当事者意識

私たちにとって大切なのは、考え方に違いがあることを「当たり前」のことと捉えた上で、上位目的を見据えながら、合意形成を図っていくことだと工藤氏は言います。そしてこれこそが、これからの時代を生きる生徒たちに教えていかなければならないことだと考えているのです。そのために、「目指す生徒像」には、「感情をコントロールする」ことも掲げているのだと言うのです。

では、学校の保護者との関係はどのように構築していくことが必要なのでしょうか?学校は、子どもの「自律」を育成する場でもあり、この目的は保護者とも共有し、協力しながら実現していく必要があります。しかし、現状の学校と保護者の関係を見ると、保護者が「消費者」、学校が「サービス事業者」と化しているような状況が見受けられると彼は言います。保護者のクレームを真に受けて対応した結果、子どもが自立する機会が失われてしまったこともあるはずだと言うのです。組織に対する苦情や不平不満は、「当事者意識」と表裏の関係にあると言います。

自身に当事者だという意識があれば、文句を言うより先に「どうすればよいか」を考え、行動を起こします。逆に、当事者意識がないと、「お客様感覚」で何か不都合が起きると、自分ではない周りの誰かのせいにしようとするものだと言います。そこで彼は、保護者に当事者意識を持ってもらい、同じ目的を共有し、合意形成を図っていくことが必要だと考えます。その方策として取り入れたのが、「学校運営協議会」だったのです。これは、2004年に制度化された新しい学校教育の仕組みで、文部科学省の説明では、「学校と地域住民等が力を合わせて学校の運営に取り組むことが可能のなる『地域とともにある学校』への転換を図るための有効な仕組み」とされているものです。具体的に言うと、学校、地域、保護者の代表から成る「学校運営協議会」を設置し、そこで定期的に会合を持ち、校長の経営方針を承認したり、学校運営の方針に意見を出したりする会で、どの地域でもその会が作られ、定期的に会合も開かれています。そして、この会が設置された学校をコミュニティ・スクールと言います。しかし、どうも私はその機能が形骸化しているように感じていますが、工藤氏も課題があると感じていたようです。

その一つは、保護者や地域住民が、当事者意識を持って動くような仕組みになっていないと感じたことでした。このコミュニティ・スクールは、大きく二つのタイプに分かれるそうです。一つは「学校運営協議会」が第三者機関的に学校運営をチェックし、意見を述べるというタイプで、もう一つは「学校運営協議会」が地域支援本部的に、学校の実践を外側から支援するというタイプです。

しかし、当時は学校と地域との間に軋轢が生まれ、校長が交代するなど、学校運営は暗礁に乗り上げてしまったことがあったそうです。こうなった最大の要因は、保護者や地域住民が「消費者感覚」で学校にモノを申してしまったことがあったのではないかと彼は考えています。もう一つのタイプは、教育ボランティア等が授業に入り、実践を支援するものです。地域住民が「当事者」としてかかわるよい仕組みだと彼は言います。しかし、こちらのタイプも地域支援本部が「外側からの支援」という形をとっているだけになってしまうと、教育ボランティアの受け入れが教員の負担を大きくするだけで、「労多くして効少なし」となってしまうこともあると工藤氏は言うのです。