仲良く

人は時々「心」にこだわります。特に中学生ぐらいの年代は、自分の心のありようがとても気になる時代だと工藤氏は言います。自分を見つめ、自分の生き方を深く考えることは、自分を成長させるためにとても大切なことだと言います。しかし、心にこだわりすぎると、よいことをしようと思っても、人目を気にするあまり、臆病になってしまうことがあります。しかし、「よい行動ができるようにする」ことこそが目的であって、心のありようは、問題ではないと考えます。そもそも「心はみんな違っていい」はずだというのです。彼は、生徒たちには、人は行動こそが大切だという「行動の教育」を伝えていきたいと思っていると言います。

かれは、心の教育について、最後にこう締めくくります。幼稚園や保育園、小学校で心の教育の象徴としてよく言われている「みんな仲良くしなさい」という言葉がありますが、この言葉によって、コミュニケーションが苦手な特性を持った子どもたちは苦しい思いをしているのではないかと懸念します。よかれと思って、多くの教師が使っている言葉で、結果として、子どもが排除されることになってはいけないと言うのです。「人は仲良くすることが難しい」ということを伝えていくことの方が大切だと工藤氏は考えているのです 。

彼は、多田慎介氏の著書『「目的思考」(ウェッジ)で学びが変わる』の中で、

組織には、目的と手段が一致しないものや、手段が目的化しているものは廃止・見直しをしていきます。そのうえで、本来の「目的」を再確認して、最適な「手段」を再構築していくのです。そうしたプロセスで改善を図っていくことが大切だと言います。現在の学校、自分の子育てにまつわるこんなエピソードを話しています。

二人の男の子を育てた父親として、こんな事件に遭遇します。下の子が幼稚園に通っていた頃に起きたそうです。「幼稚園に行きたくない!」とむずかり、不登園のような状態になってしまったそうです。彼はこう語っています。「自分で言うのも照れ臭いのですが、私の妻はとても温かくて、誰に対しても優しく対応する人です。下の子はその姿を見て、『誰にでも温かく、優しくするべきなんだ』と信じて育ったのでしょう。幼稚園に行きたくないと言い出したのは、自分と合わなくて嫌いな子がいたことが原因でした。『誰にでも優しくしなきゃ』と思っているから、そうできない自分に苛立ってしまい、幼稚園に行きたくないと言ったんです。私がなんとなくそれに気づいたのは、息子と一緒に風呂に入っていた時でした。『お父さんね、僕、嫌いな子がいるんだよ』と言うんです。私は驚きながらも、幼稚園に行きたくないと言った理由がわかりました。それで、『お母さんも嫌いな人がいるんだよ』と教えてあげたんです。息子は、『そうなの?』と驚いていましたね。」

それから、工藤氏は、ある絵本を見せながら話をしたと言います。絵本作家の五味太郎氏による『じょうぶな頭とかしこい体になるために』(ブロンズ新社)という本だそうです。「大人だって嫌いな人はいるんだよ。でも、意地悪はしないし、会えばちゃんと挨拶もする」『じょうぶな頭とかしこい体になるために』に書かれている内容には、工藤氏の考えと符合する部分もあったそうです。「学校で『仲良いことは良いこと、仲悪いことは悪いこと』などと教えているうちは、嫌いな人がいるということを受け止められなくなる」という趣旨のメッセージです。「感覚や趣味の差が仲の悪さの要因ですから、その差を考えることは自分のことを考えるきっかけにもなる」とも記されているそうです。

「私はこの一件で、子どもから教えられた気がするんです。妻は温かくて優しい人だけど、それが『問題』を作ることもあるんですよね」と工藤氏は語っているのです。