顕示的シグナル

顕示的シグナルは赤ちゃんの学習を促進すると考えられています。顕示的シグナルとは、養育者が赤ちゃんに対して行うアイコンタクトや対乳児発話などを指します。赤ちゃんは養育者からの顕示的シグナルを知覚すると、これから学習が始まることを予期します。そして、それがあることによって学習が効果的になるというのです。実際に、アイコンタクトや対乳児発話などの顕示的シグナルがない場合に比べて、ある場合に赤ちゃんは他者の視線方向をより高い頻度で追うそうです。また、赤ちゃんに対して事前に手を振る動作をすると、その後に他者が見た物体の学習が促されるようです。顕示的シグナルは、情報が豊富に存在する環境の中で、赤ちゃんがどの情報を選択的に学習するべきかを明確にする役割を果たしているのです。このことは、保育をするうえで、大切なことを教えてくれています。

ナチュラル・ペダゴジーの理論から、顕示的シグナルに対する感受性が、赤ちゃんの学習において非常に重要であると考えられているそうです。チプラとゲルゲリーは、このような教育のしくみが、系統発生の中で進化適応の結果として獲得されたヒトに特異的なものであり、あらゆる文化に普遍的に存在するとしているそうです。まさに、人間しかしないということなのでしょうか。そして、これに、どの時期に、どのくらい、どの部分が反応するかが感受性と言われているものなのです。

では、顕示的シグナルへの感受性がどのように発達するのでしょうか。顕示的シグナルの感受性は、外界の社会的刺激の知覚処理が基盤となります。その萌芽は、胎児期から始まっているようです。妊娠38週前後の胎児は、見知らぬ女性の声に比べて、お母さんの声を聴取しているときに心拍を上昇させるそうです。この結果は、胎児がすでに、お母さんの声と見知らぬ女性の声を区別して知覚していることを示しているのです。胎児は、お母さんの声を胎内で聴取しているために、聞きなれたお母さんの声に対して特別な反応を示すと考えられています。外部の情報を受容する私たちの感覚器は、たとえば触覚などの皮膚感覚は在胎11週、嗅覚や味覚は在胎24週、聴覚は在胎20~27週、視覚は在胎28週くらいに機能しはじめると考えられているそうです。OECDが、教育の対象を胎児からとしているのは、こんな理由もあるのかもしれません。

そして、新生児では、人の声や顔に対して選好を示すことが明らかとなっています。たとえば、声の認識は、母語の音韻体系の獲得や話者の同定において重要な情報です。生後1~4日の新生児は、純音を合成して作成した人工音よりも、人の声という社会的刺激を選好するそうです。また、顔は個人の識別や、相手の感情を推測する手がかりとなる重要な社会的刺激です。生まれて間もない新生児は、目と口が顔らしい配置パターンになっている刺激(正立顔)を、配置がごちゃ混ぜの刺激に比べてより長く注視するそうです。同様に、新生児は正立顔を、上下で180度回転させた倒立顔と区別して選好するそうです。このように、顔などの刺激を上ド逆さまに倒立させることで、当該刺激に対する近く処理が困難になる現象を倒立効果と呼びそうです。倒立効果は、点の動きで生物らしい動きを模した生物学的運動と言われているパイオロジカルモーションの知覚においても、新生児期から確認されているそうです。バイオロジカルモーションを倒立させると、足が地面についていないような、重力関係がおかしい刺激になります。新生児は、自身の重力の経験からバイオロジカルモーションを知覚することができるようです。

顕示的シグナル” への8件のコメント

  1. 「顕示的シグナルの感受性は、外界の社会的刺激の知覚処理が基盤」「胎児期から始まっている」という言葉からも、「学習」の始まりが乳児ではなく「胎児」であることを感じます。「お母さんの声を聴取しているときに心拍を上昇させる」など、母親からの声という環境が、顕示的シグナルを予期させ、子ども自らその環境に働きかけるという一連の流れは、胎児であってもかわらないことなのですね。そう考えると、母親が胎児に対して多くを語りかけ、まるで会話をしているかのようにするのは、科学的にも根拠のある行為であるということでしょうか。そして、「新生児では、人の声や顔に対して選好を示すことが明らかとなっています」という結果からも、新生児時期にいかに多くの人と出会い、声をきく経験が自己を知っていく上でも有効に働くようにも感じました。自らの選好は、このような時期からも始まることなのですね。

  2. 養育者から発せられる「顕示的シグナル」によって新生児の学習が促される、とても興味深い研究結果です。そして「情報が豊富に存在する環境の中で、赤ちゃんがどの情報を選択的に学習するべきかを明確にする役割を果たしている」ということは、この顕示的シグナルの重要性を表していますね。さらに、この顕示的シグナルの感受性の発達部分に関しても学ぶべきところが多いです。胎児から。周囲環境への働きかけが自発的に行われていることがわかります。そして、聴きとるべき音を他と区別する。まさに選択をしていることになりますね。新生児の選好もそうですね。ヒトは胎児の時から選びたい。生後はなおさらです。新生児の行為すべては選択と言っていいかもしれないと思ってしまいます。今回はバイオロジカルモーションなる新たな言葉に出会いました。本当にいろいろなことが研究されているのですね。感心しながら今回のブログも読みました。

  3. なぜか顔が怖いわけでも怒っているわけでもないのに赤ちゃんに人見知りをされる人と、逆に無愛想でぶっきらぼうなのになぜか赤ちゃんにすかれるような人がいますが、養育者に似ているという点以外に見た目や声質などで赤ちゃんから好かれるパターンがあるのでしょうか。わたしはこれまであまり激しい人見知りをされたことはありませんでしたが、さらに距離を縮めることが出来る術があるのであれば知りたいものです。

  4. 母親の体内にいる頃から学習というのは始まっているということになるのでしょうか。〝顕示的シグナルの感受性は、外界の社会的刺激の知覚処理が基盤となります。その萌芽は、胎児期から始まっている〟という文章からそのように読みとることができます。
    私事になりますが、先日、第三子が産まれました。まだ生後数日ですので母親と病院にいます。やはり、とてもかわいいものです。抱っこしていて、母親が話すとそちらの方に顔を動かしているように感じました。〝胎児は、お母さんの声を胎内で聴取しているために、聞きなれたお母さんの声に対して特別な反応を示す〟とあり、それは胎内からのことなんですね。

  5. 「新生児では、人の声や顔に対して選好を示すことが明らかとなっています。」散歩中、通り過ぎる車を見て顔に見える、と話し合う子どもたちです。絵を描いても顔、好きな人の絵を描こうと提案すれば多くはその人物の顔を描くように思えてきます。頭足人もメインはやはり顔であり、顔の重要性というものを再認識する思いです。それだけ子どもたちにとって重要な体の部位であり、それは大人になってからの良好な人間関係の構築についても同様に言えることなのでしょう。顔のパーツについては十人十色で、好みもまた人それぞれなのかもわかりませんが、笑顔としかめっ面どちらが好感を持たれるのだろうかという問いに対しての答えは一つのようです。顔の筋肉を疎かにしない日々を積み重ねていきたいと思います。

  6. 赤ちゃんが胎内で身振り手振りをすでに習得していたり、原始歩行や表情までも行っているということは、これまでも紹介されていましたが、赤ちゃんが学習に向かうための顕示的シグナルへの感受性というものは胎内から始まっているのですね。学習の基盤はすでに胎児のころから始まっており、五感を通して周囲から様々なものを得ようとしてるということがわかります。つまり、ヒトと関わる社会性の芽生えということも胎児のころからすでに始まっているのですね。人の顔の選好から声の識別、学びに入る前にまず、学ぶ人を選好させるあたり、学びと社会性の密接な関係を感じます。そして、それは遺伝子としてもうすでに備わっているのですね。

  7. 今回のブログの内容からも白紙論ではなく、赤ちゃんは生まれながらにして様々な力を持って生まれてくるということを感じました。「情報が豊富に存在する環境の中で、赤ちゃんがどの情報を選択的に学習するべきかを明確にする役割を果たしているのです」とありましたが、このあたりは赤ちゃんが生まれながらにして相手の意図を理解できる力を持っているからこそ成り立つものだったりするのでしょうか?様々なことがつながるのでとても面白いです。「外部の情報を受容する私たちの感覚器は、たとえば触覚などの皮膚感覚は在胎11週、嗅覚や味覚は在胎24週、聴覚は在胎20~27週、視覚は在胎28週くらいに機能しはじめると考えられているそうです」このあたりもすごいですね。何を教え込むといいということではなく、自分で生きる力を持っって生まれてくるのだから、大人はそれをしっかり伸ばしてあげなくていけないなと感じます。

  8. 妊婦さんがお腹の中にいる胎児に対して話しかけたりする光景を見ます。私の妻もしていましたが、本当に意味のある行為だったのですね。胎児の頃から母親の声を聞き分けていたということは、すでにコミュニケーションを取るための準備を着々としていたような気がします。多くの人と関わることで、様々な人を知れる環境、そして自分の身の回りにある玩具などの環境、赤ちゃんは環境というものがとても大切であり、自ら選択し学習するということを改めて学びました。

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