進化によって設計

別の子どもたちには「おもちゃの動かし方を教えるね。どういうときに音楽が鳴って、どういうときに鳴らないか見ていてね」と言って、先ほどとまったく同じ長い操作をやって見せました。それからおもちゃを鳴らしてと頼むと、子どもたちは“近道”をせずに、長い操作の全部を真似たのです。自分で見たことについての統計を無視したのでしょうか?おそらくそうではないとゴプニックは考えています。この行動はベイズモデルできちんと説明できると言います。彼らは「先生」が最も役に立つ操作を行うと予想したそうです。平たく言えば、もし先生がもっと短い操作を知っているのであれば、不要な操作を見せたりしないだろうという考えです。

脳が進化によって設計されたコンピューターだとすれば、非常に幼い子どもに見られる並外れた学習能力が進化した意味はどこにあり、どのような神経回路によって支えられているのでしょうか?この能力に関する最近の生物学的知見は、心理学的な研究結果とよく一致していると言います。

進化的に見て人間の最大の特徴の一つは、成熟するまでに非常に長い時間がかかることです。私たちの幼年期は他のどんな種よりも長いのです。なぜ赤ちゃんはこれほど長いあいだ無力で、大人の助けを必要としなければならないのでしょうか?

動物界全体を見ると、成体の知能と柔軟性は赤ちゃんの未熟さと相関しているそうです。ニワトリなどの「早成」種は特定の環境に適応する特殊な能力を生まれながらに持っていて、この能力に頼って生きているため成熟が速いのです。

一方、子が親の世話を必要とし、親から餌をもらわなければならない「晩成」種は、学習に基づいて生きています。例えば、カラスは1本の針金など初めて目にした物体を道具として使う方法を考え出すことができますが、カラスのヒナが親を頼る期間はニワトリよりもはるかに長いそうです。

学習には多くの利点がありますが、学習を成し遂げるまでは無力です。進化はこの問題を赤ちゃんと大人の間で分業することによって解決したようです。赤ちゃんは保護されているあいだ、他には何もせずただ周囲の環境について学ぶのです。成長してからは、学んだことを利用して生き延び、繁殖し、次世代を育てます。基本的に、赤ちゃんは学ぶようにできているというのです。

神経科学的にも、この学習を可能にする脳の仕組みの一部が明らかになってきたそうです。赤ちゃんの脳は大人の脳よりも柔軟だと言われています。ニューロン間の接続は赤ちゃんの方がはるかに多いのですが、きちんと機能しているものはありません。しかし、時間とともに使われない接続が除かれ、役立つ配線が強化されていきます。これが、過形成と刈り込みです。また、赤ちゃんの脳には接続変更を容易にする化合物が豊富にあるそうです。

人間には前頭前皮質と呼ばれる特有の脳領域があり、成熟にはとりわけ長い時間がかかります。この脳領域がつかさどる集中、計画、効率的な作業といった大人の能力は、幼年期の長期にわたる学習に基づいて育まれます。この領域の配線は20代半ばまで完成しないこともあるそうです。

進化によって設計” への6件のコメント

  1. 「基本的に、赤ちゃんは学ぶようにできている」という言葉からも、何かを教え込もうとする行為がなくても自ら学ぼうとすることが伝わってきました。他の動物と比較して、このように学ぶ時期が多い人間であることが、いかにその後の成熟に影響を及ぼしているか、その時期が長いことが学びを深めることに繋がっていくのかが感じられました。また、その成熟期というものも、「この領域の配線は20代半ばまで完成しないこともある」ということからも、人間の成長時期の可能性を感じますし、いかに生後20年間という期間の大切さというものも感じます。そして、長期に及ぶ学習期が人間にあることの不思議と、その時期をいかに効率よく質の高いものに触れさせることの重要性を感じます。

  2. 大人になっても成長し続ける人の特性に勤勉さがあげられるように思うのですが、それは学ぶことへの意欲であると思いますし、それは言い換えれば好奇心が強いということかもわかりません。ネオトニーについても思い出されるところで、子どもっぽさ、つまりは赤ちゃんの学ぶ意欲のような意欲を持っている人程成長をしていく、ということのように思えてきます。鋭さは丸みを帯び、刷り込みやその他諸々のことで刈り込まれてきた脳を、最大限にわくわくした気持ちでこの仕事を楽しく追求していけたらと改めて思います。

  3. 私はいつになっても学びたい人です。「基本的に、赤ちゃんは学ぶようにできている」私は基本的に、人間は常に学ぶようにできていると思っています。赤ちゃんは何もわからないから教え込まないといけない、という大人の側の論理は赤ちゃんたちにとってはあまり歓迎されないことなのかもしれません。赤ちゃんたちは自発的に学んでいる。私たち大人はその延長線上にしかない。なぜなら発達は連続的に遂げられることだから。赤ちゃんや幼児たちの持つ有能性を私たち大人が再認識するならば、彼らを取り巻く環境が如何にあるべきかわかってくるのではないかと思います。「大人の能力は、幼年期の長期にわたる学習に基づいて育まれます。」この言葉の意味はとても大きいと思います。だからこそ、彼らの興味関心好奇心を引き起こさせる環境構成が大事になってくるのだと思います。

  4. 〝もし先生がもっと短い操作を知っているのであれば、不要な操作を見せたりしないだろうという考え〟という研究の結果から導き出されたものは、子どもは大人のことを信じているということではないか、と感じました。そんな風に信じてもらえているのに、大人は…どうなんでしょう。大人も子どものことを信じないと割りにあいませんね。
    後半の話しで「晩成である」という人間のデメリットと思っていたものも、裏を返すとメリットとなるような感じが斬新でした。

  5. 先生がもっとも優れたやり方を教えてくれる、という考え方の立場を逆にした考え方を持つ教師ほど怖いものはないですね。今の時代は塾や家庭教師などで学校の授業より進んだ勉強をする子供が多い世の中ですが、途中式や文を書くテストで漢字や数式などにおいて範囲外のものを取り入れるとばつをつける教師がいるそうです。まだ教えていないから、他の子とやり方が違うから、といったように個性の形を丸も三角も全て四角に切り揃えようとする教育というのが当たり前のようにまだ残っていることに恐ろしさを感じます。

  6. 霊長類において、人間は離乳が1年と早いということが言われていました。チンパンジーやオラウータン、ゴリラでも3~5年は離乳にかかると言われていますが、人間は家族や部族間で育児がされていたとこのブログでも紹介されていました。基本的に赤ちゃんは学ぶようにできていて、保護されている間、他には何もせずただ周囲の環境について学ぶとあります。他の動物と違い、保護される対象が多いヒトはより多くの刺激を得たり、学ぶことがより多いのでしょうね。そのため、ニューロンやシナプスというものもより多くなり、スーパーコンピューターのような脳になっていったのかもしれないなと思いました。また、「赤ちゃんの脳は大人の脳よりも柔軟」とあります。他の動物は親からもらうばかりが多いように思いますが、人間の赤ちゃんは0歳児でも、親からご飯をもらうことと同時に、自ら食べようと手を伸ばします。与えられ続けると手を出したり、抵抗しなくなりますが、その過程も、脳の配線を切り替えたりしているのかもしれませんね。なににおいても、赤ちゃんの様子を見ていると様々なことを試して、学習しているのは見て取れます。そこにも決して赤ちゃんは無力で何もできない存在ではないということが見えてきますね。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です