どんな研修

全国各地で行われている公開研究会も教員に負担をかけています。日本では、多くの学校で研究授業を行なっていて、年に数回は外部の教育関係者を招いて、公開研究会を開催しています。日本独自の研修システムとして海外からは評価されているようですが、半日分の授業がなくなる上に教員の負担も大きく、工藤氏は効率的ではないと感じているようです。

一般的な公開研究会では、授業が終わった後に、外部から招いた大学教員等による講評等が行なわれますが、教員の中にはその意義が感じられず、つい、ウトウトしている人も見られるそうです。研修内容が、自分にはさほど関係なく、「役立たない」と感じているからではないかと考えます。確かに、内容的にも若手からベテランまで、すべての教員にとって役立つものとはなっていないことはよくあると彼は感じていたのです。

そうした理由から、彼は区の指導課長時代に公開研究会の全面廃止を提案したそうですが、学校の抵抗もあり、実現はしなかったそうです。彼が麹町中学校に赴任してからは、1回開催しただけで、その後は従来型の公開研究会は開催していないそうです。公開講座のような形で、全国から多種多様な方が参加できる研究会や研修講座を開催しているそうです。

このように、学校には前例踏襲を常とする、放置されたままの慣習が至る所にあると彼は言います。彼は、「学校と企業は違う」と思わず、学校・民間を問わず、工夫すべきところは工夫し、参考にできることは参考にしていくべきだと主張しているのです。

彼は、また脳神経科学者と共に研修に取り組んでいます。教員は、学習指導や生徒指導において、様々な経験知を持っています。生徒を上手にほめる方法やしかる方法、やる気を喚起する仕掛け、気持ちを高める声がけなど、ベテラン教員になればなるほど、数多くの経験知を保有し、日々の教育活動に生かしているものだと言います。

そうした経験知の数々は、「正しいもの」「効果的なもの」として多くの教員間で共有されているのですが、実は、その効果が科学的に裏付けられているわけではありません。この点を科学的に分析、評価することを目的として、2018年度から新たに脳神経学の視点を取り入れた教員研修を実施しているそうです。協力者は、株式会社ダンシングアインシュタインFounderの代表・青砥瑞人さんです。彼は、日本の高校を中退した後に渡米し、カリフォルニア大学ロサンゼルス校で脳神経科学を研究してきた脳のスペシャリストだそうです。

これまで、教員が経験知として実施してきた指導が、脳科学の視点から裏付けされれば、これほど心強いものはないと考えたのです。子どもがモチベーションを持って自律的に学ぶとは、脳科学的にはどのような状態を指すのか、それが分かれば支援のあり方、環境の作り方、言葉掛けの仕方などが理論的に整理できて、教育活動の制度は格段に高くなると考えたのです。もちろん、これまでも教育心理学に基づくカウンセリングの方法など、科学的な手法で、理論化されてきた領域はあります。しかし、脳細胞レベルでそれが理論化されれば、その成果は比べものにならないほど確かなものとなるに違いないと彼は考えているのです。

そんな彼は、大阪の小学校の元校長である大村泰子さんを誘います。彼女の小学校における実践も素晴らしく、特に特別な支援・配慮を必要とする児童が全校生徒の約1割ほどを占める学校での実践記録が、ドキュメンタリー映画「みんなの学校」として公開されて、注目を浴びていたのです。