馴化ー脱馴化法などを挙げています。これらの方法は、私のかつてのブログでも何度か紹介してきました。選好注視法では、モニターの画面の左右にお母さんの顔と見知らぬ女性の顔を提示し、赤ちゃんがどちらの顔をより長く見るか(好きか)を調べます。馴化ー脱馴化法では、モニターに女性の顔Aを何度か提示し、注視時間が短くなったら先ほどとは異なる女性の顔Bを提示します。このとき、顔Bに対する注視時間が長くなれば、赤ちゃんは顔Aと顔Bを区別していたことになります。

さらに、近年の科学技術の発展により、人体に安全な近赤外光を利用して赤ちゃんの視線反応を記録することのできる視線計測装置や、脳血流量の変化を測定することのできる近赤外分光法(NIRS)、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)、脳の電気信号の変化を測定することのできる脳波計(EEG)や脳磁図(MEG)などの脳機能計測装置が開発されているそうです。このような計測技術の飛躍的な発展は、赤ちゃんの知覚・認知機能の発達過程の解明とその理解に大きく貢献しているそうです。なお、ここでいう知覚は、雑多な環境の中から顔や声など特定の対象を認識するうえで欠かせない、受容した感覚情報を意味づける過程のことを指し、認知は、情報を知覚したうえで判断や解釈をする過程のことを指します。

たとえば、視線計測装置では、赤ちゃんが顔のどこの部位をどのくらいの時間見ているかを正確に調べることかできます。また、NIRSを用いた研究では、新生児において、視覚、聴覚、触覚といった感覚刺激が与えられた際に、それぞれに対応した大脳皮質の局在的な活動がみられることがわかったそうです。さらにこの研究は、触覚刺激を受けたときに、新生児の脳活動が広い領域でみられることを示しており、この時期における触覚刺激の重要性を示唆しているそうです。

発達研究における研究デザインについては、主に横断研究と縦断研究があるそうです。横断研究は、同じ年代の対象者をある一時点において観察して、「生後〇ヶ月の赤ちゃんは、このような傾向があります」という研究を行う場合に用いられます。一方で、縦断研究は、同じ対象者を異なる時期に二回以上繰り返し観察することで、時系列的な発達変化を調べることができると言います。