裏付けとなる証拠

ハリスは、人とのかかわりがあらゆる人間にとって重要なのだということを主張しているのです。私はハリスに共感し、同意するのはこの説です。それは、人は社会を形成して生きていく生き物だからです。また、教育の目的は、平和で民主的な社会の形成者としての資質を備えることにあるからです。

ハリスはこれら三つの説の裏付けとなる証拠を相当量集めて説明しました。とはいえ、どれだけ集めても集めきれないし、集めれば集めるほどより優れたデータを求めたくなるようです。彼女が初版出版後、関連した研究がいくつか発表されたそうです。ハリスは、その中で成果のあった研究、なかった研究をいくつか紹介しています。

カービー・ディーター‐デッカードとロバート・プロミンによる研究はハリスの学説をわかりやすく検証してしているそうです。彼らは実のきょうだいと養子縁組によるきょうだいの攻撃性を研究しました。子どもたちの攻撃性は数年間にわたり複数回、その親と教師により師価されました。結果はハリスの学説が推論したとおりだったそうです。親は年長が年少よりも攻撃的だと評価しましたが、教師は両者ともほぼ同じと評価したのです。第一子は家庭では親による評価より攻撃的でしたが、学校では教師による評価ではさほどでもなかったのです。第一子の年少の子どもたちに対する支配的な行動と、年少の子が年長の子のご機嫌取りをする行動は、家の中だけでみられる行動パターンだったのです。学校ではその第一子がより体格の良い子どもたちの言いなりになることもあれば、その弟妹がクラスでは一番体格がいいということもあるかもしれないのです。

二つの要因がこの研究の説得力を高めているそうです。一つ目はディーター‐デッカードとプロミンが年長の子を年少の子と比較したことです。両被験者グループとも遺伝子的に等質であると言って間違いありません。両者の間に体系的な遺伝子の違いはありません。よって両者を比較することにより、遺伝子の影響が統制された測定結果を得ることができるのです。二つ目は、ディーター‐デッカードとプロミンが親と教師の両方の評価を対象としたことです。親の評価は子どもの家庭での振る舞いの、完全とはいえませんが、指標となり、教師の評価からは子どもの学校での振る舞いを知ることができます。第一子も、第二子以降も、学校で経験することは似たり寄ったりですが、家庭での経験は全般的に異なります。ですから、ハリスは、これら二つの状況下での評価は異なるはずであるという学説を唱えたのです。実際、異なる結果が出たのです。これはハリスの第三の説に対する強力な裏付けとなります。

次に注目したいのが、ハリスのひらめきをもたらしてくれた少年非行に関する論文の筆者であるアヴシャロム・カスピとテリー・モフィットが中心となって実施した二つの研究の結果です。ともに研究対象は双子です。双子を選ぶというこの判断にはハリスも賛成しています。一つ目の研究では、研究者によると、良い父親をもつ子どもは父親と同居していれば良い子に育ちますが、父親が「反社会的な活動」にのめりこんでいるような場合は、父親と離れて暮らすほうが子どもは良い子に育つというものです。反社会的な父親が近くにいると、その子どもたちも好ましくない行動を取るようになる可能性が高いのです。二つ目の研究が示すのは、こちらも研究者によると、「虐待を受けた子どもは好ましくない行動をとる」、すなわち「反社会的な活動に従事する可能性が高い」ということです。