目指す生徒像

「非認知スキル」や「コンピテンシー」は、とても重要な力であり、経験を通してしか身に付かず、しかし、一度身に付けると、その力は人生において繰り返し発揮してくれるものです。これらの力については、企業では20年ほど前には関心を持って研究されてきたものです。彼も、2001年に、当時のSONYの人事課長から、人材採用や育成で「コンピテンシー」に注目していると聞いたそうです。

工藤氏は、学校においても、生徒にこうなってほしいと願う姿であるコンピテンシーを明確にしなければ、適切な「手段」をとることはできないと考え、何か、「ものさし」となるものはないかと探したそうです。そこで見つけたのが、2003年にOECDがまとめたコンピテンシーを日本の国立教育政策研究所が紹介していたものです。それを元に「目指す生徒像」を作成しました。

まず、「言語や情報を使いこなす能力」として、①様々な場面で言葉や技能を使いこなす。②信頼できる知識や情報を収集し、有効に活用する。です。次に「自分をコントロールする能力」として、③感情をコントロールする。④見通しをもって計画的に行動する。⑤ルールを踏まえて建設的に主張する。です。そして、「多様な集団の中で協働できる能力」として、⑥他者の立場で物事を考える。⑦目標を達成するために他者と協働する。⑧意見の対立や誓いの相違を解決する。です。

これらは、子どもたちだけのものではなく、私たち大人自身も日々の仕事の中で学び続ける力でもあると工藤氏は言いますが、実は、これらは、私たちが幼児教育でも求める力と通じるものがあります。さらに彼は、これを作成したのは2014年に赴任した年に作ったものですので、その後の取り組みを踏まえて、今は改訂する必要性を感じているそうです。例えば、⑦の「目標を達成するために」は、達成のために合意形成が必要ですので、「合意形成をするために」のほうがいいのではないかと考えていると言います。

次の課題は、どうやってこれら8つのコンピテンシーを育んでいくかです。これらコンピテンシーを身に付けるためには問題解決型のカリキュラムが必要になります。また、生徒たちが社会で必要とする問題解決型の行事や取り組みなどを配列しました。

チームで問題解決を行うことには難しさがあると彼は言います。当然対立が生まれますし、対立が起こればイライラすることもあります。そこでは、自らの感情をコントロールすることも重要になっていきます。これら一連の過程を通じて学んだコンピテンシーを言語化して、「メタ認知」として生徒が考え方を理解し、自分のものとして使えるようにすることが大切だと言います。これまでの学校教育では、教師自身が適切な場面に適切な言葉で、生徒が身につけた力を価値付けたり、位置付けられてこなかったために、「みんなで頑張った」といった情緒的な言葉で、単なるサクセスストーリーとして終わらせてしまったり、感動的な青春ドラマのような形にまとめられていたりしていたようだと工藤氏は指摘します。

そのような意味付け程度では、将来、課題が生じた時、「あの時は仲間がいたけれど、今はいない」「環境が違うから解決できない」と、周りのせいにしてあきらめてしまう人間にしか育たないと彼は思っていると言います。