犯罪者の家庭

生まれながらにして善である子どもはいるのでしょうか。ハリスは、ここでジョン・ワトソンが好むであろう実験をしてみています。男の子の乳児を養子に出すのですが、そのうち何人かの生みの親は犯罪者、もしくは近々犯罪者として有罪判決を受けることになる者で、他の何人かの生みの親は皆が知るかぎり誠実な人物です。彼らを一緒にし、そのうちの何人かを誠実な養父母のもとへ養子に出し、残りを悪事をはたらいた者たちに育てさせました。そのような卑劣な実験を、と思うかもしれませんが、これはまさに養子斡旋会社の仕事なのです。もちろん意図的に赤ちゃんを犯罪者の家庭に引き渡すことなどしませんでしたが、結果としてそうなる場合もあるかもしれません。さらに養子縁組と犯罪者の詳細な記録が残されている土地、たとえばデンマークでは、その結果を調べることも可能なのです。研究者たちは乳児期に養子に出された4000人以上のデンマーク人男性の素性、経歴に関するデータを入手することができました。

このデータから、生みの親たちの中には有罪判決を受けたことのある犯罪者が多数いましたが、養父母たちの中には犯罪者が少ないことがわかったそうです。そのため、生みの親は誠実ですが、犯罪者の家庭で育てられたという男性はさほど多くはないそうです。数は少ないそうですが、この集団のうち、15パーセントが犯罪者となったそうです。しかし、生みの親も養父母も誠実であるという養子の間でも、犯罪者の比率はほぼ同じで、14パーセントだったそうです。犯罪者には不向きな男の子が犯罪者の家庭で育てられたからといって、犯罪者になるわけではなさそうです。これはワトソンにさらなる一撃を加えることになりそうだと言います。今ではワトソンもさんざん痛めつけられてしまったでしょうから、寛大にもこのあたりで彼を安らかに眠らせてあげることにしようとハリスは提案します。

これらの男の子たちでも生みの親が犯罪者であるとなると話は若干違ってくるようです。こうした男の子のうち、誠実な養父母に育てられた子の20パーセントが犯罪者となったそうです。一方、実父、養父ともに運悪く犯罪者であった少数のうち、25パーセント近くが道を誤ってしまいました。このことから考えると、遺伝だけではなさそうです。結局は家庭環境もいくぶんかは関与しているようです。死力を尽くしてもオリヴァーのような子どもを犯罪者に育てあげることはできませんが、腕っこきドジャーのような子であれば、いずれにもなりえます。犯罪者の家族に育てられれば、彼が犯罪者となる可能性はわずかですが高まるだろうとハリスは言うのです。

早合点は禁物だとハリスは言います。つまるところ、犯罪者の家族が養子をもらって、その子を犯罪者に育てあげられるか否かは、もちろんその子が犯罪者にふさわしければの話ですが、その家族が居住する場所に左右されるのです。犯罪者の家庭で育てられたデンマークの養子の間でも、犯罪性の上昇が認められたのはこの調査の被験者の中でもわずかに過ぎません。そのわずかな人たちは、コペンハーゲン近郊で育っているそうです。人口の少ない村や僻地では、犯罪者に育てられた子どもと、誠実な養父母に育てられた養子たちとでは犯罪者になる可能性に差は認められなかったそうです。