似たもの夫婦

人間は親族を匂いではなく、熟知性で見分けるそうです。きょうだいは自分がともに育った人です。自分のきょうだいと結婚しないのは、それが法に反するからではなく、結婚したいとは思わないからです。男子も女子も一緒に、イスラエルの農業共同体であるキブツの中でまるできょうだいのように育てられたイスラエル人は同じキブツ出身者とは結婚しないそうです。

ところが人間はそれでも自分と似た人間に惹かれます。ハリスは、夫と妻は概して、キューピッドが無角為に矢を放った男女よりもはるかに似ていると言います。婚姻関係にある二人は、人種、宗教、社会階級、IQ、学歴、態度、性格特性、身長、鼻の大きさ、目の間の幅などにおいて似る傾向があることがわかっているそうです。よく言われるように、夫婦は歳とともに似てくるのではなく、はじめから似ているのだと言います。

類似性はまた友人関係の基本でもあると言われています。保育園においてでさえ、子どもは自分と「似た」子どもに惹かれると言われています。小学校での仲よし同士は同じ年齢、性別、人種そして同じことに興味をもち、同し価値観をもつ場合が多いと言うのです。

ハリスは、自分と似た人に惹かれるのは遠く血縁認識から来ているのではないだろうかと考えています。狩猟採集民族であれば、自分と容姿がそっくりで同じ言語を話す人が同じ集団の一員である可能性は、容姿も異なり聞き慣れない言語を話す人よりもはるかに高く、その人は自分の親戚という場合もあります。さらにハリスは、教養あるアメリカ人であれば、同じ容姿で話し方も考え方も同じである人に信頼をおく傾向があることに自ら気づくだろうと言います。

アシナガバチにしても、人間にしても、見知らぬ者はよからぬことを企んでいるかもしれないと、本能的に彼らに不信感をいだきます。共食いの習性をもつ動物は多く、人間も例外ではありません。この習性があれば、その個体の親族ではない自分は食べられてしまうかもしれないのです。見知らぬ人、もしくは奇妙な行動をとる人に対してまず現われる反応が恐怖心です。恐怖心をいだきつづけるのは不快であるため、恐怖心は敵対心へと変わっていきます。ポリオに感染したチンパンジーが不自山な体を引きずり、自分の集団に戻ったときのことをハリスは以前に紹介していました。それを思い出してもらうとわかりますが、その時に彼の仲間はまず彼に恐怖心をいだき、次にそれが怒りにかわり、彼を襲撃するにいたりました。随分と、とんでもないことをしでかしてくれたものだとハリスは言います。

別集団に対する敵対心を解釈するために、趣向を凝らした説明など必要ないと言います。ハリスは、それは進化の過程を振り返れば十分理解できることで、動物の場合にも通用するのです。集団対比効果により集団間の違いは強調され、元来違いのなかった集団間には違いが創出されますが、この現象は、ハリスの知るかぎりでは動物には見られないと言います。この効果は人間や動物が別集団に対して敵対心をいだくことによって直接もたらされる結果なのだと言います。誰かを恐れ、嫌えば、その人とは違う人間になりたいと思います。人間は適応力に富んだ生き物ですが、他の集団のメンバーとは異なる人間になるための方法を見つけ出すことに関しては天才なのだとハリスは言うのです。