赤ちゃんはかわいいか?

今福氏は、心の発達について理解できれば、適切なかかわりができるようになり、子育ての不安が安心に変わると言います。そのために、私たちは、まず発達を理解しなければなりません。その中で、心を理解するために、私たちの心は、いつ、どのように発達するかの理解が必要になります。

そもそも「心」とは何であるかを彼は問うています。広辞苑(2008)には、心とは「人間の精神作用のもとになるもの、またその作用であり、知識・感情・意志の総体である」とあるそうです。この定義によると、最初に「人間の」と書かれているので、心は人間特有のものであり、ヒト以外の動物に心はないように思えます。しかし、動物にも感情や意志があると考えられているようです。たとえば、犬を飼っている方は、犬に心があることを疑わないだろうと言います。実際に、犬は喜びや悲しみなどの基本感情という、国や文化によらず同じように認識される感情を表情で示します。また、オマキザルでは、実験者からもらった食べ物よりも好きな物を他個体がもらっていると、実験者に食べ物を投げつけるという「嫉妬」ともとれる行動をするそうです。

では、赤ちゃんに心はあるのでしょうか。それを考えるうえで、今福氏は、いわゆる白紙論に触れています。かつて、晢学者のジョン・ロックは、「生まれたばかりの人間の心は、何も書かれていない白紙(タブラ・ラサ)である」という有名なことばを残しています。しかし、近年の発達心理学研究から、生まれたばかりの新生児でさえ、多くの能力を備えていることか明らかになってきたと言います。たとえば、新生児は人の顔やお母さんの声などの社会的刺激を、ほかの刺激よりも好むことがわかっています。また、相手の顔表情や手の動きの真似をします。それは、新生児模倣と呼ばれる現象です。現在では、ヒトが生まれながらにしてもつこれらの性質は、社会性やことばの発達の基礎になると考えられているのです。

次に、「ベビースキーマ」について述べています。赤ちゃんを見ると、多くの人は、かわいいと感じます。それは、赤ちゃんの笑顔を見ると、こちらも嬉しくなってしまったり、赤ちゃんを抱っこすると、柔らかくてふわふわした印象を受けるからです。

では、「かわいい」とは何でしょうか。この言葉は、今はそのまま世界中の人が使い始めています。それは、日本の漫画やアニメなどで使われることが多く、海外ではそのまま“kawaii”という表記が用いられるようになっています。今福氏によると、「かわいい」は、いとおしさを感じる対象に抱く感情のことで、心理的・感情的な体験を指す言葉であると言います。

かわいい感情は、見た目の幼さとの関連において議論されることが主流でした。それを、ローレンツが提唱したべピースキーマという概念では、人間や動物の幼体がもつ身体的特徴に着目しています。ローレンツによると、ベビースキーマは身体に対して大きな頭、前に張りでた顔をともなう高い上頭部、顔の中央よりやや下に位置する大きな眼、短くてふとい四肢、全体に丸みのある体型などの特徴があり、これらの特徴にあてはまる対象は、かわいく感じられるとしました。赤ちゃんは、このベビースキーマをもつためにかわいいというのです。