離婚

ハリスが説明しようとしているわずかな違いを結果として出してくる研究、すなわち発達心理学の学術誌を埋めつくし、時折新聞や雑誌にまで取り上げられるような研究では、この「もたらすであろう結果」は常に発表されています。ところが「もたらすであろう結果」や違いが認められる研究はどれも研究者が遺伝を統制しなかったものばかりなのだとハリスは言うのです。遺伝的な影響を排除してはじめて、家庭環境はまったく作用しないこと、子どもたちに予測しうる一貫した影響は何ももたらさないことが明確になると言います。研究方法で吸い上げることができないのであれば、遺伝的な影響を排除することができなくなり、それが家庭環境の影響を立証するものとして誤って受けとめられてしまうことになってしまうのです。心暖かくて有能な親の子どもは心暖かくて有能であることが多いのですが、研究者のほとんどは、それはこれらの親が子どもたちに与える暖かく規律正しい家庭生活のおかげであると、当然のことのように受けとめています。

結論を誤っている最も顕著な例が離婚そのものだとハリスは言います。バラバラになった家庭で育てられた子どもたちが自分自身の結婚生活にもつまずくケースが多いのは、皆が知るところであり、また事実でもあるのです。親の罪が子に報いるのはなぜでしょうか。両親の不仲にさらされた時代の名残である不安を、子どもたちが大人になるまで引きずるからなのでしょうか。父親が家を出て以来悩まされつづけたやり場のない怒りなのでしょうか。ジュディス・ウォーラースタインなら私たちにそう思わせたことだろうとハリスは言います。

ところが、離婚に関する双子研究では別の解釈が出されているそうです。1500組以上の成人した一卵性双生児および二卵性双生児が自身の婚姻歴や親の婚姻歴に関する質問に答えるという調査において、結婚生活をつづけた親をもつ双子の離婚率は19パーセントだったそうです。親が離婚している場合、自身も離婚する可能性はかなり高まって19パーセントになるそうです。また二卵性双生児の一方が離婚している場合はもう一方の離婚率は同程度の30パーセント、一卵性双生児の一方が離婚している場合の他方の離婚率はさらに高まって45パーセントとなるそうです。研究者のコンピュータからはじき出された分析結果はうんざりするほど他の行動遺伝学的研究とそっくりだったそうです。離婚する危険性のばらつきのおよそ半分は遺伝的な影響、すなわち双子の片方や親と共有する遺伝子に帰することができたと言います。残り半分は環境によるものでした。ところが、どのばらつきも双子が育った家庭にその理由を求めることはできなかったのです。彼らの婚姻歴に見られる類似性はどのようなものでも彼らが共有する遺伝子にその理由を求めることができたそうです。彼らが共有する経験、双子であるがゆえに同年齢で経験した両親の仲不仲、両親が揃っていたか別居していたか、などの影響はまったく認められなかったそうです。

離婚した夫婦の子どもたちが自身の結婚生活につまずきやすい原因は、子ども時代を過ごした家庭での経験にではなく、遺伝子にあったのです。もっとも、染色体の合間を抜き足差し足で探しまわっても、離婚遺伝子は見つかりません。そのようなものはないのです。代わりにあるのは一揃いの性格特性です。その特性は一つずつ遺伝子の集合体により素案が練られ、環境によって形づくられ錬磨されます。それらが積み重なって個人の結婚生活を破綻へと導く可能性を高めてしまうのです。